花火でみえた少年と幽霊の『真実』

ヒムネ

文字の大きさ
上 下
1 / 4

夜の池

しおりを挟む
『今日は花火あるから一緒に観に行きたい人』
『いく』
『行きまするん』

「今日は用事があるから見に行けない・・・っと、ふぅただでさえ高校とグループLINEで一緒なのにこれ以上一緒なんてごめんだぜ」


 愚痴りつつたどり着いたのは人気のない林に囲まれた池のほとり、まもなく始まる花火を静かに穏やかに観ることが出来るだけでなく西と東それぞれ別の花火を堪能できる隠れスポット。

「6時58分そろそろだな、スマホの電源は切ってと」

 今日は雲ひとつない紫色の空の東側を眺めていると花火が一発、二発と遅れて大きな破裂音がなる。


「・・・癒やされる」


 耳に響く花火がオレの常日頃の疲れという波を穏やかな海にする。ほぼ毎日つきあわされる仲間のコミュニケーションと逃げ場のないネットワークには日々ストレスが溜まって心身が疲れてた。だからオレは夏恒例の花火を静かに過ごしたいと思い毎年夏休みにはここに来る。

「はぁーっ・・・あ、一旦終わりか」

 ほんとうに何か最近疲れたなと腰を下ろして体育座り。どうして子供ってこんなに大変なんだろう。どこまで頑張ればいいんだろうか、テストやらスポーツやらと高1になってもまだ2年3年とあるしその間に友だちとの付き合いも続けなきゃいけない、

「はぁ~、ため息も付きたくなるよ・・・ほんとに」

 下を向くと今度は大きな牡丹の花火が鳴ったのでまた顔を上げ、また癒やされる。

「花火って大きいよな・・・ん」

 気配のような気がした。毎年この時間に人が居ることはないのだがと右に向いたら乗用車くらいの距離にショートカットの女の子が花火を観てた。オレと同い年っぽいけど見たことのない制服、他校か。ここに気付いた人が現れたって思っていたら向こうも気がついてオレはすぐ空を見上げた。


 だけど視線を感じる。


 じっと空を見上げて体感では5分くらい、でもまだ見られてる気がした。


 まだ見てる・・・このままじゃ花火に集中が出来ない。しかたないと、

「こ、こんばんは」

 オレは挨拶をしたらなにやら相手の女の子は少し驚いてる顔をしてるような。

「わたしが・・・こ、こんばんは」

 話す言葉も見つからず沈黙、そりゃするよ他人だもん。でも挨拶したしこれでいいだろ。そのとき大きな花火の音、と同時に明かりで互いの顔がはっきりと見えた。


「よ、よくここに来るんですか?」

「え、ここに・・・来るっていうかなんていうか・・・はい、あの花火綺麗ですね」

「柳ですか、そうですね」

「やなぎ? あれ柳っていうんだ」


 どうやらこの子は花火の種類を知らないみたいだとこのときオレは花火自慢スイッチが入って彼女に色々と説明してしまう。


「――あれは千輪菊ってやつで」

「へー、花火に詳しいんですね」

「ってごめん、説明しちゃって」

「うんうん、教えてくれてありがとう」


「・・・あのさ、オレ、津西つにし 大輔だいすけ、君どこの学校の生徒?」


「あ、そっか~そうだよね・・・私は仁藤にとう あおい、じつは・・・なの」


 花火の話で盛り上がった熱が一気に冷めた。幽霊って~・・・よく見りゃ彼女の膝から下の足がない、え、どうしよう、これはもしかしてピンチかも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...