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俺の聖剣イベントはどこか間違っている。

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 夜遅く、俺たちは目的地に到着した。

 半壊したオリを積んだ馬車から飛び降りて、モンスターから街を守る堅固な外壁を見上げているとウィリアムが口を開いた。

 「カケル様。ここがアヴァロニア王国の中心、王都エドラムでございます。さあ、行きましょう」

 ウィリアムに導かれるまま門を通り抜け、エドラムの街中が視界に入る。

 「すげえ」

 王都とやらの街中を見た俺の一言は、単純明快だった。
 家々はアルヒと変わらない石造りなのだが、違うのは完璧な計算の元に建て並べられていることだ。門を抜け、通りに出ると美しい直線が姿を現し、王が住まう城までの道が示されていた。

 「美しいでしょう?」

 ウィリアムのしたり顔。
 ゴブリンも倒せない騎士様の顔とは思えない程その顔は誇りに満ちていて、ちょっとムカついた。

 「綺麗だな。まるでアリアのむ―― 純粋な心のように真っ直ぐだ」

 アリアがこっちを鋭い目で見て来たので発言を修正。
 鼻を鳴らしていたので事なきを得たようだ。
 ウィリアムは表情を変えず、

 「アヴァロニア王国とは騎士の国。その首都ですからね。騎士たるもの、規律を重んじ、規則を守る真っ直ぐな精神を持たねばなりません。この街はそんな騎士道精神を基にして作られたのです」
 「へえ」

 何か高尚な事を言ってるようだが、

 「そんなことより教会行きてえ」

 俺は青紫色に変色した両の掌を見せながら言った。
 
 「ゴブリンの毒!? 急ぎ城へ案内します! 城内には優秀なシスターがおりますので!!」

 違うけど。

 「よろしく」

 優秀なシスターとやらの治療を受ける為、俺たちは王都エドラムの中心地に足を進めた。

 ―― 翌朝 ――

 まだ朝日が差し込んで間もない頃、俺は目を覚ました。

 「ふぁあ」

 欠伸をして起き上がり、大理石のような床の上を歩いて、城下町を見渡せると聞いていた窓に近付く。

 「すげえ」

 昨日一目見て分かっていた事だが、やはりこの街は美しい。規則正しく配置された家々はまるで碁盤の目のようだ。
 俺たちが泊っているエドラム城は水堀で囲まれており、街中から城に架けられている橋がある。水堀の水は日本の城で見たような濁ったモノではなく、異世界らしい透明度の高いモノだ。
 さて、

 「二度寝するか」

 先程まで自分のいたふかふかのベッドに寝転がる、と。
 勢いよく扉が開かれた。

 「カケル! 起きてますか!?」

 何やら興奮してるアリアちゃんが飛び込んできた。

 「おいうるさいぞ」

 俺は毛布を頭から被り、テンションの高いロリっ子から防壁を作る。

 「起きてないじゃないですか!」
 「起きてるだろうが! 返事してるだろうが!」
 「起きてないです! はやく出てきてください!」
 「嫌だ! 俺はもう一回寝るの! 幸福な時間を味わうの!」

 俺とアリアは激しい毛布の奪い合いを繰り広げる。

 ―― おっ、こいつ。意外と力あるな。

 「ダメです!」
 「何がダメなんだよ! 良いから離せって!」

 俺は手足を巧みに使い、毛布が引き剥がされないよう踏ん張る。
 アリアは俺の城を攻めあぐねており、「んーんー」唸っている。

 「はっはっは! お前にこの城を破ることなど不可能!」
 「何バカな事言ってるんですか! 早くしないとせっかく料理長が作ってくれた朝食が冷めてしまいます!」

 朝食?

 「よし行こうか」

 アリアのその言葉に、俺の城は簡単に開城した。
 突然反発する力が無くなったせいか、アリアはバランスを崩し転びそうになる。

 「ちょっ! ちょっと! いきなり離さないでください!」
 「お前が出て来いって言ったんだろ」
 「む、それは…… そうですが」
 「それより朝食があるんだろ? どこだ?」

 異世界料理長の朝ごはん。王様という存在が毎日食べている料理を食べられる。昨日なんて治療を受けた後は疲れて夜ご飯も食べずにすぐ寝たから俺の腹の虫は鳴いている。

 「食べ物に釣られるなんて、やっぱりカケルは子供ですね」
 「お前にだけは言われたくない。アイスクリンでほいほい釣られるポンコツのくせに」
 「なっ!? またその禁句を言ってしまいましたね! 今日と言う今日は見逃しませんよ!」
 「ほう! なら見せてもらおうか! 『アクセル』を使った俺を捕まえられるもんならなあ!」
 「余裕です! カケルなんてちょっと速くなるだけなんですから! し・か・も! 何かに当たれば痛みを伴う欠陥スキル! 神の力である言霊魔法の相手ではありません!」
 「おい! それだけは言っちゃあ――」
 「朝から何を騒いでおるのだ」

 俺の言葉を遮るように、藤色髪の美少女が現れた。

 「朝食が冷めてしまうぞ。それに、メイドがアイスクリンも出ると言っておったな」
 「アイスクリン!」

 先程まで敵意剥き出しで俺を睨みつけていたロリっ子の瞳が丸々と大きくなり、輝き始めた。

 「アイスクリンだってよアリア」
 「…… っ」
 「アイスクリン」
 「カケルのお仕置きは食後にしておきましょう。仕方ないですね、えぇ。仕方ないです」

 こいつの脳内はすでにアイスクリンでいっぱいになったようだ。
 アリアは早歩きになって、部屋から飛び出していく。
 それを見て、

 「ほらやっぱりガキじゃねえか」
 「くはは。アリアはまだ成人前なのだから当然であろう」
 
 アリアのおかげで眠気が吹っ飛んだ俺は、朝食を食べに足を進めた。

 ―― 食堂 ――

 城内にあるこの場所は、ギルドの酒場と似たような作りをしていた。
 木で造られたテーブルが丁寧に配置され、注文をするカウンター。カウンターの前には『本日のメニュー』と書かれた看板がある。
 俺にはすでに料理が作られているようなので、注文はせずにトウカとアリアが待つテーブルに向かう。

 「……」

 俺に用意されていたのはメインにステーキのような何かの肉。そのステーキを取り囲むように、サラダとマッシュポテト、そしてミートボールみたいなやつがある。
 ステーキやサラダ、マッシュポテトは良いのだが、問題はミートボールだ。
 明らかに俺の知っている茶色い肉団子とは違い、この皿の上でも異彩を放っている。

 ―― このミートボール…… 虹色に輝いてやがる。もはや意味がわからない。俺の常識が通じない。だって、他の三人はパクパク食べてるもん。
 
 「食べないんですか? あっ、カケルのレインボール私のより一つ多いのずるいです。もらいますね」
 「……」

 ロリっ子が俺の皿に手を伸ばし、虹色に輝くミートボールを掻っ攫っていった。
 
 「よく食べられるなそんなの」

 俺は角ウサギ事件を思い出してビビっていた。

 「え? 美味しいですよ? あっ、カケルのレインボール私のより多いですね。ずるいです」
 「おいこらクソガキ。自分でパクパク食ってただろうが。もうやらんぞ」

 アリアが何個も欲しがるという事は、このレインボールとかいう料理は美味いのか。
 俺はフォークを突き刺し、覚悟を決めて口に運ぶ。
 瞬間、口の中でビッグバンが発生した。

 「うめえええええ!」

 俺は残りのレインボールに手を伸ばし、次々と口に運んでいく。

 これは美味い! この料理に使われた謎素材の旨味成分が、噛んだ瞬間に破裂する。口の中に溢れる旨味は瞬間性のモノではなく、持続した。喉を通り過ぎるまでの約七秒間。俺は食の神秘を体感する。
 ソレが俺の神経を刺激して、更なる食欲を呼び覚ます。

 「あっあっ。私のレインボールがぁ!」
 「お前のじゃねえ!」

 ―― こんなうまいモノをこいつに奪われていたなんて! 次は先に食べてこいつの分を奪ってやろう。

 俺たちは王都の料理ってヤツを満喫した。
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