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第一章 首を切られてわたしは死んだ
繰り返される世界の中で、彼女は静かに病んでいった
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――約束よ。ずっと一緒って!
――うん! ずっと一緒にいようね!
少女たちは笑い合う。
モニカはロキシーがとても好きだった。
ロキシーも多分、モニカを好きでいてくれたと思う。
それが、一番古い記憶だ。
ロキシーとモニカは、いつも何をするにも同じだった。同じように服を与えられ、食事を食べ、遊び、いたずらをし、怒られた。
本当に仲が良かった。
その日までは。
――モニカ。お前と婚約を結びたいという男が現れた。
そう告げたのは父で、十五歳の時だった。
現れたのはレット・フォードだ。彼のことは知っていた。幼い頃に家に出入りしていた兄のような人だったから。
戦場で手柄を上げ、上級将校に登り詰めた、誰もが羨む、夢のような人だった。
再会して、一瞬で恋に落ちた。
だが、困ったことに、レット・フォードは一人しかいなかった。ずっと同じだった姉妹は初めて平等ではなくなった。ロキシーに彼はいなかった。そこから、ロキシーはおかしくなった。
モニカに嫉妬をするようになったのだ。
だがその頃はまだ、口を利かなくなる程度だった。
悲劇へと進んだのはもうひとつの事件だ。
モニカが、王の血を引くと、父から告げられた。
そこからは、まるで坂道を転げ落ちていくようだった。
――どうしてわたしじゃないの! なんであなたが全て持って行くの! 許せない、許せないわ!
ロキシーの嫉妬は凄まじかった。いや、嫉妬なんて生やさしいものではない。暗く渦巻く、どす黒い憎悪だった。
そのすぐ後に、父が死んだ。思いも寄らない不幸な事故だった。
そしてあろうことか、ロキシーは自分こそが王女だと名乗り出たのだ。
モニカは黙っていた。王位に興味などなかったし、姉の気が済むなら、それでいいと思ったからだ。婚約を結んでいたレットを奪われても、彼女の幸せを思って身を引いた。
王が病で隠れた後、ロキシーは王位に就いた。
誰も止める者がいなくなった彼女は暴走し始めた。戦争を長引かせ、国民に重税を課した。
だから反乱が起こるのも、当然の流れだった。
反乱を主に率いたのは商家の息子のフィン・オースティン。情熱的な男だった。政治家を志す彼は革命の獅子と呼ばれ、民衆から高い支持を得た。
もう一人はルーカス・ブラットレイ。冷静な男だった。彼は豪農の出身で、病で両親を、戦争で家を失ったが、従軍し手柄を上げのし上がった。彼もまた、国に疑問を抱いていた。
戦乱に身を投じながら彼らは悟る。
真実、王家の血を引くのが誰かを。
モニカ・ファフニール。
彼女こそが真実の女王だ。
反乱軍はモニカを擁立し、やがて革命軍と名乗る。モニカもロキシーの暴走を止めたかった。だから彼らに協力した。
まだロキシーを愛していたから、皆んなに憎まれている彼女を放ってはおけなかった。間違っていることをしているのなら、止めたかったのだ。
しかし、モニカの思惑と違う方向に、世界は進んでいった。ロキシーは治まるどころか更に圧政を極め、屈服させられた国民たちは従順になるどころか反発していった。
そして革命を加速させたのが、女王の恋人レット・フォードだった。
彼はロキシーと婚約を結びながら、モニカをまだ愛していた。だから、反乱軍の内偵として名乗りを上げたのだ。静かに、着実に彼はロキシーを国賊として捕らえるための証拠を集めていた。
遂に革命軍は城まで襲い、ロキシーを追い詰めた。
――モニカ。わたしはあなたを絶対に許さない。
牢でロキシーは呪いの言葉を吐き続けた。
あんなに仲が良かったのに。
モニカの胸には悲しみがあった。泣かない日はなかった。いつもレットはそれに寄り添ってくれた。二人は再び愛し合った。
ロキシーはついに、首を切られた。
ほどなくして不慮の事故でモニカは死んだ。
だがその死は地獄の始まりに過ぎなかった。
◇
モニカが前世を思い出した時、また、自分はモニカだった。
十七歳。ロキシーの首が目の前で切り落とされる。
猛烈な既視感に、モニカは嘔吐した。レット・フォードが慰める。
ほどなくして、モニカはまた死んだ。
◇
十五歳。レットと婚約をしていて、ロキシーに憎まれている。
確かに死を迎えたのに、なぜだかまた生きていた。
目の前に、ロキシーの姿がある。顔中に憎悪を貼り付けて、両肩を押される。
悲鳴を上げる間もなく、モニカは階段を転げ落ちた。全身に激しい痛みを感じ、そして死んだ。
次に、またモニカだった。
過去に三度死んだ一切を思い出したのは、ロキシーに銃口を向けられていた時だった。大きな音がして撃たれたのだと思ったと同時に、死んだ。
そして再び、モニカだった。
くだらない。そう思った。
ロキシーが飛びついてきて、腹に熱を感じた。見るとナイフが刺さっている。血を流して死んだ。
ロキシーはレットに恋をしてモニカに嫉妬する。必ずそうなる。
何度も何度もモニカだった。
何度も何度も死んだ。
ループしている、と思い出せる時期に明確な基準はないが、少しずつ早まっているように思えた。
別にロキシーに殺されなくても、別の死因でもモニカは死んで、またモニカとして生まれた。嫌気が差して、自分の口に銃口を突っ込んで引き金を引いたこともある。気が付いたら、またモニカだった。
絶望だ。
なぜループしているのか分からない。
うんざりだった。
もはや人生に、なんの感慨も浮かばない。意味も見いだせない。生まれない方がましだが、望みに反して自分は生まれる。
死ぬ直前に思い出す世界ならば、まだいい。それまでは普通の少女として生きられるのだから。だが早い時期に思い出した時は地獄だ。
見知った人々、知った台詞。行動。天気だって分かる。誰と絆を結んでも、死ねば解かれてお終いだ。出口のない闇の中で、モニカは静かに病んでいった。
こうなったのは、全てロキシーのせいだ。だって彼女が呪ったから。憎しみはひたすら彼女に向けられた。
運命を変えようと奔走したこともあったが、もうそれもやめてしまった。
ロキシーを排除するのが一番いい。そうとしか思えなかった。
そしてやってきたのが今回だ。
今までで一番早い時期に記憶を取り戻せた。
だから、先手を打つことにした。
一つ、試していないことがある。
ロキシーがまだ罪を犯す前に追い出して、関わらせないようにすることだ。
馬鹿げた狂ったこの世界で、ようやく見つけた蜘蛛の糸。掴むことに、なんの躊躇があるというのか。
だから迷いなくロキシーを排除した。
なのに、彼女は戻ってきた。
ふざけてる。同じ事の繰り返しになどさせてなるものか。
彼女はここにいてはいけない。
いずれモニカを殺す人間だ。
それどころか、国を破滅に導く最低の悪役だ。
打ち砕かなければ。
いつもの彼女とは違うことくらい気が付いていた。養母に厳しくしつけられ、芯のある少女に育っていた。
愛が人を変えるなんて、モニカは信じていない。
どうせ成長すれば本来の姿になるはずだ。期待して、裏切られるのはもうごめんだ。
これはチャンスだ。ロキシーを今度こそ葬り去り、世界を正しく導けと、巡ってきたチャンス。
この世界でできなければ、また合わせ鏡のように永遠に続く時を無限に繰り返さなくてはならない。
この地獄を、終わりにしたい。なのに、まだ彼女は、希望を抱かせようとする――。
――うん! ずっと一緒にいようね!
少女たちは笑い合う。
モニカはロキシーがとても好きだった。
ロキシーも多分、モニカを好きでいてくれたと思う。
それが、一番古い記憶だ。
ロキシーとモニカは、いつも何をするにも同じだった。同じように服を与えられ、食事を食べ、遊び、いたずらをし、怒られた。
本当に仲が良かった。
その日までは。
――モニカ。お前と婚約を結びたいという男が現れた。
そう告げたのは父で、十五歳の時だった。
現れたのはレット・フォードだ。彼のことは知っていた。幼い頃に家に出入りしていた兄のような人だったから。
戦場で手柄を上げ、上級将校に登り詰めた、誰もが羨む、夢のような人だった。
再会して、一瞬で恋に落ちた。
だが、困ったことに、レット・フォードは一人しかいなかった。ずっと同じだった姉妹は初めて平等ではなくなった。ロキシーに彼はいなかった。そこから、ロキシーはおかしくなった。
モニカに嫉妬をするようになったのだ。
だがその頃はまだ、口を利かなくなる程度だった。
悲劇へと進んだのはもうひとつの事件だ。
モニカが、王の血を引くと、父から告げられた。
そこからは、まるで坂道を転げ落ちていくようだった。
――どうしてわたしじゃないの! なんであなたが全て持って行くの! 許せない、許せないわ!
ロキシーの嫉妬は凄まじかった。いや、嫉妬なんて生やさしいものではない。暗く渦巻く、どす黒い憎悪だった。
そのすぐ後に、父が死んだ。思いも寄らない不幸な事故だった。
そしてあろうことか、ロキシーは自分こそが王女だと名乗り出たのだ。
モニカは黙っていた。王位に興味などなかったし、姉の気が済むなら、それでいいと思ったからだ。婚約を結んでいたレットを奪われても、彼女の幸せを思って身を引いた。
王が病で隠れた後、ロキシーは王位に就いた。
誰も止める者がいなくなった彼女は暴走し始めた。戦争を長引かせ、国民に重税を課した。
だから反乱が起こるのも、当然の流れだった。
反乱を主に率いたのは商家の息子のフィン・オースティン。情熱的な男だった。政治家を志す彼は革命の獅子と呼ばれ、民衆から高い支持を得た。
もう一人はルーカス・ブラットレイ。冷静な男だった。彼は豪農の出身で、病で両親を、戦争で家を失ったが、従軍し手柄を上げのし上がった。彼もまた、国に疑問を抱いていた。
戦乱に身を投じながら彼らは悟る。
真実、王家の血を引くのが誰かを。
モニカ・ファフニール。
彼女こそが真実の女王だ。
反乱軍はモニカを擁立し、やがて革命軍と名乗る。モニカもロキシーの暴走を止めたかった。だから彼らに協力した。
まだロキシーを愛していたから、皆んなに憎まれている彼女を放ってはおけなかった。間違っていることをしているのなら、止めたかったのだ。
しかし、モニカの思惑と違う方向に、世界は進んでいった。ロキシーは治まるどころか更に圧政を極め、屈服させられた国民たちは従順になるどころか反発していった。
そして革命を加速させたのが、女王の恋人レット・フォードだった。
彼はロキシーと婚約を結びながら、モニカをまだ愛していた。だから、反乱軍の内偵として名乗りを上げたのだ。静かに、着実に彼はロキシーを国賊として捕らえるための証拠を集めていた。
遂に革命軍は城まで襲い、ロキシーを追い詰めた。
――モニカ。わたしはあなたを絶対に許さない。
牢でロキシーは呪いの言葉を吐き続けた。
あんなに仲が良かったのに。
モニカの胸には悲しみがあった。泣かない日はなかった。いつもレットはそれに寄り添ってくれた。二人は再び愛し合った。
ロキシーはついに、首を切られた。
ほどなくして不慮の事故でモニカは死んだ。
だがその死は地獄の始まりに過ぎなかった。
◇
モニカが前世を思い出した時、また、自分はモニカだった。
十七歳。ロキシーの首が目の前で切り落とされる。
猛烈な既視感に、モニカは嘔吐した。レット・フォードが慰める。
ほどなくして、モニカはまた死んだ。
◇
十五歳。レットと婚約をしていて、ロキシーに憎まれている。
確かに死を迎えたのに、なぜだかまた生きていた。
目の前に、ロキシーの姿がある。顔中に憎悪を貼り付けて、両肩を押される。
悲鳴を上げる間もなく、モニカは階段を転げ落ちた。全身に激しい痛みを感じ、そして死んだ。
次に、またモニカだった。
過去に三度死んだ一切を思い出したのは、ロキシーに銃口を向けられていた時だった。大きな音がして撃たれたのだと思ったと同時に、死んだ。
そして再び、モニカだった。
くだらない。そう思った。
ロキシーが飛びついてきて、腹に熱を感じた。見るとナイフが刺さっている。血を流して死んだ。
ロキシーはレットに恋をしてモニカに嫉妬する。必ずそうなる。
何度も何度もモニカだった。
何度も何度も死んだ。
ループしている、と思い出せる時期に明確な基準はないが、少しずつ早まっているように思えた。
別にロキシーに殺されなくても、別の死因でもモニカは死んで、またモニカとして生まれた。嫌気が差して、自分の口に銃口を突っ込んで引き金を引いたこともある。気が付いたら、またモニカだった。
絶望だ。
なぜループしているのか分からない。
うんざりだった。
もはや人生に、なんの感慨も浮かばない。意味も見いだせない。生まれない方がましだが、望みに反して自分は生まれる。
死ぬ直前に思い出す世界ならば、まだいい。それまでは普通の少女として生きられるのだから。だが早い時期に思い出した時は地獄だ。
見知った人々、知った台詞。行動。天気だって分かる。誰と絆を結んでも、死ねば解かれてお終いだ。出口のない闇の中で、モニカは静かに病んでいった。
こうなったのは、全てロキシーのせいだ。だって彼女が呪ったから。憎しみはひたすら彼女に向けられた。
運命を変えようと奔走したこともあったが、もうそれもやめてしまった。
ロキシーを排除するのが一番いい。そうとしか思えなかった。
そしてやってきたのが今回だ。
今までで一番早い時期に記憶を取り戻せた。
だから、先手を打つことにした。
一つ、試していないことがある。
ロキシーがまだ罪を犯す前に追い出して、関わらせないようにすることだ。
馬鹿げた狂ったこの世界で、ようやく見つけた蜘蛛の糸。掴むことに、なんの躊躇があるというのか。
だから迷いなくロキシーを排除した。
なのに、彼女は戻ってきた。
ふざけてる。同じ事の繰り返しになどさせてなるものか。
彼女はここにいてはいけない。
いずれモニカを殺す人間だ。
それどころか、国を破滅に導く最低の悪役だ。
打ち砕かなければ。
いつもの彼女とは違うことくらい気が付いていた。養母に厳しくしつけられ、芯のある少女に育っていた。
愛が人を変えるなんて、モニカは信じていない。
どうせ成長すれば本来の姿になるはずだ。期待して、裏切られるのはもうごめんだ。
これはチャンスだ。ロキシーを今度こそ葬り去り、世界を正しく導けと、巡ってきたチャンス。
この世界でできなければ、また合わせ鏡のように永遠に続く時を無限に繰り返さなくてはならない。
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