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第四章 痛み
しおりを挟む白羽は彼に触れると、戸惑いつつも、抱いている疑問を尋ねてみる。するとレイゾンは「大丈夫だ」と笑った。
「陛下は祭事で明後日まで城を空けられている。どんなに早くても報告はその後になる。充分というわけではないが、少なくとも二日は策を練る時間が与えられているというわけだ」
<…………!>
そうだったのか。でもどうしてそんな予定を把握して……。
(もしかして、リーシァンの街にいた時から?)
重ねて尋ねると、レイゾンは微笑んだまま頷く。
では、王都へ戻るまでの旅程も陛下が不在の時に到着するように考えてのことだったのか。
<わたしは王都へ戻ったらどうなるのだろうと不安だったのに……レイゾンさまは色々とお考えだったのですね>
いつの間にこんなに抜かりのない方になったのだろうという驚き半分、そして「わたしにも教えていてほしかったです」という不満半分で言うと、なぜかレイゾンは愉快そうに苦笑する。
目を瞬かせる白羽に、微苦笑を浮かべて言う。
「お前でもそんな風に拗ねるのだな。ああ——いや、悪かった。心配させていたなら悪かった。だがあくまで予定は予定。実際には王都近くまで戻ってみなければ——もっと言えば王都に戻ってみなければ、どうなるとはっきりわかっていなかったというのが正直なところだ」
(…………)
前言(?)撤回。
まったく抜かりがなくなんかない。
それでは賭けではないか。
(街に戻ろうとした時といい……)
<……レイゾンさまは大胆なのか無謀なのかわかりませんね>
ちくりと刺すように白羽が言うと、レイゾンは目を丸くする。
直後、その双眸が柔らかく細められた。
白羽が、なんですか? と首を傾げと、レイゾンは白羽の髪を一房手に取り、
「そんな口がきけるようなら、元気もだいぶ戻ったようだな」
と、温かな口調で言う。
思わず見つめた白羽に、レイゾンは笑みを深めて続ける。
「緊張し通しの帰途だったからな。お前には頑張ってもらって助かった。俺たちが無事に戻れたのはお前のおかげだ」
<そ、そんなことは……>
「謙遜するな。騏驥がいてくれた安心感は大きい。それは騎士である俺が一番よくわかっている。疲れただろう。まずは着替えて……一息ついたら一緒に食事をしよう。そのあとは、お前はゆっくりと身体を休めていろ。俺はまだやることがあるために、あちこちに行かなければならないから、なかなかお前の相手はしてやれないが……欲しいものがあれば屋敷の者に言うといい。もしくはユゥにでも」
<……はい……>
ありがとうございます——。
白羽は感激に胸が熱くなるのを感じながら頷く。
彼はいつも騏驥思いの騎士だ。
しみじみとそう感じる。
<レイゾンさま>
白羽は、レイゾンの手に触れていた手で彼の手をしっかりと掴むと、まっすぐに彼を見て言った。
<登城の折には、わたくしも連れて行ってはいただけませんでしょうか>
それは、思ってもいなかったことなのだろう。レイゾンの手が動揺したかのようにぴくりと動く。彼は探るように白羽を見つめ返してくる。が、何かを尋ねてくることはない。
白羽もまた、ただじっと見つめる。
ややあって、レイゾンは「……考えておこう」と静かに応えた。
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