~赤き龍が町娘に恋をした~

ヒムネ

文字の大きさ
上 下
16 / 20

大空

しおりを挟む
「キャッ」


 洞窟の空いている天井を抜け出しどんどんと上昇していく。


 しっかりとロマーヌが濡れぬように右手で屋根を作りながら。


「す、すごーいっ!」


 レッド·ドラゴンの手に乗り見える景色はフローティアの町がフライパン位に感じる。


 大海原も見えて雨が降ってなければ最高だっただろう。


「ああ、もう、何でこんな時に限って雨なのかしら」


「そうだな、では別の晴れている所に行くか?」


「え、行きたい、です」


 灰色の雲に覆われたフローティア、せっかく空に飛んでいるというのにと思っていたところに彼から提案で行くことにした。


「では行くか」


「でも濡れてしまいますが、お願いします!」


 そう言っている彼女にニヤリとしたレッド·ドラゴンは、


「ふふっ、濡れはせん」


「え、どういう事ですか?」


 疑問を感じるや否や再び上昇し始め、フローティアが更に小さくなって行ったとき、


「キャッ、なに?」


 煙の中と思いきや、


「雲の中だ」


「くも······って、あの空の雲ですか?」


「そうだ」


 一度も雲の中など入れるはずもないため驚くはずが、もう色々ありすぎて頭が付いていかない。


 そして雲を突き抜け、



「青い······空······」



 青い空と太陽、ついさっきまで灰色だった空と、雨で濡れながらも走っていたのに、いま目の前で見る風景はまるで夢のようにどこまでも青い空が続いていた。


「どうだ? 驚いたろう」


「は、はい······ごめんなさい、なんか、不思議なことがありすぎて」


 言葉が出てこないが変わりに眼は輝いている。


「では晴れている所まで飛ぶぞ」


「え、は、はい······」


 ぎこちない返事でも喜んでいると感じ大空を飛び進むレッド·ドラゴン。


 このあとも別の大陸に向かう時、海を眺めてクジラやイルカを見かけたり、知らない海辺に着陸し裸で歩いた。


 そこで彼に言われ背中に乗せてもらい砂漠にも寄ったが、砂嵐などにも遭遇し口に砂が入り大変な事もあったけど何もかもが始めて足を踏み入れる事がたまらなく嬉しかったのだ······。



「はあ~、まだ信じられないです」


 赤い龍の頭の上に乗りながらそう言うと、


「なにがだ?」


「今、私は空を飛んでいる。そんな夢のような、奇跡のような事を体験しているなんて」


「ふふっ、牛の肉はあまり食べなかったがな」


 お昼を忘れたロマーヌは試しにとレッド·ドラゴンが焼いて食べる牛を食べたのだが、


「レッド·ドラゴンさんほど私は大きくないので、たくさんは食べられません、それに味付けもできなかったし」


 料理人の彼女は食べながらも自分で味向けをしたかったようだ。


「ロマーヌ、次は山に行こう」



「山ですか、はい!」


 フローティアの大陸を離れた遥か東の大陸の山へと着いた。


 そして山頂に着陸すると彼は、


「ここは我がたまに立ち寄る山、大自然を見るとなぜか気持ちが落ちつくのだ」


 言葉が通り大森林がどこまでも続き耳を澄ませば動物達の鳴き声も聴こえる。


 それだけのはずなのに心が洗われるような不思議な癒やしをあたえてくれていた。


 互いに静かにしていたらロマーヌから、


「レッド·ドラゴンさん、一週間会えないって言ったときありましたよね」


「······ああ」



「ひょっとして、あの口から出す火の練習をしてたんじゃないですか? 人の命をもう、奪わないために」



「ああ、んん~······」


 彼女の感はあたっていた。


 ロマーヌとの約束を守るためと一度もしたことのないファイヤー·ブレスの訓練をしていたのだ。


「できるかどうかもわからなかったが、できた時は驚いた。と同時に、自分の事も意外と知らないのだとも気づかされたよ」



「約束を守ってくださるなんて、やっぱりレッド·ドラゴンさんは『誇り高き龍』なんですね」


 何も返さなかったが頭の上に乗っている彼女はわかっていた。


 恥ずかしいのか熱くなっている事が。


「······ロマーヌ」


「はい」


「最後はもっとすごいものを見せよう」


 彼はまだ何かを見せるといい、一旦フローティアに戻る事に······。



 どこかの空から、


『秩序を乱すものに制裁を与える――』 
しおりを挟む

処理中です...