暗闇の中、想い出の人形は動いた。

ヒムネ

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わかれのとき

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 カチッ、カチッ、


 時間はもう夜の11時過ぎ。


「今日はありがとね」


「ああ」


 オレたちは山の山頂に来た。特に有名な山でもなんでないが人形は星を観に行きたいというので車で向かった。あれから楽しく夜食、人形は食わないが、そのあと映画館で恋愛ものを観るなどしてドライブしているうちに山になったんだ。


 人形はオレの左肩から降りると、


「楽しかった」


「······そうか」ここ最近ずっと死のうとしていたのが嘘のようで、でも緑沙のことを思うとやっぱり胸は痛い。


「なぁ、お前、ほんとはなんなんだ?」


 もう訊いてもいい気がしたのだが人形が振り向くと、


「まだ、死にたい?」


「オレの質問に······いや、正直わかんなくなった。今日は、楽しかった。でもなんつーか、それが緑沙を裏切ることになるような」



「そんなことないっ!」



 人形は魂を込めるように言い放つ。


「······わかってる、わかってるよそんなことはっ」


 頭を掻きむしる。分かっていても自分の気持ちに触れれば触れるほど我慢できない後悔と愛。


 会いたいのに会えないどうしようもない焦燥感。


「実はあたし、今日しか命がないの」


「はぁっ? 死ぬのか」


「うんうん、そうじゃないの。ねぇ約束して、どんなことがあってもって」


「そんなこと」


「お願いっ、じゃないと


 生きろ、言うのは簡単だが現実は簡単じゃない。オレには緑沙のいないこの世に未練なんかありゃしない。そんなオレに生きて何があるというのかとも思うが、


「わからねぇんだっ、亡くなった緑沙にどう向き合えばいいか、わからねぇんだ」


「だいじょうぶ、応援してるよ、ずっと」


 緑沙がどう思っているかは彼氏だったオレが1番よくしっている、しっているんだ。


 こんな弱いオレを愛してくれた彼女、


 強がりだけど本当はやさしい、


 オレはそんな彼女が大好きだ、愛している。


 だから······、


「······やくそく、するよ」


「ほ、ほんとう······?」


「あ、ああ。緑沙つかさならきっと今のオレを好きにはならないだろうし······緑沙に愛想つかされるほうが、やっぱ辛えや」



 生きることにした。



 そのとき雫が月に照らされる。



「おまえ」



「うっうっ、ほんとのホントウ?」



 涙を零していた。



 原理なんて分かりはしない。ただ目の前のお喋りなアニメキャラの人形が嬉しそうに涙をこぼしている。



「わ、わりぃっ、泣かして」



「うんうん、うれしいの



「え······」



 オレは気がつく。カチッカチッ、11時45分。



「ま、まさか······つ、かさ······か?」



「うん、そうだよ、ヒロ、うっうっ」


 人形は病で亡くなった緑沙だった。しかしどうしてこんな姿で目覚めたのかは分からないという。でもオレには、


「オレの、オレのせいだ、ぐすっ」


 オレが生きようとしないで死のうとしてたから······オレが緑沙を人形に宿させてしまったんだ、きっと。それに気づき膝が崩れて泣き、



「ご、ごめんよ、つかさ、オレのせいで、うっうっ」



「ヒローッ!」


「つかさーっ!」



 2人は抱きしめ合った。でも人形である緑沙には人間のときのような肌と肌とが触れ合う感触はない。


「どうして、すぐ教えてくれなかったんだよ」


「あんたがだらしないからに決まってるでしょ」


「わ、わりぃ」


「でも1日ヒロをこき使ったし、死んだ者にとっては儲けもの、かな」


「儲けものって······そう、だよな」


 こうして話してるだけでも奇跡だ。


「それに人形になって思ったけど、ヒロってこんなに大きかったのね」


「ハハッ、オレが大きいんじゃなくて、つかさがちっちゃくなったんだろ」


「そうかっ、ハハッ」


 涙を流してすぐに楽しかった昔の2人に戻った。 


 でも時間だけは皆平等に進んでいく。オレと緑沙はそんな最後の短い時間を星をみながら2人で過ごすことにした。


 11時54分。


「緑沙が亡くなったとき、頭が白くなったよ」


「さびしかったわけ?」


「あたりまえだろ······愛、してるんだから」


「クサ―······あたしも······」


「どうした、つかさ」


 見て気づく、人形の短い手と頭に薄っすらと白い光が。


「人形の、手が見える······そろそろみたい」


「つ、つかさっ!」


 スマホで時間を確認すると58分、何でこんな時に時間とは早いのだろうかと悔む。
 一歩前に出た緑沙を宿す人形は振り向いて、


「変なことになっちゃったけど、ヒロ······あたしもヒロのこと、好き、愛してる」


「うん、ぐすっ」


「でも······もうあんなヒロの姿なんて、見たくない」


 彼女は左下を向きながら悲しそうにそういう。


「ごめん、オレが、悪かった」


 徐々に人形から出る白い光は強さを増していく。彼女が逝ってしまう。


「つかさっ! おれ······おれっ」


「こんどまた、死にたいなんて言ったら、あたしの彼氏クビだからね」


「つかさっ」


「やくそく······だからね······」


「つかさぁぁぁーっ」



 人形から目が眩むほどの白い光に包まれた。



 気がつけば夜月の地面に横たわる人形は、もう動かない。
 不思議な出来事を体験したオレは月を見上げながら2度と緑沙を泣かさないと心に誓った······。
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