2 / 48
第2話 繰り返す
しおりを挟む
「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」
「嘘でしょう!」
「ヒースはお前との婚約を破棄し、ポーリーナと結婚をする。いいな?」
* * *
「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」
「これは悪夢だわ」
「ヒースはお前との婚約を破棄し、ポーリーナと結婚をする。いいな?」
* * *
「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」
「何が起きてるって言うの……」
「ヒースはお前との婚約を破棄し、ポーリーナと結婚をする。いいな?」
* * *
目覚め、死ぬことを数回繰り返して、悟った。
死の間際、体がバラバラになるように思えるのは、爆発に巻き込まれているのか、それとも死の感覚がそれを伴うのかは分からない。死ぬ場所が一定でないことを考慮すると、後者なのだろう。
はっきりしているのは、絶対に今日、死んでしまうということだ。
なぜか私は、抜け出せない時間のループにはまってしまった。
占いなんて信じるかわいい心は失ってしまったけれど、こうなってしまったら信じざるを得ない。
レイブンとの結婚から逃れ、外に出ると私は死に、そしてあろうことか、この場面に戻ってくる。
「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」
私の手にキスをした後で、レイブンは落ち着き払ってそう言った。
物は試しだ。もうどうにでもなれ。
死から逃れられるなら、どんな悪魔にでも従うほど私は疲れ切っていた。だから私は、一つだけ試していないことをした。
「これから、よろしくお願いします」
彼の申し出を受けたのだ。
お辞儀をすると、レイブンとお兄様は顔を見合わせた。話している姿などこのところは見かけないが、二人は昔からの友人だというところを、垣間見た気がする。
「……ヒースはポーリーナと結婚をする」
「ええお兄様。知っていますわ」
何度聞かされたと思っているんだろうか。抵抗しない私を、レイブンは不思議に思ったようだ。今までになかったことを言い出した。
「陛下、彼女と二人で話すお許しをいただけませんか」
お兄様は冷たく笑う。
「これから二人の時間は腐るほどあるというのに。いいだろう、好きにしろ」
使用人さえも追い払ったから、この狭い部屋で彼と二人きりになる。
「奇妙な顔をなさいますのね? 私が、暴れて嫌がるとでも思ったのかしら?」
「君は俺を嫌っているようだから、正直、泣いて抵抗される覚悟はあった。まあいいさ。求婚を、素直に受け入れてくれて嬉しいよ」
レイブンの視線を感じたが、私は目を合わせなかった。
「あなたは私を愛していないでしょう」
「愛していない女と結婚するとでも?」
「私の両親はそうだったわ。愛のない、政略結婚だった」
「俺は違う」
私を愛しているとでも言うのだろうか。下がり続け、ソファーに当たったため、勢い余って腰掛ける形になってしまう。
レイブンが見下ろしてくる。肘掛けに手を付く彼は、私を逃がすまいとするかのようで居心地が大層悪い。冷ややかな瞳は、他人のことなど微塵も興味はなさそうだ。
「たとえ君のお兄様が、俺を手放したくないが故に、妹を差し出したのは事実だとしても、俺はポーリーナではなくヴィクトリカ、君を望んだんだ」
「ヒースへの当てつけでしょう」
「本気で言っているのか」
思いがけず切実な声色に、はっとして目を合わせてしまう。ああまったく。天使のように完璧に整った顔立ちに、目を奪われそうになる。とりわけまつげは実に見事で、その瞳を妖艶に覆っていた。
実際、彼は一部の女性たちからカルト的に人気がある。つまり、噂を知らないか、知っていてもより興味を引かれる人種に。
確かに見た目は完璧だ。猛禽のようにするどい眼光を除けばの話だけど。
「どんなに嫌がろうとも、君は逃げ出せはしない。今日君は俺の妻となり、明日には名実共にそうなっているのだから」
結婚式の後の初夜に何が起こるかは教育係から聞いていた。
思わず身を固くしてしまう。
彼も私の想像に気がついたのだろう、その美しい顔面に、悪魔のような笑みを浮かべた。
「嘘でしょう!」
「ヒースはお前との婚約を破棄し、ポーリーナと結婚をする。いいな?」
* * *
「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」
「これは悪夢だわ」
「ヒースはお前との婚約を破棄し、ポーリーナと結婚をする。いいな?」
* * *
「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」
「何が起きてるって言うの……」
「ヒースはお前との婚約を破棄し、ポーリーナと結婚をする。いいな?」
* * *
目覚め、死ぬことを数回繰り返して、悟った。
死の間際、体がバラバラになるように思えるのは、爆発に巻き込まれているのか、それとも死の感覚がそれを伴うのかは分からない。死ぬ場所が一定でないことを考慮すると、後者なのだろう。
はっきりしているのは、絶対に今日、死んでしまうということだ。
なぜか私は、抜け出せない時間のループにはまってしまった。
占いなんて信じるかわいい心は失ってしまったけれど、こうなってしまったら信じざるを得ない。
レイブンとの結婚から逃れ、外に出ると私は死に、そしてあろうことか、この場面に戻ってくる。
「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」
私の手にキスをした後で、レイブンは落ち着き払ってそう言った。
物は試しだ。もうどうにでもなれ。
死から逃れられるなら、どんな悪魔にでも従うほど私は疲れ切っていた。だから私は、一つだけ試していないことをした。
「これから、よろしくお願いします」
彼の申し出を受けたのだ。
お辞儀をすると、レイブンとお兄様は顔を見合わせた。話している姿などこのところは見かけないが、二人は昔からの友人だというところを、垣間見た気がする。
「……ヒースはポーリーナと結婚をする」
「ええお兄様。知っていますわ」
何度聞かされたと思っているんだろうか。抵抗しない私を、レイブンは不思議に思ったようだ。今までになかったことを言い出した。
「陛下、彼女と二人で話すお許しをいただけませんか」
お兄様は冷たく笑う。
「これから二人の時間は腐るほどあるというのに。いいだろう、好きにしろ」
使用人さえも追い払ったから、この狭い部屋で彼と二人きりになる。
「奇妙な顔をなさいますのね? 私が、暴れて嫌がるとでも思ったのかしら?」
「君は俺を嫌っているようだから、正直、泣いて抵抗される覚悟はあった。まあいいさ。求婚を、素直に受け入れてくれて嬉しいよ」
レイブンの視線を感じたが、私は目を合わせなかった。
「あなたは私を愛していないでしょう」
「愛していない女と結婚するとでも?」
「私の両親はそうだったわ。愛のない、政略結婚だった」
「俺は違う」
私を愛しているとでも言うのだろうか。下がり続け、ソファーに当たったため、勢い余って腰掛ける形になってしまう。
レイブンが見下ろしてくる。肘掛けに手を付く彼は、私を逃がすまいとするかのようで居心地が大層悪い。冷ややかな瞳は、他人のことなど微塵も興味はなさそうだ。
「たとえ君のお兄様が、俺を手放したくないが故に、妹を差し出したのは事実だとしても、俺はポーリーナではなくヴィクトリカ、君を望んだんだ」
「ヒースへの当てつけでしょう」
「本気で言っているのか」
思いがけず切実な声色に、はっとして目を合わせてしまう。ああまったく。天使のように完璧に整った顔立ちに、目を奪われそうになる。とりわけまつげは実に見事で、その瞳を妖艶に覆っていた。
実際、彼は一部の女性たちからカルト的に人気がある。つまり、噂を知らないか、知っていてもより興味を引かれる人種に。
確かに見た目は完璧だ。猛禽のようにするどい眼光を除けばの話だけど。
「どんなに嫌がろうとも、君は逃げ出せはしない。今日君は俺の妻となり、明日には名実共にそうなっているのだから」
結婚式の後の初夜に何が起こるかは教育係から聞いていた。
思わず身を固くしてしまう。
彼も私の想像に気がついたのだろう、その美しい顔面に、悪魔のような笑みを浮かべた。
41
お気に入りに追加
429
あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら時戻りをしました。
まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。
辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。
時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。
※前半激重です。ご注意下さい
Copyright©︎2023-まるねこ
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
氷の騎士様は実は太陽の騎士様です。
りつ
恋愛
イリスの婚約者は幼馴染のラファエルである。彼と結婚するまで遠い修道院の寄宿学校で過ごしていたが、十八歳になり、王都へ戻って来た彼女は彼と結婚できる事実に胸をときめかせていた。しかし両親はラファエル以外の男性にも目を向けるよう言い出し、イリスは戸惑ってしまう。
王女殿下や王太子殿下とも知り合い、ラファエルが「氷の騎士」と呼ばれていることを知ったイリス。離れている間の知らなかったラファエルのことを令嬢たちの口から聞かされるが、イリスは次第に違和感を抱き始めて……
※他サイトにも掲載しています
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました

王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?
拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。
石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。
助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。
バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。
もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない
天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。
だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる