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第十一章 暗躍編 おかえり
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「で…?鳴海の停学処分は取り消しになったわけか。よかったじゃないのー?」
バー・Lucasのマスター、タカシはグラスのくもりを磨きながら佐屋の話を聞いている。
「カプサイシンの煙は効きましたよ。アドバイス有難うございました」
「煙っていうか……たまたま暴漢避けに持ってたクマよけスプレーだよ。NYに居た時に護身用に持ってたけど、結局使う機会がなかったんだよねー。オレもドンくさいからいざとなると」
タカシは当時のことを思い出すといつも苦笑いをしている。カウンター越しに真正面に座っていた、彼の恋人の山口瑠歌が“まぁまぁ”と慰める。二人はNYで《色々》経験しているらしく、暗黙の了解があるらしい。
「しかし鳴海にそっくりな子がいるなんてねー。今度新宿北山工業にでも見に行っちゃおうかな」
タカシは坂下大我の存在に興味がかなりあるらしく、不機嫌そうな鳴海の顔をちらちらと見ながら冷やかしていた。
「……ったく、オレにそっくりとか超メーワクなんだよっ!」
鳴海は最初から最後まで面白くなかった今回の出来事に不満だらけのようだ。
「でも…今思うと偶然だけど僕も大我君に偶然出会っていてよかったと思います。じゃなきゃ、今もまだ鳴海が無実の罪で停学処分のままなのに助け出すことも出来なかったから」
「そうだね…。鳴海君もそこは佐屋君に感謝をしないと。佐屋君の運の良さもかなり味方になったと思うけれど、運は《偶々》もたらされるのではなく、その人の日ごろの振る舞いと人との付き合い方も関係するからね」
仏頂面のままの鳴海を諭すように瑠歌がそう言った。なるほど彼が言うと説得力がある。それは瑠歌の人徳のせいかもしれない。
「やっぱあれね。ルカは歌舞伎町周辺で慕われてる名医だし、分け隔てなく皆に親切だからねぇ……ふふふ」
聞いてもいないがすっかり話題をすり替えてタカシは瑠歌を話題に乗せてのろけている。
「ま、とりあえず無事に鳴海も学校に戻れたということで、お祝いしよーかねぇ…」
タカシはグラスを4つ取り出すと、2つはウイスキーのソーダ割を、あとの2つは高校生二人のためにソフトドリンクのメニューでこの店で一番高いカシスのジュースを注いだ。
「では、鳴海が無事に帰ってきたことを祝して乾杯!」
乾杯の発声は佐屋が引き受ける。グラスを軽く掲げ、それぞれが一気に飲み干した。
「一時はどうなるかとヒヤヒヤしたけどさ。鳴海も高校だけは無事に卒業しないとな」
「……うっす…。それは考えてる」
「そういえば、大我君も今後は真面目に卒業できるように頑張るって言ってたよ」
「へぇ……。雨降って地固まるってやつだな」
こうしてバー・Lucasでは閉店時間まで再び取り戻した明るさをいつまでも惜しむように灯りが灯り続けていたのだった…。
Lucasからの帰り道、二人は小腹が空いたという鳴海の主張でとあるコンビニに入った。
「佐屋!アイスとプリン食いてぇなぁ」
「アイスとプリン両方買うってこと!?冗談だろ?」
鳴海は途端にふくれっ面になる。なんと言われようが既にアイスとプリンの両方を買って食べるつもりらしい。
「じゃあ、プリンだけだよ。アイスは絶対に太るからダメ」
「なんでだよ?おなじおやつじゃねーか?」
「アイスみたいにハイカロリーなものを夜中に食べちゃダメだよ」
仕方なく小さめのプリンを手に、鳴海は少し不満げな顔でレジカウンターにそれを置く。すると、コンビニ店員が小さく“あっ”と声を上げたので二人は目が合った。
「え?…もしかしてお前、佐屋が言ってた“ナルミ”ってヤツ?嘘みてぇ」
バーコードスキャナーを手に、驚いた顔をした店員は、コンビニのユニホームを着た大我だった。
「え…?マジか?なぁ、佐屋、この店員さん、オレにそっくりだけど…」
本気で驚いてみせる鳴海に吹き出しそうになりながら、佐屋は大きく頷いた。
「大我君、ここでバイトしていたんだ?知らなかったよ」
「まぁな。だってバイト始めてまだ一週間かそこらだし」
「ほやほやの割にはベテラン感あるよ」
「コンビニのバイトは、始めてじゃないんだ。前にちょっとだけやったことあるから」
佐屋と大我のやり取りをピンポンラリーを見ているかのように鳴海はただただ見ている。それに気づいて佐屋はうっかりしていたとばかりに鳴海に説明を始めた。
「鳴海、彼が新宿北山工業高校の坂下大我君だよ。彼も少々やんちゃなところがあってね、おまけに君にそっくりだったから今回のトラブルになってしまったんだ」
すると佐屋に続き、大我はバツが悪そうな顔をしてみせた。
「……悪かったな。こんな近くに自分に似たヤツがいるなんて考えもしなかったからよ」
佐屋はそんな大我を見て、出会った頃の彼とは少し変わったような印象を受けた。以前の彼なら“悪かった”などという言葉は絶対に出てこないだろう。
「いや……いいんだ。オレも前はしょっちゅう喧嘩ばかりしてたし、疑われるのは自業自得なんだ。でももう、喧嘩はほどほどにしとこうと思ってるけど」
ほどほど…などと言うところは鳴海流のちょっとした照れ隠しかもしれない。その意味を大我もよく分かったらしく、「オレもほどほどにしとくわ」などと言ってニヤリと笑った。
顔も、性格もよく似た二人なりに何か通じるものがあったのかもしれない。
どちらから、ともいうことなくハイタッチでパチン、と鳴った音に満足げな顔をした。
「バイト…頑張れよ」
「ああ。サンキュ」
二人は大我にエールを送ってコンビニを出た。コンビニのなかでは今チャートを賑わしているバンドの、友情を歌ったバラードが流れていた。
the ende
バー・Lucasのマスター、タカシはグラスのくもりを磨きながら佐屋の話を聞いている。
「カプサイシンの煙は効きましたよ。アドバイス有難うございました」
「煙っていうか……たまたま暴漢避けに持ってたクマよけスプレーだよ。NYに居た時に護身用に持ってたけど、結局使う機会がなかったんだよねー。オレもドンくさいからいざとなると」
タカシは当時のことを思い出すといつも苦笑いをしている。カウンター越しに真正面に座っていた、彼の恋人の山口瑠歌が“まぁまぁ”と慰める。二人はNYで《色々》経験しているらしく、暗黙の了解があるらしい。
「しかし鳴海にそっくりな子がいるなんてねー。今度新宿北山工業にでも見に行っちゃおうかな」
タカシは坂下大我の存在に興味がかなりあるらしく、不機嫌そうな鳴海の顔をちらちらと見ながら冷やかしていた。
「……ったく、オレにそっくりとか超メーワクなんだよっ!」
鳴海は最初から最後まで面白くなかった今回の出来事に不満だらけのようだ。
「でも…今思うと偶然だけど僕も大我君に偶然出会っていてよかったと思います。じゃなきゃ、今もまだ鳴海が無実の罪で停学処分のままなのに助け出すことも出来なかったから」
「そうだね…。鳴海君もそこは佐屋君に感謝をしないと。佐屋君の運の良さもかなり味方になったと思うけれど、運は《偶々》もたらされるのではなく、その人の日ごろの振る舞いと人との付き合い方も関係するからね」
仏頂面のままの鳴海を諭すように瑠歌がそう言った。なるほど彼が言うと説得力がある。それは瑠歌の人徳のせいかもしれない。
「やっぱあれね。ルカは歌舞伎町周辺で慕われてる名医だし、分け隔てなく皆に親切だからねぇ……ふふふ」
聞いてもいないがすっかり話題をすり替えてタカシは瑠歌を話題に乗せてのろけている。
「ま、とりあえず無事に鳴海も学校に戻れたということで、お祝いしよーかねぇ…」
タカシはグラスを4つ取り出すと、2つはウイスキーのソーダ割を、あとの2つは高校生二人のためにソフトドリンクのメニューでこの店で一番高いカシスのジュースを注いだ。
「では、鳴海が無事に帰ってきたことを祝して乾杯!」
乾杯の発声は佐屋が引き受ける。グラスを軽く掲げ、それぞれが一気に飲み干した。
「一時はどうなるかとヒヤヒヤしたけどさ。鳴海も高校だけは無事に卒業しないとな」
「……うっす…。それは考えてる」
「そういえば、大我君も今後は真面目に卒業できるように頑張るって言ってたよ」
「へぇ……。雨降って地固まるってやつだな」
こうしてバー・Lucasでは閉店時間まで再び取り戻した明るさをいつまでも惜しむように灯りが灯り続けていたのだった…。
Lucasからの帰り道、二人は小腹が空いたという鳴海の主張でとあるコンビニに入った。
「佐屋!アイスとプリン食いてぇなぁ」
「アイスとプリン両方買うってこと!?冗談だろ?」
鳴海は途端にふくれっ面になる。なんと言われようが既にアイスとプリンの両方を買って食べるつもりらしい。
「じゃあ、プリンだけだよ。アイスは絶対に太るからダメ」
「なんでだよ?おなじおやつじゃねーか?」
「アイスみたいにハイカロリーなものを夜中に食べちゃダメだよ」
仕方なく小さめのプリンを手に、鳴海は少し不満げな顔でレジカウンターにそれを置く。すると、コンビニ店員が小さく“あっ”と声を上げたので二人は目が合った。
「え?…もしかしてお前、佐屋が言ってた“ナルミ”ってヤツ?嘘みてぇ」
バーコードスキャナーを手に、驚いた顔をした店員は、コンビニのユニホームを着た大我だった。
「え…?マジか?なぁ、佐屋、この店員さん、オレにそっくりだけど…」
本気で驚いてみせる鳴海に吹き出しそうになりながら、佐屋は大きく頷いた。
「大我君、ここでバイトしていたんだ?知らなかったよ」
「まぁな。だってバイト始めてまだ一週間かそこらだし」
「ほやほやの割にはベテラン感あるよ」
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佐屋と大我のやり取りをピンポンラリーを見ているかのように鳴海はただただ見ている。それに気づいて佐屋はうっかりしていたとばかりに鳴海に説明を始めた。
「鳴海、彼が新宿北山工業高校の坂下大我君だよ。彼も少々やんちゃなところがあってね、おまけに君にそっくりだったから今回のトラブルになってしまったんだ」
すると佐屋に続き、大我はバツが悪そうな顔をしてみせた。
「……悪かったな。こんな近くに自分に似たヤツがいるなんて考えもしなかったからよ」
佐屋はそんな大我を見て、出会った頃の彼とは少し変わったような印象を受けた。以前の彼なら“悪かった”などという言葉は絶対に出てこないだろう。
「いや……いいんだ。オレも前はしょっちゅう喧嘩ばかりしてたし、疑われるのは自業自得なんだ。でももう、喧嘩はほどほどにしとこうと思ってるけど」
ほどほど…などと言うところは鳴海流のちょっとした照れ隠しかもしれない。その意味を大我もよく分かったらしく、「オレもほどほどにしとくわ」などと言ってニヤリと笑った。
顔も、性格もよく似た二人なりに何か通じるものがあったのかもしれない。
どちらから、ともいうことなくハイタッチでパチン、と鳴った音に満足げな顔をした。
「バイト…頑張れよ」
「ああ。サンキュ」
二人は大我にエールを送ってコンビニを出た。コンビニのなかでは今チャートを賑わしているバンドの、友情を歌ったバラードが流れていた。
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