第二王女は死に戻る

さくたろう

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第6話 私の夫が犯した罪は

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「聞いて欲しいことがあるのよ。あなたは、どうして私がハンやテオのことを知っていたか、不思議に思っていたでしょう」

 喉の渇きを覚え、グラスに入ったワインを一口飲んだ。

「信じられないかもしれないけど、私、時間を戻ることができるの」

 揺れるワインの水面を見つめながら、今まで経験した全てを、私は語った。死ぬと、時が戻ること、そして前回、彼と結婚し何が起きたかを。
 レイズナーとアイラは黙って聞いていた。

「それだけじゃないの。お兄様は、過去に犯した罪であなたを逮捕し、処刑するって言っていたわ。今の世界じゃなくて、一つ、前の世界でだけど」

 アイラが首をかしげた。

「過去の罪?」

「その……殺人だって。もちろん、私は信じていないわ。そんなの嘘でしょう?」

 もちろん嘘だとわかっているけれど、レイズナーの顔は再び強張り始めた。手は引かれ、固く握られた拳が机の上に置かれる。空気がピンと張り詰めた。

 返答を聞くまでもなく、その反応で分かってしまったが、彼は答えた。

「……本当のことだ」

 アイラがひ、と息を吸い込む気配がした。
 心臓が嫌に脈打った。
 レイズナーは目を閉じ、何かを堪えるように眉間に皺を寄せた。

「でも、理由があるんでしょう?」

「言えない」
 
 彼は頑なだ。

「言って、お願いよ」

「俺は――」

 再び開かれた彼の瞳は、底なしの闇を映していた。暗く、暗く、どこまでも落ちていくような。
 私を、拒むかのような――。

「言ってくれないと、信用できないわ」

「――なら言うよ。当時は金が必要だった。だから、貧乏人に施しを与えに来た貴族を、金を盗むため殺したんだ」

「嘘よ」

「真実だ。他に、理由はない」

 断言する彼に、もう迷いはなかった。
 私は立ち上がる。通じたと思った心が、再び凍り付いていくのを感じた。

「だとしたら、あなたを軽蔑するわ」

 やっとそれだけ告げると、逃げるように部屋から出て行った。今はもう、誰の顔を見たくない。レイズナーを信じていたかった。
 でもお兄様がレイズナーを罰するのは当然のことだ。正当な理由だ。過去は変えようがない。
 なのに私は、彼を恐れていない。それどころか、まだ信じている。そのことに、驚くほどの動揺を感じていた。
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