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咲く花
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テーブルにビールとせんべいを置く心麦おばあさん、その目の前に正座して申し訳なさそうに下を向くモユリ。
「落ち着いたか、んで、なんだったんだあれは」
深呼吸して、
「心麦さんに元気を出してもらおうと思って」
「ゴクッ······ふぅ、それで漫才か」
「は、はい~、笑顔にはお笑いが1番かと」
無視され水をぶっかけられたというのに、お人好しなのか鈍感なのか、それともただのアホなのか、心麦おばあさんはさっきの素人漫才を観て拒絶するのもどうでもよく感じてきてしまう。
モユリは変わらず下を向いている、どうやらまだ恥ずかしいらしい。
「······おい、えーっとモユリ」
「あ、は、はい」
「さっきの、もう一回やってみろ」
「え~っ!」顔を上げると突然もう1度と言われて、再び顔を真っ赤になる。
「笑顔にするんだろ、ホラッ、はやくっ」
喜んでくれたのだろうか、見た感じは心麦おばあさんは何も変わっていない。
でも、
「よろしくおねがいします~――」
心麦おばあさんがモユリと読んでくれたことがとても嬉しくて、少しは心を開いてくれたのかも知れないと思いながら漫才をしていく······。
この日から心麦おばあさんのモユリに対しての態度に変化があった。
「――心麦さんおかえり~」
「あ~、ただいま」
「お風呂、沸かしときましたよ」
「ありがとよ」
モユリを追い出すような様子も無くなり冷たい目線も感じなくなったある日、ビールを飲んで酔ったのか彼女に自分の気持ちをこぼす。
「あ~ビールはうまいね~、ゲホッゲホッゲホッ」
「おばあちゃん、一気に口に含みすぎですよ~」
「ハッハッハッ」
心配をよそに大笑いしたあと、
「······あたしもねぇ、昔は男の一人や二人はいたもんさ」
急にどうしたのだろうとパッチリ目を開くモユリ。
「友達も先輩だって後輩だっていたもんさ、だけどねぇ」
20代は遊び、30代で結婚を意識するも相手には恵まれず、40代で結婚を諦め仕事を選び、
「それでいいと思ったのさ、このままでいいってな······でもね~」
50代後半で父、その後すぐに母が亡くなり気づけば独り。
黙っては聞いていると、辛くなってくる。
「そうしてどんどん人は去っていって、気がつけばもうこんな歳になってやがった」
20代のあのとき遊ばなければ、30代のとき一歩足を踏み出して男に甘えてれば、40代でプライドを捨てて素直になっていれば父と母もきっと、と後悔の言葉を口にする。
誰だって若い頃は遊びたい、振られるような危険も出来ればおかしたくない。人としては至極当然のことであるが、その結果が独居老人となった自分を責めずにはいられない心麦おばあさんだった。
「ハハッ、笑っちまうだろ?」
「うんうん、そんなことない」
首を振る。
「人は生きてれば間違うことは必ずあると思います······うまく言えへんけど、心麦おばちゃんの仕事によって笑顔になった方はたくさんいるはずです」
「それでもね、こう婆さんになれば誰も相手にはしてくれないんだよ、人はね」
「そ、そんなっ······そんな、こと」
「ヘヘっ、いいんだよ気を遣わなくたって、おかげで妖精に会えたんだしね」
「おばあちゃん」
「ほれほれ、また漫才やりなっ、ほらっ」
頬を赤らめながらテーブルの上に浮かび漫才を始めると「今日も酒が美味いと」言いながらひたすらモユリを観て面白そうに笑っていた······。
モユリが漫才をしてからというもの心麦おばあさんの笑いは毎日と言っていいほど続き雰囲気もなんだか明るくなり、ついには、
「モユリ、ちょっと掃除手伝ってくれるかい?」
「え~おばあちゃん、手伝います~」
無関心だった家の中を服の絨毯や食べかけのビニール袋が沢山あるも少しずつ掃除を始めだしたのだ。これにはモユリも気合を出して一緒に楽しく手伝い、それは夕方まで続く。
「――いつぶりかね~、地面を拝んだのは」
「ゴミ袋も1、2······5袋、すご~い」
「お前さんのおかげだよ、ありがとよ」
心麦おばあさんの顔を見て自分も元気をもらうほどに変わった様に感じた。もちろんいいこと、でも妖精としてそれは別れが近いことを意味する。それでも寂しい事だけどモユリの嬉しい気持ちの方が勝っていた······。
「ふぅ~、掃除した日の風呂は気持ちいいね~、おや」
風呂上がりに心麦おばあさんがテーブルを見ると、
「スー、スー」とモユリはお掃除と心麦おばあさんのことで安心してうっかり眠ってしまった。
「おやおや、しょうがないね~」
起こそうとした右手を出すも直前で羽の手前で止めた。それは彼女の寝顔を見て、もし自分に子どもがいたらこんな優しい子になってくれたのだろうかと想像してしまう。
「小さくて、寝てると子どもみたい······」
神様なんて興味なかった。
けれどもモユリに出会えたことは感謝すると両手で軽く祈ったあと、
「おやすみ、モユリ」と頭を中指で撫でる······。
そして、お別れ······。
「落ち着いたか、んで、なんだったんだあれは」
深呼吸して、
「心麦さんに元気を出してもらおうと思って」
「ゴクッ······ふぅ、それで漫才か」
「は、はい~、笑顔にはお笑いが1番かと」
無視され水をぶっかけられたというのに、お人好しなのか鈍感なのか、それともただのアホなのか、心麦おばあさんはさっきの素人漫才を観て拒絶するのもどうでもよく感じてきてしまう。
モユリは変わらず下を向いている、どうやらまだ恥ずかしいらしい。
「······おい、えーっとモユリ」
「あ、は、はい」
「さっきの、もう一回やってみろ」
「え~っ!」顔を上げると突然もう1度と言われて、再び顔を真っ赤になる。
「笑顔にするんだろ、ホラッ、はやくっ」
喜んでくれたのだろうか、見た感じは心麦おばあさんは何も変わっていない。
でも、
「よろしくおねがいします~――」
心麦おばあさんがモユリと読んでくれたことがとても嬉しくて、少しは心を開いてくれたのかも知れないと思いながら漫才をしていく······。
この日から心麦おばあさんのモユリに対しての態度に変化があった。
「――心麦さんおかえり~」
「あ~、ただいま」
「お風呂、沸かしときましたよ」
「ありがとよ」
モユリを追い出すような様子も無くなり冷たい目線も感じなくなったある日、ビールを飲んで酔ったのか彼女に自分の気持ちをこぼす。
「あ~ビールはうまいね~、ゲホッゲホッゲホッ」
「おばあちゃん、一気に口に含みすぎですよ~」
「ハッハッハッ」
心配をよそに大笑いしたあと、
「······あたしもねぇ、昔は男の一人や二人はいたもんさ」
急にどうしたのだろうとパッチリ目を開くモユリ。
「友達も先輩だって後輩だっていたもんさ、だけどねぇ」
20代は遊び、30代で結婚を意識するも相手には恵まれず、40代で結婚を諦め仕事を選び、
「それでいいと思ったのさ、このままでいいってな······でもね~」
50代後半で父、その後すぐに母が亡くなり気づけば独り。
黙っては聞いていると、辛くなってくる。
「そうしてどんどん人は去っていって、気がつけばもうこんな歳になってやがった」
20代のあのとき遊ばなければ、30代のとき一歩足を踏み出して男に甘えてれば、40代でプライドを捨てて素直になっていれば父と母もきっと、と後悔の言葉を口にする。
誰だって若い頃は遊びたい、振られるような危険も出来ればおかしたくない。人としては至極当然のことであるが、その結果が独居老人となった自分を責めずにはいられない心麦おばあさんだった。
「ハハッ、笑っちまうだろ?」
「うんうん、そんなことない」
首を振る。
「人は生きてれば間違うことは必ずあると思います······うまく言えへんけど、心麦おばちゃんの仕事によって笑顔になった方はたくさんいるはずです」
「それでもね、こう婆さんになれば誰も相手にはしてくれないんだよ、人はね」
「そ、そんなっ······そんな、こと」
「ヘヘっ、いいんだよ気を遣わなくたって、おかげで妖精に会えたんだしね」
「おばあちゃん」
「ほれほれ、また漫才やりなっ、ほらっ」
頬を赤らめながらテーブルの上に浮かび漫才を始めると「今日も酒が美味いと」言いながらひたすらモユリを観て面白そうに笑っていた······。
モユリが漫才をしてからというもの心麦おばあさんの笑いは毎日と言っていいほど続き雰囲気もなんだか明るくなり、ついには、
「モユリ、ちょっと掃除手伝ってくれるかい?」
「え~おばあちゃん、手伝います~」
無関心だった家の中を服の絨毯や食べかけのビニール袋が沢山あるも少しずつ掃除を始めだしたのだ。これにはモユリも気合を出して一緒に楽しく手伝い、それは夕方まで続く。
「――いつぶりかね~、地面を拝んだのは」
「ゴミ袋も1、2······5袋、すご~い」
「お前さんのおかげだよ、ありがとよ」
心麦おばあさんの顔を見て自分も元気をもらうほどに変わった様に感じた。もちろんいいこと、でも妖精としてそれは別れが近いことを意味する。それでも寂しい事だけどモユリの嬉しい気持ちの方が勝っていた······。
「ふぅ~、掃除した日の風呂は気持ちいいね~、おや」
風呂上がりに心麦おばあさんがテーブルを見ると、
「スー、スー」とモユリはお掃除と心麦おばあさんのことで安心してうっかり眠ってしまった。
「おやおや、しょうがないね~」
起こそうとした右手を出すも直前で羽の手前で止めた。それは彼女の寝顔を見て、もし自分に子どもがいたらこんな優しい子になってくれたのだろうかと想像してしまう。
「小さくて、寝てると子どもみたい······」
神様なんて興味なかった。
けれどもモユリに出会えたことは感謝すると両手で軽く祈ったあと、
「おやすみ、モユリ」と頭を中指で撫でる······。
そして、お別れ······。
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