花火でみえた少年と幽霊の『真実』

ヒムネ

文字の大きさ
上 下
4 / 4

名前を呼んで

しおりを挟む
「ど、どうしたの仁藤にとうさん、どっか痛くなったの?」

「・・・うんうん、そうじゃないの、ううっ」

 どこか悪いわけじゃないならどうして。せっかく花火が鳴ってるのに・・・やっぱり屋台のことで食べられなかったり遊べなかったりして今になってショックだったのかもしれない。


「せっかく一緒に来たんだし花火観ようよ、そうすればさっ、悲しいことなんて吹き飛ぶかもしれないし」


「うん、うんっ・・・わたし」


 涙をこぼして口を手で塞いで震えて話す彼女。


「いま、すごい、しあわせ」


「え・・・」


「自殺して、気がついてお父さんお母さんに話しかけてもわからなくて、どうすればいいのかわからずに15年間もさまよって・・・つらかった、自殺して後悔した、誰に話しても私の声は聞こえない・・・私にはみんなが見えてみんなには私がみえない、だからずっと一人ぼっち、孤独だった」


「・・・たいへん、だったね」


「でもそんなとき、池で大輔だいすけくんと出会って、最初は驚いたけど、すっごく優しくしてくれて嬉しかった・・・それで思っちゃった、やっぱり私は人が好きなんだって」


「人が・・・すき・・・」


「うん、イジメられたり、親に怒られたりしたけどやっぱり私は人が好きだって」


「・・・そうかもしんない、オレも友人とかめんどくせーって思うけど人が好きっていうのなんかわかる気がする」


「ありがとう大輔くん」


『はじめて胸がドキドキする――』


「うん、オレも仁藤さんが気づかせてくれて感謝だよ、ありがとう」



『この気持ち・・・わたしは大輔くんが――』



「それでね、わたし・・・」


「うん」


「わたし、消えることに決めた」


「・・・やっぱりそうなんだ」


 消える、それは別れを意味する。


「正直ずっと恐かったの、消えるってもしかしたら地獄にいくかもしれないって思ったら」



『でも、いわない――』



 それは、誰でもこわい・・・。


「でもやっぱり生きて出来ることをしたいって大輔くんのおかげで想えたから」

「それはよかったよ」

「それでね、ただ消えるだけじゃ寂しいからお願いしたいことがあるの」



『わたしは死人で霊体だけどあなたは生きてる――』



 何故か花火に夢中な人たちを避けて河川敷の裏側まで歩いた。


「それでどうするの」


「・・・あの、さ・・・



『あなたの足かせにはなりたくない、死人のわたしのことを引きずってほしくないから、だから――』



「え! な、ななんで?」


「・・・最後くらいは、名前で呼ばれて・・・消えたいの」



『だからあの言葉は、いわない――』



 オレは16年生きてきて女の子と面と向かって下の名前で呼んだことは一度もない。だから恥ずかしい、けど彼女は未来に向かって行くためにも逃げるわけにはいかない。


「あ、あ、あおい・・・さん」


「あ、最後に『さん』がついた、やりなおしぃ」


 オレよもう腹を決めるんだどうにでもなれ。


「ふぅーっ・・・葵」


「・・・ぐすっ」


「え、だ、ダメだった?」


「うんうん、ありがとう大輔くん」


 葵が薄くなっているのがオレは見えた。


「だいすけくん・・・わたしはもう消えるけど・・・学校がんばってね」


「あ、うん、がんばるよ・・・あおい」


「また呼んでくれた・・・フフッ」


「あのさっ、花火の菊を調べたことがあったときっ、そこには花言葉で『真実』って書いてあったんだっ」


「え」


「自殺しちゃった葵だけどそれで15年間も後悔してちゃんと反省して『いけないことをした』『生きたい』『消えることを決めた』葵は、真実に向き合った葵は、ぜったいに地獄なんかいかないからっ」



「ありがとう・・・やさしい・・・すけくん・・・」



『さようなら・・・わたしの大好きな・・・だいすけくん・・・』



 葵は大粒の涙を零して未来の先へと消えていった。辛い思いをして15年間さまよっても最後は笑顔で、きっとほんとうの葵は元気で明るくて純粋な女の子なんだ。

 それと礼を言うのはこっちの方だよ葵。オレ学校がつらくて『死んだほうが楽かも』って思ったこともあってさ、軽く考えてた。でも葵と話して一人ぼっちの寂しさと触れられない哀しさとか、涙を見て目を覚ましてもらったから・・・。

 オレはしばらく葵を見送った場所から動けなかった。花火の音が妙に寂しく感じながら・・・。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...