勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

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異空間

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 ――太陽が一番に上がったキングロビウ砂漠は風が弱いが、変わらずの暑さ。そんな状態でもコートを着てあたいらは砂漠を歩いていた。

「もうすぐだ……大丈夫? カーゼ先生にブリーズさん」

「ゼェッ、ゼェッ、あ、あづい~」

「先生がんばって、ハァ、ハァ」

 考古学者ってそんなにも身体を動かさないもんなのだろうか。魔獣はもちろん魔物でも戦わせる訳にはいかない。

「気をつけてね」

「……ネモネア」

「モント、なに?」

「姉さんの話し……あれは本当なのか……その、女神フラデーアとか」

 シスター・カルタの話しだと魔王ルモールにより、一つ目邪獣に封印されていた女神フラデーア。彼女はをして代わりに魔界の魔王を倒す旅に出た。

「……ネモネアは何をしていたんだ、一緒に戦ってたんじゃないのか」

「それは……」

「言いたくなさそうな顔だな……別にいいけど」

「ごめん……気持ちの整理がつかないんだ」

 一つ目邪獣との戦いを思い出すと身体に違和感を感じる。あたいがあんな事にならなければ、きっとアヴエロたちは魔界に行かなくてすんだはずだから。

「……ネモネア……もしかして……」


 砂漠の地下の流砂を探すのに少しの時間がかかったが見つけて中へと入る。カサカサっと聞いたことのあるめんどい音、さっそく魔物アリのご登場。

「じゃあ頼んだよ先生たち」

「よしきた、ブリーズ」

「はいっ、先生っ」

 3匹、4匹と数が増えてくるけどあのときと違い、エメールとモントが一緒でだいぶ楽に。

「……しまったっ」

「気を抜きすぎだよ、ネモネア」

「立ち止まってると狙われますよプリンセスたち!」

 数で苦戦していた魔物アリが嘘のように全滅。休む暇のない1人の戦いだったのにこんなに変わるなんて、2人には感謝しかない。

「よしっ、次に進んでくれ!」

「わかった」

 少し進んで魔物アリを倒す、また少し進んで倒すを繰り返し流石に疲れるけどモントとエメールがいて回復の手間もかからないから、あたいの気持ちには余裕が出来ていた……。


 ガタンッと扉をしてると、体感一時間くらいで竜の門の中へとやってきたあたいたち。

「扉を閉めればやってこないんですね」

「はぁ~、アリ、あり、蟻ってもう一生分見た感じ……ネモネアは元気そうだな」

「あたいは一度来てるから」

「このボタンのことかの、ネモネアよ」

「そうだよカーゼ先生」

 カーゼ先生と助手のブリーズには3つのボタンのことは事前に話していた。楽しそうにトンカチやら虫眼鏡とか物が出てきて調べる師弟の顔はもう壁画に夢中、子どもみたいでよっぽど好きなんだろう

 あたいも呼ばれてはめていた3つの竜の指輪も渡すと目にシワを寄せて観察する。

「あと緑のボタンの部屋に行きたいんじゃが」

 そう言われてあたいたちも緑ボタンの部屋にも行った。一通り調べ終えて竜の門に戻ったあたいたちはカーゼ先生と助手のブリーズに集まる。

「なんだいカーゼ先生、ブリーズさん」

「大体の仮説はたてたんじゃが、あとはこの3つのボタンを押したいんじゃ」

「いいけど、赤は炎、青は落とし穴、緑はぐるっと一周する部屋、赤と緑で竜の門の眼が黄色い光を出して出口だけど」

「へ~、という事は赤と青、青と緑はまだなんですねネモネア・プリンセス」

「戻されちゃったからね」

「ワシとブリーズが気になったのは流砂で落ちた魔物アリの出る大部屋の壁画じゃった」

「大部屋には魔王と女神が描かれていましたが、問題は竜と虎の方でして竜は白い息、虎は黒い息を吐いています」

「う、うん」

「この壁画から読み取れるのは、竜が白い息を吐くのが本来の姿であるという事」

「……という事は……まさか」

「なんだよモント」

「ネモネア・プリンセス、つまりです」

 エメールが指したのは竜の門、この砂漠の地下で火を吹いたのはあの門だけ、しかしそれは火の色で赤い息。

「じゃあ竜の門に白い息を吹かせればいいのか……でもどうやって」

「それがこの3つのボタンに他なりませんネモネアさん」

「さよう、つまりこの3つのボタン全てを同時に押すんじゃ」

 3つのボタンを同時に押すなんて考えなかった。でも間違ってたらどんな危険が待つか、そんな事は冒険をする上でいつもついてまわること。


「3つを同時にか、その根拠は?」

「はいモントさん、それはあの3つのボタンは白魔法の三原理なんです」

 白魔法の三原理とは、赤、青、緑の魔法を合わせると白魔法になると言われている魔法の原理。だってエメールが教えてくれた。

「だから3つ同時……でも罠かも」

「いや、壁画とは古代の人々が未来の子等のために残した希望のメッセージ。けっして罠ではないはずじゃ」

「わかったカーゼ先生、でも何があるかわからないから構えといて」

 エメールとモントがそれぞれカーゼ先生とブリーズに付いたのを確認、落ち着いてあたいは3つのボタンを同時に、押す。

 カチッ。

「「うわっ、やっぱり白い息だぁ!」」

 門の竜が白い息を吐いた……。


「――ここは……みんなっ、大丈夫かっ!」

「うっ……大丈夫だ」

 あたいも皆も無事だったけど、周りは異様だ。

「な、なにこれ……地下でも、外でもない」

「異質、いや異空間というべきですかね」

 エメールのいう異空間って言葉にピッタリはまる。ここは空もない変わりに歪んでるのか何なのか分からない異空間だ。

「こ、こんな、世界があったとはっ!」

「先生……私は、生きてきてよかったですっ!」

「感動してるとこ悪いけど、ここはどういうとこなんだ、あの白い息を浴びてあたいたちはどうなったんだ」

「そんな事言われてもワシも初めてじゃし~……」

「ネモネアッ、カーゼ先生っ、こっちに!」

 モントが何かを見つけた。それは古代文字が描かれた石碑と、その奥には何かを置くための台座。

「読んでみてくれ先生」

「うむ、なになに……なっ、なんとっ!」

『神聖なる竜の光で竜玉を包みこめ』

「先生、これはブラック・オーブの四角い台座に書かれていた文字ですね」

 カチャ。

「やっぱりっ、ブラック・オーブがはまったっ」

 もしかしてと台座にブラック・オーブを試してみたら思ったとおりにはまった。

「お主たち」

「それで、神聖なる竜の光っていうのは?」

 見渡しても異空間で周りにはそれらしい物はなんにもない。

「……指輪……光、先生あの竜の指輪では?」

「うむ、ワシもそうだと思ってたところじゃ」

 あたいたちはカーゼ先生の言う通りに、あたいは紅、エメールは緑、モントは青とそれぞれ眼が光る竜の指輪をはめる。そしてブラック・オーブを包み込むように囲んで光を当ててみた。

「おねがい……」

 光の柱が喋る隙もないほどの一瞬で現れる。と同時にあたいたちはその異空間から姿を消した……。
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