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プリンセス ―ショート―

反撃の王女達

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 ギトス城へと足を動かしながらも突然のガーネット王女の援軍に薄々と思うところがあるロベリー、兵の陣形もとれてきて安心したのもつかの間3人の鉄仮面の騎士はランク軍を率先して攻撃を仕掛けていた。


 そこには、


「ラドルフッ」


 自国の元騎士団長だったにも関わらずランクの騎士や兵士にも一切迷いのない剣で倒すラドルフの姿も、



「おや、てっきり頭に血が上りもう死んだのかと思ったのですがロベリー王女、ご無事でしたか」



 ロベリーに目を向けたラドルフの剣には兵達の肉を咲いた赤い血が滴り落ちている。
 兵達に手当を急ぎたいという思いと彼への怒りが冷静な思考を支配していく感覚の中で、


「貴方達っ、剣を振るのを止めなさいっ!」


 怒りを含めた大声に鉄仮面の騎士3人はラドルフと小声で何やら話をした。


「心配いりませんよ、あんなお子様はすぐ殺します」


 わざとロベリーにもその言葉だけ聞こえるように話すだけでなく、クラサがメガネのブリッジ部分をクイッと左手で触れた瞬間その目つきでロベリーは殺気をゾクッと感じ間違いなく自身を殺しに来ると確信し剣を抜く、相手はゆっくりと歩いて前進し、



「覚悟はいいですか? モルエス·ラル·ロベリー」



 不気味な低い声と同時に、



「ラドルフッ······」



 この戦場で1番の剣の音が鳴り響く。



 ロベリーとラドルフ、王女と元騎士団長は互いに性格や癖などありとあらゆる事を知りつくした2人の戦い。



「ラドルフッ、貴方だけは絶対に許さないっ!」



 何時も教えられ見てきた剣術それを捌いていく両者、



「ずいぶん上達しましたね」



 褒めつつも鋭い目で教科書のように基本の剣を振るうラドルフにロベリーは全て見極めていく。



 右に剣を振るうのは罠で縦斬り、読みは正しく動くラドルフの剣に、



 ふと過去が、



「――キャッ」


「いけませんよロベリー様、今のはフェイク、ちゃんと見極め縦斬りの剣を弾かなければ」


「だってっ、怖いもんっ」


「目もつぶって~、本当なら死んでましたよ」


「皆が守ってくれれば――」



 小さな頃の稽古の記憶。



 縦斬りを目を瞑ることなく弾いたロベリーに、


「どうした、モルエス·ラル·ロベリーッ!」


「うう、くうっ」



 憎む気持ちが消えるわけがない。



 国を裏切りバーナを殺したこの男を、



 なのに頭はロベリーとラドルフが過ごした剣の日々をこの戦いが虚しくも呼び起こしていく。
 それでもラドルフの剣はロベリーを襲っていく、過去を汚していくように······。



「――ラドルフいつもありがとう」



「ロベリー様の笑顔が何よりの幸福です――」



 過去を思い返され2人は距離を取るとラドルフはロベリーが口元を左に僅かに上げたのを見逃さなかった通り、



 ロベリーはクスッと笑った。



「おや、頭でも狂いましたか?」



 棒立ちのロベリーは下を向きながら、



「······全く、紛らわしい記憶」



 迷惑なものだなと思いながらも頭を整理、というよりも開き直った感覚、



 あの時のラドルフをもう一人の父のように好きで何が悪い。



 だってしょうがない、ランク城に生まれた時からずっと一緒で7歳の時から剣を教わった師匠なのだから。



 なのにそのあと16歳になって突然ランク城を裏切り、好きな人を父のように慕った者に殺されて憎んで······。



 つらいにきまってる。



 それでもあっちは自分を本気で殺しにきて、おかしくて仕方がないと笑ってしまった
  


「······ラドルフ、私はあなたを許しません」



 迷いを振り切りその眼に闘志が宿るとラドルフに教わった剣技でラドルフと全てを背負い戦うロベリーであった。



 ――ラドルフがロベリーと戦っているのを3人の鉄仮面の騎士は、


「フッ、空きをついて矢で援護でもするか?」


「それはいい考えだ」


「クラサには当たらぬよう慎重に······ぬっ」


 ところが突然手助けをするのを止めた3人、何故ならただならぬ気配を感じたため。すると同じく2人の可動面頬の女騎士がランク軍の方からこちらに歩いてくる。


 そして右側の女騎士が、



「······タオム·ビー·バルト」



 突然だれかの名前を呼ぶ。



「ターキシム城の騎士団長で、ランクとビスカの戦いの後ひっそりと姿を消した男······」



 すると3人のうちの一人が前に出て、


「貴様、何者だ? 何故その事を知っている」


 質問には答えず続けて、



「やさ顔で部下からも人気もあり、顔の通りの受け流すような剣技······」



 すると前に出ていた鉄仮面の騎士はべらべらと語る女騎士に斬りかかった。


「誰だ貴様、顔を見せんと命はないぞ?」


「偉そうになったな、いや、元からそうなのか」


「そ、その声はっ!」


 互いに剣と剣で受け止めながら気がついたが男は下り、



「まっ、まさか生きていたのか······?」



 兜を脱ぎ捨てたその人は、殺されたはずの青髪のレスタ王女だったのだ。



「私を信じろとレスタ軍には言ったはずだが?」



 驚いた男も仮面を脱ぐとやはり突然消えたターキシム城の騎士団長タオム·ビー·バルト、



「まさか本当に生きていたとは······」



 驚きの表情。だがレスタは冷静に残り二人の鉄仮面の騎士を睨み、


「という事は、そこの2人も当然の可能性がある」


 言い切るレスタの隣にいた女騎士は、



「そうなのね、じゃあライトって人知らないかしら?」



 両の手を開きフレンドリーに訪ねると、



「······ライト、だと?」



 バルトの左後ろの鉄仮面の騎士はつい声を漏らした。



「そうっ、なの」



 と聞こえた瞬間バルト及び2人の鉄仮面の騎士は気づく、



「ほら、いるなら正体見せ合いましょうよ、ね?」



 その提案に左後ろの鉄仮面の騎士は黙って鉄仮面を脱ぎ、



「私がライト、ゴールド·シウ·ライトだ。さぁ、貴様も正体を見せろっ!」



 レスタの隣の女騎士もスッと兜を脱ぎ黄色い髪がサラリとなびき、



「ふぅーっ、やっぱり裏切ってたのね」



 紛れもない、レスタと同じく最初にロベリー王女によって殺されたはずのゴルドバ城の王女、··



「べ、ベルディ王女が、な、なぜっ?」



「死の世界から蘇ったの」



 笑顔でウインクするベルディにふざけるなと動揺しながらも、2人の元騎士団長はお世話になった自分達の王女にそれぞれ襲いかかる。


 まずいと残り1人となった鉄仮面の騎士はギトス城に戻りこの事を伝えなければと振り向くと、



「まて、お前の相手は私だ」



 西側の方から静かな怒りを込めた様な声が聞こえやはり可動面頬の女騎士だと気づき、



「貴様も······、なのか?」



「声を聞いて、分からないのか」



 声、と頭の中で考えるが、


 まさか、


 まさかと、


 ありえないと言い聞かす鉄仮面の中でも冷や汗をかく鉄仮面の騎士、



「······わ、我が王女はそんな、あの2人の王女の様な真似は、しないっ!」



「我が王女? その者の名前を答えてみろっ!」



 怒鳴りつけるような声に驚くとともにそんな事をするはずのないと思っていた考えが脆くも崩れ去った。



「わ、私の元国の王女は······ニゲラニ城、········」



 そう言い観念した様に脱いだのはニューロ·ラト·セレブ、ニゲラニ城の元騎士団長だった。


 そんな彼の前で女騎士は兜を脱ぎ捨てて、



「セレブ騎士団長、私達を裏切っていたとはな·······」



 紫の髪に鋭い目力、目の前のバイオレットに動揺で震えても何とか言葉を口にする。



「あ、あの2人の王女ならまだしも何故あなたまでが、うっ!」



 だが質問には答えずに攻撃を仕掛けてきたバイオレットは突こうと試みて、裏切り者への怒りを隠しもせずにむき出しにする。



「だまれっ、この、裏切り者がぁぁーっ!」



「くう、相変わらずので気迫」



 ランク軍とギトス軍のそれぞれ3人の可動面頬で顔を隠した者達の正体はロベリーに殺されたはずの国の王女と裏切り者の元騎士団長であり戦いが始まる。


 そんな彼らをギトス城入り口から隠れて見ていた人影が。


「ふぅ~、これはこれはとんでもない。シリカ王女に報告するか――」
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