上 下
28 / 54
プリンセス ―ショート―

苦渋の決断

しおりを挟む
「貴様等は······本気で言っているのか」


 はいと迷い無く答えた。


 それはもはやレスタ王女を失った自分達には同仕様もない事とガーネット王女に対し説明していく。


「レスタが、あのロベリー王女に······」


「はい、殺されました」


「なんという腰抜けだ、貴様らはっ!」


 怒りを顕にしたのはビスカのボルド騎士団長、常にシワを寄せて怒鳴る彼は厳しいと自国の者にも恐れられている。そんな彼もターキシム軍の主を思う気持ちの弱さに苛立っていた。


「ランク城の王女に自国の王女が殺され悔しくはないのか、復讐したくはないのか!」


「······悔しいですが、復讐するつもりはありません」


「なぜだ!」


「失礼ですが我々はターキシム軍、レスタ王女は常に冷静でおられ頭に血が登るような方を好みません。ですから今も我々は冷静なんです」


「なんだとっ!」


「主君の敵討ちではなく、主君の生き様に忠実というわけか······」


 頭が沸騰していつ爆発するか分からない真っ赤な顔のボルドは説教するが、ランク城の方面を見るガーネットは違った。


 あの思慮深いレスタが簡単に殺されるとは考えにくい、しかしなにを思おうとも殺されてしまってはどうする事も出来ないはず、ならばやはりランクの王女の実力が計算を上回って殺されたのか······。


 ガーネットは思考をめぐらしていく。


「ガーネット王女、王女からもこの腰抜け軍にがっと一言」


「よし、では命令する。ターキシム軍はたった今からビスカ軍なり、明日までに準備をしだいランク城攻略に向け出発するっ!」


 かくしてターキシム城はガーネット王女率いるビスカ軍のものとなった。それはターキシムの城下街の国民も動揺し焦り、また絶望するなど心身に痛みを受けるも、そうなるとわかってターキシムの全騎士兵士たちは必死に一人ひとりの国民に言葉を送る。



 亡きレスタ王女を信じてください、と······。



 丁度オレンジの明かりがオブスーンを包む頃ランク城で、


「くっ、まさかこんなことになるなんて」


 玉座の間の壁に向かって両手で同仕様もない気持ちをぶつけ、痛恨の極みのロベリー。そんな彼女をどう慰めていいのかも分からないヤクナや騎士たち······。


「――あなたたちはどうするの!」


「我々はビスカ軍に投降いたします」


「そ、そんなっ、国を明け渡すというの? そんなのだめっ、だめよっ!」


 すると騎士はキリッとした目でロベリーに、


「······我々の王女はあなたによって殺されたのなら、こうなるのは必然なんです!」


「そ、それは」


「取り乱して失礼、我々はレスタ王女を信じたまでの事。きっとレスタ王女ならこう言いますと」


「自身······」


 心が折れかけていた。予想もしなかった出来事に恐怖して、だがロベリーは、


 そうだ、わたくしは自分の覚悟を信じて行動している。


「早く逃げてください、ロベリー王女!」


「はい、この御恩は忘れませんっ――」


 あのときターキシム軍が止めてくれなければ自分達は確実に殺られていただろう。悔やむ気持ちを抑えながらどうすればと考えていくロベリー、そこに頭の片隅にある1番とりたくない行動をヤクナが発した。



「ロベリー王女、これはもうゴルドバとニゲラニの軍を動かしざる負えないのでは······」



 形相が怖ばり勢いよく振り向き、



「ヤクナッ······私に隣国を動かし······戦争をしろというの?」



 ヤクナはロベリーの辛そうで泣きそうな目から離すようにつぶって冷静に話し出す。



「ターキシムを支配したビスカ軍の数はおそらく4000、5000。そこに更にターキシムの軍が加わればその数は万を超え同仕様もない」



 しかしと付け加えヤクナは続けて、



「我等ランク軍が支配したゴルドバかニゲラニ、はたまたその両方を動かせば十分に対向出来るでしょう」



「そ、そんなっ、そんなのこのオブスーン大陸を揺るがしかねない本格的な大戦争じゃない······そんなの無理よ」



 玉座の間に広がる冷たい空気、それはあまりにも責任の重たい事、国ではない大陸を、みんなを死に追いやるかもしれない世界の終焉のような初めての感覚と恐怖がロベリーの背中にのしかかる。


 それでもヤクナは1人の経験のある老兵として国の上に立つ王女に説いていく、


「しかしロベリー王女、考えている時間はそうはありません」


「······どうしてよ」


「私がガーネット王女の考えを読みとるなら、ここでロベリー王女が策を練る前に準備を整えて明日にでも万をも超えた大群でランク城を制するでしょう」


 ロベリーにゆっくり考える余裕も、ない······。


「どうかロベリー王女、決断を」


「ヤクナ······」



 全ての兵が責任を押し付ける?


 違う、


 これがロベリーが王女として生まれ父の代わりに玉座に座りオブスーンの平和を護るという想いで行動した結果、
 

 そして今、彼女に全てはかかっていた。


「わたしは······」



 もう······あとには、退けない······。


 
 わたしは、他国の支援を······


 それは大戦争を意味する······。



 決断をしたこの日、だがまだ終わらないオブスーン。


「ロベリー、王女······」


 今朝ロベリーと出会ってデル·サージ城の自室で俯いていたオメラ王女はどうするつもりなのかしらと彼女の真実が知りたがっていた。


 そう思う彼女に扉を軽く叩く音が、


「オメラ王女、王女の乗る馬車がこちらに向かってまいりました」


 もしかしてと頭を上げロベリー王女かも知れないと扉を開いて誰なのかと質問すると、



「え、エマリン王女、ですか?」



 以外な人物、とくに交流も無く、考えもしなかった相手。
 それにあの円卓の間での彼女の態度はオメラもがっかりするほどで、とても平和や国民のことに関わることは無いと思っていたから。


 でもせっかく会いに来てくれたのならと、


「分かりましたお会いいたしましょう」


 オメラは頭を切り替えて足を運んだ。



「――ここが、オメラ、王女のデル·サージ城、きれい······」


 正門で立っている番兵が開き通ると広大な広場の奥に薄い青緑色の壁、金の柱が美しいデル·サージ城に心から感動したエマリン王女。彼女は自分以外のことに興味は無かった。だけど不思議と今は少し興味をそそられる感じで、兵から促されゆっくりと進み入り口を開けると、


「待っておりました。エマリン王女」


「は、はいっ!」


 笑顔がとても美しいオメラ王女はわざわざ金の彫刻がたくさん飾られる大広間で待ってくれていた。緊張して顔を赤らめるエマリン王女。


「その、あの、オメラ王女」


「そんなに緊張なさらないで、それよりも驚きました。まさか貴女が私に会いに来てくださるなんて」


「あ、あの、その······」


 眉と顔を下げて両手をモジモジと目線も合わせられない。実は彼女は自分から訪れしかも対面するのも初めてだったためどうすればいいのかほとほと分からないが、オメラはそれにもしやと気づき、


「どうすればいいのか分からないのね」


「え、は、はい、わわっ、私っ、こういうの、初めて、で」


「そう、じゃあ私の部屋に行かない?」


「え、ええ?」 


「ここでは緊張ばかりしてしまうでしょう。私の部屋なら少しは気が楽になると思いますよ」


 豪華な飾りのある広間よりプライベートな空間のほうが良いかもとオメラ王女の思いつきで部屋に案内されることになったエマリンは言われるがままついていく。


 大広間左の扉からは廊下に出ると、


「すっ、すごい彫刻の柱······」


 ただただ目と口を開いて唖然とする。左の窓から先程自分から来た正門が見え、逆と天所にはあらゆるところに絵が飾られ彫刻が掘られているなど驚くことばかり。そんなエマリンに、


「フフッ」


「あ、すいません、なにか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

処理中です...