77 / 84
俺の契約はどこか間違っている。 3
しおりを挟む『Conversion completed. Magic path creation completed. Ends support.』
俺を包んでいた青白い光が泡のように消えた。
現れたのは白い包帯が巻かれた両腕両足と、左手首に装着された銀色のリング。身体を見下ろすとボロボロの黒衣を着ているのが分かった。俺が元々着ていたのがフーディーだった影響か、黒衣にはフードが付いている。
―― 恰好はヒーローってよりヴィランみてえだが…… これは。
「変身……!」
俺は湧き上がる感情を抑えるように拳を握りしめる。かなり力を込めて握ったのに、包帯のおかげか全く痛くない。
「と、とりあえず解除方法を調べねえと」
―― 英語で解除ってなんて言うんだっけ。キャンセル?…… 反応ねえな。アクセプトって頭ん中で言ったら変身したんだよな…… 多分。だったらその反対の言葉か? アクセプト、イクセプト、ウクセプト…… リクセプト。そうだ! Reを頭に付けたら反対の意味になるって習った気がする。なら、リアクセプト…… ダメだ。
俺は思考を重ね、変身解除方法を探す。
―― そういやゲームでメインメニューに戻る時の英単語があったな。確か、エグジット。…… これもダメか。じゃあポーズ、ストップ…… クウィット。
思い付く限りの英単語を羅列していくが、リングはうんともすんとも言わない。万策尽きかけたところで、ふいにとある漫画のルビ付きセリフを思い出した。
―― 解放番号。
『Accept release code. Shifts to standby mode.』
その言葉で、俺は黒衣と両腕両足の包帯から解放される。
「てことは、だ。魔力を腕輪に流したら――」
『Accept to enter the conversion mode?』
「って頭ん中で聞こえて。アクセプトって言うと――」
俺を青白い光の泡が包み込んで、黒衣と包帯が現れる。
『Conversion completed.』
「変身する、と。んでリリースナ――」
『Accept release code. Shifts to standby mode.』
黒衣と包帯が青白い粒子になって霧散する。
「リリースで変身解除って事か! …… ふぅぉぉぉおおおおっっ!!」
俺は喜びを爆発させて、スキップで屋敷へ戻った。
*
リビングの扉を軽く開いて中を観察すると、約一名は両の掌で顔を覆っているが、ちゃんと全員いた。アリアはトウカにぴったりとくっついていて、トウカは気にしない様子で刀の手入れをしている。
―― ステラの様子からすると赤ちゃんの時の記憶もあるみてえだな。
俺はすっと息を吸い込んで、
「……」
神妙な面持ちでリビングへ入った。
「その様子だと何も見つからなかったようだな」
最初に反応したのはトウカだった。
俺は茶色い腕輪を指先でくるくると回して答える。
「…… 何ですかそのゴミ。そんなのよりお金になる物を見つけて来て下さい」
次に反応したのはクソガキだ。
若干イラついたが、俺は鼻で笑って答え、ポーズを決める。
「何してるんです?」
「…… ま、よぉーく見とけ。ステラもな。すげぇもん見せてやる」
俺は微動だにしないステラに声をかけて、腕輪に魔力を流し込んだ。
『Accept to enter the conversion mode?』
「変身っっっっ!!!」
アクセプト!
『Conversion completed.』
俺はヒーローのように変身を決めた。
「「「……」」」
三人は口をぽかんと開けて、ただただ俺を見ている。
「どぉーよ? かっけぇだろ?」
「「「……」」」
あれ、思ってた反応と違うな。なんか間違ったか? …… よし、もう一回だ。リリース。
『Accept release code. Shifts to standby mode.』
俺はポーズを決めなおして、
『Accept to enter the conversion mode?』
「変………… 身っっ!!!」
アクセプト!
『Conversion completed.』
もう一度変身して見せた。
すると、座って見ていただけのステラが言った。
「わ、妾も、その…… ソレやってみてもよいか?」
ふっふっふ。やはり真っ先に食いついたのはステラだったか。
「やりてえのか? 変身」
「妾は知的好奇心というヤツをじゃな……」
「正直に言えば貸してやる」
「妾も変身したい」
「よく言った」
俺は変身を解除して、近付いてきたステラに腕輪を渡す。
彼女はまじまじと腕輪を見つめ、手首に通した。
「どうやればよいのじゃ?」
「ソレに魔力流して、変な音が頭ん中で響いたらアクセプトって言うだけだ。心の中でアクセプトって言って、口に出すのは変身でもいいぞ」
ステラは頷いてから目を瞑り、わけの分からんポーズを取って、
「…… 変身」
恥ずかしそうに呟いた。
だが、ステラの容姿に変化は見られない。腕輪も茶色いままだ。
「…… カケル。どうなっておる」
「恥は捨てねえとな」
「変な音というのは喚き散らすような音で合っておるのか?」
「いや、そんな音じゃあねえけど。ぇあくせぷとぁえんたきょんば、みてえな音は聞こえねえのか?」
ステラは少し考えるように口元に手を当てた後、
「アリアよ、ちと来てくれ」
ポンコツを手招きした。
アリアは心底嫌そうな顔でトウカから離れ、とぼとぼ近寄ってくる。
「何ですかステラ。誰かさんが聖域魔法の契約してないのであんまりトウカから離れたくないんですけど」
「まぁそう言うでない。神の力の出番なのじゃからな」
「っ!」
ステラはアリアの手首に腕輪を通しながらそんな事を言った。
「どういう意味だ?」
俺はどや顔になりつつあるアリアをスルーして、ステラに尋ねる。
「アリアの『言語の加護』の出番、という事じゃ。恐らくカケルが言っておる音とは帝国語の事じゃからな。さ、アリアよ。その腕輪に魔力を流してみよ」
「ふふん、任せてください」
アリアは無い胸を張って、
「何か…… エラー、所有者の変更は現在実行不可能、って言ってますね」
「え、お前何言ってるか理解できるのか?」
「ふふん、当たり前じゃないですか。神に不可能はありません。カケルがさっき言ってた変な言葉は理解できませんでしたが」
英語、いやこの世界では帝国語を翻訳してみせたアリアに対し、ステラが頭を撫でる。
「さすがアリアじゃ。もう一つ頼んでもよいか?」
「もちろんです!」
ステラはアリアの手首から腕輪を取り、俺に渡してきた。
「もう一度変身し、腕輪の内側をアリアに読ませてみてはくれんか?」
「…… いいけど。ちょっと待ってろ」
「もうポーズは決めなくてもよいのじゃが」
「それは無理だ。コレはすげえ大事なことだからな。…… 変っっっ身っっ!!」
俺はカッコよく変身して、左腕を「ほれ」とアリアに預けた。
アリアは腕輪の内側を覗き込みながら、言った。
「えーと、『エム、シー、1586』って彫られてますね」
「ふむ。やはりか」
「何か分かったのか?」
「これは魔装具じゃな。まだ存在しておったとは驚きじゃ」
「魔装具? 魔道具じゃなくて?」
「そうじゃ。カケルも聖戦の事は知っておろう? 魔装具とは聖戦の際、帝国側が用いておったとされる武装の事じゃ」
「へぇ、これそんな昔の物なのか。よく分かったな」
「帝国製の物には造られた年が帝国文字で刻まれておるんじゃよ」
俺はステラに促され、リングの内側を確認する。
―― 確かに、『M.C 1586』って彫られてんな。
「しかし、帝国の魔装具と言えば鋼鉄で全身を覆い、火器を装備していると文献に記載があったのだが、カケルの風貌はソレとかなり違っておるな」
「……」
「どこかの暗殺者みたいな見た目してますね」
うるせえな。
「まぁ、魔装具を持っている事は妾たち以外に知られぬようにな。なにせ聖戦の遺物じゃからな。当時を知っておる種族はもちろん、帝国を忌み嫌っておる連中は多い。そやつらに見つかれば終わりじゃ」
「終わりって、そんな大袈裟な」
「くはは! 大袈裟でも何でもないぞ? 実際、聖戦後に行われた機械狩りでは魔装具を所持しておるだけで処刑された人々がおるからな」
やっぱこの国おかしくね? すぐ死刑にするじゃん。
「ステラの言う通りだ。帝国の遺物を所持しているという事は知られない方が良い」
いつの間にか近づいていたトウカが口を挟んできた。
「聖戦に関わりの無かったジャポンティでもグランマキナ帝国の侵略については学ぶからな。その対象になっていたこの国の人たちの帝国、皇帝ゼノンに対する憎悪は計り知れない」
「…… そんなデカい戦争だったのか?」
「世界地図が書き換わる程にな」
「じゃあ金に困った時に高値で売るって事もできねえの?」
「「死にたいのか?」」
「死にたくないです」
ちょっと楽しんでから売ればいい。
その考えは消えてなくなった。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる