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第4話 そして妹がやってきた
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翌日の朝、食堂でレイズナーと顔を突き合わせ食事を取っていた。
だんだんと、何が起きているのか分かってきたように思った。
「前の世界でのパーティでは、エルナンデスは殺されなかったの。なぜなのか、考えていたんだけど、分かった気がする」
私が言うと、レイズナーがちろりと顔を上げる。
「ハンがエルナンデスを殺したんだわ」
「なぜだ」
「ヒースはあなたを嫌っているんでしょう? あなたと一緒にいるエルナンデスを目撃したから、罪を着せようとしたと思うと、筋が通るように思うの」
「あの男なら、そのくらいのことはやりそうだ」
ため息を吐くレイズナーに、私も目を伏せた。
「私が思っているヒースと、あなたが思っているヒースは違うのね。周りが思っているレイズナー・レイブンと、本当のあなたが違うように」
私は初めから、見たいものしか見れなかったのかもしれない。
ヒースの愛という幻想は美しかったけど、レイズナーの愛という現実は、決して美しいだけではない。痛くて辛くて切ない。それでも求めるのは、後者だった。
はっと、レイズナーが私を見るのが分かった。何かを言いたげに口を開いた瞬間、使用人が朝食の席に現れる。
「ポーリーナ王女がお見えです」
私はレイズナーと目を合わせ、頷き合った。
*
レイズナーを部屋の外に追いやった客間の中で、テーブルをはさみ向かい合うポーリーナは問う。
「暮らしはどう?」
「アイラはレイズナーの愛人ではないし、もうこの屋敷を辞めるのよ。それにポーリーナ、婚約パーティーはやめた方がいいと思う。私たち、騙されているわ」
間髪入れずに言うと、ポーリーナは目を丸くする。
「誰に? 誰に騙されているっていうのよ?」
「ヒースよ。ヒースは多分、私のことも、ポーリーナのことも愛していないわ」
見る間に、ポーリーナの顔は赤く染まる。昔から、怒るとすぐに真っ赤になる子だった。次に言う言葉は、なんとなく予想が付いた。
「嘘よ! ヒースはヴィクトリカお姉様に愛されていなかったって言っていたわ。本当の愛をくれたのは、この私だって!」
驚くほど私は冷静だった。いつかレイズナーに言われたように、ポーリーナに言う。
「それを誰から聞いたの?」
「……ヒースよ!」
「私もヒースに、レイズナーに憎まれていると聞いたわ。だけど本当は逆だったの」
「馬鹿げているわ! お姉様こそ、レイブンに騙されているのよ!」
「いいえ、そうは思わない」
きっぱりと言うと、ポーリーナの大きな瞳が揺れた。
「ポーリーナ。私たち、いつだって支え合って生きてきたでしょう?
ルイサお姉様が嫁がれて、お兄様は冷たくて、周囲の人たちの誰も信用できなかった中で、あなただけはいつだって私の味方だった。私だってそうだわ。いつだってあなたの味方よ」
私と同じ色の瞳が、瞬きもせずに見つめ返してくる。手を握ると、抵抗はされなかった。
「私、あなたが幸せならそれでいいの。だって姉妹よ? たった一人の、かけがえのない妹だわ。あなたは違う?」
「……違わないけど」
小さく、呟くようなポーリーナの声に、私は勇気づけられた。
「私、ヒースのことが本当に好きだったわ。彼も愛してくれていると思ったの。だけど、結婚式の一日前に、彼はあなたと婚約をした。そのことを、私には言わなかったのよ。
ヒースは、もしかすると思っているような人ではないかもしれないわ」
瞬時に手が引き抜かれる。
「そんなこと……そんなことないわ! 彼は素敵な人よ! 私を愛してくれているって、ヴィクトリカお姉様よりも好きだって、言ってくれたもの!」
どん、とポーリーナがテーブルを叩いたためカップが揺れ、紅茶がこぼれた。勢いよく開いたのは扉の方で、レイズナーが飛び込むように入ってくる。
私の側に駆け寄ると、点検するように体を見る。
「君が紅茶をかけられたかと思った」
「平気よ。どうしてそう思ったの?」
「……さあ。言われてみれば不思議だな。どうしてだろうか」
戸惑ったように笑うレイズナーに、怒鳴ったのはポーリーナだった。
「レイブン! やはりあなたは野良犬ね。盗み聞きしていたなんて! お姉様と結婚したのも、奇跡の王女を手に入れたかったからなんでしょう!?」
レイズナーはポーリーナを一瞥すると、どかりと、私の隣に腰掛け、肩に手を回してきた。彼の熱に包まれる。
「いかにも俺は育ちが悪い。だが少なくともグリフィスとは違い、愛のない結婚はしませんよ」
ポーリーナは、愕然とした表情になった。
「ヴィクトリカを愛している。それ以外に、結婚の理由はありません」
レイズナーの声色には、明らかな苛立ちが含まれていた。
「あなたを愛するお姉様と、自分だけしか愛せないあの男と、どちらを信頼するかなど、目に見えていると思いますが」
それから、私の手をつかみ立ち上がらせると、ポーリーナに笑いかけた。
「では今から、ヒース・グリフィスの本性を確かめに参りましょうか?」
だんだんと、何が起きているのか分かってきたように思った。
「前の世界でのパーティでは、エルナンデスは殺されなかったの。なぜなのか、考えていたんだけど、分かった気がする」
私が言うと、レイズナーがちろりと顔を上げる。
「ハンがエルナンデスを殺したんだわ」
「なぜだ」
「ヒースはあなたを嫌っているんでしょう? あなたと一緒にいるエルナンデスを目撃したから、罪を着せようとしたと思うと、筋が通るように思うの」
「あの男なら、そのくらいのことはやりそうだ」
ため息を吐くレイズナーに、私も目を伏せた。
「私が思っているヒースと、あなたが思っているヒースは違うのね。周りが思っているレイズナー・レイブンと、本当のあなたが違うように」
私は初めから、見たいものしか見れなかったのかもしれない。
ヒースの愛という幻想は美しかったけど、レイズナーの愛という現実は、決して美しいだけではない。痛くて辛くて切ない。それでも求めるのは、後者だった。
はっと、レイズナーが私を見るのが分かった。何かを言いたげに口を開いた瞬間、使用人が朝食の席に現れる。
「ポーリーナ王女がお見えです」
私はレイズナーと目を合わせ、頷き合った。
*
レイズナーを部屋の外に追いやった客間の中で、テーブルをはさみ向かい合うポーリーナは問う。
「暮らしはどう?」
「アイラはレイズナーの愛人ではないし、もうこの屋敷を辞めるのよ。それにポーリーナ、婚約パーティーはやめた方がいいと思う。私たち、騙されているわ」
間髪入れずに言うと、ポーリーナは目を丸くする。
「誰に? 誰に騙されているっていうのよ?」
「ヒースよ。ヒースは多分、私のことも、ポーリーナのことも愛していないわ」
見る間に、ポーリーナの顔は赤く染まる。昔から、怒るとすぐに真っ赤になる子だった。次に言う言葉は、なんとなく予想が付いた。
「嘘よ! ヒースはヴィクトリカお姉様に愛されていなかったって言っていたわ。本当の愛をくれたのは、この私だって!」
驚くほど私は冷静だった。いつかレイズナーに言われたように、ポーリーナに言う。
「それを誰から聞いたの?」
「……ヒースよ!」
「私もヒースに、レイズナーに憎まれていると聞いたわ。だけど本当は逆だったの」
「馬鹿げているわ! お姉様こそ、レイブンに騙されているのよ!」
「いいえ、そうは思わない」
きっぱりと言うと、ポーリーナの大きな瞳が揺れた。
「ポーリーナ。私たち、いつだって支え合って生きてきたでしょう?
ルイサお姉様が嫁がれて、お兄様は冷たくて、周囲の人たちの誰も信用できなかった中で、あなただけはいつだって私の味方だった。私だってそうだわ。いつだってあなたの味方よ」
私と同じ色の瞳が、瞬きもせずに見つめ返してくる。手を握ると、抵抗はされなかった。
「私、あなたが幸せならそれでいいの。だって姉妹よ? たった一人の、かけがえのない妹だわ。あなたは違う?」
「……違わないけど」
小さく、呟くようなポーリーナの声に、私は勇気づけられた。
「私、ヒースのことが本当に好きだったわ。彼も愛してくれていると思ったの。だけど、結婚式の一日前に、彼はあなたと婚約をした。そのことを、私には言わなかったのよ。
ヒースは、もしかすると思っているような人ではないかもしれないわ」
瞬時に手が引き抜かれる。
「そんなこと……そんなことないわ! 彼は素敵な人よ! 私を愛してくれているって、ヴィクトリカお姉様よりも好きだって、言ってくれたもの!」
どん、とポーリーナがテーブルを叩いたためカップが揺れ、紅茶がこぼれた。勢いよく開いたのは扉の方で、レイズナーが飛び込むように入ってくる。
私の側に駆け寄ると、点検するように体を見る。
「君が紅茶をかけられたかと思った」
「平気よ。どうしてそう思ったの?」
「……さあ。言われてみれば不思議だな。どうしてだろうか」
戸惑ったように笑うレイズナーに、怒鳴ったのはポーリーナだった。
「レイブン! やはりあなたは野良犬ね。盗み聞きしていたなんて! お姉様と結婚したのも、奇跡の王女を手に入れたかったからなんでしょう!?」
レイズナーはポーリーナを一瞥すると、どかりと、私の隣に腰掛け、肩に手を回してきた。彼の熱に包まれる。
「いかにも俺は育ちが悪い。だが少なくともグリフィスとは違い、愛のない結婚はしませんよ」
ポーリーナは、愕然とした表情になった。
「ヴィクトリカを愛している。それ以外に、結婚の理由はありません」
レイズナーの声色には、明らかな苛立ちが含まれていた。
「あなたを愛するお姉様と、自分だけしか愛せないあの男と、どちらを信頼するかなど、目に見えていると思いますが」
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