65 / 84
俺の同居生活はどこか間違っている。 3
しおりを挟むトウカの部屋は狭い。茶室というだけあって造りは六畳一間ってやつなのだろう。ただでさえ狭い茶室の中央には布団が敷かれており、神棚に置かれている刀が異様な程に大きく見える。
自分の胸に埋まるアリアの頭を撫でながら、トウカが口を開いた。
「しかし、こんな夜更けに何の用なんだ? アリアの怯え様からするとカケルが何かやったと推測するのが当然だが……」
おやおや犯罪者を見るような目をしてますね、トウカさん。ついさっきの赤面した乙女らしい一面など微塵も感じられないような顔をしてますね。
「俺はなんもやってねえよ。そんなことより屋敷にヤバイのいたんだよ」
「強盗か? だが人が相手ならアリアの魔法で――」
トウカの言葉を遮るように外廊下に繋がる襖が勢いよく開かれ、
「面白い事でも起こったようじゃな!!」
ステラが現れた。
妙に色っぽいのは普段は下ろしている藤色の髪が結い上げられているせいだろうか。それとも騒ぎを聞いて急いで駆けつけた故の衣服の乱れからだろうか。
俺は静かに、というジェスチャーをしながら、
「そんな騒ぐなって。ヤツに反応されたら俺にはどうしようもねえからな」
「「……ヤツ?」」
俺とアリアがリビングで見たモノ。
雨が降る季節、湿度が高い季節になるとどこからともなく現れ人類を恐怖のどん底に陥れる存在。その姿を視界の端に捉えると一瞬だけ時が止まったように錯覚させる漆黒の魔法使い。
俺は小さく頷いた後、息を吸って、
「アホみたいにデカいゴキ――」
「その名前を言わないでください!!」
静かになっていたアリアが大声を上げた。トウカの浴衣が湿っている所を見るに、どうやら本気で泣いていたらしい。気持ちは分かる。何本もあるトゲトゲの脚にチョロチョロ動く触覚。顔面に向かって飛んできたあの忌まわしい事件は今でもトラウマだ。何より、セーフティゾーンだと思い込んでいる屋内に現れるって所が嫌われる原因だと俺は思う。
「もうほとんど言っているとは思うが…… それにしても変な話だな。人が住む家、いや、住んでいる家にモンスターが出現するとは」
「いうほど変か? モンスターなんてこの世界ならどこにでもいるだろ」
「ならカケルはアルヒや王都の街中でモンスターを見かけた事があるか?」
そう言われてみれば…… いや、あったわ。
「アルヒはマルメドリ繁殖させてたぞ。俺そこで働いてたし」
「……」
「はい俺の勝ち」
「何が勝ちなのかは分からぬが、トウカの言っていることは正しいぞカケル」
「正しい?」
「うむ。本来人が住む家、というより領地には聖域魔法という契約魔法の一種が施されているはずなんじゃよ。アルヒのマルメドリに関しては特定の条件を追加した聖域魔法が施されておると考えるのが自然じゃな」
聖域魔法、か。そのまま受け取ればモンスターの侵入を防ぐ魔法なんだろうな。
「それならなんであんなのが屋敷にいるんだ? そもそもこの屋敷に来た時はいなかったはずだ。俺が調べたんだし」
そう、俺が調べたのだ。
魂を持ってないジョニーを感知できなかったのは仕方ないとして、モンスターの魂反応があればさすがに分かる。
「つまりこの数日の間で屋敷内にモンスターが自然発生した、というありえない話になるわけだが…… アリアはどう思う?」
トウカは未だ自分の胸から離れないアリアに尋ねる。アリアは顔を埋めたまま、
「…… ぐすっ。…… カケルが悪いです」
「いやなんで俺なんだよ」
「さすがアリアじゃ。中々に深い事を言う」
「深くねえしどっちかというと浅いだろ。とりあえず原因は後でいい。まずはキッチンに居座ってるヤツをどうするか考えねえと。あんなのが家の中にいるってのに呑気に寝てられねえからな」
「カケルに何か策はあるのか? まさか私に斬ってこいなどと言わないとは思っているが」
「……」
「なっ!? まさかそのつもりで私の部屋に押しかけて来たのか!? 家の中でゴキ―― モンスターを斬るなんて発想は正気の沙汰ではないぞ!」
「うるせえ! 俺も焦ってたんだよ!! 確かによくよく考えたらアイツの体液やら死体やらで大変な事になるわ」
「カケル必死でした。ぷぷぷ」
「おい元気になったんならそこ俺と変われクソガキ」
「私にも拒否する権利はあるんだからな」
「ぷぷっ」
「……」
ちくしょう。
こんな時に転移魔法みたいなチート魔法があればモンスターだろうが勝ち誇った顔をしているアリアだろうが目の前から消せるのに。
「どうやら妾の出番のようじゃな」
何やら考え込んでいたステラが唐突に口を開いた。
「屋敷半分消し飛ばすとかってのはナシだからな」
「分かっておるわ! それにじゃな、こんな夜更けに妾が天体魔法を使ってしまえば明日の夕暮れまで子どもになるんじゃからな。さすがの妾もそのような思慮に欠ける事はせん。…… ちょっとは思ったが」
「思ったんかい。ところで天体魔法じゃないならなんなんだ?」
「これじゃよ」
ステラはそう言って、今日の昼間から読んでいた本を指差した。
題名は『モンスター全集』とある。俺が図書館で読んだ『スキル全集』のモンスター版なんだろうとすぐに分かった。ただ、期待はしない。『スキル全集』なんて名前なのに俺のスキルでさえ詳しく載っていなかったのだ。もちろんトウカのスキルも同様だ。例外としてアリアの持つ家事スキルだけは事細かに記されていたのを覚えている。
「…… よくその本買おうと思ったよな」
「くはは! 当たり前ではないか。確かに内容としては物足りぬやもしれんが、何も知らぬというよりは少しでも敵の事を知っておいた方が妾たちにとって有利であろう?」
やっぱステラは他の二人と違いますわ。ステラ様と呼ぼうかと思えるぐらい俺とも違いますわ。冒険者としての思考を持ち合わせてますわ。
こういう仲間が考えもしない思考を持つのって俺の役目じゃね? とちょっと思ったが口には出さなかった。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる