心傷ついた受験生と妖精マキ、そんな二人がお互いを想い合い立ち直る妖精物語

ヒムネ

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約束

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洸介こうすけ、こうすけ、

 落ち着いたように見えたけど、それは見えただけで心が病んでたらまた自殺してしまうかもしれないと不安が襲ったが、


「こうすけ······」


「ん、起きたみたいだね、おはよう」


 机に向かってなにやら勉強をしているようだった。


「なにしてるの?」


「勉強だよ、勉強」


「そう」胸がバクバクしてホッと膝から崩れ落ちたマキ。
 このあともしばらく洸介は集中して机で勉強をしていた······。


 お昼の時間になって一緒に食べたが、洸介に変化はなく再び椅子に座り勉強を始めだす。

 これは、と気にはなったものの目を離すわけにはいかないと座ったら、


「また見張り?」


「······そうよ」


「暇じゃない?」


「え、なによ」


「静かにするんだったらそこのゲームでもしてていいよ」


 意外な言葉が飛んできて頭が真っ白になる。そりゃ暇じゃないといえば嘘にはなるが、明らかに彼の何かが変わったような気がしてしまう。


 そのまま夜になり夜食も一緒に食べ机に向かうと昨日までの騒ぎとはまるで別の世界のよう。


 ところが勉強を始めて午後9時を過ぎたころ、


「はぁ~」


 ドタッ、と机に寝そべる洸介。


「洸介、今日はもう止めない?」


「う~ん、少し休憩する」


 ベッドに仰向けになる。マキはこの年頃の子はすごいと同時に大変だと思う、自分の人生が左右され周りの期待も背負って、加えてプレッシャーとハードな勉強時間との戦いに見を投じるのだから。

「······マキ」

「な、なに?」考えごとをしてはっとする。


「人間って、どうしてこんなに不安定なんだろう。つい昨日まで、『もうダメだ死にたいっ』て思ったのに」


「いま、は?」


「いまはこうしてベッドに寝ていて、なんていうか昨日とは違う気持ちよさかな」


「そう、なんだ」


 やっぱり心境の変化はあったみたいだけど油断はできないと彼を見る。
 すると少しして彼は起き出し机に向かった。本当に勉強なんだろうか遺書だったらと心配でこっそり覗きもしたが難しい計算が目に入りちゃんと勉強はしているよう······。


 自殺衝動のようなことは起きずに2日目に、

「マキってずっと僕のところにいるの?」

「それは、困った人の悩みが解決すればあたしを見ることはできなくなる」

「そっか」

 奇妙なことも訊いてきて、つい油断をしてしまいそうになってしまう。それほど今の彼は安定しているように、頼もしく見えてしかたない。

 その夜のことだった。彼がめずらしくタブレットやスマホなどで勉強しながら、

「マキ、あのさ」

「······なに」今日は正座をしながら見張っている。


「ありがとう」


「え!」


 勉強しながら言ってきた一言、また自殺かそれとも本当の言葉か。


「受験落ちたときの僕ってさ、落ちたらどうしよう恥ずかしい、怒られる、バカにされるとか自分のことしか考えてなかった」


「そんなことは」誰だって落ちればショックを受けるのも無理もない。


「でも飛び降りたとき助けてくれて、そのあと一緒に話して、マキが涙を零したとき思ったんだ」


「なんて?」


って」


「こうすけ」


「なんかまだハッキリとはわからないけど、苦しかった、僕がしっかりしなきゃって······直感して、だから僕ちゃんと勉強して受かってそういう哀しむ人を救える人になりたいんだ、間違った、なるよ」


「だ、だまされないわよっ!」


 マキの口は震えていた。ウソかもしれないしホントかもしれない、どう信じれば良いのかわからなくなっていたのだ。


「また、また死のうとしてるに決まってる」


 こうやって信用させてまた私を悲しませるんだと涙目になって彼を自殺した少年と重ねる。


 すると洸介は椅子から降りて彼女抱きしめた。


「ホントにごめんね。すぐにとは言わない、時間はかかってもキミに信用してもらうまでがんばるから」


 マキに気持ちを伝えた洸介は同時にあることに気がつき、


「だからマキ、


「ぐすっ、やくそく?」


 その日2人は約束を交わす······。


 その5日後の買い物の帰り、


「マキ、イチゴのサンドイッチでよかった?」


「うん」


 友達のように家に帰ったとき、


「じゃあマキ······マキッ!」


 さっきまでいた彼女は部屋を探すもどこにも姿がない、


「······そうかやっぱり、か」


 わかっていたかのように食事を済まし勉強をする洸介。


「――、のね」


 どこぞの屋根の上に体育座りをして空を眺めていたのはマキ、


「受験に落ちて死のうとして、立直って目標を決めて、また大変な勉強に身を投じる。すごいことよ······でもあたしを抱きしめるなんて、100年はやいわよ」


 人とは小さなきっかけで傷つき、また小さなきっかけで立ち直る姿を見せてくれた洸介に感謝し、


「あたしも······ふぅ~っ、変わらないとね」


「おーい」


 前にケンカした赤い妖精がやってきて妖精お婆ちゃんが呼んでいるという。とうぜん彼女には警戒されている。


「――そんなわけだから、つ、伝えたからね、じゃあ」


「まってっ」


 振り向く赤い妖精、マキはここで私も逃げるわけにはいかないと覚悟を決め、


「この前はごめんなさい、謝るわ」


「え······」


「失敗したことに苛ついてあなたに当たってしまったの」


 赤い妖精は頭を下げたマキに笑顔に「いいよ」と許した。


「ありがとう、スカーレット」


「一緒にいこうよ、


 2人は妖精界へと飛び立っていった······。


 1年後。

「――やったっ、合格っ、やった、やったよ、マキッ!」

 洸介は受験に見事合格をする。マキとの出会いから焦ることはなくなり2回目ともあって心身にある程度の余裕があった。

 そして何よりも死んでいたかもしれない自分がこうして生きていることのありがたみを今はいっぱいに味わう。

「さてと」

 帰り道に彼は公園により空を見上げて、


「あらためてマキ、合格したよ。キミが助けてくれたから、キミの涙を見たから、僕はこうしてここにいる。ありがとう、だから」


 ――約束してほしい、たぶんマキが見えなくなると思う、だから受験の結果が終わったら合図してくれないかな――。


 そのとき、


 桜が舞「うわっ」と驚いたその右手に届いたのは桜の花のメッセージカードが、


『みてたわ、応援してるからいい男になりなさい、マキ』


「マキ······ありがとう、ぐすっ」


 もう1度見上げた青空、目に見えずともみえる気がした、クールでやさしいマキの笑顔が······。


 妖精、それは悩んだり頑張ってる人達に手を差し伸べる、そんな生き物。
 次に彼女が見えるのは、あなたかも知れない······。
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