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第4章 陰謀、逆襲、リバイバル
別れの時が来ましたわ!
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東の空がわずかに白んできた時に、ヴェロニカとアルベルトが共だって降りてきた。
「今から王宮へ行ってきます」
主にカルロへ向けて、アルベルトが言った。
その隣のヴェロニカはすまし顔をしている。アルベルトの屋敷に置いてあったのか、上等な服を着て化粧をしているその姿は、初めて会った日に見たような立派なご令嬢だ。泥だらけで喚きながら走り回っていたなど考えられないほど。
「どのような証拠を突きつけるのですか?」
チェチーリアがアルベルトに尋ねる。
「二重帳簿だよ。領地経営やその他の事業だけじゃ手に入らないほどの莫大な金が、父の懐に入っていた。それを手に入れたんだ。グルーニャ家の古株の使用人も既に押さえている。父がグルーニャ家当主に度々金を渡し、ミーアを操っていたということを証言してくれる。それに……」
言葉を切った彼は、小さく頷きしっかりと答える。
「父は逃げた。それが動かぬ証拠だ」
しん、と部屋は静まり返る。この青年は、これから父を告発する。文句のつけようがない勇気ある行動だ。
皆思うところがあるのだろう、重い沈黙が漂った。
「ロス」
沈黙を破ったのは、ヴェロニカだった。急に名前を呼ばれたロスが見ると、静かな瞳がそこにあった。すまし顔のまま、きつい声を発する。
「あなたに未練はないわ。あなたがわたしに好意があると気づいた時、不思議ね、気持ちがすっかり冷めてしまったの。どうしてあそこまで執着していたのか今では分からない」
一同の視線が、ロスに集まる。疑問が確信へと変わっていく。
やはり森で、二人の間に何かがあった。しかし真正面から問いただす野暮なことをする人間も、またいなかった。彼女の隣のアルベルトを見る。なんとも思ってなさそうな顔でヴェロニカの言葉を聞いていた。
かつてアルベルトが命じたとき、ロスとて、本当にこの柔和そうな青年がシドニアに勝てると信じてるわけではなかった。理想主義だと思いつつも、面白いと感じ、彼の誘いに乗ったのだ。A国に嫌気が差していたのもある。
しかし結果として、アルベルトは見事それをほぼ完了しかけている。心からの称賛を送る他、できることはない。
いかにヴェロニカを大切に思っていたとしても、家柄も財産も人間性も、何もかもにおいて、ロスはアルベルトに劣っていた。勝負するでもなく勝敗は決まっているのだ。
「……そうか」
実に短く答える。それ以外、どう反応すればいいのか判断できなかった。
「アルベルトと一緒に国王陛下の前で証言するわ。わたしたち一家を陥れたのはシドニア・アルフォルトだって。怖くないわ。脅威は全て去ったもの」
「頑張れよ」
またしても短く返答した。
「おっと」と口を開いたのは今度はアルベルトだった。
「机の上の銃を、しまっておいてくれと言ったじゃないか。危ないし、もう必要ないだろう?」
アルベルトは銃を出しておくのが相当気にくわないらしい。あるいは、気にくわないのはロス本人か。
ヴェロニカが初めて気がついたように机の上の銃を見る。瞳がキラリと光ったような気がした。
それから、つかつかと歩み寄ってくる。
何をする気か、真意を図りかねて見守っていると、そのまま銃達を乱雑に机から全て床に落とした。ガシャリと音を立ててそれらは落ちる。幸いにして暴発などはしない。
「何をする! 危ないだろう!」
ロスが非難の声を上げるのは当然だったが、ヴェロニカはむしろ鼻で笑ったようだ。
「こんなもの、もういらないわ」
さらに言い返そうとしたところで胸ぐらを掴まれた。突然のこと、ロスは反応できなかった。視線が交差する。睨み付けるような彼女の強い瞳にはなんらかの意志が宿っていたが、ではそれがなんであるのか、考えはさっぱり読めない。
「皆を、頼んだわよ」
ぱっと服を放し微笑むヴェロニカに、微かな違和感を覚えながらもロスはただひどく曖昧に頷いた。
「今から王宮へ行ってきます」
主にカルロへ向けて、アルベルトが言った。
その隣のヴェロニカはすまし顔をしている。アルベルトの屋敷に置いてあったのか、上等な服を着て化粧をしているその姿は、初めて会った日に見たような立派なご令嬢だ。泥だらけで喚きながら走り回っていたなど考えられないほど。
「どのような証拠を突きつけるのですか?」
チェチーリアがアルベルトに尋ねる。
「二重帳簿だよ。領地経営やその他の事業だけじゃ手に入らないほどの莫大な金が、父の懐に入っていた。それを手に入れたんだ。グルーニャ家の古株の使用人も既に押さえている。父がグルーニャ家当主に度々金を渡し、ミーアを操っていたということを証言してくれる。それに……」
言葉を切った彼は、小さく頷きしっかりと答える。
「父は逃げた。それが動かぬ証拠だ」
しん、と部屋は静まり返る。この青年は、これから父を告発する。文句のつけようがない勇気ある行動だ。
皆思うところがあるのだろう、重い沈黙が漂った。
「ロス」
沈黙を破ったのは、ヴェロニカだった。急に名前を呼ばれたロスが見ると、静かな瞳がそこにあった。すまし顔のまま、きつい声を発する。
「あなたに未練はないわ。あなたがわたしに好意があると気づいた時、不思議ね、気持ちがすっかり冷めてしまったの。どうしてあそこまで執着していたのか今では分からない」
一同の視線が、ロスに集まる。疑問が確信へと変わっていく。
やはり森で、二人の間に何かがあった。しかし真正面から問いただす野暮なことをする人間も、またいなかった。彼女の隣のアルベルトを見る。なんとも思ってなさそうな顔でヴェロニカの言葉を聞いていた。
かつてアルベルトが命じたとき、ロスとて、本当にこの柔和そうな青年がシドニアに勝てると信じてるわけではなかった。理想主義だと思いつつも、面白いと感じ、彼の誘いに乗ったのだ。A国に嫌気が差していたのもある。
しかし結果として、アルベルトは見事それをほぼ完了しかけている。心からの称賛を送る他、できることはない。
いかにヴェロニカを大切に思っていたとしても、家柄も財産も人間性も、何もかもにおいて、ロスはアルベルトに劣っていた。勝負するでもなく勝敗は決まっているのだ。
「……そうか」
実に短く答える。それ以外、どう反応すればいいのか判断できなかった。
「アルベルトと一緒に国王陛下の前で証言するわ。わたしたち一家を陥れたのはシドニア・アルフォルトだって。怖くないわ。脅威は全て去ったもの」
「頑張れよ」
またしても短く返答した。
「おっと」と口を開いたのは今度はアルベルトだった。
「机の上の銃を、しまっておいてくれと言ったじゃないか。危ないし、もう必要ないだろう?」
アルベルトは銃を出しておくのが相当気にくわないらしい。あるいは、気にくわないのはロス本人か。
ヴェロニカが初めて気がついたように机の上の銃を見る。瞳がキラリと光ったような気がした。
それから、つかつかと歩み寄ってくる。
何をする気か、真意を図りかねて見守っていると、そのまま銃達を乱雑に机から全て床に落とした。ガシャリと音を立ててそれらは落ちる。幸いにして暴発などはしない。
「何をする! 危ないだろう!」
ロスが非難の声を上げるのは当然だったが、ヴェロニカはむしろ鼻で笑ったようだ。
「こんなもの、もういらないわ」
さらに言い返そうとしたところで胸ぐらを掴まれた。突然のこと、ロスは反応できなかった。視線が交差する。睨み付けるような彼女の強い瞳にはなんらかの意志が宿っていたが、ではそれがなんであるのか、考えはさっぱり読めない。
「皆を、頼んだわよ」
ぱっと服を放し微笑むヴェロニカに、微かな違和感を覚えながらもロスはただひどく曖昧に頷いた。
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