上 下
60 / 84

俺の新居はどこか間違っている。 2

しおりを挟む

 俺は屋敷を購入した。
 下見をしてからでもよいのでは、というステラを無視して俺は三百五十万サリーという大金を支払った。
 前の所有者が残していった家具や魔道具は全て俺たちが貰えるし、庭も広く大浴場もあると聞いた俺の判断は早かった。

 だがしかし、

 「…… 思ってたんと違う」

 王都から馬車で一時間半程離れた場所にあったのは一軒の屋敷。じゃなくて武家屋敷。
 想像していた西洋造りの建造物なんかじゃなく、戦国時代にでも建てられたかのような造りだ。敷地内には蔵まである。
 異世界の屋敷と聞いて一体どこの誰が武家屋敷を想像するだろうか。

 「珍しい建物ですね。ちょっと楽しみです」
 「ジャポン式で造られた屋敷だからな。この国で生まれ育ったアリアが知らないのも無理はない」
 「ジャポン式、ですか?」
 「あぁ、ジャポンティに伝わる由緒正しい建造方法でな。私の実家も全く同じ造りをしている」
 
 少しだけ落ち込む俺とは違い、他の連中は興奮しているようだ。
 俺は三人の後に続いて、屋敷に入っていった。



 引き戸を開けて、

 「『魂捜索ソウルサーチ』――」

 俺は探知スキルを使う。

 「どうじゃ?」
 「大丈夫そうだ。それらしき魂はないぞ」
 「ふむ。どうやらただの噂でしかなかった、ということか」
 「……」

 俺とステラは屋敷内の把握も兼ねて、敷地内の安全確認を完了させた。

 「何やら残念そうに見えるのは妾の気のせいか?」
 「いや、妖精さんってやつと会ってみたかったなって」
 「くはは! 妖精は姿を見せることは無いと言われておる。この屋敷にいたとしても見ることは叶わなかったであろうな」
 「え、なら何で妖精が出るなんて噂があるんだ?」
 「妖精はイタズラを好むらしい」

 この世界の妖精さんはお約束通りイタズラが好きだそうです。



 俺たちは各自の部屋を決めた。正面からでは分からなかったが、この屋敷は庭を取り囲むようにL字型に造られている。
 トウカは茶室のような部屋。ステラは本棚が置いてあった書斎のような部屋。アリアはキッチンや洗面所など家事がスムーズに行えるリビング横の部屋。俺は一番広い部屋。
 それぞれの部屋は外廊下で繋がっており、縁側で庭の光景を眺めてくつろぐことができる。
 あいつらは荷解きや自室のレイアウト決めにバタバタしているが、俺の荷物はフーディーとスウェット、後は服が何着かと軽装備ぐらいなので屋敷内の調査を終えてからはこうして畳の上で寝転がっていた。

 屋敷を一目見た時は異世界で『和』って感じの建物なんて、と思ったがこうしてゴロゴロしていると案外悪くない。
 というよりゴロゴロするならフローリングじゃなくて畳の方が断然良い。

 カコーン、と音が鳴る。
 庭に設置された『ししおどし』が機能した証だ。
 これも悪くない。風情があって日本庭園らしくて良い。トウカの話では日本庭園ではなくジャポン庭園というらしいが些細な問題だ。

 晩ご飯も食べ終わり、一人で入るには広すぎる風呂に入り、後は寝るだけという時間帯。
 そろそろ持ってきた服をクローゼットに入れて寝ようかと考えていたところで、縁側の襖が勢いよく開き、

 「カケルカケル! すごい物を発見しました!!」

 テンションの高いロリっ子が現れた。

 「なんだよすごい物って」
 「とりあえず来てください! 本当にすごいですよ!!」

 どうやら本当にすごいらしい。
 俺はアリアに連れられて、庭にある蔵へとやってきた。
 中に入るとトウカとステラがいて、二人の間に真っ白で大きな正方形の箱がある。

 「なんだそれ」
 「魔道具です! こんな物があるなんてこの屋敷の持ち主はとんでもないお金持ちだったのかもしれません!」

 魔道具、と言われても困る。

 「便利なのか?」
 「コレは冷房魔道具で暑い日でも快適に過ごせる高級品です!!」

 つまりこの四角くて大きな箱はクーラーという訳か。…… クーラー?

 「すげえじゃあねえか!」
 「ふふん! 探検してたら見つけたんです! 褒めても良いですよ?」
 「よくやったぞアリア。お前が見つけなくても明日には俺が見つけてただろうけどな」
 「むっ、一言余計です」

 冷房装置。
 現代日本では生活必需品とも言える機械が異世界にあった。厳密に言えば機械ではなく、氷結魔法と風魔法の複合魔道具だ。起動させる為には埋め込まれた魔石に魔力を流すだけいいらしい。魔法陣を起動さえしてしまえば大気中の魔力を吸収しながら動くそうだ。電気代がいらないってのは素晴らしいと思う。魔法陣が展開されるとかすごいファンタジーだと思う。



 冷房魔道具はリビングに置く事になった。
 俺は自室に戻り、クローゼットを開ける。

 「……」

 中に肌の白いリーゼントおじさんがいた。
 目が合ったような気がするが、とりあえず服を入れてクローゼットを閉める。
 そのまま布団に潜って、

 ―― え、何アレ。誰アレ。クローゼットの中におじさんなんて入れたっけ。ハードボイルドっぽいおじさんなんて持ってたっけ。妖精さんじゃないだろうし、何だろうアレ。…… よし、見なかったことにしよう。慣れない異世界生活で疲れてるんだ。きっと。

 俺は寝た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...