波に乗れない少年が妖精スカーレットと出会い波に乗る妖精物語

ヒムネ

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お父さん

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 ――午後、今日の河原子は天気は所々に雲はあるものの問題はなく、人も変わらず多くいる。
 軽い気持ちで言われた言葉に傷付いた息子と、お調子者の妖精は、お父さんを待ちやがてやってきた。

「どうしたんだ之朗、この前のことは」

「親父に見せたいことがある」

 彼はサーフボードを持ちながら海へ歩く。

「僕、波に乗れるようになったんだ。見ててよ」

「ホントか?」

 疑うお父さん。スカーレットは、

「調子はどう?」

「大丈夫、昨日あれだけ一緒に練習したんだから」

「うん、信じてる!」何の心配もなさそう。

 一方で息子が一人言を喋っているのを見ていたお父さんは、

「お前~、大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ、ただの一人言だから」

 すっかり忘れていたが他の人には妖精は見えない。気を取り直して浅瀬から波を待ち、いよいよ始まる。


 やって来た波は丁度良い高さ、すかさず海面を手で漕ぐパドリングし、昨日の練習通りに両手を胸の近くにそろえると、波に乗り徐々に体を起こし、

 立ち、上がった。

「おっ!」

 腕を組んでいたお父さんもつい声を出す。

 ところが、

「くっ」

 彼はすぐに落ちてしまう。

「なん、で······」

 あんなに彼は練習したのに一瞬の出来事で唖然とするスカーレット。タイミングや動きに問題は無かった。なのに何故か之朗は落ちた。

 駆け寄るお父さんは、

「大丈夫か? ほらっ」手を差し伸べる。

「······親父」

 なんて言ってあげればいいか言葉が見つからない彼女だが、


「もう一回やらさてくれ」


 之朗の眼は諦めてはいなかった。更にお父さんの手を握る姿に笑顔になる彼女は、

「できるよっ、シロウッ!」

 声援を掛けたのだが、お父さんの方から、

「今日はもう止めよう」


「いや、出来るから僕は」
「その脚、怪我してるだろ」


 スカーレットも近付いて彼が右手で抑えている右脚を見てみると、手の平くらいのすり傷があり自分で貼ったバンソウコウが剥がれて血がにじみ出ていた。

「サーフィンに怪我は付きものなんだ、いっぱい練習したんだな、之朗」

「おと、親父······」

 どういう顔をすればいいのか複雑な気持ちの之朗。

「母さんも心配するし、悪化する前に病院にいって診てもらおう。練習の成果は怪我が治ったら見せてくれ」

「······うん!」

 この日は失敗に終わった。悔しかったが仕方ないと思いながら病院に向かう車の中で、

「ケガしてたなんて、ごめん気づかなくて」

「僕も黙ってたんだから、気にしなくていいよ。それよりも治ったら、今度こそ」

「うん、がんばろうね!」

 調子にのって見過ごした彼の怪我に罪悪感を持っていたスカーレット、でも次があると言わんばかりの彼の気合に安堵したのだった······。


 一週間後、太陽がギンギンの海の下で、

「どうだーっ!」

「おおー!」

「やったね、シロウー!」

 一週間のブランクをものともせず彼は成功させた。そして、

「へへ、親父っ」

「すごいな之朗っ、ははっ!」

 お父さんは息子の頭を撫でながら、


「······それと、お前を傷つけるような事を言って、ごめんっ」


「は、恥ずかしいから止めてよ······許すよ、


「ああ、ついにと言ってくれたかー」


 嬉しそうに子供を抱きしめて、

「よーし之朗、一緒に泳ごうー」

 親子は絆を取り戻した。軽い言葉により息子を傷付けたお父さんのはしゃいで飛ぶ水飛沫が嬉し泣きのように楽しそうに泳いでいた。


「ははっ、父さん待って······スカーレット?」


 ふと、彼は海や砂浜の周りを探し始めて、

「あ、そうか······」

 之朗の本当の想いは叶い、彼女が見えなくなったのだと気づく。もうどこにいるのか見渡しても分からない。だから、


「ありがとう、スカーレットッ!」


 彼は笑顔で感謝し振り向いてお父さんの泳ぐ海へと走って行く······。

 そんな之朗をスカーレットは近くで見ていた。

って呼べて本当に良かったね、シロウ」

 小さなお調子者の妖精は河原子を離れどこかへと去っていった······。

 妖精、それは困っていたり悩んだりしいてる人達にちょっと手を差し伸べる、そんな生き物。

 次に彼女が見えるのは、あなたかも知れない······。
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