暗闇の中、想い出の人形は動いた。

ヒムネ

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車でショッピングモール

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 ――ボサボサ髪を整え伸びたヒゲを剃り身だしなみを整てオレは車を1週間ぶりに運転する。ムカつく人形も連れて。


「はぁ~っ······おいっ」


「なに?」隣の助手席に置いた鞄からチョコンと顔を出す人形、ソーセージを食べて少し落ち着きよくよく考えてみれば何故こいつは喋っているのだろう、そしてなぜ動くのかなど疑問が浮かんできていた。


「お~い、あたしを呼んどいて何も答えないわけ?」


「なんでデートで大型ショッピングモールなんだよ」


「それは······あたしが取ってもらったところだからよ。自分の古巣に帰るってやつ」


 そんなもんかねと思いながらも細目になってハンドルを回す。
 人形の古巣なんてそもそも作られた工場とかじゃないのかと疑問になるもどうでもいいこと。ただ緑沙つかさの伝言を聞ければそれで。


「ねぇねぇ、助手席には緑沙ちゃんが乗ってたんでしょ?」


「ああそうだよ······生きてたときにな」


「どんな感じだったの? おしえておしえてー」


 彼女が亡くなった人の前でよく聞けるな、しかも自分は教えないくせにおしえてって図々しいと感じならも語る。


 18で免許を取得したオレは当時から緑沙と付き合っていた。なので当然彼女にそのことを伝えると、
「取ったばっかだし、あ、あたしは乗らないよっ、嫌だからね」と最初は断られていたが免許を取って半年たったある時、


「ごめーん、ヒロー迎えに来て~」


 緑沙はお母さんと喧嘩して置いていかれオレを呼んだ。


「――それ以降乗りなれて、気がつけばただ乗りタクシーみたいにこき使われた」


「こきって······いやだったの?」


「そ、そんなことは、ね、ねえよ」


「どうして、よ?」


 自車の中なのに鞄からオレを見つめてハンドルの指をソワソワするようなことを平気で聞いてくる人形。


「ねぇどうしてよ」


「ス」


「す?」


「スッ」


「ス~?」



「ス、スキだからに、き、決まってるだろっ!」



「キャーキャー、緑沙しあわせ~」


「だーうるせぇー、運転してんだから変な汗欠かすなーっ」


 何故か告白の様なことになってしまった。この言葉をもっと緑沙に言ってあげればよかったとすぐ後悔の念が押し寄せる。


 そうこう喋っているうちに大型ショッピングモールへと着いた。今日は平日で人もまばら、金のない高校生の頃は緑沙とよくここでデートしたっけ。ゲームセンターで遊んだり、よく服を選ばせられたけど1度も「これよね」じゃなくて「はぁ? こっちっしょ」ってなるんだよな~必ず、んじゃ聞くなよって思う。


「なにボーッとしてんのよ」


「あ、わりぃ」


 鞄からボソッと話しかける人形につい謝ってしまったがとりあえず言われた通り1階のゲームセンターに向かいムカつく人形を取った台に来たが中はもちろん変わっていて別のアニメキャラ人形になっていた。


「ほら、連れてきてやったぜ、もう緑沙の」

「どんな感じだった?」


「はぁあ?」


「ここで2人で取ったときのこと」


「んだよ、ったく次から次へと~」これでようやく緑沙のことを聞けると思ったのに今度は人形コイツを取った時の話しをしろという。
「おしえて~ん」と鞄からちょこっと顔を出し色気声でお願いしてくる人形にホントに腹が立つ、舐められているのかとさえ思いつつも緑沙のためにと、


「お互いに交互にやって······最後に俺が取ったの、それで終わり」


「うそだ~、あのときイチャイチャしてたじゃん」


「お、おま、おまえ何でそんなことを」


「あのとき良く聞こえなくて分からなかったの、だから~」
「またおしえろか?」


「うんっ!」


 人形コイツは悪魔の人形だとオレは強く思った。


「――もうやめようぜ、つかさー」


「ええぇえーっ、やだ、悔しいもん」


「頑張ったって取れねえよ」


「取るもん」


 もう2人合わせて10回もやって取れないし諦めようとオレは緑沙を説得、だが彼女はどうしても欲しいらしく譲らず何かを思いつく。


「あの人形取ってくれたら······キスしてあげる」


「えっ、つかさの、キス?」


 この頃、高校生だったオレたちは付き合ってから1度もキスをしたことがなく、その2文字を聞くと頭の中がピンク色に染まるオレ。


「おーい、そこの変態、なに鼻の下伸ばしてるのかな~」


「はっ、ほ、ほんとうだな?」


「もちろんっ、あたしは嘘つかないよ!」


 頭の中がピンク色のオレはこのときも聞かずに人生で初めて内なる炎が燃えたのを覚えている。


 そして、なけなしの小遣いを使い切り人形をゲットしてとなった。


「――それでそれで?」


「キスしてもらったよ」


「キャーキャー」





 あれはオレの完全な勘違い。緑沙は1度もとは言っていないのに勝手に鼻の下を伸ばして口だと妄想していた······若気の至りだ。


「がっがりするね、それ」


「ああ、ほんっと情けなかったよオレ」


 話を聞いた人形は人目を確認し、いないと分かると鞄から出てオレの腕から肩まで来ると、


 チュッ、


「んあ······なんだよ」


「キスよキス」


 オレの口まで近づいて人形がキス、をしたらしいが人間ではないためもちろん感触はフェイスタオルである。


「······なんでお前とキスなんだよ」


「いいじゃない、ささっ、次行くわよ次」
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