79 / 84
俺の現実はどこか間違っている。
しおりを挟む街一つなら軽々滅ぼせそうなドラゴンに乗っていく。
もちろん、そんなバカな事はしない。ラーヴェインには四人が乗れるぐらいの大きさまで縮んでもらった。
王都までそのドラゴンに乗っていく。
もちろん、そんなバカな事もしない。屋敷から王都までの間にあるちょっとした森の中でラーヴェインには小さくなってもらった。アリアに抱かれた白竜はぬいぐるみみたいに見える。
森を抜け、丘を登ると立派な城壁が見えてくる。
王都に向かって歩いていると、騎士の一団とすれ違った。
その際、「この先で何か変わった事はなかったか?」と聞かれたが、「なかった」と答えた。
どうやら王都南西部に古代種が現れたらしい。しかも、同時期にウィルディ山脈とやらの一部が消失したようだ。
アリアが「あれ」とか言い出したので咄嗟に財布をチラつかせる事で難を逃れた。
城壁の前にはたくさんの人がいた。
ピカピカに磨かれた鎧を着込み立ち話をする騎士。忙しそうに荷物を運ぶ商人。地面に座り込んで駄弁る荒くれ。
先程すれ違った騎士の一団は先遣隊みたいなモノで、こっちが本隊なんだろう、と推測できた。
そうやって王都に来た。
実に一週間ぶりの人ごみだ。
ラーヴェインを連れ込めるか不安だったが、人類と契約したモンスターは特に問題ないらしい。それでも契約したモンスターというのは珍しいようで、
「むぅ。なんで見られてるんですか」
小さな白竜を抱いたアリアは好奇の視線に晒されている。
「ウザかったら魔法でどうにかしたらいいじゃあねえか」
俺は不機嫌そうなアリアに解決策を提案してやる。
「神の力はそう簡単に使っていいモノでは無いのです」
「さいで」
―― 普段めっちゃ使ってるじゃねえか。
そんなこんなで目的地であるギルドにやってきた。人はまばらでどのテーブルでも選び放題だ。
「じゃあトウカ、クエスト選んで来いよ。俺たちは適当なとこで座ってるから」
俺はトウカとの約束を忘れてなんかいなかった。
本当はエドラム城を見た時に思い出しただけだが、そんな些細な事はどうでもいい。女の子との約束を忘れていない、その事実が大事なのだ。
トウカは瞳を輝かせて、「任せてくれ!」とクエスト用紙が貼り出されている掲示板の方へ駆け足で去っていった。
「一体どのようなクエストじゃろうな」
「どうせ硬いヤツだろ」
「ですね」
『グォー』
念の為だがラーヴェインには人の言葉を話すな、と伝えてある。このドラゴンはもうペット枠だ。アリアとステラに「お手」とか言われてるのを見ると、王様って事なんて忘れてしまいそうになる。
適当なテーブルに腰を落とし、しばらく待っていると、
「あんたがカケルね! 探したわよっ!!」
肩をぐいっと掴まれて、強制的に体勢を変えられた。
そうしてきたのはピンク髪のおしゃれ美人さんだ。白いワンピース姿で腰には太めのベルトが巻かれている。だからか、胸がデカく見えた。
「……」
俺は必死に思考する。
―― このツンデレ属性…… バルカンにぼこぼこにされてたヤツだよな。騎士みてえな鎧は着てねえけど。この子の名前…… 名前……
「……」
「―― っっ!」
女の子の顔が耳まで赤に染まった。
「ちょっとこっち来なさいっ!」
俺は恥ずかしがってる美人に連れられてギルドの裏口から外に出た。
そこは人気の無い路地裏になっていた。
目の前にいるのはもじもじしている女の子。何か言いたそうにしているが上手く言葉にできないようだ。
俺は悟った。
―― これは…… 告白タイムっ!!
場所は違うが、ココが校舎裏だと考えればこの状況の説明がつく。
この子がボコボコにされてた時にその相手をぶっ飛ばしたのは俺だ。俺の名前もなんでか知ってるし、「助けてくれてありがとう。あなたの事が……」みたいなセリフをツンデレ属性持ちが素直に言えるはずがない。惚れられていると確信できる。
これが俺の脳内に導き出された結論だ。
―― いやまてよ。ここ最近俺にとって良い事ばかり起きている気がする。ゴキカブリを倒した事で索敵スキルは強化されたし、ドラゴンと契約もした。カッコいい変身アイテムも見つけることが出来た。一応俺をハメようとしていないか魂の色でも見てみるか。
俺は眼に魔力を集めて、
―― ふむ、白か。
心の中で呟いた。
理由はもちろん、この子の下着が白だった場合あらぬ誤解を受けるからだ。頭の回る俺はそんなヘマはしない。
「…… あたしの名前、言ってなかったみたいね」
「あぁ、そうだな」
「あたしの名前はロタ。冒険者としての名前だけどね」
「俺の名前はカケル。冒険者としての名前だけどな」
「…… カケルに言わないといけない事があるのよ」
来たか。
「なんだ?」
「あんた、バルカンを捕まえたわよね? アレ、あたしの獲物だったの」
求めてた言葉じゃあないんだが。
「…… そりゃあ悪かったな。横取りしちまって」
「謝る必要は無いわ。あたしの力じゃ犯罪の証拠を集める事は出来ても、捕まえる事はたぶん出来なかった。あいつのスキルは姿だけじゃなくて触れているモノと自分の魔力の存在も消せたから」
ほえ~。
「ここからが本題よ」
こっちか。
「なんだ?」
「…… あんた自分の状況分かってないでしょ?」
違う。
「その顔だとやっぱり分かってないようね」
「何の話だよ」
「あいつが何をしたかは知ってる?」
「詳しくは知らねえな」
俺の返答に、ロタは大きく息を吐いた。
「あいつは3年前、『王族惨殺事件』の現場にいた男なのよ。現場には他にも4人いた。あたしは顔を視ただけだから名前は分からないけど、きっと裏社会の人間ね。カケルはそいつらから狙われてる」
「…… ふっ」
俺は踵を返した。
―― 裏社会の人間に狙われている、それは別に怖くない。だって人間相手ならアリアがいるし、俺を護ってくれるペットもいる。それに、俺のスピードにはどうせ付いてこれない。バルカンがめちゃくちゃ弱かったんだからそうに決まってる。
問題は物騒な事件の方だ。闇深そうだしそっちは関わりたくない。
しかし、「ちょっと待ちなさい」と肩を掴まれる。
「離してくれ。俺は何も聞かなかったことにするから」
「あたしの忠告は聞いておくべきよ。あたしの眼は特別でね。その場で起きた過去の出来事を視る事ができるの」
「そりゃあすげえや」
「バルカンのアジトがあった古城にあたし行ったの。そこでこの眼を使った。そしたら黒づくめの男二人の会話に、『カケル』の名前が出てきたのよ」
「ふーん」
「…… あんた怖くないの? 命が狙われてるって言ってるのよ?」
俺は顔だけ後ろに向けた。
ロタの顔は俺の事を本気で心配しているように見える。
―― これは、チャンスだ。ここで男として余裕を見せる事ができればこの美人をオトせるに違いない。
俺は小さく息を吸って、言ってやった。
「だって俺、強いもん」
ロタの目が丸くなる。
俺はこの表情を知っていた。
―― ときめいている。明らかに。
少女漫画でトゥンクしてる時の表情を彼女はしていた。
俺は心の中でガッツポーズを決め、ふと思った事を訊いてみた。
「ロタ、お前何者だよ」
ここまで話を聞いていると、普通の冒険者には思えなかった。
「……」
ロタは肩を掴む力をちっとも緩めず、トゥンクしたまま動かない。
「おい」
「…… そ、そうよね。あたしの正体を知ってた方が信用してもらえるわよね」
ロタはなんか勝手に「うんうん」と納得しながら言葉を続け、
「あたしはロベルタ・ナルズ・サルミエント。サルミエント家の人間よ」
俺に正体を打ち明けた。
「ほう」
―― サルミエント家って、ステラが言ってた『サルミエントこうしゃく家』の事だよな。貴族の中で『こうしゃく』ってのがどれだけ偉いかなんて知らねえが犯罪組織を生み出した貴族なんだからロクでもねえ貴族って事か。こいつは自分たちの家系の汚点を消す為に動いてた、そんなとこだろう。
俺はこほん、と咳ばらいをして、
「ロベルタの正体は分かった。貴族だったんだな。で?」
「で? ってなによ。忠告はしてあげたわよ」
さあ、言え。
「それは聞いた。が、他に言う事あるだろ?」
「そ、それは……」
さぁ、あのセリフを言うんだ。
「俺に言う事は他にあるんだろ? じゃなかったらこんなとこに連れ出してこねえもんなぁ」
ロベルタは次に、「あんたの事が好きになっちゃったのよ! 心配してあげてるのが分からないの!? ばか!」、的な事を言う。
そうなるはずだった。
でも実際は、
「分かったわよ! 謝ればいいんでしょ! 巻き込んじゃってごめんなさい!! あたしの力不足が原因でした!」
ロベルタはそう言い残して走り去っていった。
どこで間違った。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く
burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。
最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。
更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。
「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」
様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは?
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる