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第十章 Re:
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「こ……これってどういうこと?」
ルカの傷がすっかり良くなり、精神的にも落ち着き始めた頃、タカシはルカに連れられ、とある音楽スタジオにやって来た。そして今、まさに完璧な防音設備と1台の高級グランドピアノがタカシの目の前にある。
「…実はオレが勝手にルーカスの3周年のお祝いに、タカシさんに何かしたくて、大学時代のクラッシック同好会の先輩だったこのスタジオのオーナーに、空いている時間に好きなだけ使わせてもらえるように頼んだのです」
ルカは照れながら事の成り行きを丁寧に説明した。
「それで…交渉がうまくいったあの日、たまたまここから帰る途中、ジャノメの連中に拉致されてしまったんです」
「そうだったんだ…オレの為に、またルカを危険な目に遭わせてしまって…」
やはり、ルカが自分のために奔走してくれていた事実を知り、タカシは胸がいっぱいで何も言えなくなりそうだった。
「…オレはどうも、めんどくさいトラブルに好かれているみたいですね。きっとタカシさん一人のせいじゃないと思いますよ」
ルカは“参りましたね”と微笑んだ。
「さぁ、そんなことより、思う存分、ピアノを弾いてください!ルーカスでの演奏はバイトの佐屋君に任せてしまっていますが、オレは閉店後にあなたが弾くピアノを、ずっとずっと聴いていたいと思うんです」
「うん…わかったよ、ルカ」
タカシはピアノの椅子に座り、重い鍵盤の蓋を開けた。彼は今、嬉しさでどうにかなりそうであった。何よりも自分のことをいつも見ていてくれるルカに対して、心を込めて演奏を捧げたい思った。
「聴いてください。では、ルカのために」
タカシは瞼を閉じ、最初に出会った衝撃的なニューヨークでのルカを思い浮かべた。
“上杉さん……!聞こえますか?聞こえたら返事して下さい!!”
半ば意識が遠のきかけていたあの日、必死に呼びかけてくれたあの声の主が今、ここにいる奇跡。
友人を自分のせいで亡くした罪悪感と後ろめたさを感じながら、タカシは自分のことを思って言葉をくれるルカに、いつしか次第に惹かれていった。指は鍵盤の上を駆け抜けていく。情熱のままに、自分はルカを愛さずにはいられなかった。
うしろめたい気持ちを抱えながらも、ルカを自分の部屋へと連れ去り、初めて抱いた日のことを、タカシは思い出していた。やがて二人で暮らし始め、お互いが無くてはならないほどの存在だと気付き始めた頃、二人の進む道が二手に分かれてしまった。
(ルカの人生の荷物になるわけにはいかない。その気持ちは、今だって変わらない)
胸のなかに岩のように重しを抱えながら、タカシの指は何度も鍵盤上のパッセージを繰り返す。それを少し離れたところで見守るようにして、ルカは聴いている。その旋律は、タカシの即興曲であったが、彼には自分への愛が歌われていることは充分すぎるほど伝わり、胸の内が熱くなるのを感じた。
(ああ、ルカ……。お前がただ、いてくれるだけでオレは毎日救われているんだ。オレが幸せに生きて来られたのは、全部お前のおかげなんだよ)
あの日、オレの命を救い上げてくれたルカ…。
タカシの眼には涙がこみあげてくる。無限に溢れてくるルカへの想いは激しい旋律となって奏でられていく。それを受け止めるように、ルカもその旋律にリズムを取るように頷いていた。この先もどんなことがあったとしても、二人は離れてはいけないのだと思う。死が二人を分かつまで、絶対に、絶対に。
やがて、タカシが演奏を終えると、ルカは夢中で拍手をおくった。それを照れるようにして受け止めたタカシだったが、ルカの背中の向こうにふいに視線を移す。
スタジオの入り口ドアが開いたのだ。
「初めまして、上杉タカシ君」
長身で優しげな表情のその男性を見た瞬間、タカシは呆然とせずにはいられなかった。その男はかつて世界的に有名になったジャズピアニスト、風間隼人だったのだから。
さすがにルカも彼のことはよく知っていた。今までタカシからもっとも憧れているアーティストであることを何度も聞かされていたからだ。
「何故……?あなたが、こんなところに?あなたは確か、突然第一線から姿を消し、噂では流浪のジャズピアニストとなったって…」
タカシもルカもこの突然の訪問者にただ、驚くしかなかった。
「突然君たちの前に現れたりして、すまなかった。話せばいろいろと長くなってしまうのだけれど、僕も昔、いろいろ悩んだ時期があったんだ。名声を手にしたものの、自分は本当にこの音楽が好きでやってきたのか?と振り返ったりしてね。そんな悩みや気持ちは、演奏にまでハッキリと出てしまう。自分が満足いかない演奏を誰かに聴かせるなんて、僕はそんな仕打ちが耐えられなくなって、全てを捨てるように逃げたんだ。そして、ある日君みたいに堺谷さんに声をかけられて、それで今の僕が存在しているんだよ」
「あなたも……堺谷さんと縁があったんですか?」
「ああ。今は本業を少し離れているけど、堺谷さんの為だけのプレイヤーになってるようなものだね。ただ、僕は今、彼の秘書をやっているから」
「……そんな。オレ…全然……気付かなかった」
タカシはまだ信じられないといった様子で困惑していた。
「君がアメリカに居たとき、ホテルに堺谷さんに呼び出されて演奏させられたことがあっただろう?あのとき、実を言うと隣の部屋で僕も君の演奏を聴いていたんだ」
「そんな……!あのときのオレの演奏……今までのなかで一番最低の出来で最悪な黒歴史だったんです」
タカシは思わず両手で顔を覆った。それを横で見ていたルカは苦笑しながらも彼の背中をポンポンと叩いて慰めた。
「まぁ……確かにあのときの君は情緒不安定そのものだったね。ほら、今、君の横に居てくれる、山口瑠歌君と別れた直後だっただろう?だからかもしれないけれど、演奏自体はかなり酷いものだった。けれども、僕はそれはそれで君の演奏がとても心に響いたんだよ?荒削りだけれど、人の心を打つパワーを持っている…ってね」
意外にも、風間隼人はタカシの演奏に賞賛の言葉をくれた。
「それで、堺谷さんは君の気持ちを試すように新宿に店を持たせただろう?君が夢を諦めずにいられるかどうかって。その後も音楽に携わり続けているようだったなら、僕は君の演奏をまた是非聴きたいと思ったんだ。だから、堺谷さんの秘書としてのネットワークを駆使して、君の恋人がこのスタジオを賃貸契約した話を知って、さっきまでの君の演奏を聴かせてもらったんだ」
「……そうだったんですね」
ルカは風間の行動力に感心せずにはいられなかった。逆にこんなに著名なジャズピアニストが、己の恋人の演奏に興味を持ってくれたことがまるで自分のことのように嬉しくてたまらなかった。
「そこで……僕からの提案なんだが、君はまだ夢を諦めてはいないかい?」
ふいにそう尋ねられ、タカシは一瞬迷ったものの、横に居たルカの目を見て、大きく確信を持って頷いた。
「はい。オレは一生、音楽とピアノに携わっていくつもりです」
「ならば……僕に付いてまた本格的にピアノを始める気はないかい?」
「えっ………?」
風間の言葉に、タカシもルカも驚きを隠せずにいた。
「でも……オレは素人同然で、それはあなたもお聴き頂いたとおりではないですか?」
風間が何を思ってそう言っているのかわからず、タカシは聞き返す。
「たしかにそうだね。技巧もなく、我流の、まるで鍵盤をぶっ叩いてるようなそんな荒っぽい演奏だったりもするけど、ただ、僕は何よりも君はこの瑠歌君の影響を受けていくらでも才能を開花させるタイプのプレイヤーだってそう思えるんだ。そうだな……強いて言えば、愛と光を描き続けた、マルク・シャガールみたいな感じというところか」
風間の言葉受け止め、タカシはルカを再び見つめた。
「………才能が開花していくかどうかなんて、オレには正直わからないです。ただ、オレがそのマルク・シャガールみたいだというのであれば、ここにいるルカはエヴァですね。彼は彼女なしではあんな傑作は生み出せなかったと思います」
「タカシさんっ………それは……かいかぶりすぎですよ。オレはタカシさんにそんな多大な影響を与えるような存在ではないですから」
ルカは思わず顔を真っ赤にさせながら、彼の言葉を制止するかのように両手を広げて振った。
「いや、そんなことはないよ、瑠歌君。あまり彼を虐めたくは無いが、君と別れた直後の彼の演奏は、こちらが思わず泣きたくなるほどの悲壮感でね」
風間が目を細めて微笑すると、タカシは慌てたように風間を凝視した。まるで“ソレ以上は武士の情けで内密に”といわんばかりに。
「いずれにせよ、僕は君を弟子として、生徒として育てたいし、僕のもっている、ありとあらゆるものを授けたいと思っているんだ。それを受け止められるのは、既にプロとして成功してしまっているようなプレイヤーではどうしても独自の考えや身に染み付いた技巧が邪魔になってしまうだろう。僕はね、まっさらでがむしゃらにピアノを弾きたいと思う人間にそれらを譲りたいんだ。それが君なんだよ、タカシ君」
「………風間さん」
もう迷う理由はなかった。ただ、強いていえばタカシにはひとつだけ不安があった。
本格的にジャズピアノを修行しなおすのであれば、やはり日本を飛び出してNYに戻らなくてはならない。そう思ったのだ。
「風間さん……実はオレ、この新宿で堺谷さんにルーカスって“城”をもらった日からいろんなものを築いてきたんです。オレみたいにいい加減で根無し草のような生活をしてきた、どうしようもない人間に対して、この界隈に住む人たちは、誰もが支えになってくれ、励ましてくれました。オレが自暴自棄になって堕ちるところまで堕ちずに済んだのは、もちろん、音楽のおかげでもあるし、堺谷さんが与えてくれた仲間との関わりだったんです。それに、店には今、行き場のない高校生のバイト君が2人いたりするんです」
風間はタカシの言葉を黙って聞いていた。
「それに……ルカとは離れるわけにはいかないんです。彼もこの街の無くてはならない医者となっています。オレは……ルカを置いてまた、渡米することなど出来ないんです。たとえ……自分の夢の実現のためとしても」
「……タカシさん」
風間は二人の深い絆を充分理解しているつもりだった。それを実際この目で見ることができ、やっと考えがまとまったようだった。
「……そうか。君の気持ちはよく解ったよ。確かに僕の拠点はNYだし、君が渡米してくれることが一番望ましいとは思っている。だけど……」「……………………」
「僕が……君のために度々来日するようにしよう」
「ホントですかっ!?」
「ああ、そのつもりさ。もっとも、堺谷さんがビジネスで度々来日するからそれに同行するような形となるだろうね。その合間に僕は出来るかぎり、君の面倒をみることにしよう」
「ありがとうございます!!」
「風間さん、有難うございます。タカシにこんな凄いチャンスを下さって、本当に本当に…」
二人は彼に深々と頭を下げた。
「礼を言ってくれるのはまだ早いと思うよ?僕はね、たぶん指導は全力になると思うし、厳しくなるだろうからね。それらを全て吸収しきったときにこそ、君たちから何かひとことが貰えるように僕自身、努力したいと思っているよ」 信じて歩いてきた道は、まさに間違ってはいない道だったのだ。
******************
その日、タカシとルカはとても穏やかな夜を過ごした。あの著名な風間に弟子として指導を約束され、本来ならば有頂天になっているはずだったが、二人は今、とても満たされた気持ちになっていたのだ。
「……運命ってわからないものですね」
リビングのソファーに座るタカシに、コーヒー入りのマグカップも差出し、ルカは感慨深い様子でそう言った。
「……そうだね。だけど、オレはもう奇跡という奇跡を初めにもらってしまったから、何が起きても慌てなくなったかも」
タカシはルカを見つめ、悪戯っぽく笑う。
「随分と余裕の持てる大人になりましたね、タカシさんは」
ルカはそれを受け、からかってみせる。
「そうだよ。オレにとってルカとの出会い以上に凄い奇跡はないから。NYで、かけがえのない運命のひとに出会うなんて、思ってなかったから」
「……運命ですか。オレは……ちょっとしつこかっただけではないですか?」
案外真顔なタカシに、逆にからかうはずだったルカの方が神妙な顔つきになった。
「ん~、どうかな。ルカをしつこいなんて感じたことがなかったから。むしろ、二人でいられる時間が短かったじゃない?ルカは……立派なお医者さんで、当直もあったり本当に細い身体でいつも嘘みたいに頑張ってて…見ていたオレは自分が恥ずかしかったんだよ」
「そんなの……医師なら、当然ですよ。医師を志した日から覚悟は決めていましたから」
「だから凄いんじゃない?たぶん、ルカが医学生だった頃なんてオレは自分の将来を“なんとかなるさ”ぐらいにしか考えていなかったもの。なのに……アンタはどうしてこんなヤツを好きでいてくれるんだろうね」
タカシの言葉にネガティブな自虐はない。むしろ、過去を顧みることで未来を力強く生き抜く決意が見え隠れする。それがとても頼もしく見えたルカは、彼の首に両手を回した。
「……そんなの、決まっています。あなたが誰よりも強くて、まっすぐで……」
オレだけを愛してくれるひとだからです。
「ルカ……愛してる」
「オレもです、タカシさん」
ルカはタカシの手からそっとマグカップを取り上げ、テーブルに置いた。そのままソファーに沈み込むようにして二人はキスをする。最初は唇を合わせあうように触れ、そして次第に互いの空気を奪うように深く口付ける。
「うっ………ん………」
深く口付けあううち、だんだん相手を望む欲望が目を覚ます。それはゆっくりと目覚めながらも、凶暴な生物のように荒ぶっていく。
「あっ……ふ……」
タカシはキスの合間にルカの表情を堪能する。閉じられた瞼はわずかに揺れ、唇をこじ開けて舌を絡めるたびに眉が寄せられた。
「ルカ……もっと……二人で感じたい」
そんなふうに強請れば、ルカは潤んだ瞳で見つめ返してくる。無言のままに、愛することを許してくれている。
「……ベッドに行こう」
ルカの頬を片手でするりと撫で、タカシは微笑む。その瞬間の彼は誰よりもハンサムで、ルカが一番大好きなタカシの表情だったりするのだ。
ベッドルームに辿り着くまでに移動しながら何度もキスをする。欲望の炎を少しでも鎮めたくて、逸る気持ちを激しくむさぼりあう。ベッドサイドに立ち、ルカのシャツのボタンをタカシはひとつひとつ外していく。キスをしながらのその行為に、ルカの心臓は期待で激しく内側からドラムのように響く。
(あなたのキスひとつでオレは熱くなってしまう。まるで別の人間に変えられてしまう…)
そんなことを考えていることを悟られないよう、ルカは必死に理性を保とうとする。シャツのボタンが全て外され、すぐにルカの胸板が露になった。呼吸をするたびに上下に動くそれに、タカシは顔をそっと近づけ、頬を摺り寄せたあと、彼の色づく乳先を舌先で縁をたどるように舐める。
「ふあっ……もう……タカシさんっ!」
わざと照れ隠しにふざけて怒ってみせたルカに、彼はさらに激しく唇を押し付けていった。
「んんん……あまり悪戯しないでください。これでも…我慢しているんですから」
困り顔のルカはタカシにそう言って制止させようとするがそれはかえって彼の欲望を煽る言葉になってしまうようだ。
「ふふ……可愛いよ、ルカ。ココ、そんなに感じるんだ?」
「やっ……だめ……そんなに激しく舐めたりしたら……ああっ……だめです」
赤く色づいた南天の実のような突起を、タカシは味わうように歯を立てる。
「あっ………や……やだ……っ」
「今夜は……なんだか止められそうにないよ、ルカ。何故だろう……とても幸せなんだ。だから……アンタを凄く気持ちよくさせたい」
「や……ああっ……待って、まだ…そこは!」
タカシは何度もルカに愛の言葉を囁く。時には意地悪に、そして卑猥な言葉を浴びせてくる。ルカはそんな彼に翻弄されながら、やがて腹を滑って伸びてきたタカシの手が自分の男性をわしづかみにしたのを感じ、仰け反った。「タ………タカシさん」
何度も今までこうして愛し合ってきたにも関わらず、彼は自分の下半身の欲望の滾りをタカシに知られてしまうことを恥らった。
「可愛いよ、ルカ……もう……こんなにしちゃってるの?乳首だけで感じちゃうなんて……ルカは女の子みたいだね」
「そ………そんなこと……言わないでください」
「恥ずかしがってるルカも凄く可愛い。ねぇ、もっとその顔を見せて。お願いだから隠さないでよ?ねぇ……ルカの……男の部分、オレの手の中でこんなに硬くなってる……」
「ば……バカっ!タカシさんっ!!そんなこというなっ!!」
とうとう半泣きの顔になりはじめたルカに対して、タカシはいたずらっぽくペロリと舌を出す。
「……ごめん、あまりにも可愛いから……イジメたくなった」
タカシはそう言うと、自らのズボンを腰から太腿までずらし、トランクスを下げ、猛り狂うような自らの雄を取り出してルカに見せつけた。
「あっ………」
それが視界に入ったルカは赤面せずにはいられなかった。
「ごめん……。すごく興奮してるの、ルカだけじゃないんだよ。オレだって、アンタとキスするだけでイキそうになっちゃってる」
「ふぅ……こうして……ルカのと擦り合ってると、ホントに……セックスしてるって…実感できる」
タカシは片手で扱くように支えながら、己の尖端をルカのそれと触れあい、擦り合わせて行く。二つの雄が合わさり、欲望を共有する行為が泣きたくなるほど温かく感じた。
「……こんなの……ただの慰めみたいでヘンだな…って思ったけどさ………でも……ルカとなら……気持ちいいよ」
ひとしきりもどかしい触れ合いを味わったあと、タカシは濡れ始めた尖端の体液を指にとった。
「……ねぇ……もう待てなくなってきた」
「オレも……です……なんかオレ……凄く体の奥が疼くみたい…で」
珍しく正直に欲望を口にしたルカにタカシは新鮮な驚きを感じた。
「うん……。今夜は……一晩中でも愛し合いたいくらいだ」
ルカの両脚を掴むと、タカシは大きく開いた。付け根に猛る実が突き抜けるように露になった。
「ああ……」
「ごめん、ゆっくり挿れるから」
タカシの雄の尖端がルカの入り口に宛がわれると、彼は突き出すように腰を動かしていく。
「あ…っ………タカシさんも………凄く硬い」
杭が地中に突き刺さっていくようにタカシの雄もルカの体内へと少しづつ消えていく。
「ああ……気持ちいい。ルカ……あまり締め付けないで」
「そんな……無理です……っ……うっ」
あまりの快感にタカシは意識が真っ白になりそうだった。無我夢中でルカを愛したいと思っているのに、自分の方がその愛にどっぷりと浸り、ルカの愛に溺れてしまいそうになる。
「ルカ……ゆっくり……動くから。辛くなったら……ちゃんと言って」
口元に優しい笑みを浮かべ、そのまなざしはまっすぐにルカへと注がれる。タカシは片時もルカから眼を離すことなく、腰をグラインドさせはじめた。ルカの体内に消えていた雄が引き抜かれそうになり、そして再び体内へと埋められていく。最初はゆっくりとそして次第に激しく速くなっていった。
「あっ……あっ……もう……タカシさんの……タカシさんの……もっと下さい。ヤバい………気持ちよすぎて………」
ルカは涙を浮かべながら、タカシの腰を挟むように両脚を絡ませ、自ら腰を振る。
「……ステキだよ、ルカ。こんなに気持ちいいなんて、二人で楽園に辿りついたみたい。ねぇ……お願い。まだこうしていたい。アンタと……もっともっと……感じたい」
懇願するような声の響きでルカの身体を抱きしめながら、タカシはグラインドし続けた。
(ああ……。何もかも、悩みなんてどうでもよくなるくらいに消えていく。ルカと……ひとつになってるって……どうしてこんなに幸せになれるんだろう……)
彼はルカの脚を掴む手に力を込めた。
「ごめんルカ……今夜はアンタをひたすら愛したい。でも……なんかオレ、だんだん余裕がなくなってきた」
眉を寄せて快感に耐えながら、タカシはルカの耳朶を唇で触れる。そしてそのまま囁き続けた。
「もうっ………タカシさんっ………言葉攻めズルイです……あっ……もう……あっ…」
「いいよ……ルカ……我慢しないで。いっぱい射って………」
腰の角度を変え、タカシはさらに奥深くへと己の雄を打ち込んでいった。そして彼の反応に満足しながら、再び手前に引き戻してくる。体内の摩擦に身を震わせながら、ルカは思わず声にならない叫びを上げた。「……………………………っ!!イクーーー」
身体をブルブルと震わせたあと、タカシの手のなかに快楽の証が吐精された。
「はぁぁ……やだな……ごめんなさい」
自分が粗相したことに羞恥せずにはいられなかったのだろう。ルカは両脚を窄ませ、慌ててベッドサイドのボックスティッシュに手を伸ばす。肩で息をし、少し気だるそうに見えた彼の表情がさらに妖艶に映り、思わずタカシは彼をまたベッドへと押し戻した。
「あっ………」
その甘い衝動にルカは頬を染める。
「イクよ……オレも……」
タカシはルカの脚を強く掴み、腰の動きをリズミカルに速めていく。
「ああっ……さっき……射ったばかりなのに…」
泣き言のように聞こえたルカの声に、タカシは幸せそうに頷いた。
「また……勃ってきたんだ?……可愛いよ」
「男に可愛いって……似合わないです……」
「そんなこと………ない………くっ……ああ、気持ちいい……ルカ……まだ……イキたくないけど」
無我夢中でむさぼりつくようにキスをする。昇りつめてその行き着く先に達するまで、ひたすらにじゃれあい、ひたひたと肌を打ち合う。
「………オレ………かなりしつこい男だ」
仰け反り、一旦呼吸を求めてルカの唇から離れると、タカシは自虐的にくすくすと笑った。
「男はみんな………同じです」
再び手を伸ばし、ルカはタカシを自分へと引き寄せた。
「…………?」
そんなとき、ふと耳をすませば窓を打つ雨粒の音がかすかに聞こえてきた。
「雨ですね……」
「ああ……降ってたんだ」
「オレたちには……なんだかいつも泣いてくれているような空ですね」
「ふふ……ルカは詩人みたいに表現が上手い」
「タカシさんほどではないです。“止まない雨はない”……って」
「あれは……ユキトの言葉だ。オレじゃない」
「……でしたね。少し妬けます」
「それは……初めて聞いた。愛の告白と受け止めておくよ…」
「んんんん…………」
タカシはルカの口を熱をもってそのまま塞いだ。恋人たちは固く結ばれながら、その雨音にさえ心地よく耳を傾けていた。何度も押し寄せる快感の潮にその身を震わせ、恥じらいながらも、ふたりは翌朝には雨が止むことを信じていた。
the ende
ルカの傷がすっかり良くなり、精神的にも落ち着き始めた頃、タカシはルカに連れられ、とある音楽スタジオにやって来た。そして今、まさに完璧な防音設備と1台の高級グランドピアノがタカシの目の前にある。
「…実はオレが勝手にルーカスの3周年のお祝いに、タカシさんに何かしたくて、大学時代のクラッシック同好会の先輩だったこのスタジオのオーナーに、空いている時間に好きなだけ使わせてもらえるように頼んだのです」
ルカは照れながら事の成り行きを丁寧に説明した。
「それで…交渉がうまくいったあの日、たまたまここから帰る途中、ジャノメの連中に拉致されてしまったんです」
「そうだったんだ…オレの為に、またルカを危険な目に遭わせてしまって…」
やはり、ルカが自分のために奔走してくれていた事実を知り、タカシは胸がいっぱいで何も言えなくなりそうだった。
「…オレはどうも、めんどくさいトラブルに好かれているみたいですね。きっとタカシさん一人のせいじゃないと思いますよ」
ルカは“参りましたね”と微笑んだ。
「さぁ、そんなことより、思う存分、ピアノを弾いてください!ルーカスでの演奏はバイトの佐屋君に任せてしまっていますが、オレは閉店後にあなたが弾くピアノを、ずっとずっと聴いていたいと思うんです」
「うん…わかったよ、ルカ」
タカシはピアノの椅子に座り、重い鍵盤の蓋を開けた。彼は今、嬉しさでどうにかなりそうであった。何よりも自分のことをいつも見ていてくれるルカに対して、心を込めて演奏を捧げたい思った。
「聴いてください。では、ルカのために」
タカシは瞼を閉じ、最初に出会った衝撃的なニューヨークでのルカを思い浮かべた。
“上杉さん……!聞こえますか?聞こえたら返事して下さい!!”
半ば意識が遠のきかけていたあの日、必死に呼びかけてくれたあの声の主が今、ここにいる奇跡。
友人を自分のせいで亡くした罪悪感と後ろめたさを感じながら、タカシは自分のことを思って言葉をくれるルカに、いつしか次第に惹かれていった。指は鍵盤の上を駆け抜けていく。情熱のままに、自分はルカを愛さずにはいられなかった。
うしろめたい気持ちを抱えながらも、ルカを自分の部屋へと連れ去り、初めて抱いた日のことを、タカシは思い出していた。やがて二人で暮らし始め、お互いが無くてはならないほどの存在だと気付き始めた頃、二人の進む道が二手に分かれてしまった。
(ルカの人生の荷物になるわけにはいかない。その気持ちは、今だって変わらない)
胸のなかに岩のように重しを抱えながら、タカシの指は何度も鍵盤上のパッセージを繰り返す。それを少し離れたところで見守るようにして、ルカは聴いている。その旋律は、タカシの即興曲であったが、彼には自分への愛が歌われていることは充分すぎるほど伝わり、胸の内が熱くなるのを感じた。
(ああ、ルカ……。お前がただ、いてくれるだけでオレは毎日救われているんだ。オレが幸せに生きて来られたのは、全部お前のおかげなんだよ)
あの日、オレの命を救い上げてくれたルカ…。
タカシの眼には涙がこみあげてくる。無限に溢れてくるルカへの想いは激しい旋律となって奏でられていく。それを受け止めるように、ルカもその旋律にリズムを取るように頷いていた。この先もどんなことがあったとしても、二人は離れてはいけないのだと思う。死が二人を分かつまで、絶対に、絶対に。
やがて、タカシが演奏を終えると、ルカは夢中で拍手をおくった。それを照れるようにして受け止めたタカシだったが、ルカの背中の向こうにふいに視線を移す。
スタジオの入り口ドアが開いたのだ。
「初めまして、上杉タカシ君」
長身で優しげな表情のその男性を見た瞬間、タカシは呆然とせずにはいられなかった。その男はかつて世界的に有名になったジャズピアニスト、風間隼人だったのだから。
さすがにルカも彼のことはよく知っていた。今までタカシからもっとも憧れているアーティストであることを何度も聞かされていたからだ。
「何故……?あなたが、こんなところに?あなたは確か、突然第一線から姿を消し、噂では流浪のジャズピアニストとなったって…」
タカシもルカもこの突然の訪問者にただ、驚くしかなかった。
「突然君たちの前に現れたりして、すまなかった。話せばいろいろと長くなってしまうのだけれど、僕も昔、いろいろ悩んだ時期があったんだ。名声を手にしたものの、自分は本当にこの音楽が好きでやってきたのか?と振り返ったりしてね。そんな悩みや気持ちは、演奏にまでハッキリと出てしまう。自分が満足いかない演奏を誰かに聴かせるなんて、僕はそんな仕打ちが耐えられなくなって、全てを捨てるように逃げたんだ。そして、ある日君みたいに堺谷さんに声をかけられて、それで今の僕が存在しているんだよ」
「あなたも……堺谷さんと縁があったんですか?」
「ああ。今は本業を少し離れているけど、堺谷さんの為だけのプレイヤーになってるようなものだね。ただ、僕は今、彼の秘書をやっているから」
「……そんな。オレ…全然……気付かなかった」
タカシはまだ信じられないといった様子で困惑していた。
「君がアメリカに居たとき、ホテルに堺谷さんに呼び出されて演奏させられたことがあっただろう?あのとき、実を言うと隣の部屋で僕も君の演奏を聴いていたんだ」
「そんな……!あのときのオレの演奏……今までのなかで一番最低の出来で最悪な黒歴史だったんです」
タカシは思わず両手で顔を覆った。それを横で見ていたルカは苦笑しながらも彼の背中をポンポンと叩いて慰めた。
「まぁ……確かにあのときの君は情緒不安定そのものだったね。ほら、今、君の横に居てくれる、山口瑠歌君と別れた直後だっただろう?だからかもしれないけれど、演奏自体はかなり酷いものだった。けれども、僕はそれはそれで君の演奏がとても心に響いたんだよ?荒削りだけれど、人の心を打つパワーを持っている…ってね」
意外にも、風間隼人はタカシの演奏に賞賛の言葉をくれた。
「それで、堺谷さんは君の気持ちを試すように新宿に店を持たせただろう?君が夢を諦めずにいられるかどうかって。その後も音楽に携わり続けているようだったなら、僕は君の演奏をまた是非聴きたいと思ったんだ。だから、堺谷さんの秘書としてのネットワークを駆使して、君の恋人がこのスタジオを賃貸契約した話を知って、さっきまでの君の演奏を聴かせてもらったんだ」
「……そうだったんですね」
ルカは風間の行動力に感心せずにはいられなかった。逆にこんなに著名なジャズピアニストが、己の恋人の演奏に興味を持ってくれたことがまるで自分のことのように嬉しくてたまらなかった。
「そこで……僕からの提案なんだが、君はまだ夢を諦めてはいないかい?」
ふいにそう尋ねられ、タカシは一瞬迷ったものの、横に居たルカの目を見て、大きく確信を持って頷いた。
「はい。オレは一生、音楽とピアノに携わっていくつもりです」
「ならば……僕に付いてまた本格的にピアノを始める気はないかい?」
「えっ………?」
風間の言葉に、タカシもルカも驚きを隠せずにいた。
「でも……オレは素人同然で、それはあなたもお聴き頂いたとおりではないですか?」
風間が何を思ってそう言っているのかわからず、タカシは聞き返す。
「たしかにそうだね。技巧もなく、我流の、まるで鍵盤をぶっ叩いてるようなそんな荒っぽい演奏だったりもするけど、ただ、僕は何よりも君はこの瑠歌君の影響を受けていくらでも才能を開花させるタイプのプレイヤーだってそう思えるんだ。そうだな……強いて言えば、愛と光を描き続けた、マルク・シャガールみたいな感じというところか」
風間の言葉受け止め、タカシはルカを再び見つめた。
「………才能が開花していくかどうかなんて、オレには正直わからないです。ただ、オレがそのマルク・シャガールみたいだというのであれば、ここにいるルカはエヴァですね。彼は彼女なしではあんな傑作は生み出せなかったと思います」
「タカシさんっ………それは……かいかぶりすぎですよ。オレはタカシさんにそんな多大な影響を与えるような存在ではないですから」
ルカは思わず顔を真っ赤にさせながら、彼の言葉を制止するかのように両手を広げて振った。
「いや、そんなことはないよ、瑠歌君。あまり彼を虐めたくは無いが、君と別れた直後の彼の演奏は、こちらが思わず泣きたくなるほどの悲壮感でね」
風間が目を細めて微笑すると、タカシは慌てたように風間を凝視した。まるで“ソレ以上は武士の情けで内密に”といわんばかりに。
「いずれにせよ、僕は君を弟子として、生徒として育てたいし、僕のもっている、ありとあらゆるものを授けたいと思っているんだ。それを受け止められるのは、既にプロとして成功してしまっているようなプレイヤーではどうしても独自の考えや身に染み付いた技巧が邪魔になってしまうだろう。僕はね、まっさらでがむしゃらにピアノを弾きたいと思う人間にそれらを譲りたいんだ。それが君なんだよ、タカシ君」
「………風間さん」
もう迷う理由はなかった。ただ、強いていえばタカシにはひとつだけ不安があった。
本格的にジャズピアノを修行しなおすのであれば、やはり日本を飛び出してNYに戻らなくてはならない。そう思ったのだ。
「風間さん……実はオレ、この新宿で堺谷さんにルーカスって“城”をもらった日からいろんなものを築いてきたんです。オレみたいにいい加減で根無し草のような生活をしてきた、どうしようもない人間に対して、この界隈に住む人たちは、誰もが支えになってくれ、励ましてくれました。オレが自暴自棄になって堕ちるところまで堕ちずに済んだのは、もちろん、音楽のおかげでもあるし、堺谷さんが与えてくれた仲間との関わりだったんです。それに、店には今、行き場のない高校生のバイト君が2人いたりするんです」
風間はタカシの言葉を黙って聞いていた。
「それに……ルカとは離れるわけにはいかないんです。彼もこの街の無くてはならない医者となっています。オレは……ルカを置いてまた、渡米することなど出来ないんです。たとえ……自分の夢の実現のためとしても」
「……タカシさん」
風間は二人の深い絆を充分理解しているつもりだった。それを実際この目で見ることができ、やっと考えがまとまったようだった。
「……そうか。君の気持ちはよく解ったよ。確かに僕の拠点はNYだし、君が渡米してくれることが一番望ましいとは思っている。だけど……」「……………………」
「僕が……君のために度々来日するようにしよう」
「ホントですかっ!?」
「ああ、そのつもりさ。もっとも、堺谷さんがビジネスで度々来日するからそれに同行するような形となるだろうね。その合間に僕は出来るかぎり、君の面倒をみることにしよう」
「ありがとうございます!!」
「風間さん、有難うございます。タカシにこんな凄いチャンスを下さって、本当に本当に…」
二人は彼に深々と頭を下げた。
「礼を言ってくれるのはまだ早いと思うよ?僕はね、たぶん指導は全力になると思うし、厳しくなるだろうからね。それらを全て吸収しきったときにこそ、君たちから何かひとことが貰えるように僕自身、努力したいと思っているよ」 信じて歩いてきた道は、まさに間違ってはいない道だったのだ。
******************
その日、タカシとルカはとても穏やかな夜を過ごした。あの著名な風間に弟子として指導を約束され、本来ならば有頂天になっているはずだったが、二人は今、とても満たされた気持ちになっていたのだ。
「……運命ってわからないものですね」
リビングのソファーに座るタカシに、コーヒー入りのマグカップも差出し、ルカは感慨深い様子でそう言った。
「……そうだね。だけど、オレはもう奇跡という奇跡を初めにもらってしまったから、何が起きても慌てなくなったかも」
タカシはルカを見つめ、悪戯っぽく笑う。
「随分と余裕の持てる大人になりましたね、タカシさんは」
ルカはそれを受け、からかってみせる。
「そうだよ。オレにとってルカとの出会い以上に凄い奇跡はないから。NYで、かけがえのない運命のひとに出会うなんて、思ってなかったから」
「……運命ですか。オレは……ちょっとしつこかっただけではないですか?」
案外真顔なタカシに、逆にからかうはずだったルカの方が神妙な顔つきになった。
「ん~、どうかな。ルカをしつこいなんて感じたことがなかったから。むしろ、二人でいられる時間が短かったじゃない?ルカは……立派なお医者さんで、当直もあったり本当に細い身体でいつも嘘みたいに頑張ってて…見ていたオレは自分が恥ずかしかったんだよ」
「そんなの……医師なら、当然ですよ。医師を志した日から覚悟は決めていましたから」
「だから凄いんじゃない?たぶん、ルカが医学生だった頃なんてオレは自分の将来を“なんとかなるさ”ぐらいにしか考えていなかったもの。なのに……アンタはどうしてこんなヤツを好きでいてくれるんだろうね」
タカシの言葉にネガティブな自虐はない。むしろ、過去を顧みることで未来を力強く生き抜く決意が見え隠れする。それがとても頼もしく見えたルカは、彼の首に両手を回した。
「……そんなの、決まっています。あなたが誰よりも強くて、まっすぐで……」
オレだけを愛してくれるひとだからです。
「ルカ……愛してる」
「オレもです、タカシさん」
ルカはタカシの手からそっとマグカップを取り上げ、テーブルに置いた。そのままソファーに沈み込むようにして二人はキスをする。最初は唇を合わせあうように触れ、そして次第に互いの空気を奪うように深く口付ける。
「うっ………ん………」
深く口付けあううち、だんだん相手を望む欲望が目を覚ます。それはゆっくりと目覚めながらも、凶暴な生物のように荒ぶっていく。
「あっ……ふ……」
タカシはキスの合間にルカの表情を堪能する。閉じられた瞼はわずかに揺れ、唇をこじ開けて舌を絡めるたびに眉が寄せられた。
「ルカ……もっと……二人で感じたい」
そんなふうに強請れば、ルカは潤んだ瞳で見つめ返してくる。無言のままに、愛することを許してくれている。
「……ベッドに行こう」
ルカの頬を片手でするりと撫で、タカシは微笑む。その瞬間の彼は誰よりもハンサムで、ルカが一番大好きなタカシの表情だったりするのだ。
ベッドルームに辿り着くまでに移動しながら何度もキスをする。欲望の炎を少しでも鎮めたくて、逸る気持ちを激しくむさぼりあう。ベッドサイドに立ち、ルカのシャツのボタンをタカシはひとつひとつ外していく。キスをしながらのその行為に、ルカの心臓は期待で激しく内側からドラムのように響く。
(あなたのキスひとつでオレは熱くなってしまう。まるで別の人間に変えられてしまう…)
そんなことを考えていることを悟られないよう、ルカは必死に理性を保とうとする。シャツのボタンが全て外され、すぐにルカの胸板が露になった。呼吸をするたびに上下に動くそれに、タカシは顔をそっと近づけ、頬を摺り寄せたあと、彼の色づく乳先を舌先で縁をたどるように舐める。
「ふあっ……もう……タカシさんっ!」
わざと照れ隠しにふざけて怒ってみせたルカに、彼はさらに激しく唇を押し付けていった。
「んんん……あまり悪戯しないでください。これでも…我慢しているんですから」
困り顔のルカはタカシにそう言って制止させようとするがそれはかえって彼の欲望を煽る言葉になってしまうようだ。
「ふふ……可愛いよ、ルカ。ココ、そんなに感じるんだ?」
「やっ……だめ……そんなに激しく舐めたりしたら……ああっ……だめです」
赤く色づいた南天の実のような突起を、タカシは味わうように歯を立てる。
「あっ………や……やだ……っ」
「今夜は……なんだか止められそうにないよ、ルカ。何故だろう……とても幸せなんだ。だから……アンタを凄く気持ちよくさせたい」
「や……ああっ……待って、まだ…そこは!」
タカシは何度もルカに愛の言葉を囁く。時には意地悪に、そして卑猥な言葉を浴びせてくる。ルカはそんな彼に翻弄されながら、やがて腹を滑って伸びてきたタカシの手が自分の男性をわしづかみにしたのを感じ、仰け反った。「タ………タカシさん」
何度も今までこうして愛し合ってきたにも関わらず、彼は自分の下半身の欲望の滾りをタカシに知られてしまうことを恥らった。
「可愛いよ、ルカ……もう……こんなにしちゃってるの?乳首だけで感じちゃうなんて……ルカは女の子みたいだね」
「そ………そんなこと……言わないでください」
「恥ずかしがってるルカも凄く可愛い。ねぇ、もっとその顔を見せて。お願いだから隠さないでよ?ねぇ……ルカの……男の部分、オレの手の中でこんなに硬くなってる……」
「ば……バカっ!タカシさんっ!!そんなこというなっ!!」
とうとう半泣きの顔になりはじめたルカに対して、タカシはいたずらっぽくペロリと舌を出す。
「……ごめん、あまりにも可愛いから……イジメたくなった」
タカシはそう言うと、自らのズボンを腰から太腿までずらし、トランクスを下げ、猛り狂うような自らの雄を取り出してルカに見せつけた。
「あっ………」
それが視界に入ったルカは赤面せずにはいられなかった。
「ごめん……。すごく興奮してるの、ルカだけじゃないんだよ。オレだって、アンタとキスするだけでイキそうになっちゃってる」
「ふぅ……こうして……ルカのと擦り合ってると、ホントに……セックスしてるって…実感できる」
タカシは片手で扱くように支えながら、己の尖端をルカのそれと触れあい、擦り合わせて行く。二つの雄が合わさり、欲望を共有する行為が泣きたくなるほど温かく感じた。
「……こんなの……ただの慰めみたいでヘンだな…って思ったけどさ………でも……ルカとなら……気持ちいいよ」
ひとしきりもどかしい触れ合いを味わったあと、タカシは濡れ始めた尖端の体液を指にとった。
「……ねぇ……もう待てなくなってきた」
「オレも……です……なんかオレ……凄く体の奥が疼くみたい…で」
珍しく正直に欲望を口にしたルカにタカシは新鮮な驚きを感じた。
「うん……。今夜は……一晩中でも愛し合いたいくらいだ」
ルカの両脚を掴むと、タカシは大きく開いた。付け根に猛る実が突き抜けるように露になった。
「ああ……」
「ごめん、ゆっくり挿れるから」
タカシの雄の尖端がルカの入り口に宛がわれると、彼は突き出すように腰を動かしていく。
「あ…っ………タカシさんも………凄く硬い」
杭が地中に突き刺さっていくようにタカシの雄もルカの体内へと少しづつ消えていく。
「ああ……気持ちいい。ルカ……あまり締め付けないで」
「そんな……無理です……っ……うっ」
あまりの快感にタカシは意識が真っ白になりそうだった。無我夢中でルカを愛したいと思っているのに、自分の方がその愛にどっぷりと浸り、ルカの愛に溺れてしまいそうになる。
「ルカ……ゆっくり……動くから。辛くなったら……ちゃんと言って」
口元に優しい笑みを浮かべ、そのまなざしはまっすぐにルカへと注がれる。タカシは片時もルカから眼を離すことなく、腰をグラインドさせはじめた。ルカの体内に消えていた雄が引き抜かれそうになり、そして再び体内へと埋められていく。最初はゆっくりとそして次第に激しく速くなっていった。
「あっ……あっ……もう……タカシさんの……タカシさんの……もっと下さい。ヤバい………気持ちよすぎて………」
ルカは涙を浮かべながら、タカシの腰を挟むように両脚を絡ませ、自ら腰を振る。
「……ステキだよ、ルカ。こんなに気持ちいいなんて、二人で楽園に辿りついたみたい。ねぇ……お願い。まだこうしていたい。アンタと……もっともっと……感じたい」
懇願するような声の響きでルカの身体を抱きしめながら、タカシはグラインドし続けた。
(ああ……。何もかも、悩みなんてどうでもよくなるくらいに消えていく。ルカと……ひとつになってるって……どうしてこんなに幸せになれるんだろう……)
彼はルカの脚を掴む手に力を込めた。
「ごめんルカ……今夜はアンタをひたすら愛したい。でも……なんかオレ、だんだん余裕がなくなってきた」
眉を寄せて快感に耐えながら、タカシはルカの耳朶を唇で触れる。そしてそのまま囁き続けた。
「もうっ………タカシさんっ………言葉攻めズルイです……あっ……もう……あっ…」
「いいよ……ルカ……我慢しないで。いっぱい射って………」
腰の角度を変え、タカシはさらに奥深くへと己の雄を打ち込んでいった。そして彼の反応に満足しながら、再び手前に引き戻してくる。体内の摩擦に身を震わせながら、ルカは思わず声にならない叫びを上げた。「……………………………っ!!イクーーー」
身体をブルブルと震わせたあと、タカシの手のなかに快楽の証が吐精された。
「はぁぁ……やだな……ごめんなさい」
自分が粗相したことに羞恥せずにはいられなかったのだろう。ルカは両脚を窄ませ、慌ててベッドサイドのボックスティッシュに手を伸ばす。肩で息をし、少し気だるそうに見えた彼の表情がさらに妖艶に映り、思わずタカシは彼をまたベッドへと押し戻した。
「あっ………」
その甘い衝動にルカは頬を染める。
「イクよ……オレも……」
タカシはルカの脚を強く掴み、腰の動きをリズミカルに速めていく。
「ああっ……さっき……射ったばかりなのに…」
泣き言のように聞こえたルカの声に、タカシは幸せそうに頷いた。
「また……勃ってきたんだ?……可愛いよ」
「男に可愛いって……似合わないです……」
「そんなこと………ない………くっ……ああ、気持ちいい……ルカ……まだ……イキたくないけど」
無我夢中でむさぼりつくようにキスをする。昇りつめてその行き着く先に達するまで、ひたすらにじゃれあい、ひたひたと肌を打ち合う。
「………オレ………かなりしつこい男だ」
仰け反り、一旦呼吸を求めてルカの唇から離れると、タカシは自虐的にくすくすと笑った。
「男はみんな………同じです」
再び手を伸ばし、ルカはタカシを自分へと引き寄せた。
「…………?」
そんなとき、ふと耳をすませば窓を打つ雨粒の音がかすかに聞こえてきた。
「雨ですね……」
「ああ……降ってたんだ」
「オレたちには……なんだかいつも泣いてくれているような空ですね」
「ふふ……ルカは詩人みたいに表現が上手い」
「タカシさんほどではないです。“止まない雨はない”……って」
「あれは……ユキトの言葉だ。オレじゃない」
「……でしたね。少し妬けます」
「それは……初めて聞いた。愛の告白と受け止めておくよ…」
「んんんん…………」
タカシはルカの口を熱をもってそのまま塞いだ。恋人たちは固く結ばれながら、その雨音にさえ心地よく耳を傾けていた。何度も押し寄せる快感の潮にその身を震わせ、恥じらいながらも、ふたりは翌朝には雨が止むことを信じていた。
the ende
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