第二王女は死に戻る

さくたろう

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第2話 繰り返す

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「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」

「嘘でしょう!」

「ヒースはお前との婚約を破棄し、ポーリーナと結婚をする。いいな?」


 * * *


「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」

「これは悪夢だわ」

「ヒースはお前との婚約を破棄し、ポーリーナと結婚をする。いいな?」


 * * *


「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」

「何が起きてるって言うの……」

「ヒースはお前との婚約を破棄し、ポーリーナと結婚をする。いいな?」

 
 * * *

 
 目覚め、死ぬことを数回繰り返して、悟った。

 死の間際、体がバラバラになるように思えるのは、爆発に巻き込まれているのか、それとも死の感覚がそれを伴うのかは分からない。死ぬ場所が一定でないことを考慮すると、後者なのだろう。
 はっきりしているのは、絶対に今日、死んでしまうということだ。
 なぜか私は、抜け出せない時間のループにはまってしまった。

 占いなんて信じるかわいい心は失ってしまったけれど、こうなってしまったら信じざるを得ない。
 レイブンとの結婚から逃れ、外に出ると私は死に、そしてあろうことか、この場面に戻ってくる。
  
「君は嫌だろうが、俺は嫌ではない。どうぞよろしく、レディ・ヴィクトリカ」

 私の手にキスをした後で、レイブンは落ち着き払ってそう言った。
 物は試しだ。もうどうにでもなれ。

 死から逃れられるなら、どんな悪魔にでも従うほど私は疲れ切っていた。だから私は、一つだけ試していないことをした。

「これから、よろしくお願いします」

 彼の申し出を受けたのだ。

 お辞儀をすると、レイブンとお兄様は顔を見合わせた。話している姿などこのところは見かけないが、二人は昔からの友人だというところを、垣間見た気がする。

「……ヒースはポーリーナと結婚をする」

「ええお兄様。知っていますわ」

 何度聞かされたと思っているんだろうか。抵抗しない私を、レイブンは不思議に思ったようだ。今までになかったことを言い出した。

「陛下、彼女と二人で話すお許しをいただけませんか」

 お兄様は冷たく笑う。

「これから二人の時間は腐るほどあるというのに。いいだろう、好きにしろ」

 使用人さえも追い払ったから、この狭い部屋で彼と二人きりになる。

「奇妙な顔をなさいますのね? 私が、暴れて嫌がるとでも思ったのかしら?」

「君は俺を嫌っているようだから、正直、泣いて抵抗される覚悟はあった。まあいいさ。求婚を、素直に受け入れてくれて嬉しいよ」

 レイブンの視線を感じたが、私は目を合わせなかった。

「あなたは私を愛していないでしょう」

「愛していない女と結婚するとでも?」

「私の両親はそうだったわ。愛のない、政略結婚だった」

「俺は違う」
 
 私を愛しているとでも言うのだろうか。下がり続け、ソファーに当たったため、勢い余って腰掛ける形になってしまう。

 レイブンが見下ろしてくる。肘掛けに手を付く彼は、私を逃がすまいとするかのようで居心地が大層悪い。冷ややかな瞳は、他人のことなど微塵も興味はなさそうだ。
    
「たとえ君のお兄様が、俺を手放したくないが故に、妹を差し出したのは事実だとしても、俺はポーリーナではなくヴィクトリカ、君を望んだんだ」

「ヒースへの当てつけでしょう」

「本気で言っているのか」

 思いがけず切実な声色に、はっとして目を合わせてしまう。ああまったく。天使のように完璧に整った顔立ちに、目を奪われそうになる。とりわけまつげは実に見事で、その瞳を妖艶に覆っていた。
 実際、彼は一部の女性たちからカルト的に人気がある。つまり、噂を知らないか、知っていてもより興味を引かれる人種に。
 確かに見た目は完璧だ。猛禽のようにするどい眼光を除けばの話だけど。

「どんなに嫌がろうとも、君は逃げ出せはしない。今日君は俺の妻となり、明日には名実共にそうなっているのだから」

 結婚式の後の初夜に何が起こるかは教育係から聞いていた。
 思わず身を固くしてしまう。

 彼も私の想像に気がついたのだろう、その美しい顔面に、悪魔のような笑みを浮かべた。
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