勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

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2色の眼

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「――婆さんが膝をやっての~」

「なるほど、それで来られたのですね、では……スモール……リカバリー」

 緑色の小さな光がお婆さんの擦り向けた膝傷を治癒していく。ここはクリスロッサ村の唯一、魔法で治癒する場所でお年寄りに人気の回復院。

「ふぅ~」

「やあスオーロ」

「……またお前かネモネア、今日はいったいなんのようだ」

 迷惑そうな顔、まだ嫌われている。信頼は時間ものだから仕方ないんだけど。

「今日はあたいじゃなくて、ブリジットなんだ」

「こんにちは」

「こんにちは、どこか調子が悪いのか?」

 不安なブリジットがあたいに向いてきたから笑顔でうなずく。

「ほら、だいじょうぶだから」

「うん……」

 フードを被ったブリジットは震えながらめくるって髪の毛で隠していた左眼を見せた。

「これは……驚いた。君は紅い眼レッド・アイではなく2色の眼オッド・アイだったのか」

 右目は紅い眼、左目は黄の眼をしていた。火事があった3日後の夜、シスター・カルタとあたいにブリジットが相談してきて自分から明かしてきた。たまたま水に映る自分の眼が左右違ったことに不安を覚えて以来、髪の毛で左眼を隠して生きてきたと、シスター・カルタと出会う前の話だった。


「ワタシって……だいじょうぶですか?」

「珍しい眼だが、なにも心配いらないよ」

「アハッ」

「ただこの前話した赤の魔法の話に今度は黄の魔法も入るということは覚えていたほうがいい」

 紅い眼レッド・アイは様々なものに紅の力を与え、火ならば炎に強化することもできるという話だから黄の眼イエロー・アイの左目は様々なものに黄の力をあたえるということ……。

「え~っと……」
「光ならば輝に強化、だ」

「かがやき?」

「うん、やってみようか」

「え……」

「恐がらなくていい、光る魔法は安全だから」

「ホント?」
「ホントだよ、両手で丸を作ってみよう」

「りょうてで、まる」

「そして『光って』と心で強く念じるんだ」

「うおっ、光った、すごいよ!」

 あたいもブリジットのマネをしていたら光って興奮。

「ネモネア、うるさいぞ」

「あ、ゴメンごめん」

 スオーロの言葉で安心したブリジットが念じると光は現れてより強く輝く。

「わぁっ、きれい……あ、大きくなる」

「のあっ、眩しいっ!」

 最初の小さな光からブリジットの顔ほど大きな輝きにあたいは目が眩んだ。それと同時に輝きはきえる。

「す、すごくキレイだった」

「うん、魔法は使い方を間違わなければ沢山の人を救うこともできる」

「ひと……でも」

「だから魔法の鍛錬を忘れずに、ブリジット」

 ブリジットは大きく頷いたその眼は希望に満ちた魔法にも負けない輝やいた眼だった。

「まぶしっ、まぶしっ」
「ネモネア、うるさい……」


 ブリジットの不安も解消、教会の道の間に光る魔法が嬉しいのかずっと練習していた。あの哀しそだった娘が今はいい顔をしてると、いい気分で戻ったらシスター・カルタが玄関で待ってた。

「待ってたわネモネア、ブリジット。どうだった?」

「なんの問題もなかったよ。ねっ」

「うん」

「そう、元気になって嬉しいわ……それでネモネア、あなたにお客さまが来ているわ」

 知り合いなんて最近出会った人たちしかいないあたいに一体誰が。

「――楽しくやってますよ」

「そうか、よかったな。世界は平和……」

「誰だろ」

 あたいは恐るおそるドアを開いた。するとそこにはアヴエロと話している鎧を着た黄色長髪の騎士が。

「あ、ネモネアおかえり」

「アヴエロ、おかえり……そのひとは」

「ひさしぶりだな、ネモネア」

「あ、あんたはアヴエロの仲間の女騎士」

「私は、グランジウム城の騎士ソレイル・オーランジ」

「あ、ああ」

「……どうした?」

 それは勇者の仲間の1人でアヴエロ共に戦った騎士ソレイル・オーランジだった。きっとこのソレイルもあたいを警戒しているだろう。

「まあいいがネモネア、あなたはこの前の夜に魔獣と遭遇しなかったか?」

「うん、帰り道で魔獣エレファントに遭遇してあたいとジュリ2人で倒したけど」

「そうか、詳しく聞かせてくれ」

 そう言われてジュリも呼び出して一緒にその日の出来事を覚えてる限り話した。ふむふむと紙にひたすら書いていくソレイル、その顔に恨みはなさそうだけど。


 ――話は終わって一仕事お得たように海岸に出た騎士ソレイルに誘われたあたい。

「ここは海が見えて綺麗ね」

「……あのさ」

「ん、どうした? 今日は元気が出ないみたいだが」
 振り向くと綺麗な人だ、そんな人をあたいは……。

「恨みがあるなら言ってくれ……その、あたいは元でもあんたを襲った魔王の配下……だったから」

「ネモネア……ははーん、さてはスオーロに何か言われたんだな」

「えっ、どうしてそれを?」

「彼も相変わらずのようだな」

「信じてないって、言われてさ」

「私がアヴエロの仲間になるときも『魔王を倒す旅だからな、引き返すなら今のうちだ』ってずっと睨まれてたよ」

「え、そうなの?」

「だがスオーロも悪気があるわけじゃないんだ。彼はアヴエロの友で、誰にでも優しく接しすぎるアヴエロに不安を感じていて、自身が代わりに近づくものを注意深く観察するようになったんだ」

 たしかにアヴエロは疑わずにすぐ誰とでも知り合いになるし敵のあたいにさえ慈悲をくれたし。そう思うとスオーロの気持ちがちょっとわかる気がした。なんていうかもう少しあたいを……。

「ん? 顔が赤くなってるぞ」

「あ、いや、なんでも」

「ネモネア、お前は本当に変わったな……なんていうか今のほうが……おもしろい」

「え……おもしろい……それって褒め言葉?」

「褒め言葉よ、人間らしい。あと私の妹にそっくりだ」

「人間らしい……ありがとうソレイルさん」

「ソレイルでいい」

「ありがとうソレイル」

「そうだっ、今日はクリスロッサ城で剣の指南をするんだがネモネアも空いているなら来てもらえないだろうか?」

「え、いいけど剣使えないよ」

「剣は使わないから大丈夫」

 突然の話だったけど気分よくシスター・カルタに話したら快く許してくれてあたいはソレイルと一緒に急遽クリスロッサ城に向かった……。
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