俺の異世界生活は最初からどこか間違っている。

六海 真白

文字の大きさ
上 下
59 / 84

俺の新居はどこか間違っている。

しおりを挟む

 ―― 家が欲しい。

 本来ならば冒険者って職についている奴にそんなもん必要ない。
 魔王を討伐するという高尚な目的を持ち、世界を旅して周る職業だからだ。
 何を隠そう、俺も異世界に来た当初はそんな夢物語を描いていた。異世界でハーレムを築き、俺また何かやっちゃいました的な感じで魔王倒しちゃうんだろうなとか思ってた。

 だが現実は違う。
 シリウスのようなチート能力持ち以外の冒険者はその日暮らしをするだけで必死な連中ばかりだ。魔王討伐なんて早々に諦めて人生を謳歌する能天気な連中ばかりだ。
 俺は運よくヒナの選別バイトやコモモドラゴン、賞金首の捕縛なんかで一度に大金を稼ぐ事が出来たが、他の連中は毎日毎日クエストを受注しては達成し、報酬を得る。時には失敗し、命を落とす事もあるだろう。
 そんな危険と隣り合わせの職業が冒険者ってやつだ。

 冒険者の悩みの種は数える程あるが、一番大きな悩みは寝床の確保だろう。
 言うまでもなく宿屋で寝泊まりするには金がいる。王都の相場は一人当たり一万二千サリーだ。俺のパーティは四人の為、一日経つ毎に約五万サリーも飛んでいく。

 こんなバカげた話があるだろうか。

 「いや無いっ!!」
 「っ!?」

 アリアは身体を跳ねさせて、不満気な視線をぶつけてくる。
 ステラが読んでいた本を閉じ、読了済みの本の山に積み重ねて、

 「して、何が無いのじゃ? 妾たちに足りぬモノなどないであろう」
 「ですねですね。私たちは完璧なパーティです」
 「家だよ」
 「「え?」」
 「…… 家が欲しいんだよ」
 「なぜです? 私たちは冒険者。家なんて必要ないでしょう」
 「ならお前はあそこに山積みになってるおもちゃを毎度毎度持ち運ぶってことだな。了解だ。頑張ってくれ」
 「よくよく考えてみると冒険者にも活動拠点的なモノは必要かもしれませんね。えぇ、必要かもしれません」
 「くはは! 妾の目的を忘れたわけではなかろうな。魔王七柱――」
 「お前は本屋さんでも始めるつもりなんだろ? 頑張ってくれ」
 「妾は書斎があればよい」

 俺が家、というか倉庫的な役割を持つ物件を欲する理由は金銭面だけじゃあない。
 ここ二週間程で購入した物が多すぎるのだ。
 アリアと共に毎日買っている卵型チョコレートのおまけ。毎日五冊ずつ積み上げられていく本の山。その他生活用品とガラクタの数々。
 用も無いのに俺の部屋に来てるって事はこいつらの部屋はすでに物で埋め尽くされているんだろう。俺の部屋も最初は余裕があったのだが、今では物で溢れている。
 これでは落ち着かないし、何より次の街に行く時処理に困る。こういう時に収納魔法を使えると良いのだが、あいにくそのようなチート魔法持ち合わせていない。

 俺は隅っこで刀の手入れをしているトウカに視線を移し、

 「トウカはどう思う?」
 「私は別に構わないぞ。庭があるようなら嬉しいが贅沢は言わない」

 あれ。今日はやけに素直ってか大人しいな。



 「な、なぜ妾が……」
 「仕方ねえだろ。アリアは洗濯と各部屋の掃除、トウカは刀の手入れで暇なのお前しかいなかったんだから」

 俺は不満気なステラを連れて、不動産を扱っている店の前まで来ていた。
 店はガラス張りで、取り扱っている物件のチラシが貼りだされている。
 予算は約四百万。物件を買う頭金としては十分だろうと考えていたのだが、

 「やっぱ400万じゃあ家は無理か」
 「当たり前であろう」
 「足りない分は借金とか――」
 「冒険者という不安定な職の男に金を貸す奴なぞおらぬ」
 「…… ですよね」

 ローンを組んで、なんて甘い事は許されなかった。
 この世界でも信用ってのは大事らしい。信用社会ってのはこの事か。
 
 「そもそも王都で家を買おうというのが間違いじゃ」
 「いや、俺は別に王都じゃなくてもいいんだけどな。お前らが持ってくる物の保管場所さえあればそれでいい」

 チラシの物件は全て四千万サリー以上の値が付けられている。
 土地とか建物とかはこの世界でも高いらしい。

 「もう気は済んだであろう? 妾は早く帰り読書の続きをしたいのじゃが」
 「ステラってそんなに読書好きだったっけ」
 「妾をこんな体にしたのはカケルではないか」
 「お前は何を言ってんだ。ふざけてないで店入るぞ」
 「それは――」
 「いいから早く」

 天体魔法がどうのこうの言っているステラを連れて、俺は不動産屋さんに入った。



 入店した俺たちは優しそうなお兄さんに別室へ案内され、ソファに腰を下ろしていた。
 目の前のテーブルには物件カタログのような物が二種類と紅茶が注がれたカップが二つ。
 俺は紅茶に口をつけ、店員さんが来るのを優雅に待っている。

 「これは中々良い茶葉だな」
 「…… じゃな」

 紅茶が半分ほど無くなったところで、店員さんが入室してきた。

 「すみません。お待たせいたしました。本日はどのような物件をお探しでしょうか?」

 俺は探している物件と予算を伝えた。
 店員のお兄さんは少し困ったような表情をして、

 「申し訳ございません。王都内にそのような物件は……。王都の外にある物件でしたら紹介できるのですが」
 「「え」」

 ―― あるの? 400万で買える家あるの?

 予想外の言葉に俺とステラの声は重なった。
 お兄さんは微笑んで、

 「実はジャポンティ出身の方に紹介できる屋敷が一軒だけあるんです」
 「本当ですか!?」
 「ええ、本当です。ただ…… 一点だけお伝えしないといけない事がありまして」
 「何ですか?」
 「その屋敷には出るらしいんです」

 ―― なるほどな。事故物件ってやつか。そりゃあ400万でも買えてもおかしくねえ。

 俺が一人で納得し、断ろうとすると、

 「して、何が出るのじゃ?」
 「おい何聞いてんだお前は。出るって言ったらアレに決まってんだろ」
 「はて。決まってはおらぬと思うが」
 「ちょっとこっちこい。…… すみません少し待っててください」

 俺はステラを部屋の外に連れ出した。

 「いきなりどうしたと――」
 「お前は事故物件って言葉を知らねえのか? 王都の外とはいえ400万で買えるような家…… じゃなくて屋敷だぞ?」
 「確かに安すぎるとは思うが、事故物件とは?」
 「事故物件ってのは過去に殺人とか自殺があったような物件の事だよ。んで、出るっていやあ決まってるだろ?」
 「カケルはゴースト系モンスター、幽霊が怖い――」
 「俺は全然怖くない。ただもしだ、もしそんなもんが出てきたらアリアは泣き喚くだろ? 俺は別に怖くないけどな? アリアが可哀そうだろ? アリアが」
 「……」
 「何だよ」
 「話だけでも聞いておいて損はないであろう? もし幽霊とやらが存在していたとしてもカケルのスキルで特定して討伐してしまえば安価で屋敷が手に入るのじゃぞ」
 「…… なるほど」

 ―― 何だよ。やっぱステラちゃん使えるじゃん。

 部屋に戻ると、ニコニコしながらお兄さんが口を開いた。
 紹介してくれるという屋敷に出るモノの正体は、

 「妖精さん?」

 という事らしい。

 「えぇ、噂程度でしか無いんですけどね。一応購入検討者には伝えないといけない決まりでして」

 妖精ってフェアリーの事だよな?
 この世界では幽霊の事を妖精と呼ぶなんてオチじゃないだろうな。

 「カケルの推測は外れたようで何よりじゃ。良かったではないか」
 「俺は怖くない」
 「妾はそんなこと言っておらんが。…… じゃが妖精ということであれば値段が安い理由にはならぬであろう?」
 「えぇその通りです。まあ理由は一つしかないんですけどね。…… 街の外に住む人がいると思いますか? 戦闘行為が出来る騎士や衛兵は騎士団宿舎で生活してますし、冒険者の皆さんは一所に身を置かないでしょう?」
 「「なるほど」」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

処理中です...