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ブリジットの悩み
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――昼食を終えて、あたいはブリジットに会いにいった。シスター・カルタのベッドで横になっているけど、起きていて眉尻は下がったままだ。
「やあ、ブリジット」
「ネモネア……」
「おちついた?」
「……うん」
少しでも心を開いてくれたかなと思ったけどまだ目は合わせてくれない。
「元気になったらみんなに顔みせなよ、ブリジットのこと心配してるから、じゃっ」
「ネモネア」
「ん、どうした?」
「わたし……どうしてみどりなの?」
「みどり? ああ肌の色か、それは魔族だからだよ」
自分の頬を触るブリジット、どうやら皆と肌色が違う自分が嫌みたい。
「……みんなといっしょが、いい」
「みんなと一緒……」
「うん」
「……それは無理だよ」
「……わかってるもん」
あたいは壁に背を付け窓の空を見つめた。
「気にしたことないけど、ブリジットの言う通り人間と同じ肌もいいかもね。でも、緑の肌で特に不自由はないし、この肌は夜は目立たないから魔物を倒すのに……って、違うちがう。ブリジットはそのままでも可愛いから、気にしなくて良いんじゃない?」
「えっ」
「赤くなって、うん、やっぱ可愛いよブリジット」
「でも……シクロくんが」
シクロとは、この教会に住む子供の中で少しお調子者の男の子。その子に『肌みどり~』って言われたのが原因としょんぼりするブリジット。それが原因かと、あたいはすぐにシクロを探して話す事に……。
「――そ~言う~わけ、シクロ」
「え~……そ、そんなこといったっけ~」
「いわ……れた」
「ほらシクロ、勇者は友だちを傷つけたりしないぞ」
「う~ん……ごっ、ごめんっ!」そう言って部屋を飛び出していった。
「こらっ、シクロッ!」
「シクロくん……」
目もそらしてもじもじするシクロは逃走。しかたなく追いかけると教会を下ったすぐ教会の海岸に出た。しばらくして疲れたのか歩き出したところを捕まえる。
「シクロ~」
「ネモネア……」
仕方ないのでその場で少し休憩をして話を聞いてみた。
「……ほいっ、カニ捕まえた」
チャポンと手掴みしたカニを海の遠くへと投げる。
「なんでそんなこと言ったんだよシクロ」
「それは……」
「勇者好きのシクロらしくないじゃないか」
「……だってさ、いつもあそぼうっていってもあそばないし、ひとりでさびしそうで……」
「そっか~、気にかけてくれたのか」
「ブリジットいつもことわるんだぜ……それで、くちがすべって……カワイイのに……」
「え? カワイイって……」
「おれ、ブリジットだいすきなんだ」
「だい、すきだってっ!」
「おおごえださないでよ、ブリジットにきこえちゃうじゃん」
「ご、ごめんっ」
こんな7才のこの子がブリジットを好きなんて、しかもあたいにそれを告白するなんてシクロ結構男前じゃないか。大胆さに驚いて気が動転するけど落ち着かなきゃ。
「わ、わかった、大好きな子なら尚更ちゃんともう1度謝ろう、ね」
「ネモネア……うん、わかった……」
シクロはブリジットにもう一度、今度は逃げずに謝った。誤解とわかった彼女に少しの笑顔が見えた。その表情に1番安心したのはシクロだろうな。
あたいもその2人を見ていて元気をもらった、あとシクロがブリジットを好きかあ。
幼い2人を見て羨ましく思ってしまうあたい、いいなあ……。
「はぁ~……あんなにストレートに好きって……」
真っ直ぐ面と向かって『好き』ってスゴく嬉しいこと。そんな思いからか、海岸の砂でいつの間にか指で自身とアヴエロが一緒で笑顔、ってなに描いてんだか。
「……すき……か……」
「ネモネア」
「はっ、ア、アヴエロ……いまなにか聞えた?」
「いえ、それよりこんなところでどうかしましたか?」
「なっ、なんでも」
バレたら赤っ恥と急いで描いたものをこっそり足で消す。
「っていうか、どうして馬に」
「ふふっ、みんなにプレゼントです」
馬に乗るアヴエロは勇者っていうより王子様みたいだ。そこにあたいも一緒に乗るイメージが、今日は頭の完全にイカれてる。
「ネモネア~」
「ア、アヴエロッ、なにっ?」
「いくら平和だからって、ぼ~っとしているのはいけませんよ」
「わ、わるかったよ」
「ほら、手伝いお願いします……」
たくさんの子、その最後尾にはなんとブリジットがこっそり入って来て少しはわかってくれたのかとテンションも上がる。
「おーいみんな、アヴエロが帰ってきたぞ~」
「「わーいっ」」
「おかえりアヴエロ、ネモネアなにを持ってきたのです?」
「ヘヘ、じゃ~ん……アヴエロが王様たちに頼んで食料を馬車で運んできてくれたんだよ」
「「やったーっ!」」
「今日は好きな物、お腹いっぱい食べよう~っ!」
肉や魚にパンに野菜、日ごろ贅沢をしていない子どもたちにとっては天国だろう。シスター・カルタも腕を振う料理も美味しいし皆がいつの間にか笑顔と笑い声に包まれたてにぎやかな日となった……。
「――しかしこんなに~、どうして?」
魔王を倒したアヴエロにクリスロッサの王様が褒美をと話すと、身寄りのない子どもたちに食料をと頼んだという。
気になったシスター・カルタに兵士たちがそう話して馬と空っぽの馬車とともに去っていった。
「アヴエロって、本当に勇者だな」
「そんなことないですよ……でも……」
「アヴエロ?」
「あの子たちの笑顔が見れて本当によかった。勇者になってよかったと今はそう思います」
よかったのは子どもたちだけじゃない。アヴエロの仲間や家族、シスター・カルタだって皆がアヴエロに感謝している。アヴエロに会わなかったらあたいはきっと魔王ルモールの配下としてこの子たちも襲っていたかもしれない。
「……出会えてよかった、はぁ~」
「ネモネア」
「ど、どうしたのアヴエロ?」
「私もお腹すきました、一緒にいただきましょう」
「うん、そうだね。よしっ、食べるぞ~!」
――食料を運んだ兵士達が馬車でちょうどクリスロッサの村を通り過ぎた頃。
「ん、あれはクリスロッサ城の兵……そうかアヴエロだな。会いに行ってみるか……」
「やあ、ブリジット」
「ネモネア……」
「おちついた?」
「……うん」
少しでも心を開いてくれたかなと思ったけどまだ目は合わせてくれない。
「元気になったらみんなに顔みせなよ、ブリジットのこと心配してるから、じゃっ」
「ネモネア」
「ん、どうした?」
「わたし……どうしてみどりなの?」
「みどり? ああ肌の色か、それは魔族だからだよ」
自分の頬を触るブリジット、どうやら皆と肌色が違う自分が嫌みたい。
「……みんなといっしょが、いい」
「みんなと一緒……」
「うん」
「……それは無理だよ」
「……わかってるもん」
あたいは壁に背を付け窓の空を見つめた。
「気にしたことないけど、ブリジットの言う通り人間と同じ肌もいいかもね。でも、緑の肌で特に不自由はないし、この肌は夜は目立たないから魔物を倒すのに……って、違うちがう。ブリジットはそのままでも可愛いから、気にしなくて良いんじゃない?」
「えっ」
「赤くなって、うん、やっぱ可愛いよブリジット」
「でも……シクロくんが」
シクロとは、この教会に住む子供の中で少しお調子者の男の子。その子に『肌みどり~』って言われたのが原因としょんぼりするブリジット。それが原因かと、あたいはすぐにシクロを探して話す事に……。
「――そ~言う~わけ、シクロ」
「え~……そ、そんなこといったっけ~」
「いわ……れた」
「ほらシクロ、勇者は友だちを傷つけたりしないぞ」
「う~ん……ごっ、ごめんっ!」そう言って部屋を飛び出していった。
「こらっ、シクロッ!」
「シクロくん……」
目もそらしてもじもじするシクロは逃走。しかたなく追いかけると教会を下ったすぐ教会の海岸に出た。しばらくして疲れたのか歩き出したところを捕まえる。
「シクロ~」
「ネモネア……」
仕方ないのでその場で少し休憩をして話を聞いてみた。
「……ほいっ、カニ捕まえた」
チャポンと手掴みしたカニを海の遠くへと投げる。
「なんでそんなこと言ったんだよシクロ」
「それは……」
「勇者好きのシクロらしくないじゃないか」
「……だってさ、いつもあそぼうっていってもあそばないし、ひとりでさびしそうで……」
「そっか~、気にかけてくれたのか」
「ブリジットいつもことわるんだぜ……それで、くちがすべって……カワイイのに……」
「え? カワイイって……」
「おれ、ブリジットだいすきなんだ」
「だい、すきだってっ!」
「おおごえださないでよ、ブリジットにきこえちゃうじゃん」
「ご、ごめんっ」
こんな7才のこの子がブリジットを好きなんて、しかもあたいにそれを告白するなんてシクロ結構男前じゃないか。大胆さに驚いて気が動転するけど落ち着かなきゃ。
「わ、わかった、大好きな子なら尚更ちゃんともう1度謝ろう、ね」
「ネモネア……うん、わかった……」
シクロはブリジットにもう一度、今度は逃げずに謝った。誤解とわかった彼女に少しの笑顔が見えた。その表情に1番安心したのはシクロだろうな。
あたいもその2人を見ていて元気をもらった、あとシクロがブリジットを好きかあ。
幼い2人を見て羨ましく思ってしまうあたい、いいなあ……。
「はぁ~……あんなにストレートに好きって……」
真っ直ぐ面と向かって『好き』ってスゴく嬉しいこと。そんな思いからか、海岸の砂でいつの間にか指で自身とアヴエロが一緒で笑顔、ってなに描いてんだか。
「……すき……か……」
「ネモネア」
「はっ、ア、アヴエロ……いまなにか聞えた?」
「いえ、それよりこんなところでどうかしましたか?」
「なっ、なんでも」
バレたら赤っ恥と急いで描いたものをこっそり足で消す。
「っていうか、どうして馬に」
「ふふっ、みんなにプレゼントです」
馬に乗るアヴエロは勇者っていうより王子様みたいだ。そこにあたいも一緒に乗るイメージが、今日は頭の完全にイカれてる。
「ネモネア~」
「ア、アヴエロッ、なにっ?」
「いくら平和だからって、ぼ~っとしているのはいけませんよ」
「わ、わるかったよ」
「ほら、手伝いお願いします……」
たくさんの子、その最後尾にはなんとブリジットがこっそり入って来て少しはわかってくれたのかとテンションも上がる。
「おーいみんな、アヴエロが帰ってきたぞ~」
「「わーいっ」」
「おかえりアヴエロ、ネモネアなにを持ってきたのです?」
「ヘヘ、じゃ~ん……アヴエロが王様たちに頼んで食料を馬車で運んできてくれたんだよ」
「「やったーっ!」」
「今日は好きな物、お腹いっぱい食べよう~っ!」
肉や魚にパンに野菜、日ごろ贅沢をしていない子どもたちにとっては天国だろう。シスター・カルタも腕を振う料理も美味しいし皆がいつの間にか笑顔と笑い声に包まれたてにぎやかな日となった……。
「――しかしこんなに~、どうして?」
魔王を倒したアヴエロにクリスロッサの王様が褒美をと話すと、身寄りのない子どもたちに食料をと頼んだという。
気になったシスター・カルタに兵士たちがそう話して馬と空っぽの馬車とともに去っていった。
「アヴエロって、本当に勇者だな」
「そんなことないですよ……でも……」
「アヴエロ?」
「あの子たちの笑顔が見れて本当によかった。勇者になってよかったと今はそう思います」
よかったのは子どもたちだけじゃない。アヴエロの仲間や家族、シスター・カルタだって皆がアヴエロに感謝している。アヴエロに会わなかったらあたいはきっと魔王ルモールの配下としてこの子たちも襲っていたかもしれない。
「……出会えてよかった、はぁ~」
「ネモネア」
「ど、どうしたのアヴエロ?」
「私もお腹すきました、一緒にいただきましょう」
「うん、そうだね。よしっ、食べるぞ~!」
――食料を運んだ兵士達が馬車でちょうどクリスロッサの村を通り過ぎた頃。
「ん、あれはクリスロッサ城の兵……そうかアヴエロだな。会いに行ってみるか……」
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