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俺の契約はどこか間違っている。

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 気が付くと見慣れつつある天井を見上げていた。

 上体を起こし、拳を握って感覚を確かめる。

 「どうやら無事帰ってこれたみたいだな。…… 俺が幽体離脱をしてから数時間ってとこか。全然寝た気がしねえな」

 布団から身を出して襖の方へ近づくと、パラパラと雨が降る音が聞こえてきた。
 スッと襖を開けて、庭から空を見上げる。

 ―― こりゃあ今日も王都へは行けねえな。ラッキー。

 「にしても、サリエルのヤツ最後なんて言おうとしてたんだ?」

 俺はクソ天使が別れ際に言おうとした言葉を考える事にした。

 ―― 確か、『にんし』って言ってたよな。『にんし』に続く言葉…… にんしあ、にんしい、にんしう、にんしえ、にんしお、にんしか、にんしき…… 認識か! いや、とりあえず残りのも探してみるか。

 俺は天才的思考で答えを探す。

 ―― 『認識』と『妊娠』しかねえな。あのタイミングで『妊娠』なんて訳分らんし、やっぱこの世界で大事なことは『認識』って言ったのか。ただ、『認識』が大事って言われてもよく分かんねえな。そもそも認識って言葉の意味とか、認めるみてえな感じって事ぐらいしか知らねえし。

 「よし、昼まで寝よう」

 俺は考える事を諦め、布団に潜り込んだ。

 ―― そういやあいつらどうしてんだろ。

 ふと気になった俺は『魂捜索』で茶室の様子を探ることにした。

 ―― あいつらあの狭い部屋で川の字になって寝てんのか。…… あれ。

 「マジか」

 スキルを使った俺は少し困惑する。
 俺のサーチスキル『魂捜索』はこれまで火の玉の反応数が分かるスキルだったのだが、人のカタチをした反応数が分かるようになっていたからだ。

 ―― これならモンスターの反応だけじゃなくてどんなモンスターかも分かるし、かなり使い勝手良くなったな。

 満足した俺は瞼をそっと閉じた。



 瞼を貫通する光で俺は目を覚ます。

 「ふぁぁああ」

 大きくあくびをして、重たい瞼を擦る。

 「もう…… 昼か? やけに静かだな」

 今までならアリアかステラ辺りが起こしに来てもいいぐらいの時間帯だ。庭からトウカの素振りの音も聞こえない。

 「『ソウルサーチ』――」

 ―― あいつらまだトウカの部屋にいんのか。ステラは赤ちゃんのままだが、他の二人は座ってるから起きてはいるみてえだな。

 俺は自室を出てトウカの部屋へ向かった。

 「入るぞー」

 俺は一応ひと声かけて、茶室の扉を開く。

 「…… カケル、どどどどうしよう」

 茶室で俺を迎えたのはうろたえるトウカと、

 「神の子ですね……」

 アホな発言をするアリア。
 そして、

 「きゃっだっっだっ」

 二人の間で赤ちゃんをしているステラだ。
 俺は小さく息を吐いて、短く言った。

 「なにが」
 「私に赤ちゃんが出来てしまった」

 こいつは昼間っから何を寝ぼけてやがる。

 「よく見ろアホ。そいつはステラだ」

 トウカはステラへ視線を移し、赤ちゃんのほっぺたをつつく。

 「…… 間違いない。私の子だ」
 「アホか! んなわけねえだろ!」
 「だってよく見てみろカケル! こんなに可愛いんだぞ!」
 「赤ちゃんは可愛いもんだろうが! なんでそれだけでお前の子になるんだよ!」
 「私にそっくりだからだ」
 「髪の色も目の色も全然違えじゃあねえか。とりあえず俺は風呂入れてくるから、バカ言ってねえで王都に行く準備してろ」
 「神の子です……」
 「お前もだぞアリア」
 「だっ!」

 そんなやり取りをして、俺は茶室の扉を閉めた。

 ―― あんなしょうもねえ会話で現実ってヤツを実感するなんてな。



 その日の夜。

 「一体ステラはいつになったら戻んだよ」

 俺はマルメドリの丸焼きの残りを齧りながら、トウカに抱っこされたステラを見て言った。

 「ぶぅぅぶぶ」

 赤ちゃんステラはどこか不満気だ。

 「子供に戻った時よりも時間はかかるみたいだな」

 その背をトントンしながらトウカが言った。
 俺は食べ終わった皿をキッチンへ投げ、ソレをアリアが魔法で受け止める。

 「でも変ですよ。ステラから魔力を感じません」

 そういやキングマル―― ラーヴェインもそんな事言ってたな。
 
 「子供の時のステラには魔力があったのか?」
 「カケルぐらいの魔力は残ってましたよ」
 「今バカにしたか?」

 俺はキッチンへ視線を移す。
 アリアは「何の事です?」などと言って洗い物をしている。

 「ふむ。ならば魔力が関係しているのかもしれないな。初めての試みだが、ここは私がやってみるとしよう」

 背後でバチッと音がした。
 振り返ると、

 「おいおいおいおい! 何で帯電してんだ!!」

 トウカの左腕が雷を纏っていた。

 「ん? 私の魔力を流し込めばいいのだろう?」
 「なんでそうなるんだよ! ってか帯電しなくてもいいだろ! アリアとステラに魔力分けてもらった時はそんな感じしなかったぞ!」
 「私は魔力の扱いが苦手でな。スキルを部分的に出す感じで魔力を放出したらこうなった」
 「お前それ赤ちゃんにやって大丈夫だと思うか?」

 トウカは少し考えるように俯いて、そのままアリアの元へステラを抱いて行った。

 「え、私ですか」
 「カケルもこういうのは苦手だろう。それに、もし魔力を分ける事で元に戻った場合、カケルが抱っこしてる状態というのは、な」

 ―― まぁ一理あるか。

 俺は席を立ち、リビングの外へ足を進める。

 「どこ行くんです?」

 キッチンを横切った時、アリアがステラの背をトントンしながら言ってきた。

 「部屋に戻る以外行くとこねえだろ。ってか魔力流し込むだけなのになんで叩いてんだ?」
 「ぷぷぷ。知らないようなので教えてあげます。魔力を感知できない赤ちゃんの頃はこうやって魔力を込めた手で刺激を与えてあげるものなんですよ」

 なんかこの世界に来た時そんな感じの事やられたな。

 「ふーん。じゃ俺は寝るから」
 「ちゃんと歯は磨いてから寝てくださいね」
 「…… あい」
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