ロボット先生

ヒムネ

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温泉

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 5月、木の葉が生えると同時にピークを過ぎた桜の花びらが落ちている。

 そんな中、学生達はゴールデンウィークの真っ只中。家族と海外に行く生徒もいれば、家族と家でのんびり過ごす生徒、家で勉強する生徒もいて、百人百様。
 そのゴールデンウィークで、家族で長野県の温泉に行ってきた秋は悩んでいた······。

 ある温泉宿に泊まりに来ていた秋家族。
「あーっ、気持ち良かった」
 温泉から上がり気分良く歩いていたら、

「ううっ······」目の前でおじさんが苦しそうにしていた。

「おじさん、大丈夫ですか?」
 話しかけるがなんとその場で倒れたのだ。
「え、そんな」
 秋は、頭の中が真っ白に――ではなく。

「えっ、AEDだ」

 高校でAEDの講習が咄嗟に頭に浮かんで、温泉宿の玄関まで走って係りの人に、

「救急車お願いします!」

「えっ、どう」
「人が倒れたんです!」
「わっ、分かりました!」
「あとAED借りますっ!」
 受付の近くに掛けてある重さ約3㎏のAEDを右手に素早く持ちあせる気持ちを抑えつつ急いで戻る。

 倒れたおじさんの所に戻ると、
「あなた~!」
奥さんが叫んでいたが、
「すいません、どいてくたさい!」
「なんなの、あなたはっ!」
 奥さんが動揺していたので秋は必死で恐さを隠して、

「大丈夫ですから」

 そんな余裕がないにもかかわらず笑顔を見せた。その彼女を見て奥さんが少し落ち着いたので秋は、

「電源をつけて、衣服を脱がして2つパットを着ける······」

 確認するかのように、ぶつぶつと小声独り語。
 AEDが心電図を解析し点滅。
 すぐボタンを押すと、秋はひじを伸ばし垂直に全体重を掛け胸骨圧迫を施す。

 やがて人だかりになってきて、
「秋っ!」
 両親も女の子が何かしているとの話を聞き駆けつけた。しかし娘の必死さに両親はどうして良いのかわからない。

 その間にもAEDが『電気ショックが必要です。離れてください』と音声ガイドに従いショックボタンを押し再び胸骨圧迫を始めるが、

「はぁ、はぁ······」早くも彼女の息も切れてくる。

 それもそのはず、胸骨圧迫は1分間に100から120回程続けるのは大変なのだ。
 腕の力も無くなってきて汗を流す必死な秋、

 その時、

「ちょっとどいてください」
 長髪の女性がお客をどかし、

「変わるわっ、お嬢ちゃん!」
 ショートカットの女性が秋に言うと、
「えっ、はい」

「私達、看護師なの」
 思わぬ救いの手が、一人の懸命な高校生の女の子に差し伸べられ二人に代わる。

 両親の二人は、
「おおっ、秋!」
「良くやったわ!」
 しかし秋はただただ頭が真っ白だった。

 ――そのあと救急車が到着し、倒れたおじさんは担ぎ込まれて奥さんも一緒に病院へ向かった······。

「はぁーっ······」
「秋すごいしゃないか、ハハハッ」
「そうよ~」
 びびっていた両親にムカついた秋は細目で両親を睨み、 

「何よっ、手伝ってくれなかったくせにっ!」

「ごめんよ~」「秋が凄くて~」と言いつつ反省する二人、
「もうっ、あたし疲れて汗かいたから、また温泉入ってくる」
 両親は頑張った娘に声を揃えて、
「いってらっしゃ~い」手を振る。
 自分の娘が必死なのに手伝わないなんて、最悪な両親と思この時はわずにはいられなかった。

 親に呆れながら温泉に向かうと、

「ちょっと、あなたっ」

「んっ、あっ」
 代わってくれた看護師の二人、
「さっきのお姉さん、ありがとうございました」
 二人は秋に近づき、
「礼儀も良いのね~」
「あたし達、あなたに感銘したのよ。あなたは高校生?」
「はい!」
「やっぱりそうなのね。すごかったわー、あなたみたいな子が看護師にほしいわね」

「えっ、あ、あたしは······」

「悩んじゃったじゃない」
 長髪の女性がそう言うと、
「ごめんなさいね、つい」
 ショートカットの女性は謝った。
「いえっ」

「呼び止めてごめんなさい、とにかくあなたにお礼言いたかったの、ありがとう」

「いえっ、こちらこそ助けていただいてありがとうございました!」
「今から温泉?」
「はい、汗を掻いたのでまた入ろうかと」
「そう、じゃあね、勇敢なお嬢ちゃん」
「では」

 そう言って去っていく二人の看護師の後ろ姿がカッコ良く、あの時の彼女達の安心感と人を救おうとする強さに憧れた自分に気づいた秋だった······。
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