~赤き龍が町娘に恋をした~

ヒムネ

文字の大きさ
上 下
14 / 20

ボランティア

しおりを挟む
 日が顔を見せる朝、町の人達は寝る間も惜しんで浸水の後片付けをしていた。


 沢山の泥、倒れた家具、割れ物や重たい物、それを皆が手伝いながら。


 ロマーヌはフィンの家に来ていた。


 頭に包帯、頬にはバンソウコウ、その彼が身体を張って自分を助けてくれた事を改めてお礼をしに、


「フィン昨日は本当にありがとうございました」


 頭を下げる。


「い、いや~、そんな、頭を上げてください」


 そう言われゆっくりと頭を上げると、


「私あなたを見直しました。あんなに勇敢だったなんて」


「そ、そうですか~、ははっ」


 右手を後ろにやり首を触る。


「でも昨日はホントッ、ロマーヌさんは災難でしたね。青い龍に脅迫されたり、泥棒に人質にされるなんて」


「ホントですね、もう二度とごめんです。フフッ」


 いい雰囲気、だがフィンは、



「ではロマーヌさん、僕はこれからご近所の手伝いに行きますので」



「えっ、怪我してるのに?」


 玄関で話していた彼は靴を履き、


「怪我は一週間もあればほとんど治ります。でも津波をうけた所はすぐには直りませんから、だから」


 ドアノブを握る。



「だからロマーヌさんも早く行って得意の手料理を振る舞ってくださいよ」



 前向きな彼に男らしさを感じてロマーヌも、



「はいっ、そうします!」



 彼女は自分の役割の場所へと向かっていった。


「ロマーヌさん······」


 元気に走って行くロマーヌの後ろ姿を見て、ああは言ったものの本当は彼女はとずっと話していたいと思いながらもそれは同時に自分にとっても辛い事でもあるのだ。


 彼女の気持ちは自分に無いのだから······。

  

  噴水場所で無料で食事を提供しているお母さん達の元に着いたロマーヌは、


「お母さんごめん、遅れました」


「ああロマーヌ、早く手伝って」


「うん!」


 位置に付くと、渡されたお皿にはライスが半分よそってあり彼女はそこにカレーを半分のスペースに加えていく作業。


 早朝であるため人がどんどん増えてきて行列が出来るほどだった。


 それだけでなく、


「ああ、町娘だ!」


「ロマーヌちゃんや!」


 フローティアの町娘でレストランで働いて皆が知っている事で、人が更に集まっていき大変と思いきや、


「いらっしゃいっ、どんどん食べて、仕事頑張ってくださーい」


 逆にプロ魂に火がついていく、ロマーヌは心の底から料理、接客が好きなのだ······。



 午前九時を過ぎた頃に人も減り少しの休憩に入る。


「はぁ~、けっこう大変だったな~」


 外に出してあるお客さんが食べる場所用の木製テーブルにぐったりとする。


 だがちょっと休んで十時頃にはお昼に向けて調理しなくてはいけない。


 その材料もまちの人達の恵み、それが無ければこんな無料提供はとてもできない。


「う~ん······よし、頑張ろっ」


 両手を空に向かって伸ばしお昼の準備へと戻っていく······。



 フローティアが津波をうけて三日目の夕方の事、ロマーヌは龍のねぐらでレッド·ドラゴンに会い、


「はい、レッド·ドラゴンさん食べてみてください」


「う、うむ」


 彼女は約束したお弁当を持ってきて彼に手作りパスタを食べてもらうが、


「どうですか?」


「うむ、美味いと思うが······」


「えっ、まさか」


 味付けには自身があった。


 しかし、


「やはりしかたのない事だが量が少ない」


 それもそのはず、レッド·ドラゴンにとっては米粒一つのような物。


「やっぱりですか~」


「すまない、味は良いと思うがなにせこの図体なのでな」
 顔だけでもロマーヌが乗れるほどの大きさ、どうしようもないことだった。


 がっかりする彼女だが、ふと閃く、


「そうだ、レッド·ドラゴンさん、明日の夕方に洞窟のすぐ外で自分が食べられる大きさの食べ物を持ってきてください」


「ん? 分かった、持ってこよう」


 精神感応テレパシーで了解し今日はこれで帰るロマーヌ······。



 次の夕方、
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

夫は平然と、不倫を公言致しました。

松茸
恋愛
最愛の人はもういない。 厳しい父の命令で、公爵令嬢の私に次の夫があてがわれた。 しかし彼は不倫を公言して……

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...