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第1話 第二王女は死に戻る(5)
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激しい頭痛、渦の中、私の頭はかき回される。耳元で巨大な蜂が飛び回っているかのような不快な耳鳴りが続く。
「ヴィクトリカ、お前とヒースとの婚約は解消された。今日の花婿は――」
そこまで言ったところで、お兄様はくらりと壁に手をついた。顔面は蒼白で呻くように言う。
「何が、起きたんだ。ああ……気分が悪い――」
レイズナーが、今にも倒れそうなお兄様の体を支える。
「どうされました、陛下?」
「レイズナー、どうして僕は、妹に望まぬ結婚を勧めているんだろうか?」
その言葉で、私は確信した。
お兄様は、ブルクストンから解放されたのだ。そして代わりに――。
だってこんなに。
私は自分の口から、悲鳴が漏れる音を聞いた。
レイズナーが驚いて私を見る。
「ヴィクトリカ! どうした!」
「――中にいる! 私の中に!」
体の中をマグマが駆け巡っているかのように熱い。
頭が痛い。
耳元で五月蠅い。
不快だった。
涙が出る。
叫び続けた。
時間の流れというものが不可逆なのかそうでないのかなど私には分からない。だけどさっきのループでブルクストンは私の中に入り込むことに成功していた。そして今も、私の中にいる。
私の心を言うならば、確かにいつだって空虚だった。レイズナーを知るまでは。
「助けて――! 助けて――!」
お兄様が叫ぶ。
「ヴィクトリカには、彼女の体の中には、この国を滅ぼすだけの途方もないエネルギーが封じられているんだ! 暴走したら、皆が死に絶える!」
「なんだと……」
レイズナーの美しい緑色の瞳が、私に向けられる。私の手足は醜くゆがみ、声は老人のようにしわがれた。
「この娘が生まれた時、愛するキーラは死んだ! 国を守る、生け贄として! 私は、知らされなかった! 当たり前だ。知っていれば、王族を殺してでも止めたはずだ!
これはキーラの復讐だ! この国を、滅ぼしてやろう!」
――そうだったんだ。
初めから、ブルクストンはその命と引き換えに影となった。代償は既に捧げられていたのだ。死ぬから影になったのではない。影になるから死んだんだ。
遅れて、私も悟った。
私の中にあったのは、強い意志でも、王女としてのプライドでもなかった。
ただブルクストンの妻の命と引き換えに封じ込められた史上最低の災害があっただけだ。その災害を止めるには、誰かを媒介にするしかなかった。未だ自我のない、生まれたばかりの赤ん坊の体に、それはよく馴染んだことだろう。
奇跡なんかじゃない。奇跡なんかじゃなかった。
二人の人間の犠牲によって、国は守られた。おぞましい、あまりにもおぞましい決断だ。
ブルクストンはその事実を知ったに違いない。だから復讐のため、お兄様の体の中に侵入した。いずれ訪れる機を、待っていたんだ。
レイズナーが私を見ている。
こんな醜い私を見られたくない。
他ならぬ、レイズナーだけには。
だけど彼が私を見つめる瞳には、愛情だけが宿っていた。
「君を助けるよ。愛しているから」
私は魔法が使えないから、お兄様の体ほど、ブルクストンは使いこなせてはいないようだった。
叫びながら、私はレイズナーに手を伸ばす。
「レイズナー、この力ごと、私を殺して――!」
私も彼を愛しているから。
レイズナーが私に近づいてくる。
他の人に殺されるのは嫌だ。だけど、レイズナーになら、殺されてもいい。この苦痛から解放されるなら、その大きな愛の中で逝けるなら、恐怖は微塵もなかった。
「馬鹿を言え。君は生きるんだ」
そう言って微笑み、彼は私を抱きしめた。
瞬間、出現した魔方陣があり、彼の体は消し飛んだ。
私の両手から放たれた魔力によって。
「ヴィクトリカ、お前とヒースとの婚約は解消された。今日の花婿は――」
そこまで言ったところで、お兄様はくらりと壁に手をついた。顔面は蒼白で呻くように言う。
「何が、起きたんだ。ああ……気分が悪い――」
レイズナーが、今にも倒れそうなお兄様の体を支える。
「どうされました、陛下?」
「レイズナー、どうして僕は、妹に望まぬ結婚を勧めているんだろうか?」
その言葉で、私は確信した。
お兄様は、ブルクストンから解放されたのだ。そして代わりに――。
だってこんなに。
私は自分の口から、悲鳴が漏れる音を聞いた。
レイズナーが驚いて私を見る。
「ヴィクトリカ! どうした!」
「――中にいる! 私の中に!」
体の中をマグマが駆け巡っているかのように熱い。
頭が痛い。
耳元で五月蠅い。
不快だった。
涙が出る。
叫び続けた。
時間の流れというものが不可逆なのかそうでないのかなど私には分からない。だけどさっきのループでブルクストンは私の中に入り込むことに成功していた。そして今も、私の中にいる。
私の心を言うならば、確かにいつだって空虚だった。レイズナーを知るまでは。
「助けて――! 助けて――!」
お兄様が叫ぶ。
「ヴィクトリカには、彼女の体の中には、この国を滅ぼすだけの途方もないエネルギーが封じられているんだ! 暴走したら、皆が死に絶える!」
「なんだと……」
レイズナーの美しい緑色の瞳が、私に向けられる。私の手足は醜くゆがみ、声は老人のようにしわがれた。
「この娘が生まれた時、愛するキーラは死んだ! 国を守る、生け贄として! 私は、知らされなかった! 当たり前だ。知っていれば、王族を殺してでも止めたはずだ!
これはキーラの復讐だ! この国を、滅ぼしてやろう!」
――そうだったんだ。
初めから、ブルクストンはその命と引き換えに影となった。代償は既に捧げられていたのだ。死ぬから影になったのではない。影になるから死んだんだ。
遅れて、私も悟った。
私の中にあったのは、強い意志でも、王女としてのプライドでもなかった。
ただブルクストンの妻の命と引き換えに封じ込められた史上最低の災害があっただけだ。その災害を止めるには、誰かを媒介にするしかなかった。未だ自我のない、生まれたばかりの赤ん坊の体に、それはよく馴染んだことだろう。
奇跡なんかじゃない。奇跡なんかじゃなかった。
二人の人間の犠牲によって、国は守られた。おぞましい、あまりにもおぞましい決断だ。
ブルクストンはその事実を知ったに違いない。だから復讐のため、お兄様の体の中に侵入した。いずれ訪れる機を、待っていたんだ。
レイズナーが私を見ている。
こんな醜い私を見られたくない。
他ならぬ、レイズナーだけには。
だけど彼が私を見つめる瞳には、愛情だけが宿っていた。
「君を助けるよ。愛しているから」
私は魔法が使えないから、お兄様の体ほど、ブルクストンは使いこなせてはいないようだった。
叫びながら、私はレイズナーに手を伸ばす。
「レイズナー、この力ごと、私を殺して――!」
私も彼を愛しているから。
レイズナーが私に近づいてくる。
他の人に殺されるのは嫌だ。だけど、レイズナーになら、殺されてもいい。この苦痛から解放されるなら、その大きな愛の中で逝けるなら、恐怖は微塵もなかった。
「馬鹿を言え。君は生きるんだ」
そう言って微笑み、彼は私を抱きしめた。
瞬間、出現した魔方陣があり、彼の体は消し飛んだ。
私の両手から放たれた魔力によって。
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