71 / 84
俺の幽体離脱はどこか間違っている。
しおりを挟む―― このベッドふかふかであったけぇ。なんかお日様の香りもするし。てかもう朝かぁ。昨日は頑張ったから今日はふかふかベッドで二度寝…… ん? 俺の部屋にベッドなんかあったか?
違和感に気付き、瞼を開ける。
「…… どこだここ」
俺の目に映ったのは見慣れない部屋の様子だった。どこか病院の個室を感じさせる部屋には窓があり、そこから雲に浮かぶ石造りの街が見える。
俺は記憶を辿った。
―― キングマルメドリさんが『所用を済ませてくる』とか言ってどっか行った後、俺はそのまま屋敷に戻ったよな。で、案の定スヤスヤ寝てたバカ二人のとこに赤ちゃんステラ放り込んで…… 寝た? いや、違うな。確か仰向けになったら横っ腹んとこの内臓が焼かれるみてえに熱くなって寝れなかったんだ。それから…… どうしたんだっけ。
俺はそこまで考えて、一つの答えを導き出した。
「これ俺死んでね?」
俺はガバッと起き上がって、窓へ近づく。
「雲に浮かぶ街なんて普通ありえねえよな。でも天界とか天国ってあんなイメージ…… ってなるとあの横っ腹がクソ熱かったのって肋骨が内臓に突き刺さってたとか? え? マジ?」
俺は絶望した。
―― 嫌だ嫌だ嫌だ! せっかく異世界人らしいことできたってのに! これから俺の冒険が始まるとこだったのに! デケぇゴキブリの体当たりで死ぬなんて嘘だろ!? こんなのおかしい! 絶対に間違ってる!!
コンコンコン
絶望する俺の耳に音が転がり込んできた。
俺は音のした方へ振り返り、身構える。
「お目覚めのようですね。カケル様」
「うぇ」
扉から入ってきたヤツの顔が無い。首から下はメイド服で、背中には真っ白な翼が生えている。ブロンドの長い髪は結い上げられていて、控えめだが胸の膨らみも確認できた。でも顔が無い。のっぺらぼうみたいなソイツを見て、理解した。
―― 死神だ。
俺は死神から離れるように部屋の隅へ移動して、更に警戒を強める。
「どうして離れるのでしょう?」
死神が首を傾げながら言った。
「俺を連れて行くつもりだろ!」
「その為に私は参りましたので」
―― やっぱりだ!
俺はカーテンを引っ掴んで、
「絶対に俺は行かねえぞ! 俺はあの世界に帰る!! ドラゴンと契約できたんだぞ! これからだったんだぞ! そんな時に召されてたまるか! さっさとどっか行きやがれ死神野郎!!」
叫んだ。
死神は首を傾げたまま、答える。
「カケル様は死んでなどおりません」
「…… 死んでねえの?」
「はい。ただ魂が肉体を離れているだけでございます」
俺は掴んでいたカーテンを手放して、
「なーんだ。ただ魂が肉体を離れてるだけかぁ。ちょっと焦ったぜ。…… ってソレが死んでるって状態じゃあねえか!!」
もう一度カーテンを引っ掴んだ。
「……」
死神から言葉による返答は無い。代わりに、ブゥンッという音と共に死神の手元に光の本が現れた。
俺は反射的にカーテンの裏側に身を隠す。
―― なんだ? ついに実力行使ってやつか?
顔だけを出して死神を見ていると、光の本が物凄いスピードでパラパラとめくられている。
―― 本がひとりでにパラパラしてるって事はアレは魔導書か! 死神め。お前が何しようがぜっっったいにココから動かねえぞ。
光の本の動きが止まり、死神は頭を下げてきた。
「申し訳ございません。誤解を招く言い方をしてしまいました」
「……???」
「カケル様は現在、ERSI―― 幽体離脱をしております」
ほえ~。
「それでは共に参りましょう。サリエル様がお待ちです」
*
SFチックな光の通路を、顔の無い天使の背中を追って歩く。
俺はその背中に向けて、言葉を投げ続けている。
「あの、さっきは死神とか言ってすみませんでした。天使だったんですね」
「謝罪する必要はございません」
「「……」」
「光る本みたいなのって、アレなんですか?」
「魂情報の記録媒体です」
「「……」」
「俺たちがいるココってどこなんですか?」
「魂を管理する塔でございます。私とカケル様は第1階層『魂の安息所』というフロアに存在しております」
「第1階層って事は他にもあるんですね」
「その通りでございます。魂の管理塔は全7階層で構成されております」
「「……」」
「あなたのお名前は?」
「私は『リピカ』とサリエル様より呼称されております」
リピカは聞いた事には答えてくれるが、自発的な発言は無い。
―― 機械みてえ。
そう思ったのは意思あるモノと会話してる感覚が無かったからだ。ソレがリピカの不気味さをより増大させる。
それからしばらく歩いていると、先の方にエレベーターの扉みたいなのが見えてきた。
リピカが手をかざすと扉が開き、俺は彼女に続いてエレベーターへ乗り込んだ。中は四方が壁に囲まれた箱みたいになっていて、扉の横には一から七のボタンが付いている。
「エレベーターみたいですね」
「サリエル様の趣味でございます」
「「……」」
訪れた静寂をかき消すように、プシューとエレベーターの扉が閉まる。
「サリエルは第何階層にいるんですか?」
「サリエル様は第6階層の外にいらっしゃいます」
「外?」
「言葉の通りでございます」
「「……」」
―― 階層の外ってどういうこった。
リピカは『6』のボタンに手を伸ばし、表情の分からない顔をこちらに向けた。
「…… なんです?」
「その、別フロアもご覧になられますか?」
それは初めてリピカが自発的にした発言だった。
俺はなんだか嬉しくなって、
「もちろんお願いします」
と返した。
俺の返答を聞いたリピカの天使の羽がぴくりと動く。俺はすかさず言葉を投げた。
「第2階層はどんな所なんですか?」
「第2階層は『魂の記録室』というフロアでございます。私たちがサリエル様より与えられた使命を全うする為の場所と認識してください」
そう言いながら、彼女の指先は『2』のボタンを押した。
「到着致しました」
「早くね?」
リピカがボタンを押してから数秒も経っていない。
「空間という概念が存在しておりませんので」
「あぁ、そうですか」
―― わけわかんねえ。
プシューとエレベーターの扉が開き、
「…… え?」
リピカの言った『魂の記録室』というフロアの光景は、俺の予想を軽く超えてきた。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!
クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』
自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。
最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる