勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

文字の大きさ
上 下
30 / 66

北の花

しおりを挟む
「――ラングネスの村に到着……ここも村がボロボロか」

「他の村もこうだったんだ。当然といえば当然だが……」

 あたいたちはラングネス城を更に北へと向うことにしたんだ。それも実は、

「――よしっ、とにかく北へ行こう」

「「う~ん」」

「どうしたんだよ、モント、エメール、ビビってるの? はやく行こう」

「……ネモネア、ちゃんと地図みた?」

「え……え~っと、だから地図の真ん中から上の北方面に~」

「はぁ~、エメール」

「はいモント・プリンセス。これを見てくださいネモネア・プリンセス」

「うん……え、海?」

 地図をよく見れば北の真ん中は海、左右の大地はクワガタの角のように別れてる。それでも何とか『青い薔薇ブルーローズ』のような水晶花を探さなくてはいけない。なのでここからすぐのラングネスの村に立ち寄ることに。

「――これでは村人もラングネスに避難して、誰もいないだろうな」

 モントの言うとおり、歩いて見渡しても人っ子一人いない。それでもあるのは魔物や魔獣が襲った痕跡くらい。きっとこの村でも村人たちの交流があったに違いないと見ていたら焦げた絵。

「これは……赤ちゃんを抱くお母さんの絵」

「生まれたての赤子の絵ですか、親の中には赤ちゃんがあまりにも愛おしくて絵を描いてもらうこともあるんですよ」

 知らない子の絵でも、お母さんに抱かれて安心して眠っている姿をに見ていて愛情を感じる。

「ネモネア、『青い薔薇ブルーローズ』を出して」

「あ、そうだ、何か光るかも」

 シスター・ファスが、同じこの水晶は共鳴するから持って言って方が良いとアドバイスをうけて持ってきていた。

「ほんのちょこっと光ってるくらいだ」

「よし、村を出て更に奥へと進めばもっと光るかもしれない。行くぞネモネア、エメール……」


 ――村の奥は砂浜だった。

「はぁっ、両腕は切断した、今だっ」

「モント・プリンセス、私の後に!」

「わかったっ!」

 魔獣クラブの両腕をあたいが切断、雷を纏ったエメールの魔法剣で傷跡を付けモントが2本の剣でそこに突き刺しとどめを刺した。

「海辺にもやっぱり魔獣は現れるのか」

「そうか、全ての女神による光の壁以外の場所では気を抜かないほうがいいぞネモネア」

 見渡すと雲が重なって濁ったような感じの海、やっぱり海は晴れがいい。

「……これが魔王の力なのか」

「もう帰りましょう、あなた」

 何やら夫婦の話し声が聞こえた。

「あの~、もしかして村の方ですか?」

「ん、君は……魔族の女性」

「はい、ネモネアっていいます」

 声を返してくれた男の人はガタイが良い強そうな人だ。

「ネモネアさんそうなのよ、私たちはラングネスの村で漁師をしていたの」

 やっぱりそうだ、海が恋しいのかもしれない。

「ついこの間までこの海は、日があたり透き通るような青い海で舟で魚を捕まえるのが日常だった。魔王ルモールが滅びた時には豊漁だったのに……気づけば魔獣とともに城に光の壁の出現してから、海は荒れ果て濁っちまった……」

「あなた…」

「でもここは危険です、ラングネス城に戻ってください」

「そうだな、すまない……しかし君だって危険じゃないのか、なぜこんな場所に」

 あたいはこの夫婦に水晶花を探す旅をしていることを伝えた。

「――まぁ大変ね、こんな若くて魔族のかわいい女の子なのに」

「か、かわいいって、べ、べつにっ」

「まあ顔が赤くなってかわいいわ」

「おおーい、ネモネア~」

 あたいを見かねてモントとエメールが走ってきた。

「なにやってるんだ……ん、ネモネア顔赤いぞ」

「い、いや……なんでも、ないんだ」

「頬の赤いネモネア・プリンセスも可愛いですね」

「ちや、ちやかすな」

「何いってるかわからないけどネモネア」

 どうも褒められると、可愛いって言われると嬉しいんだけど上がってしまう。

「あ、そ、そうだ、歩いてもどのみち危険だしあたいたちがラングネスの城まで送ってくよ」

「おいネモネア、あたしたちは」

「いいだろ騎士様」

「ま~、騎士としては……」

「いいのかい君たち、わざわざ付いてきて」

「うん、心配ですから」

 こんなに優しい人たちを無視して魔獣も彷徨う道を行かせるのは心配で水晶花を探していられない……。


「キャアァァッ!」

「ふう、これで大丈夫」

「き、君、けっこう容赦ないんだな」

「え、ああ~……魔獣は手を抜くとこっちが殺されるから」

 魔獣ブタの弱点である耳裏に両爪で刺し、引きちぎった事で怖がらせてしまったみたい。奥さんの方は戦を知らない人みたいだし刺激が強すぎたよう。

「さすがっ、ネモネア・プリンセスッ!」

「ほんとうにすごいな……」

「むう、私たちの想像以上に大変な状況になっているんだね、ネモネア君」

「……はい、あたいでも魔獣の弱点を知らなかったら手こずりますから」

「私たちは魔獣をあまくみていたようだ」

「あなた……ごめんなさいねネモネアさん、声を上げて」

「いえ、驚かせちゃってごめんなさい」

 とはいえ、じっとしていたらまた魔獣が現れて怖い思いをさせてしまうから急がないと。

「……こんなに恐ろしい世界になって……心配だわ……アヴエロ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

初期ステータスが0!かと思ったら、よく見るとΩ(オメガ)ってなってたんですけどこれは最強ってことでいいんでしょうか?

夜ふかし
ファンタジー
気がついたらよくわからない所でよくわからない死を司る神と対面した須木透(スキトオル)。 1人目は美味しいとの話につられて、ある世界の初転生者となることに。 転生先で期待して初期ステータスを確認すると0! かと思いきや、よく見ると下が開いていたΩ(オメガ)だった。 Ωといえば、なんか強そうな気がする! この世界での冒険の幕が開いた。

甘党魔女の溺愛ルートは乙女ゲーあるあるでいっぱいです!

朱音ゆうひ
恋愛
パン屋の娘が殺害された日、魔女のマリンベリーは、「私が乙女ゲームの悪役令嬢で、パン屋の娘は聖女ヒロインだ」と気づいた。 悪役の生存ルートは、大団円ハーレムルートのみ。聖女不在だと世界滅亡END一直線。魔女に聖女の資格はない。 マリンベリーは考えた。 幼馴染で第二王子のパーニスは優秀な兄王子の引き立て役に徹していて民からは「ダメ王子」だと勘違いされているが、実は有能。秘密組織を率いて王国の平和のために暗躍しているいいひとだ。彼には、聖女役をする素質がある。 「俺がいるのに、他の男拾ってきやがって」 「パーニス王子殿下、美男子を攻略してください!」 マリンベリーは決意した。必ず彼をハーレムルートヒロインにしてみせる! ……と思ったら、彼が婚約を申し込んできて、自分が溺愛ルートに!? 「俺はお前に婚約を申し込む」 「えっ?」 一途な王子×明るく引っ張っていく系魔女のラブコメです。 別サイトにも投稿しています(https://ncode.syosetu.com/n9600ix/)

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...