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第四幕 季節を春にする魔法
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再び天気は下り坂、梅雨特有の湿気でじめじめとした薄暗い日々が続く。昼間でも事務所内は明かりを点けないといけない。陰鬱とした気持ちになりやすい天気だからなのか、ラジオから流れる曲は割と明るい曲が多くなった。
あれから二週間、真優莉も花絵巻も事務所には来ていない。真優莉は次の舞台に向けて稽古が始まったし、花絵巻もレッスンの時間が増えた。三崎さんも何も言わないから、特に何も起きてはいないのだろう。
俺は、来月上演される女優の永野三恵子さんの公演案内を送るための作業を黙々とこなしていた。そこに、事務所のドアが開いて綾辻社長が外出から帰って来た。
「いやあ、鬱陶しい雨だねえ」
タオルハンカチで濡れたカバンを拭きながら靴を脱いで、社長のマイスリッパに履き替え部屋の中に入って来る。
「優生君、シュークリームを買ってきたよ。休憩にしようか」
そう言って、手にしていたビニール袋を俺に差し出した。
「わ、ありがとうございます!」
サンタさんのようなおじさんのイラストが箱に印刷されている。俺の好きな店だ。
「三崎君も、甘いものを食べないと作業効率が悪くなるよ」
「ああ、そうっすね」
ホームページの更新作業をしていた三崎さんが手を止めた。俺はヤカンに水を入れて火を付けてから、その間にテーブルを片付ける。
「優生君、三恵子君の舞台は観に行くのかい?」
「いやあ~、行けたら行きたいんですけど…」
「行ってらっしゃいよ。また融通してあげるから」
「ありがたいっす!」
永野さんの公演のチケットは八千円する。それをタダで観させてくれるだなんて。
「社長、甘やかしすぎですよ。自腹切らせてください」
煙草に火を付けながら、三崎さんが横やりを入れる。
「そんな!俺金ないのに!」
「知るか。ダブルワークでもしろ」
「ええ~!」
「まあまあ」
綾辻社長は俺の肩をポンポンと叩く。
「だあいじょうぶ、大丈夫。優生君はいつもよくやってくれているし、福利厚生だよ」
「社長!」
俺の社長は神だ。
「ったく、オラとっととコーヒー淹れろ」
「はい喜んでー!」
俺が鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れる用意をしている傍らで、社長と三崎さんは大濱さんの舞台に関するあれやこれやを色々と相談している。この事務所で働き始めて早半年。最近になってようやっと、一つの舞台とは、大勢の人のありとあらゆる役割が積み重なってできている事を、俺は理解し始めていた。
三人分のコーヒーを淹れて、皿を三枚出しその上にシュークリームを乗せる。
「俺、ここの店のシュークリーム好きなんですよねえ」
「あら、それは良かった。六個あるから、もう一個食べていいからね」
「わーい」
シュークリームにかぶりついて、カスタードクリームの甘さを堪能していた時。
事務所のドアが開いて入って来たのは真優莉だった。
「ぐおっふお!」
この前の事件を思い出し、カスタードでむせてしまった。慌ててコーヒーを流し込む。
「おや、真優莉君じゃないか」
「あら、もう先におやつ食べちゃいましたか」
ショートブーツを脱いで入ってくる真優莉は、白いショートパンツに、裾がヒラっとした山吹色のトップス、紺色のカーディガンを着ている。珍しく髪を一つに束ねてお団子にしているから頭の小ささと首の細さが強調される。
「真優莉君もどうだい?」
「いえ、私は結構です」
さすがケーキ一つに目くじら立てるだけあるプロ意識だと思っていると、手にしていた紙袋を社長に渡した。
「これ明日まで大丈夫ですから、明日のおやつにでもどうぞ」
雨除けのビニールを外し、取り出した箱を開けると、フルーツがたっぷり乗った綺麗なゼリーが四個入っている。
「ありがとうねえ。こういうの見るともうすぐ夏だなあって感じるねえ」
「この店すげえ並ぶ所だろ?」
「ええ、でも今日は平日だから十五分位でした」
小耳に挟んだ会話によると、新宿のデパートに新しく出店した超人気のケーキ屋の夏の新作らしい。しょっちゅうメディアで紹介されるもんだから、休みの日は三十分並ぶのがザラだとか。
俺が箱の中をじっと見ていると、綾辻社長が
「優生君、今食べるかい?」
と聞いてきた。
「あ、いや、そうじゃなくて…」
俺はもう一枚皿とスプーンを持ってきて、ゼリーを乗せ真優莉に差し出した。
「え?」
真優莉は驚いた顔で俺を見つめる。
「食べるんじゃないのか?」
「だ、誰が食べるなんて言ったのよ!」
「違うの?四個あるって事は、綾辻社長と三崎さんと俺とお前の四人分だろ?」
「ち、違うわ!一個は予備よ!予備!」
「何の予備だよ」
「誰か来ているとか、落としちゃったりとか!」
落とすなんて事あるか?
「自分が食べたいからわざわざ並んでまで買ってきたんだろ?」
「違うわよ!ただの差し入れよ!」
「差し入れに十五分並んだりするか?」
「観たい動画が十五分だったからちょうど良かったのよ!」
「はあー?だったら電車の中で観りゃいいだろうが」
「電車なんて乗らないもの」
「じゃあ何使って移動してんだよ」
「タクシー」
セレブめ!
「まあじゃあ、食べないなら戻すよ」
俺がゼリーのカップを箱に戻そうとした、その瞬間。
「しょうがないわね!食べればいいんでしょ!箱から出しちゃったんだから食べるしかないわ!」
そう言ってひったくった皿をテーブルに置き、キッチンの流しで手を洗ってからゼリーを食べ始めた。
「どう?美味しいかい?」
まるで初孫を前にしたおじいちゃんのように、綾辻社長は優しい眼差しで真優莉を見つめる。
「…美味しいです」
真優莉は俯きながら、どこかぎこちなくそう答えた。
「じゃあ私も頂こうかな」
「俺も」
綾辻社長も三崎さんも手を伸ばして箱の中のゼリーと袋に入ったスプーンを取る。
「優生君も頂きなさいよ、今日が一番美味しいんだから」
「あー、じゃあ」
改めて手にするとずっしりと重いゼリーは、上に白桃と桜桃、ブルーベリーが乗り、下は黄緑色の透明なゼリーだ。最初に瑞々しい果物を半分位食べてから、スプーンを深く差し込んでゼリーをすくい口に入れると、マスカットの味と炭酸のパチパチした刺激が弾ける。
「うんめぇー!何だコレ?!」
炭酸のゼリーなんて初めて食べた。これは並んででも食べる価値がある!
「いや、美味しいねえこれは。高かったんじゃないかい?一個八百円位?」
「そんなにはしないですよ、七百五十円です」
いや、四捨五入したら八百だろ!全部で三千円。これは来客用のちょっと良いお茶を出さなくてはいけない。みんながおやつタイムを堪能している間に、俺は再度お湯を沸かし緑茶を淹れる準備をする。
「ありがとうね、真優莉君。ところで今日はどうしたんだい?もう稽古入っているよね?」
「ええ、まだ…本読みなんですけど…」
「ん?どうしたんだい?」
「あの…社長、クローゼットの中入ってもいいですか?」
「ああ、いいよ」
真優莉と社長は連れだって社長室へ姿を消した。俺は皿を片付けながら、仕事を再開した三崎さんに小声で尋ねる。
「クローゼットで何するんですか?衣装合わせ?」
「ああ、お前社長室のクローゼット入った事ないのか」
三崎さんは、社長室の中のもう一つのドアがウォークインクローゼットになっていて、そこには服ではなく大量の本やDVD、所属する役者の写真といった資料が保管されていると説明してくれた。社長室自体も窓とドアを除く壁の部分は全部天井まで届く本棚が設置されてあり、ここにも隙間なくぎっしりと本やCD、DVDが収納され、まるで大学教授の研究室のようである。
「つまり社長室は資料保管室でもあると?」
「まあな。でもこれもほんの一部だぜ。綾辻社長の家にはこの十倍は本やDVDがあるぞ」
「すげぇ!さすが演出家!」
緑茶を淹れたけど二人が出てくる気配はない。仕方ないので俺も仕事を再開する事にした。
三十分程して、ようやく二人が出てきたが真優莉の手には何もない。目当ての本はなかったらしい。
「真優莉」
俺が声を掛けると、真優莉は俺を見る。
「緑茶淹れたけど」
俺がそう言うと、真優莉は目をぱちっと一回瞬きをした。
「私に?」
「他に誰がいるんだよ」
湯呑を渡すと、じっと見つめる。相変わらずホコリのチェックでもしているのか?コイツは。
と、思ったその時。
「わたしは!」
真優莉が突然大声を出した。
「は?!何だよ?!」
何だコイツ!どんな文句を言ってくるんだよ!
真優莉は身構える俺の顔を見て、その強い眼差しでぎゅっ!っと俺の目を捉える。そして俺を一直線に見つめながら叫んだ。
「飲み物は緑茶が一番好きよ!」
・・・・・・・。
「へえ。あ、そう」
だからどうした。
反応に困っている俺を置いて、そのまま真優莉は湯呑を両手で持ち陣地のソファに行き、優雅な姿勢で緑茶をゆっくり飲み始めた。
今のはなんだったんだろうと思いながら作業を続けようと振り返ると、三崎さんが腹を抑えながら小刻みに震えている。
「三崎さん!どうしたんですか!考える人が考えすぎて腹痛いみたいになってますよ!」
「いや…なんでもねえよ…」
「薬ありますよ」
「いらん。薬は必要ない」
よく見ると腹が痛いというより、笑いを堪えている。何か面白いサイトでも見ていたんだろうか。綾辻社長は穏やかな顔で残りのコーヒーを飲みながら呟く。
「いやあ、春だねえ」
「社長、梅雨ですよ、梅雨。ボケるには早いですよ」
ウチの社長、大丈夫か?
「いやいや、優生君」
カップを片手に綾辻社長はどこか楽しそうだ。
「この世にはね、どんな季節も一瞬で春にする魔法があるんだよ」
あれから二週間、真優莉も花絵巻も事務所には来ていない。真優莉は次の舞台に向けて稽古が始まったし、花絵巻もレッスンの時間が増えた。三崎さんも何も言わないから、特に何も起きてはいないのだろう。
俺は、来月上演される女優の永野三恵子さんの公演案内を送るための作業を黙々とこなしていた。そこに、事務所のドアが開いて綾辻社長が外出から帰って来た。
「いやあ、鬱陶しい雨だねえ」
タオルハンカチで濡れたカバンを拭きながら靴を脱いで、社長のマイスリッパに履き替え部屋の中に入って来る。
「優生君、シュークリームを買ってきたよ。休憩にしようか」
そう言って、手にしていたビニール袋を俺に差し出した。
「わ、ありがとうございます!」
サンタさんのようなおじさんのイラストが箱に印刷されている。俺の好きな店だ。
「三崎君も、甘いものを食べないと作業効率が悪くなるよ」
「ああ、そうっすね」
ホームページの更新作業をしていた三崎さんが手を止めた。俺はヤカンに水を入れて火を付けてから、その間にテーブルを片付ける。
「優生君、三恵子君の舞台は観に行くのかい?」
「いやあ~、行けたら行きたいんですけど…」
「行ってらっしゃいよ。また融通してあげるから」
「ありがたいっす!」
永野さんの公演のチケットは八千円する。それをタダで観させてくれるだなんて。
「社長、甘やかしすぎですよ。自腹切らせてください」
煙草に火を付けながら、三崎さんが横やりを入れる。
「そんな!俺金ないのに!」
「知るか。ダブルワークでもしろ」
「ええ~!」
「まあまあ」
綾辻社長は俺の肩をポンポンと叩く。
「だあいじょうぶ、大丈夫。優生君はいつもよくやってくれているし、福利厚生だよ」
「社長!」
俺の社長は神だ。
「ったく、オラとっととコーヒー淹れろ」
「はい喜んでー!」
俺が鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れる用意をしている傍らで、社長と三崎さんは大濱さんの舞台に関するあれやこれやを色々と相談している。この事務所で働き始めて早半年。最近になってようやっと、一つの舞台とは、大勢の人のありとあらゆる役割が積み重なってできている事を、俺は理解し始めていた。
三人分のコーヒーを淹れて、皿を三枚出しその上にシュークリームを乗せる。
「俺、ここの店のシュークリーム好きなんですよねえ」
「あら、それは良かった。六個あるから、もう一個食べていいからね」
「わーい」
シュークリームにかぶりついて、カスタードクリームの甘さを堪能していた時。
事務所のドアが開いて入って来たのは真優莉だった。
「ぐおっふお!」
この前の事件を思い出し、カスタードでむせてしまった。慌ててコーヒーを流し込む。
「おや、真優莉君じゃないか」
「あら、もう先におやつ食べちゃいましたか」
ショートブーツを脱いで入ってくる真優莉は、白いショートパンツに、裾がヒラっとした山吹色のトップス、紺色のカーディガンを着ている。珍しく髪を一つに束ねてお団子にしているから頭の小ささと首の細さが強調される。
「真優莉君もどうだい?」
「いえ、私は結構です」
さすがケーキ一つに目くじら立てるだけあるプロ意識だと思っていると、手にしていた紙袋を社長に渡した。
「これ明日まで大丈夫ですから、明日のおやつにでもどうぞ」
雨除けのビニールを外し、取り出した箱を開けると、フルーツがたっぷり乗った綺麗なゼリーが四個入っている。
「ありがとうねえ。こういうの見るともうすぐ夏だなあって感じるねえ」
「この店すげえ並ぶ所だろ?」
「ええ、でも今日は平日だから十五分位でした」
小耳に挟んだ会話によると、新宿のデパートに新しく出店した超人気のケーキ屋の夏の新作らしい。しょっちゅうメディアで紹介されるもんだから、休みの日は三十分並ぶのがザラだとか。
俺が箱の中をじっと見ていると、綾辻社長が
「優生君、今食べるかい?」
と聞いてきた。
「あ、いや、そうじゃなくて…」
俺はもう一枚皿とスプーンを持ってきて、ゼリーを乗せ真優莉に差し出した。
「え?」
真優莉は驚いた顔で俺を見つめる。
「食べるんじゃないのか?」
「だ、誰が食べるなんて言ったのよ!」
「違うの?四個あるって事は、綾辻社長と三崎さんと俺とお前の四人分だろ?」
「ち、違うわ!一個は予備よ!予備!」
「何の予備だよ」
「誰か来ているとか、落としちゃったりとか!」
落とすなんて事あるか?
「自分が食べたいからわざわざ並んでまで買ってきたんだろ?」
「違うわよ!ただの差し入れよ!」
「差し入れに十五分並んだりするか?」
「観たい動画が十五分だったからちょうど良かったのよ!」
「はあー?だったら電車の中で観りゃいいだろうが」
「電車なんて乗らないもの」
「じゃあ何使って移動してんだよ」
「タクシー」
セレブめ!
「まあじゃあ、食べないなら戻すよ」
俺がゼリーのカップを箱に戻そうとした、その瞬間。
「しょうがないわね!食べればいいんでしょ!箱から出しちゃったんだから食べるしかないわ!」
そう言ってひったくった皿をテーブルに置き、キッチンの流しで手を洗ってからゼリーを食べ始めた。
「どう?美味しいかい?」
まるで初孫を前にしたおじいちゃんのように、綾辻社長は優しい眼差しで真優莉を見つめる。
「…美味しいです」
真優莉は俯きながら、どこかぎこちなくそう答えた。
「じゃあ私も頂こうかな」
「俺も」
綾辻社長も三崎さんも手を伸ばして箱の中のゼリーと袋に入ったスプーンを取る。
「優生君も頂きなさいよ、今日が一番美味しいんだから」
「あー、じゃあ」
改めて手にするとずっしりと重いゼリーは、上に白桃と桜桃、ブルーベリーが乗り、下は黄緑色の透明なゼリーだ。最初に瑞々しい果物を半分位食べてから、スプーンを深く差し込んでゼリーをすくい口に入れると、マスカットの味と炭酸のパチパチした刺激が弾ける。
「うんめぇー!何だコレ?!」
炭酸のゼリーなんて初めて食べた。これは並んででも食べる価値がある!
「いや、美味しいねえこれは。高かったんじゃないかい?一個八百円位?」
「そんなにはしないですよ、七百五十円です」
いや、四捨五入したら八百だろ!全部で三千円。これは来客用のちょっと良いお茶を出さなくてはいけない。みんながおやつタイムを堪能している間に、俺は再度お湯を沸かし緑茶を淹れる準備をする。
「ありがとうね、真優莉君。ところで今日はどうしたんだい?もう稽古入っているよね?」
「ええ、まだ…本読みなんですけど…」
「ん?どうしたんだい?」
「あの…社長、クローゼットの中入ってもいいですか?」
「ああ、いいよ」
真優莉と社長は連れだって社長室へ姿を消した。俺は皿を片付けながら、仕事を再開した三崎さんに小声で尋ねる。
「クローゼットで何するんですか?衣装合わせ?」
「ああ、お前社長室のクローゼット入った事ないのか」
三崎さんは、社長室の中のもう一つのドアがウォークインクローゼットになっていて、そこには服ではなく大量の本やDVD、所属する役者の写真といった資料が保管されていると説明してくれた。社長室自体も窓とドアを除く壁の部分は全部天井まで届く本棚が設置されてあり、ここにも隙間なくぎっしりと本やCD、DVDが収納され、まるで大学教授の研究室のようである。
「つまり社長室は資料保管室でもあると?」
「まあな。でもこれもほんの一部だぜ。綾辻社長の家にはこの十倍は本やDVDがあるぞ」
「すげぇ!さすが演出家!」
緑茶を淹れたけど二人が出てくる気配はない。仕方ないので俺も仕事を再開する事にした。
三十分程して、ようやく二人が出てきたが真優莉の手には何もない。目当ての本はなかったらしい。
「真優莉」
俺が声を掛けると、真優莉は俺を見る。
「緑茶淹れたけど」
俺がそう言うと、真優莉は目をぱちっと一回瞬きをした。
「私に?」
「他に誰がいるんだよ」
湯呑を渡すと、じっと見つめる。相変わらずホコリのチェックでもしているのか?コイツは。
と、思ったその時。
「わたしは!」
真優莉が突然大声を出した。
「は?!何だよ?!」
何だコイツ!どんな文句を言ってくるんだよ!
真優莉は身構える俺の顔を見て、その強い眼差しでぎゅっ!っと俺の目を捉える。そして俺を一直線に見つめながら叫んだ。
「飲み物は緑茶が一番好きよ!」
・・・・・・・。
「へえ。あ、そう」
だからどうした。
反応に困っている俺を置いて、そのまま真優莉は湯呑を両手で持ち陣地のソファに行き、優雅な姿勢で緑茶をゆっくり飲み始めた。
今のはなんだったんだろうと思いながら作業を続けようと振り返ると、三崎さんが腹を抑えながら小刻みに震えている。
「三崎さん!どうしたんですか!考える人が考えすぎて腹痛いみたいになってますよ!」
「いや…なんでもねえよ…」
「薬ありますよ」
「いらん。薬は必要ない」
よく見ると腹が痛いというより、笑いを堪えている。何か面白いサイトでも見ていたんだろうか。綾辻社長は穏やかな顔で残りのコーヒーを飲みながら呟く。
「いやあ、春だねえ」
「社長、梅雨ですよ、梅雨。ボケるには早いですよ」
ウチの社長、大丈夫か?
「いやいや、優生君」
カップを片手に綾辻社長はどこか楽しそうだ。
「この世にはね、どんな季節も一瞬で春にする魔法があるんだよ」
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