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epilogue
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前略 ユキト・クラハシ様
オレのことは、もう天空から眺めてご存知でいらっしゃるかもしれません。
それでも、何かあなたに伝えたくなって、手紙を書いております。
オレは、あなたが暴力事件の中、タカシをかばって命を落とされたことを知った日、とても悲痛な気持ちになりました。何故なら、ストレッチャーに載せられ、病院にやってきたタカシが、あなたの命を救ってほしい、とうわごとでずっと必死に訴え続けておりました。あなたが既にこの世を去ったことを、彼は知りませんでした。
オレは、そんな彼をずっと気にかけているうち、いつしか彼に恋をしていました。それは予測もつかない、突然な感情でした。彼と特別な関係になった瞬間、愚かしいことに、オレは既にこの世にいないあなたに対し、複雑な嫉妬心を抱いてしまいました。
なぜなら、あなたは彼に自らの命を差し出して彼を守りきった。これはオレにはたぶん、一生敵わないと思えたから。
ところが、ある日タカシはオレに言ったのです。
『ユキトにはね。まだ想いを伝えていない大切なひとがいたんだよ』
先日、オレはタカシから聞いてあなたが恋をしていた女性がいる、フラワーショップに白い薔薇を買いに行きました。すると、店にいたその女性が、訊ねてきたのです。
『どなたに手向けるお花なのですか?』
彼女はいいました。訊いてはいけないと思ったけれど、何故か訊かずにはいられなかったと。
オレは迷いました。でも、勝手にあなたに嫉妬の感情を向けてしまった後ろめたさがあり、つい、余計なことだと思いつつ、あなたの名前を答えました。
すると、彼女は突然、両手で口を覆い、崩れるようにしゃがみこんで泣き出しました。しばらくした後、彼女はいいました。
『ユキト…天国に召されていたなんて。お店に来てくれなくなってから、私は嫌われたのではないかと思っていた』と。
ユキトさん、彼女もまた、あなたに惹かれていたのだそうです。あなたは気付いていなかったかもしれませんが、ライブハウスの暗い隅で、そっと隠れてあなたのウッドベースを聴きに足を運んでいたのです。
オレが買った白い薔薇は、きっと今頃、あなたの墓標まで彼女が届けてくれていると思います。
**********
そこまで手紙を書いたあと、ルカは何故か続きを書くことを迷った。自分のしたことは、まるで子供のように思えたからだ。勝手にヤキモチを妬き、そして頼まれてもいないのに、ユキトの想い人に事実を伝えてしまったこと。
さらにもう天国には届かない手紙を書いていること。
「いい大人がとんでもなく愚かだ」
その手紙を破いて捨てようとしたとき、タカシがふいにやってきた。思わず手紙を隠しきれず、見つかってしまう。きっと彼はオレのことに呆れてしまうだろう。
「………ルカは、子供みたいに正直で、ピュアだね」
タカシは書きかけの手紙を読み、思わず笑った。
「知らなかったよ。アンタがユキトにヤキモチを妬いていたなんて」
「……オレはあなたに言ったこともないし、伝えたこともなかったから」
「……ふふ、確かにね。ただ、ユキトは今頃、天国で真っ赤になって怒ってると思うな。余計なことをするなっ!!なんてね」
「すみません、タカシさん。やはり…彼の死にどうしても思うことがあったので」
ルカがあまりにも気落ちした様子なので、タカシは彼を抱き寄せた。
「いや、ユキトは怒りつつも、きっと喜んでくれるさ。確かに自分で想いは伝えたかっただろうけれど…」
タカシは静かに微笑むと、ルカの頬を両手で包み、唇を寄せた。
「悲しい雨は、時が経てば、きっと止むはずだから」
end
ここまで読んで下さった読者様に心から感謝申し上げます。
有難うございました。
結城りえる
オレのことは、もう天空から眺めてご存知でいらっしゃるかもしれません。
それでも、何かあなたに伝えたくなって、手紙を書いております。
オレは、あなたが暴力事件の中、タカシをかばって命を落とされたことを知った日、とても悲痛な気持ちになりました。何故なら、ストレッチャーに載せられ、病院にやってきたタカシが、あなたの命を救ってほしい、とうわごとでずっと必死に訴え続けておりました。あなたが既にこの世を去ったことを、彼は知りませんでした。
オレは、そんな彼をずっと気にかけているうち、いつしか彼に恋をしていました。それは予測もつかない、突然な感情でした。彼と特別な関係になった瞬間、愚かしいことに、オレは既にこの世にいないあなたに対し、複雑な嫉妬心を抱いてしまいました。
なぜなら、あなたは彼に自らの命を差し出して彼を守りきった。これはオレにはたぶん、一生敵わないと思えたから。
ところが、ある日タカシはオレに言ったのです。
『ユキトにはね。まだ想いを伝えていない大切なひとがいたんだよ』
先日、オレはタカシから聞いてあなたが恋をしていた女性がいる、フラワーショップに白い薔薇を買いに行きました。すると、店にいたその女性が、訊ねてきたのです。
『どなたに手向けるお花なのですか?』
彼女はいいました。訊いてはいけないと思ったけれど、何故か訊かずにはいられなかったと。
オレは迷いました。でも、勝手にあなたに嫉妬の感情を向けてしまった後ろめたさがあり、つい、余計なことだと思いつつ、あなたの名前を答えました。
すると、彼女は突然、両手で口を覆い、崩れるようにしゃがみこんで泣き出しました。しばらくした後、彼女はいいました。
『ユキト…天国に召されていたなんて。お店に来てくれなくなってから、私は嫌われたのではないかと思っていた』と。
ユキトさん、彼女もまた、あなたに惹かれていたのだそうです。あなたは気付いていなかったかもしれませんが、ライブハウスの暗い隅で、そっと隠れてあなたのウッドベースを聴きに足を運んでいたのです。
オレが買った白い薔薇は、きっと今頃、あなたの墓標まで彼女が届けてくれていると思います。
**********
そこまで手紙を書いたあと、ルカは何故か続きを書くことを迷った。自分のしたことは、まるで子供のように思えたからだ。勝手にヤキモチを妬き、そして頼まれてもいないのに、ユキトの想い人に事実を伝えてしまったこと。
さらにもう天国には届かない手紙を書いていること。
「いい大人がとんでもなく愚かだ」
その手紙を破いて捨てようとしたとき、タカシがふいにやってきた。思わず手紙を隠しきれず、見つかってしまう。きっと彼はオレのことに呆れてしまうだろう。
「………ルカは、子供みたいに正直で、ピュアだね」
タカシは書きかけの手紙を読み、思わず笑った。
「知らなかったよ。アンタがユキトにヤキモチを妬いていたなんて」
「……オレはあなたに言ったこともないし、伝えたこともなかったから」
「……ふふ、確かにね。ただ、ユキトは今頃、天国で真っ赤になって怒ってると思うな。余計なことをするなっ!!なんてね」
「すみません、タカシさん。やはり…彼の死にどうしても思うことがあったので」
ルカがあまりにも気落ちした様子なので、タカシは彼を抱き寄せた。
「いや、ユキトは怒りつつも、きっと喜んでくれるさ。確かに自分で想いは伝えたかっただろうけれど…」
タカシは静かに微笑むと、ルカの頬を両手で包み、唇を寄せた。
「悲しい雨は、時が経てば、きっと止むはずだから」
end
ここまで読んで下さった読者様に心から感謝申し上げます。
有難うございました。
結城りえる
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