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俺の祭りはどこか間違っている。 2

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 トウカの話を要約するとこうだった。
 マツリの『教育の加護』とは誰かにモノを教えることが上手くなるという名前通りの加護だった。
 ただ、マツリ本人のやる気しだいでその加護の効果は上昇し、効果が最大になると、教えられた人はその事しか考えられなくなるらしい。
 マツリ自身に悪気はないし、マツリ本人と教えられた者同士のみ言っている事が理解できるそうだ。
 
 「いや、待ってくれ。俺には魂の加護があるんだから精神的な支配は無効になるはずだぜ?」
 「だから正気に戻ったのではないのか?」
 「ふむ」

 そうか。確かにアリアとステラは頭がおかしくなっていた。だが、俺は気付いたら元に戻っていた。
 つまりあれか、俺の精神が完全に支配されたという状態にならないと『魂の加護』の効果は発動しないってことか。
 そう考えると瞬時に精神を支配する言霊魔法が効かず、時間が経過しておかしくなってから正気に戻った理由は説明できる。
 元に戻った俺はいいとして、問題はあいつらだ。

 「トウカ、あいつらはいつ元に戻るんだ?」
 「明日の本番が無事終われば元に戻るはずだ」
 「無事?」
 「マツリ先生が満足しないとアリアたちは元に戻らない」
 「いやなんでだよ」
 「私が知るか」

 なんて面倒な。
 厄介すぎるだろその加護。
 あれか? 試験が終われば勉強モードが終わるみたいなノリなのか?

 「マツリが満足しなかったらどうなるんだ?」
 「私も知らない」
 「……」

 このおっぱい使えねえ。

 「とりあえず明日は練習通りやりゃ問題ねえんだろ?」
 「そのはずだ。マツリも明日は楽しみにしていたからな。完璧な仕上がりだって」
 「……」

 約二名ソーランしか言わないけどな。

 「よし、とりあえず寝るか」
 「えっ、急にそんなこと言われても……」
 「違うから! お前は自室に帰れよ!」

 俺はトウカを追い出してから独り言を呟いた。

 「無事に終わらせないといけないってことは俺はちゃんと出ないといけないってことだよな。さすがにあいつらもあのままじゃ可哀そうだし。くそっ」
 「ふふ。カケルは意外と仲間思いなんだな」
 「聞き耳立ててんじゃねええ!!」

 再度どや顔で入室してきたトウカを追い返してから俺は寝た。
 あいつらが元に戻らなかったとしたらソーランソーラン言ってるやつが一生パーティーメンバーってことになる。どっちにしろ、俺はハズレくじを引いているわけだ。
 まあ、なんとかなるだろ。なんとか。

 ――― 翌日 マルメ祭り当日の朝 ―――

 居間に行くと、三人は祭りの準備をしていた。
 俺はその光景に思わず声を漏らす。

 「おぉ」

 三人は祭りの為に普段とは違う服装になっていたからだ。
 俺もよく知るその服は、

 「おはようカケル。ふふ、私たちも結構似合っているだろう? それとも懐かしさでその顔になってしまったか」
 「法被はっぴじゃねえか」

 法被。日本のお祭りで神輿を担いでいるような人が着ているやつだ。しかも丈が短い半袖のやつじゃない。丈が長いカッコいいほうのやつだ。ひらりとするとぶわってなるやつだ。
 懐かしさもあるが、見てくれだけは良い三人が着ると、なんというか、絵になる。
 金髪の髪に青色の法被、藤色の髪に青色の法被、そして見慣れた黒髪に青色の法被。
 そういえば元の世界の祭りって中学一年の時に行ったのが最後だったな。

 そんな事を考えていると、俺に気付いたアリアが駆け寄ってきた。
 髪には買ってやった水色のリボンが丁寧に付けられている。

 「ソーランソーラン! 見てください!」
 「ソーランじゃねえ!」
 「えっ? ソーラン! ソーランがまたおかしくなってます!」
 「ソーラン? ソーランソーラン」

 ―― もうやだこいつら。さっさと元に戻してやらねえと。

 ステラに駆け寄ったアリアを見ながら、俺は決心した。

 絶対成功させてやる、と。

 「ふふ、優しいな」
 「心を読むなアホ」
 「これはカケルの分だ。出番は昼前と聞いているからな、少しゆっくりできるだろう」

 俺はトウカから自分の分の法被を受け取って、

 「いや、何で俺だけピンク?」
 「ん? 伝統的に中央を務める代表者はその色だろう。寝惚けているのか?」
 「嫌だ。俺も青色が良い」
 「なっ、わがままを言うな! アリアとステラを元に戻したいのだろう! マツリがコレはカケルにと渡してきたのだからコレを着ろ!」
 「俺がピンク色の理由言ってんじゃねえか。伝統云々どこいったよ」
 「……」

 俺は渋々ピンク色をした目立つ法被を受け取った。

 「そういえばこれマツリが渡してきたって言ったな」
 「あぁ、今朝届けに来てな」
 「こんな状況にした張本人か」
 「そう言うな。昼過ぎには二人とも元に戻っているさ」
 「だといいけどな」

 俺は自室に戻って、法被を身に着ける。

 ―― あれ、意外とピンクも似合ってるな。

 ちょっとだけ自分に酔っていると、ベッドの傍らに一冊の薄い本が視界に映り込んだ。
 俺は手に取って【ソーラン節特訓日記】と題されているソレを破り捨て、残骸にファイアーボールを撃ち、消し炭にしてやった。

 そして、俺はもう二度と安易に誰かのお願いなんて聞いてやるもんか、と固く誓ってから部屋を出た。

 居間に辿り着くと、

 「ぷぷぷぷ! ソーランが! ソーランが!」
 「ソーランソーラン」
 「ソーラン! ソーランですよ? ぷぷぷ」
 「ソーランソソーラン」

 アリアとステラに笑われた。
 何言ってるのか分からんが、俺を指差してぷぷぷしてるから絶対にそうだろう。あとソソーランってなんだよ。
 トウカが俺の肩に手を置いて、

 「ふ、に、似合っているぞ、カケル」
 「おい褒めるならこっち向いて褒めろ」

 なんだこいつら。

 そんな俺を見て、ステラが近寄ってきた。

 「え、なんだよ?」
 「……」

 ステラは俺の目の前に無言で立っている。

 「何? え、何?」
 「……」

 困惑していると、ステラは俺の肩に手を置いて、微笑んで、

 「ドッコイショ」

 と言って部屋を出て行った。

 なにがあああああああああああああああああああああ!?
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