〜クイーン·ザ·セレブレイド〜

ヒムネ

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プリンセス ―ショート―

横たわる剣

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「愛······してる······」


 ――ベラに一世一代の告白をしたペレ王子、


 だったが、


「ごめんなさい」


「そ、そんな······どうして!」


 肩を丸めて眉尻も下がりこの世の終わりのような顔をするペレにベラは、自分の胸の内を語る。


「たまに王子様が手伝いに来てくれるのはありがたかったし、良い人なのも分かった。でも私は貴方のことちゃんとは知らないし、まだ分からないの。だから······」


 しばらく沈黙が続いたので、ごめんなさいともう一度謝るベラに顔を上げたペレは、


「私を知らないなら、知ればいい」


「え······」


 そう言い放った日から彼は早かった。ベラの家族の家に無茶をしつつも住み始めたのだ。


 当然城中の者は反対するがペレ王子は『国民を知るため』や『自分を見つめ直すため』など思いついた言葉で毎日説得し、それでも自身が参加する行事や他の国との用事をしっかりこなしつつ、終わればベラの家族に溶け込み手伝いや積極的にお世話をするなど大変な日課にも関わらず必死にこなしていく。


 全ては惚れた女性のため、ただそれだけ。


 だが時間の経過と共に2人の関係は知れ渡っていき、そんなベラのために動くペレ王子に対してよく思わない兵や玉の輿狙いの冷嬢に上級国民はいるもので、


「何なのよっ、あの女っ。綺麗でもないくせにペレ王子様が気に入るなんて!」


「ほんとよっ、一体何を使ったのかしら!」

 
「ペレ王子のアホさ下限にはついていけないよ」


「洗脳されてるとか?」


 物を買いに行くだけでコソコソ怪しい目つきと人の悪口が聞こえるのにはさすがに堪えるが、影で批判されている何も悪くない彼の方が可哀想に思えてきたベラ。


「ただいま」


「おかえりなさい」「おかえり、ベラ」


 陰口を知るのか知らないのかお皿を洗いながら何のそのと言わんばかりに元気に挨拶する彼、


「ペレ王子、なんか······」


 あれから1ヶ月くらいで大分ベラの家族と慣れ親しんでいるのを見て不思議に感じる。畑の手伝いもするし、片付けも言われればやり、最初は王子様とオドオドしていた家族も今では明るく会話するほどに。


 どんなに時でも前向きな彼、



 こんな人なら私は······。



「えっ、ホッ、ホントウかい? ベラ」



「ええ、あなたの言葉、受けとるって決めたわ」



「やったぁぁぁーっ!」



 満面の笑顔で泣きながら喜ぶ彼、なんかこっちが恥ずかしいけど一緒に笑ってしまう程、でも同時に嬉しかった。


 
 しかしそう上手くはいかず······。



「ペレ王子、お止めください。その人はその、貧困生まれで······」


 生まれた家系に恵まれた殆どの騎士達は名誉も地位も無いベラに嫌悪感を抱いていたのだ。そこに当時の王でありペレと同じ目でクリッとした父ルーマは謁見の間で、


「う~む、皆が、特に貴族家系の騎士たちはこぞって反対よる~」


「でも父上、私は彼女と決めていますっ!」


「ふむっ、ではベラよ、そちの気持ちは」


「私は······」


 実は不安だったペレ、彼の周りには彼女を良しとしない者がいるのは知ってるし今に始まったことではないので平気でも、そういった環境になれていないベラが耐えられないかもしれないと。



「私は、いえ、私も彼の笑顔と優しさに惚れて、付いていくと決めました」



 安堵と嬉しさが同居するペレ王子、


 ルーマ王にも動じない彼女の目と雰囲気にただならぬ器と直感しペレと似た笑顔で許してくれた。


「それともう一つ、ペレよ」


「はい」


 それは例え王子の妻になったとしてもやらなければならない事。


「かしこまりました、ベラ」


「うん」


 護身術、このご時世自分の身を自身で守れるようにならなければならない。
 そんなわけで騎士モンネから剣を習うベラは、


「す、すごいっ!」


 畑仕事で鍛えた持ち前の怪力で大剣を持ち、城下町を出た時などで養わられた野生的な感ですぐさま頭角を現し、


「ふんっ」


「くっ、近づけん!」



 納得していない騎士らを黙らせるまでに至ったのだ。


「そこまでっ、いやいやお強いですなベラ様は」


「どうも」


 そして信じていたペレは、


「ベラッ、すごいじゃないか!」


「ペレ」


 いつの間にか彼の前では自然と笑顔になっていたベラ。
 程なくして2人は結婚、さらに2年後には子どもを授かる。
 その3年後ルーマ王がペレ王子と交代した時に掛けた言葉は『君たちならなんの心配もない』と2人に笑顔を向けて子に託したのだった·······。


「――私は、夫のペレも、生まれてきてくれたマリンも愛している。だから戦争するわけには、いかないんだ」


 動じないベラ王女の目、


 最初は無口で冷たい人だと思ったけど、


 でも違う、この方の中には家族という愛の全てが詰まっているんだ。
 だからこんな緊迫するような時でも、剣を捨て国を護ろうとしているんだと気持ちが花のように咲き誇る。



 するとベラはロベリーが目に手で拭う姿を見ていたら、



「泣いてる、のか?」


 ボソッと言葉を漏らす。



 胸に響く話し。それはまるで亡くなった母と同じようにベラ王女がロベリーには眩しく、また温もりを感じずにはいられなかった涙。



 そして、


「わかりました」


 ロベリーは決めた。


「白旗を振る国を攻めるような事はいたしません」


 他の兵も胸に手を当てホッと息をつく。


「ただしっ」


 えっ、と皆がロベリーに注目をすると、


「ベラ王女は私と共に同行してもらい、これからギトス城へと一緒に行って頂きます」


 レンプル城下町の外ではざわめいていた。


「ベラ王女を拷問する気か?」


「人質?」


 騎士兵士たちが心配をよそにベラは迷わず、


「わかった、同行しよう」


 思わず「ベラ王女?」と声を漏らす騎士もちらほら、その後互いに近づき目を合わせてロベリーとベラは握手した。


「ロベリー王女」


「ベラ王女の御決断に感謝します」



 一旦お城で夫のペレに、


「――そういうわけで、ロベリー王女と同行するわ」


 下を向き眉が下がり心配、でも口は笑みを浮かべて、


「そうか、ちょっと心配だけど君を信じるよベラ」


「ありがとう、ペレ」


「ママッ」


 3人で抱きしめ合い、


「絶対生きて帰ること、いいね」


「ええ、もちろん」


 愛する娘と夫を強く優しく包み込みベラはレンプル城を出ていった······。


 その頃ロベリーにヤクナは、


「本当に行くのですか? ギトス城へ」


「はい、宣言した通りです。おかげでなんの怪我の方を出さずに済みましたのでこのまま行こうと決めたまでです」


 彼女の意志は固かった。


 同時に未だ頭の考えのしこりが抜けずにいた事を誰にも言わないロベリーだが、それでも自身を信じベラ王女を待つ。


 だが30分も掛からずにすぐベラ王女が大剣を背負いレンプル城下の外に馬に乗り現れて、


「またせた、ロベリー王女」


「いえ、お早かったです」


「あと100人程だが兵が付いていきたいと言うのだが」


 中には騎士団長モンネの姿も、ベラ王女を心配で無理もないと許可した。


 準備は整い馬に跨ったロベリーは、



「ではっ、これよりギトス城へと向かいますっ!」



 王女2人に約2000と100の兵はギトス城へ向け進行を開始しする······。



「シリカ王女、ついにロベリー王女がここの地へと足を踏み入れます」


「まぁ、いずれ何処かの国とはと思ってはいたけど、それがランク城のロベリー王女だったなんて」


 玉座から立ち上がり何かを思いながらゆっくりと歩きだす······。



 ギトス城はレンプル城から南へ向かい国境を越えた先なのだが、


「国境は開いているのかしら」


「少し前から閉じ始めたらしいが、開いたと言う兵からの情報は入っていない」


 隣で馬に騎乗したベラ王女が平然と会話する姿に不思議に感じたロベリーに、


「ん? どうした」


「あ、いえ、なんでもないです」


「心配するな、ロベリー王女を襲おうなどとは思ってはいない」


「そ、そんなことじゃありません」


 まるで警戒していないようなベラに何故だろうかと疑問を感じつつ見えてきた国境。


 しかしどうしてか番兵がこちらに気付いたのか国境が開く、


「え、開いた」


「良いではないか」


 ベラ王女もそう言い、ロベリーも今さらここで時間を掛けるのはもったいないとそのまま駆け抜けて、去り際に「ありがとうございます」と言いながら進んでいった。


 通り過ぎても考え始めるロベリー、これは余裕の現れ、戦う事を止めないというシリカ王女の思いなのか、それとも、と頭の中で少しでもありえる可能性を模索していた。
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