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プリンセス ―ショート―

闇夜森林の戦い

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「いえ、円卓の間での貴女とはとても思えなくて」


 あのときはホントッ、何にも興味がなかった。今思うと失礼極まりない。
 優しく話すオメラ王女、でも振り向いて再び前を進む時一瞬悲しそうな顔をした彼女にエマリンは気づく。


 長い廊下を歩き扉を開いた先に一旦外に出てすぐの所にまた高いお城がある。


「ここが私の部屋です。どうぞお上がりください」


「あ、これ」


 エマリンが気になったのは『右手の指を揃えて手のひらを上に向けて指先を相手に向けて指す扉』、


「この扉にご興味が?」


「はい、私の部屋の扉もこういう彫刻だったので」


「へ~、なにか縁があるのかもしれませんね」


 少しづつ気持ちが楽になっていくエマリン、オメラの部屋は玄関の先にテーブルと椅子があり座らしてもらう。さらに用意してもらった紅茶を一口飲み、


「フ~ッ、ありがとう、ございます。オメラ王女」


「少しは気分が落ち着きましたか?」


「はい、それで」


 可愛らしく無邪気の様だったエマリンらしくない下を向き眉尻が下り深刻そうな顔にオメラもただならぬ事だと表情を変えて座る。


「聞きましょう――」


 夜、デナに襲われるも彼女に馬を渡して和解したエマリン。尻もちを付いた体をなんとか動かし城へと戻ろうとすると「エマリン王女」と心配で歩いて来たのか騎士カイブに、


「あ、カイブ、いま腰を抜かしてしまって、手を貸してください······カイブ?」



「エマリン王女······命を、貰います」



「え?」



 突如としてわけも分からず騎士カイブに襲われるエマリンは反射的に逃げ出そうとする。



「な、何なのよ、カイブ。あたしは王女様で偉いラドラ·アク·エマリンよっ」



 しかし聞く耳持たずに左腰の鞘から剣を抜き刃を向けた。



「ちょっとやめてよ」



 涙を浮かべながら恐怖で震えまた腰を付く、



「死んでもらう」



「そ、そんな、いや······いやぁーっ!」



 すると遠くから馬の音、そして、



 キーンッ、



「ちいっ」



 現れたのは知っているフードを被る者、



「あ、あなた」



「言っただろ、借りを返せそうだと」



 先程去ったはずのデナが再び姿を現した。



「貴様は、姉殺しのデナか!」



「エマリン王女っ、コイツはいったいなんなんだ」



 騎士カイブを知らないデナにエマリンが説明、彼は騎士団長候補で成績もよく常に任務優先の無口な男だという。


「どけ犯罪者、私は後ろのエマリン王女にようがある」


 獣のような恐ろしい目付きで睨むカイブのあんな顔をいままで1度も見たことが無いエマリンは夜でもあり余計に恐怖に溢れる。


「どきたいところだが、エマリン王女には馬の借りがある。どくわけにはいかんっ!」


「ならば、一緒にコロスッ!」


 デナとカイブの戦いが始まった。


 力で軽々と剣を振り回すカイブに対して冷静に相手の好きを付こうとするデナだが、


「はぁあ!」


 二度、三度とデナの速さのある剣を弾くカイブ。


「ちっ、こいつ意外と冷静だ」


 攻めは力任せでも、守りは相手の剣を見逃さないほどの反射神経で剣をさばいていく。


「ふふっ、貴様の剣は私には効かんぞ? 今なら逃げても構わん。行けっ」


「言っただろ、借りがあるとな」


「ならば人の慈悲を無にした事を後悔させてやろう」


 再度攻撃を仕掛けてくる。


 デナも必死に避けていると、相手の剣が大木などにめり込む。
 そんな事を続けていたら、


「ハァ、ハァ、しまった」


 足を滑らせる。


「もらった!」


「くうっ!」


 寝転がりながら紙一重で避け後ろに下がると、



「エマリン王女っ!」



 デナの大声でビクッとするエマリン。



「兵を呼んでこいっ」



「え、え、でも私いま腰が」



「ぬあぁぁっ!」



 三度襲ってくるカイブ、だが必死に避けながらもデナはエマリンに、



「あまったれるなっ、私がコイツに殺られたら次はお前が死ぬんだぞっ!」



 命懸けで守っている彼女の言葉に、はっ、とする。



「自分の身を、国を護ってみせろエマリン王女っ!」



 国をまもる、ワタシが······体中全ての血液が巡るのを感じて何かが目を覚ました。



「うっ、くっ······」



 必死に立とうとして震えながらも立ち上がった。



「行けっ、エマリン王女っ!」



 震えが止まらずとも歩き出すが、



「させんぞっ!」



 カイブがエマリンの方を向こうとすると、



「余所見をするなっ」



 デナを無視するわけにもいかず、腹が立ってくる。



「おのれーっ!」



 エマリンは一歩ずつ確実に階段を登り扉まで走り開けた。


「エマリン王女どうしました?」


 また何か悪さをしたのだろうと言う顔、無理もないいままでそうだったのだから。でも今は、


「皆さん、いま下でカイブと戦っている方を」


「え、え?」「カイブ様が?」


「カイブと戦っているデナさんを助けてください」


「あのですね王女、デナという方は犯罪者で」



「はやく行きなさいっ!」



 怒鳴ったエマリンは、騎士兵士を自分のために剣を交えているデナに向かわせ自身も戻る。


「そろそろ疲れが見えてきたな犯罪者」


「くっ、こんなとこで、ハァ、ハァ」


 その時カイブの後ろから、


「まてそこの、カイブ様?」


 カイブは自分を疑っていないと直感、


「おう、お前たちか、今エマリン王女を殺そうとした犯罪者デナ戦闘をしていた。手伝ってくれ」


 すると兵はハイと返事をしてデナの方に槍を向ける。 


「な、貴様等、命を狙ったのはそいつたぞ!」


「黙れっ、長年ムース城に命を預けてきた騎士カイブ様がそのようなことをするかよ、犯罪者!」


 グフフとニヤつくカイブだが、



「なにをしてるのっ、デナさんは味方よ。敵はカイブだって言ったでしょうっ!」



「エマリン王女、しかし」



 困惑する騎士兵士達5人に何とかしなければと必死に思うエマリンはスッと背筋を伸ばし、



「違います。デナさんと別れたあと、騎士カイブによって襲われたところをデナさんが助けてくださってのです」



 それはエマリンに初めて大人の王女の様な威厳を感じ真剣な顔へと変化していき騎士兵士たちも本当なのだと伝わる。


「······本当ですか、騎士カイブ様」


「ふんっ、奴にあんな威厳があるとは王族の血も争えんか」


 デナもエマリンの急激な変わりように目を見開いていたが、すぐ首を振りもとに戻る。


「やるじゃないか、エマリン王女」


 さらにはエマリンの大声により他の兵もやってきて、


「仕方ない、ずらかるか」


「ま、まてカイブッ!」


 暗殺は無理と感じたのかカイブは闇夜の森へと姿を消す。


 静けさが戻るとエマリンは「はぁ~」と力が抜け安心したが、デナが去ろうとするのを見て、


「ま、待って」


「エマリン王女、なにを?」


「皆さんはお城に戻って、ください。私はあの人と2人で話したいことがあるの」


 他の兵を戻しエマリンは馬に乗ろうとするデナへと近づいて行く。


「デナさん」


「エマリン王女、驚いたぞ。あなたもやるときはやるんだな」


「いえ、さっきのは必死だったので」


 見直したような笑みを浮かべるデナ、そんな彼女を見ているとエマリンはモジモジと両の指を触りながら、


「あの······」


「ん、まだなにか?」


「本当にあなたが、その······お姉さんを······」


 エマリンから目をそらしデナは、下を向くとシワを寄せて鬼のような形相になり、


「私は······


「やっぱり」


「あのとき······」


 ――ランク城の攻略に失敗し姉のプレナと喧嘩して自室のベッドで横になっていたデナは寝れずにずっとぼやいていた。


「2人で、クイーン·ザ·セレブレイドになる······か」


 両手を枕にぼんやりと天井を見ながら姉のことばかりが頭に浮かんでしまう。さらに寝返りうつ伏せに、


「無理だよ、あたしには」


 いつもの姉のプレナは長女として王女として自身の前にいた人。自分は逆にそんな姉に甘え、いつもその後ろでサポートしてきただけ。それがデナにとってネックとなっていたのだ。


 しかし喧嘩したままでは悪いと「ふぅ~、行くか」と起き上がり玉座に居るであろう姉の元へと足を運ぶ事にした。


 もうすっかり夜で暗い、いつまでもランク城の攻略を引きずるわけにはいかないと思いながら扉を開ける。
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