ロボット先生

ヒムネ

文字の大きさ
上 下
34 / 35

5年目の真実······

しおりを挟む
 木々の下を歩く一人の女性は自分の母校で立ち止まる。
「あ~、久しぶりだなぁ」
 2、3階の窓から見える教室、1階の下駄箱に自転車置場など、その雰囲気がとても懐かしく一気に高校生気分に戻っていく。

「秋先輩!」

 彼女を呼んだのは、

「九美~、LINEありがと、久しぶり」

 学校の入り口に立つ九美だった。

「本当ですね~」
 しかしその容姿は変わっていて、オフホワイトのスーツにショートカット、顔も大人びている。
「でもホントッ、教師になるなんて、とても不良だったとは思えないわね」
「止めてくださいよ先輩、恥ずかしい」
 彼女は人生を変えてくれた先輩達や先生達のように自分もと思い元不良の仲間や後輩達に得意の勉強を教えていくうちに、教師の道をめざし見事に教師になったのだ。
「先輩だってもう立派な看護師じゃないですか」
 秋も看護師になっていた。看護師の先輩である間城 アンと黒井 泊二人に高校卒業後もコンタクトをとってアドバイスを貰いながら大学を卒業し、晴れて憧れである看護師へと就職したのだ。
「まだまだ新米よ。ところでどうして今日集まるの?」
「あと二人来ますので」
 すると、
「オ~イッ!」
 明るい声、でも少し大人びたパールとその隣に高弘が、

「パール~、お寿司美味しかったわー!」

 パールは卒業後、お寿司の専門学校に通って念願の寿司屋になった。そして今は、自分の店を開くために他の寿司屋で働いて、そこに月に一回秋は行っていた。

「相変わらずだな」
 高弘は短大に行き卒業後、高校の時に体験した障害者施設で働いている。
「パール先輩、高弘先輩、お久しぶりです」
「オ久シブリ、九美」
「久しぶり、前みんなで会ったのは去年の12月だったよな、たしか」
 当時を思い出しながら教室へと足を運ぶ。
「懐かしいな~」
「あまり変わってなくて良かった気がするな」
「何カ、マタ学校キタクナル」
 浸っている三人を見てニッコリとしたあと真剣な顔つきになる九美は、

「先輩たちに集まって頂いたのには、理由があります······大井先生お願いします」

 扉から上が薄い黄緑と下がグレーのスーツの大井先生が入って来て、

「みんな久しぶり、大人になったわね」

「大井先生っ!」

 大井先生の姿は変わってなく元気そう、でも前のようにキャピキャピさはなくなって何となく前よりも先生としての風格が出ている。三人は驚いたが話は続く、
「皆に話さなければならない事があります。覚悟して聴いて下さい」
 皆どうしてと思いつつ真面目な顔つきになり大井先生は語りだす。
「この話は5年前の、卒業式が終わったあとの事です······」
 
 ――それは、生徒達がいなくなった卒業式の終わりに先生達が後片付けをしていると、
「ではロボット先生、行きますよ」
「はい」

「ちょっと待って下さいっ!」

「大井先生、あなたが何言っても変わりませんよ」
 ロボット先生を送る役員の方は言う。

「分かってます。でも、少しお時間を下さい、お願いします」
 大井先生は頭を下げた。
「······わかりました」
「20分位で良いのでっ!」
 何とか20分の時間を貰い、
「ありがとうございます、ロボット先生行きましょう」
「どこに······」

「教室です」

 そう言ってロボット先生の手を掴み教室に急いで連れていく。
 彼女は秋と彼の約束を果たさせるため、
「ロボット先生は秋さんにメッセージを、私はスマホで撮りますので」
 大井先生の考えを理解したロボット先生は、
「そうですね、ではお願いします」
 秋への合格メッセージを撮り始めた――。

「撮り終わりです······ロボット先生」
「ご協力ありがとうございました。大井先生」
 そのいつもの優しい声に、
「ホントに、何も出来なくて、すいません、ロボット先生」
 下を向き助けられない悔しさで涙を見せる。
「泣かないでください、大井先生」
「でも、でもやっぱり納得いかなくて······こんな、酷い事」
「大井先生が言いたいことが沢山あるのは、分かります。でも前を向いて下さい、生徒たちにはあなたのような方が必要です」
「ロボット先生」
 今の状況に絶望し人の残酷さしか見えない彼女、教師を辞めようとさえ思ってしまう。
 それでも彼の言葉が心に染みる。今の生徒達にロボット先生の事を少しでも記憶に残してほしい。
「大井先生、時間がないですが今度は皆に向けてムービーを撮りたいのですが」
「ぐすっ、はい、すいません」

「――そのあと、ロボット先生は処分されに行きました」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ライトブルー

ジンギスカン
青春
同級生のウザ絡みに頭を抱える椚田司は念願のハッピースクールライフを手に入れるため、遂に陰湿な復讐を決行する。その陰湿さが故、自分が犯人だと気づかれる訳にはいかない。次々と襲い来る「お前が犯人だ」の声を椚田は切り抜けることができるのか。

ひみつの休息

篠崎春菜
青春
 「女性の添い寝フレンドを募集しています」。SNSのそんな投稿から始まった、二人の高校生の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...