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プリンセス ―ショート―

戦場に咲く4人の王女

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「それが理由、か」


「そうだっ、だからっ、死ねぇぇぇーっ!」


 右腕を大きく上げ突進してくるモンネ、ベラも大剣を大きく上げて真向両断に振り下ろした。



「見切ったーっ!」



 振り下ろされた大剣を左に避け、大剣で両手は使えず無防備なところを、



 紙一重でモンネの剣を大剣から離した右手を肩ごと引いて、地面に刺さった剣を踏みつける。



「なにっ」と動揺している間に即座に大剣を持ち一度振り回しモンネの左肩から斜めにきりさき、



「はぁあっ!」

「ぐふぅはっ」



 モンネは仰向けで地面に倒れた。



 それでもベラは素早く大剣をモンネ顔に向け、



「本当の事を言え、モンネ」



「ふふ、やはり······あなたは······べっかく、か」



「シリカ王女のためか?」



「そ······れは、しん······でも、いえんな」



 追い詰められても笑みを浮かべ続けていたモンネの顔、だが一瞬変わった表情をベラは見逃さなかった。


 そして目を閉じ、


「わかったよ、さらばだ」


 ゴンッ、


 頭に大剣を打ち付け気絶させ周りのレンプル兵にモンネを縛り付けるよう命令する。


「その覚悟を我が国に向けてほしかった······」


 もくもくと言われた通りにするが元騎士団長を縛り付けるなど流石に複雑な表情の部下達。



「ベラ王女!」



 この声は、と振り向いた先にラドルフを追いかけていったロベリーが戻ってきたのだ。


「ロベリー王女、心配したんだぞ」


「ごめんなさい、ついカッとなってしまって」


「早く支持を出せ、ランク軍の兵は内心困惑しているはず」


 迷惑を掛けた事でベラに頭を下げヤクナ達を探そうとした時、



「ロベリーッ!」



 西側と東側で争う中、南東の方にいた2人の声に振り向くとそれは必死で走って来たオメラとエマリン。


「オメラ王女、エマリン王女、どうして御二人が」


「ハァ、ハァ、説明はすべてが終わってからと言うことで」


 そうとう全力で走ってきたと分かるくらい息を切らしていたオメラだがエマリンは、



「ロベリー王女、ベラ王女、ハァ、ハァ、お願いです! デナさんを、助けて、ハァ、ハァ」



 疲れていても彼女の身を必死で案じていた。


「デナ······プレナ王女の妹で姉を殺し行方不明、だと思ったがまさかエマリン王女と繋がっていたとはな」


 ベラは不思議だと腕を組む、エマリンは徐々に息が戻ってくると、


「お願いっ、彼女は私の命の恩人なの、だから」


「彼女のおっしゃることは本当です」


 オメラも同じく訴えてきて、どうするロベリー王女とベラも彼女に答えを委ねる。


 ロベリーは憎む気持ちや焦る気持ちを落ち着かせ冷静に、


「ではベラ王女はデナさんを助けに、私はヤクナたちの方へと急いで向かいます。オメラ王女とエマリン王女は、避難してください」


 皆返事をして散開する王女たち、馬を借りてベラもその場を離れる。
 だがオメラは走ろうとするロベリーに、



「ロベリーッ、あなたはやっぱり······また会えて私は嬉しいです」



 こんな戦場でもほんとうに嬉しそうな笑顔に眉を下げ複雑そうな顔をしながら黙ってロベリーはヤクナたちの方へと向かう······。


 ギトス城裏の荒野で戦うギトス、ラバーグ、べオレの軍3000人に対しランク、ターキシム軍2000人とレンプル兵100人による争い。
 ロベリーの指示のない兵は押され気味ではあったものの、ラバーグ軍は思わぬデナの登場に皆剣を止め錯乱しているため当てにはできず、数がさほど変わらずの戦いをしていたのだ。


「うわっ!」


 ボロボロになっていたのは騎士ヤクナ。


「老いた体に戦争はきついようだなヤクナ」


「おのれボルド」


 剣の経験や腕前はあれど裏切り者のラドルフに騎士団長を譲っていたため反射神経や腕、脚力など現役のビスカ城の元騎士団長ボルドには敵わず体にガタがきていた。


「わっはっは、老人のボロボロな姿など見ていてこうも惨めとは笑えるわい。わっはっは」


「ふんっ、バカ笑いしおって」


 何とか剣を握るがボルドの剣を受け続けた右腕にとうとう力が入らなくなる。


「力も入らないか、ではそろそろ」


「く、すまぬロベリー王女、プログ王、バーナ」



「やあぁぁーっ!」



「んっ?」



 走りながらロベリーはボルドの剣を弾く。



「ロベリー王女っ!」



 素早く倒れていたヤクナの前に立ち、



「ごめんなさいヤクナ、無事ですか?」



「王女、全くほんとうにすぐカッとなって行ってしまうとは」



「本当に、ごめんなさい」



 振り向かずボルドから目を話さないロベリーの後ろ姿を見ただけでも子どもの頃から見てきたヤクナには反省しているのが雰囲気でわかった。


「身体がボロボロでもうろくに剣も握れませんが、動くことは出来ます」


「では、全兵には『自分の身を守り、盾の陣形』を取るようにと命令してください」


 返事をしてその場を離れようとするヤクナをボルドは「逃がすかー」と追いかけようとするが、



「あなたの相手は私です」



 ロベリーが前に立ち、ボルドはニヤケながら襲いかかる······。


 そしてラバーグ軍が囲むデナの方では、


「カリムッ!」


「うっ」包帯から血がにじむほど力を入れたために痛みで鈍くなるデナを守るために応戦するが倒れ込むカリム。


「お前、カリムはお前の部下だったはずだ、どうして斬りかかる」


 ラムールは同盟で一緒に戦っているはずのラバーグの兵に平気で斬りつけた。城を抜けたとはいえデナにとっての元部下達を平然と楽しむように剣を振るうラムールに更に怒りがこみ上げ、


「邪魔をしてきた者に同盟が盾になるとでも? 姉殺しの貴女を倒すのが本来の役目、なのに庇われては斬るしかないでしょう」



「クズめ、うおぉぉーっ」



 突刺そうと突撃するも、



 避けられ、



 デナの脇腹を蹴り飛ばす。



「うわぁぁっ······つっ」


 酷い光景とラバーグの兵の一人は、


「やめてください、あんまりだっ! うわぁっ」


「邪魔です」


 逆らう者の斬り刻む。


「や、やめろぉぉー、ラムールッ!」


「ふぅ情けない、貴方達は本当に軍人ですか? 今はギトス軍の支配下にあるのです。軍人なら迷わずにその姉殺しの女を殺りなさい」


 ラバーグの元騎士団長の言葉に下を向いてどうすれば良いのか分からない姿に呆れ、自らの剣でデナを殺そうと構えると、



「そうはさせん」



 ラムールが右に振り向くと、



「おやおや貴女はレンプル城のベラ王女ではないですか」



 周りのラバーグ軍も動揺するが、ベラは大剣を抜きその剣の先でデナを指し、


「クリソプ·ジェ·デナ、ラバーグ軍はお前の指揮を待っている。早く指示を出したらどうだ」


 ボロボロながらもベラの方を見る。


「私は、もう、ただの復讐者だ。ラバーグとは、関係ないっ」


 その瞬間、


 ラムールはベラに突撃したが即座に反応され、


「おっとっと危ない危ない。これがベラ王女のまわいに入らせない戦術ですか」


 大剣を向けられ後ろへと下がった。


 通常、大剣を振り回す事に精一杯で空きなど良くできるものだが、ラムールは扱いなれだけでなく使いこなしていると感じるとどうするか今一度整理する。


「まてっ、ベラ王女っ、そいつは私が、くっ」


 そんな2人に身体に痛みが走ろうと戦おうとする事を止めないデナ、包帯だらけで立ち上がろうとする彼女を見つめるベラは、



「······わかったよ、なら私が空きをつくった後にしかけろ」


「······ああ、たのむ」



 デナも悔しいがいまの傷付いた自分では奴を倒せないと踏んで、断らずに提案を呑み構えた。



 先に仕掛けるベラは大剣を振り回す。



 ラムールの剣はシミターで少し湾曲してレイピアの構えをしている。



 右に振り回した大剣を避けて突くのが本来だが、ベラはすぐに左へと振り回すのが早いためまるで片手剣の様に操り思うようにならず、



「はぁあっ」



 2人は様子見の戦いを繰り返していく。



 だがラムールは、だんだんとベラの動きに慣れていき動きを把握していくと、一旦引いたラムールは鎧を脱ぎ捨て不気味な笑みを浮かべ、ベラも仕掛けてくると読み構えた。


「覚悟するがいい、レンプルの王女ベラよ!」
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