勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

文字の大きさ
上 下
63 / 66

想いの剣

しおりを挟む
「……ソレイルが、アヴエロを……」

「そうよネモネア、貴女がこの先に進めばどうなるか……だから」

「……いつから、なの」

「自分の気持ちに気がついたのは、ネモネアが一つ目邪獣に殺された時……悲しいはずなのに、何処かホっとしてしまった自分に気がついた」

 それまでのソレイルにとってアヴエロは頼もしい仲間だった。けれども魔王ルモールを倒すための旅の途中で、少しずつ変わったきっかけがあったという。

「それはネモネア、あなたよ」

「あたい……」

「最初にあった頃、彼は戦いもほとんどしたことのない未熟者だったわ。でも私と剣を交えて追い込まれたとき、彼が見せたのはネモネアを改心させたいという強い想い。その気持ちでどんどん強くなった」

「アヴエロは、そんなことを……」

「そうっ、アヴエロは貴女がいたから勇者になれた」

 ポッと嬉しくなったのもつかの間、ソレイルは剣を突き立てた。

「そんな、自分を奮い立たせて厳しい試練を超えていく彼を、私は尊敬した……好意をもっていったの」

「ソレイル……」

「好きって気づいた時……鼓動がしたわ。暖かく苦しいけど、気持ちのいい。でも、思いを伝える事はずっと出来なかった……恐かったから。でも貴女が一度死んでしまったときハッキリとわかったわ」

 その時にあたいも気がついたようにソレイルも。

「このまま好きと言わずには死ねない……ずっと後悔するから、だからっ、私のやり方で彼に振り向いてもらおうとっ!」


 すっごくわかるよ、その気持ち。でもすぐに迷いが生まれた。だって、生まれも見た目も性格も何もかもが完璧なソレイルにどうしろって言うのよ……。



「そのままでいてお願い、私だってネモネアを傷つけたくないもの」


 このまま諦めるしかないなんて、そんなの嫌なのに、なのに、あたいはソレイルに勝てるものなんてなんにもないんだよ、そう思ったら、


『ほんとうに、そうなのネモネア』


 ……そうだ、この言葉は魔王シャンイレールのときの……。

「退いて、ソレイル」

「やっぱりそうなのねネモネア」

「ソレイルの気持ちはわかった。あたしは、自慢出来るものも、人生に誇れるものだってなんにもない。でもゆずれない気持ちはあたいだっておんなじっ!」

「そんなことない、諦めずにブラック・オーブを探し、特訓もして、魔王シャンイレールを倒したことは誇っていいこと。それでも、お互い同じ男性を好きになって簡単に諦められるはずないもの」

 あたいは両手から爪を伸ばしてソレイルに飛びかかった。アヴエロにもう一度、会うために……。


「「はぁあああっ!」」

 剣と爪が弾かれ合う。ソレイルはさらに盾も装備して万全と思ったけど、よく見ると鎧を着ていない布の服のまま。

「鎧を脱いであたいとやるつもり?」

「これは、今は騎士ではなく1人の女性としての戦い。戦場じゃない場所では不要よ!」

 ナメるなと言いたいけど、鎧を着てないぶん剣と盾が俊敏になっていて前戦った以上に隙がない。

「さすがネモネア、前戦った時より強いわね」

「ハァ、ソレイルもね」

 強い、魔王のように不死身とか無敵とかの強さでなく、あたいの動きを読む強さとなにより、気持ち。

「はぁああ!」
「うわっ!」

 あたいの右手の爪が全て宙に浮く。

「うっ」

「ほら、早く爪を伸ばしなさい」

 すぐに爪を伸ばすけどソレイルはニヤリと頬を上げる。

「それは斬られても再生して一見無限に感じるけど、体力を消耗するはず」

 ソレイルには見破られていた。ということはあたいが爪を伸ばし続けさせバテさせる気だ。そんな上手くなんていかせるものか……。


「ネモネア、貴女は綺麗な女性」

「なによまた!」

「独りごと」

「くっ、なめるなっ!」

「魔王ルモールの配下の貴女を最初は敵としてしか見てなかった。けど、再戦するたびに眼がいつも怯えていて淋しい人だと感じたわ。そんな貴女をアヴエロが改心させシスター・カルタの教会で暮らす日々のときまた再開して、美しく感じた」

「なにを言ってるの、うわっ!」

「私はクリスロッサに生まれて、騎士になることを運命付けられていたから。生きることに必死なネモネアのような強い意思がなかった」

「うあっ!」

「これで2回目」

「ハァ、ハァ、まだよ……やぁっ!」

「そんな貴女に彼は虜になっていった。初めだったかも知れない、女性騎士で男より強いと注目を浴び続けてたのに……アヴエロは一度も私に注目してくれなかった、嫉妬ってやつかな」

「痛っ、動きが完全に読まれてる」

「……彼はネモネアばかり見ていたから。魔界の旅で彼に、私なりにアピールしたつもりだったわ……なのにそれでも彼は私の気持ちに気づくことはなかったわ。やあっ!」

「くっ、そんなっ!」

「ハァ、ハァ、これで3回目、そろそろ体力に来てるはず」

「ハァ、ハァ……」

 本当によく見て観察してる。あたいの僅かな息遣いで気づいているに違いない。

「……でも」

「ハァ、ハァ……」

「それでもっ、私は諦められないっ、貴女が見せてくれた死んでも守りたいという想いのように、想いを感じさせてくれた優しい彼に今度こそ私を見てもらいたい、私は彼を愛しているっ!」

 ソレイルの渾身の思いの剣であたいは4回目の爪を斬られた……。


「自分の幸せも彼の心も、この手で必ず掴んでみせるわ」

「ハァ、ハァ、ソレイル……」

 本気が伝わってくる。相手を好きになるってこんなに、こんなに人に力をあたえてくれるものなんだ。凄い事だけどそれはあたいだって同じ、譲るわけにはいかない……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...