上 下
43 / 84

俺の旅立ちはどこか間違っている。 2

しおりを挟む

 太陽が世界に顔を覗かせて、数時間が経過した頃。

 馬車という異世界モノで必ず出てくる移動手段に、俺は初めて乗っていた。
 でも思ってた馬車じゃない。俺が思ってた理想の旅路はこんな馬車に乗って行うモノじゃない。
 そもそも俺の知ってる馬じゃない。馬のような見た目をしているが完全にモンスターだ。だって鱗あるもん。風にたなびくたてがみとか無いもん。つるっつるだもん。

 それに、

 「おかしくないか? なんでこんな牢屋みたいなとこに詰め込まれて運ばれてるんだよ」

 俺たちは鋼鉄製の柵で囲まれた、オリのような物の中に座らされていた。

 「まるで誰かに売り飛ばされるよう気分だな。…… くはは」
 「おいこらステラ。不吉なことを言うんじゃねえ。ただでさえこんな物に乗せられて気分が悪いってのに」

 馬車って乗り物の乗り心地最悪だ。
 道に出来た少しの段差さえ、乗り越える時はお尻が痛くなる。
 よくこんな乗り物を使って旅なんてしようと思えるよな。かなりスピードが出てるから目的地までは早く着くんだろうけどさ。俺はもっとゆっくりと旅がしたい。こんなオリではなく荷馬車的なヤツに乗りたい。

 「こんな物しか用意できず申し訳ありませんカケル様。ただ、普通の馬車では王都まで三日もかかってしまうのです。このハヤトカゲウマなら一日で王都まで辿り着けますから」
 「……」

 ハヤトカゲウマってなんだよ。ふざけてるだろ。
 馬っぽいモンスター、ハヤトカゲウマの手綱を取り、俺たちをこんな状況に追いやった騎士が口を開いた。
 他人に『様』を付けて呼ばれるのはちょっと気持ちいいかもしれない。
 だが、謝られても納得は出来ない。こんな状況、傍から見れば俺たちは罪人だ。
 実際、何も知らない街の連中はオリに閉じ込められ運ばれていく俺たちを哀れな目で送り出した。その中にいたデンバーやアイーシャさん、ギルドの他のお姉さん達まで悔しそうな表情をしていたのは本当に解せない。

 「カケルが悪いです」
 「おいバカ。俺は悪くないだろ。昨夜の自分の発言を忘れたのか?」
 「…… ふふん」
 「笑ってんじゃねえ」

 こうなった原因は、昨晩ポンコツが余計な事を言ったせいでもある。

 ――― 時は遡り、昨夜 ―――

 俺は話だけなら聞くという条件付きで騎士を部屋に招き入れていた。
 騎士はがちゃがちゃと重々しい音を出しながら腰を落とす。そのタイミングで、「つまらないものですが」とかなんとか言ってアリアがお茶を出した。

 「お気遣いありがとうございます。その優しさ、女神のようですね」
 「…… ふふん。私は神ですから」
 「おぉ。そうでしたか。これは失礼いたしました。見目麗しい神よ」
 「それでは神である私は洗い物がありますので」
 「家事もこなせるとは…… 美しいだけでなく人民の生活をも熟知しておられるようで」
 「ふふん」

 何やってんだこいつら。
 俺は小さく息を吐いて、

 「王様が俺に会いたいって言ってましたけど…… どういうことですか?」

 本題を切り出した。

 「あぁ、そうでした。その前にまずは自己紹介を」

 騎士は片膝を立て、頭を垂らし、仰々しく名乗りを上げた。

 「僕の名前はウィリアム・マグ。エドラム騎士団の副長を務めている者です」
 「俺はカケルです」

 俺に続くようにステラ、トウカが自己紹介をした。

 「で、あそこでバカみたいに浮かれてるのがアリアです」

 俺は鼻歌混じりに洗い物をするアリアを指差す。

 「神に向かってバカとは失礼ではありませんか? ねえウィル?」
 「そうですよ。アリア様は神なのですから敬わなければなりません」
 「……」

 いや、なんでウィルとか馴れ馴れしく呼んでるんだあのバカは。
 この騎士様もあいつの妄言に騙されるとか冗談でも笑えねえぞ。

 「僕がここに来たのは先ほどもお伝えした通り、王がカケル様たちとお会いになりたいとおっしゃったからに他なりません」
 「他なりますよ。なんで王様が俺たちみたいな駆け出し冒険者と会いたいんですか」
 「僕も理由までは聞いておらず…… とりあえずドラゴンハンターと呼ばれている冒険者を城にお招きしろ、としか」
 「だから俺たちはドラゴンハンターなんて呼ばれてませんって」
 「だがしかし! 街の――」
 「だがしかしじゃないです。そもそもまだ冒険者になって半年も経ってない俺たちがドラゴンハンターなんておかしいと思わなかったんですか?」
 「…… それは、確かにそうですが」

 よし。このまま追い返そう。
 ドラゴンハンターを探してるとか絶対面倒ごとが押し付けられる展開だろう。

 「分かったなら他を当たってください。俺たちは明日もガルウルフを倒しにいかないといけな――」
 「カケルってドラゴンハンターって呼ばれてませんでしたっけ? そう呼ばれたって喜んでましたよね? ねえステラ?」 

 このクソバカがあああああ。

 きょとんとした顔でとんでもない事を言い放ったポンコツ。ステラは肩を震わせながら顔を背けている。
 
 「ほら! 神様もそう言っておられるのですから」
 「い、嫌だなあ。今のはアリアの冗談ですよ、冗談」
 「冗談なんかじゃないですよ? 神は冗談とか言いませんから」

 こいつう。
 いや、待て。まだ手はある。招待されたんだから所用があるといって断る権利ぐらいはあるはずだ。

 「ちなみに、断ることはできるんですか? できますよね?」
 「何を言っておられるのですかカケル様! 王の命令は絶対。拒否すれば国家反逆罪で死刑になってしまわれます!」
 「…… えぇ」

 おいどうなってんだよこの国は。
 独裁者が頂点に君臨してるじゃねえか。

 「それでは早速出発の準備をしてきます! 明日の朝お迎えに上がりますので、旅の準備を整えておいてください」
 「おいま――」

 ウィリアムは俺の静止など気にも留めず、どこかに走り去っていった。

 ――― 時は戻り、現在 ―――

 ガタガタと揺れるオリの中。
 
 「でもでも私は悪くないです」
 「でもでもじゃない。お前があんな事言わなかったら今頃宿屋でのんびりしてたんだぞ」
 「だって仕方ないじゃないですか! 神は嘘はつけません!」
 「今自分が悪かったって認めたな」
 「あ」
 「引っかかったな」
 「神である私を陥れるなんて!」
 「この状況に陥れたのはお前の発言だろうが!」
 「やっぱり私のせいじゃないです! カケルが俺はドラゴンハンターだあ! とか言って私に自慢してきたのが原因です!」
 「おいふざけんな! やっぱりってなんだよ! そんなことお前に一度も言ったことねえだろうが! 神は嘘はつけないってさっき言ったばっ――」

 俺の言葉を遮るようにウィリアムが、

 「さすがですね、カケル様。神であるアリア様と対等の立場で会話なされるとは」
 「ちょっと黙っててください」

 気が削がれた俺は大きく息を吐いて、過ぎ去る景色を眺める。
 馬車が速すぎてゆっくり異世界の風景なんて楽しめないが。

 なんでこうなるんだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...