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俺の祭りはどこか間違っている。

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 【ソーラン節特訓日記 一日目】

 早起きしたのにマツリは迎えに来なかった。騙されたと思って悔しかった。
 仕方なかったのでトウカと一緒に練習場所に向かった。
 今日は他の連中と動きの合わせをした。
 この世界のソーラン節は俺が知っているソーラン節と動きは全く同じだったが歌詞が少し違った。あと、太鼓や三味線、尺八なんて物がこの世界にも存在していることに驚いた。ソーラン節といい楽器といい、もしかしたらジャポンティには俺の世界の物が他にもあるのかもしれない。
 ちなみに、アルヒの祭りは来週末の二日間に渡って開催され、マルメ祭りと呼ばれているらしい。マルメドリに感謝を込め、街を挙げた一大イベントだそうだ。マルメ祭りまで一週間と二日あるから明日からは気合入れていこうねとマツリに背中を叩かれた。俺たちがソーラン節を披露するのは一日目らしい。
 女の子に頼りにされるのってやっぱり悪くない。
 努力が青春に繋がるってこういう事なのかなって、ちょっと輝く思いを抱いた。


 【ソーラン節特訓日記 二日目】

 昨日よりも早く起きたのでまったりしているとマツリが迎えに来た。
 幼馴染に朝迎えに来られるってのはこういう感覚なのかなってちょっとだけ興奮した。
 特訓とは名ばかりで今日はみんなでお茶会をして、そのまま解散になった。
 楽しかった。
 俺の他には居ないと言われていたジャポンティ出身の男だが、実際には二人もいた。太鼓を叩く要員なので踊りには参加しないらしい。この男共は何やら辛気臭い顔をしていたように思うが、美女に囲まれて食事をするというのは中々良いモノだ。


 【ソーラン節特訓日記 三日目】

 今日もマツリが迎えに来た。暇だったのだろうかアリアとステラも一緒に付いて来た。
 そして、本来の特訓が始まった。動きがぎこちないやら、リズム感がないやら散々言われたが朝から夜まで特訓したからか及第点は貰えるようになった。最初はこんなもんかな、とマツリが呟いていた気がするが気のせいだろう。
 俺は祭り本番では中央を任されることになった。なんでも伝統では男が中央にいないといけないらしい。しかも、中央の男が音頭を取らないといけないらしい。つまり、歌わないといけないらしい。もちろん断ろうとしたけど色々な理由でダメだった。
 それを見て笑っていたアリアとステラにはむかついた。
 朝から晩までソーランソーラン言ってたせいか、疲れたので早めに寝ようと思う。


 【ソーラン節特訓日記 四日目】

 今日もマツリが迎えに来た。アリアとステラも付いてきた。
 音程はいいけど声が小さい。動きにキレがない。網を引く感覚を意識しないと表現にならない。昨日より上達していないなんて! 帰って何をやってたの。等々めちゃめちゃ怒られた。
 俺がミスる度に初めからやり直しだったので周りの目もきつかった。
 アリアとステラも参加することになったらしいが、俺には関係ないことだ。
 身体的にも精神的にも疲れたので早めにソーランと思う。


 【ソーラン節特訓日記 五日目】

 今日もマツリが迎えに来た。アリアとステラは先に行っていた。あいつらは結構楽しんでいるらしい。
 イメージトレーニングを繰り返していたおかげか合わせが終わった後でマツリに褒められた。ちょっと嬉しかった。それを見て変な目をしていたアリアとステラにはソーランした。
 最近周りがソーラン。久しぶりにギルドに行くと受付のお姉さんに変な目で見られるし、アリアも洗濯ものをドッコイショしている。
 だんだんソーランが耳からソーランになってきているのかもしれない。
 たぶん疲れてるので早めにソーランしようと思う。


 【ソーラン節特訓ソーラン 六日目】

 今日もソーランが迎えに来た。ソーランとソーランは後から来るようだ。
 ソーランが始まってからソーランとドッコイショしか口にソーランしていない気がする。
 ソーランまであと三日。ソーランにも認められるぐらい俺はソーランした。
 もうソーラン本番でもソーランないだろうな。
 早めにソーランしようと思う。


 【ソーラン節ソーラン 七日目】

 ソーランがソーランしてソーランがソーランした。
 たぶんソーランだろうと思う。ソーランがソーランでソーランしていた気がするがソーランだろう。ソーランにソーランをソーランされた。ちょっとソーランした。
 ソーランはソーランなのでソーランする。



 【ソーランソーラン ソーラン】

 ソーランソーランソーランソーランソーランソーランソーランソーランソーランソーランヤーレンソーランソーランソーランソーランソーランソーランソーランヤーレンソーランソーランソーランソーランソーランソーランソーランヤーレンソーランソーランソーランソーランソーランソーランソーランヤーレンソーランソーランソーランソーランソーランソーランソーランヤーレンソーランソーランソーランソーランソーランソーランソーランヤーレンソーランソーランソーランソーランソーランソーランソーランヤーレンソーランソーランソーラン

* 

 「うわああああああああああ!!」

 俺は叫び声と共に目を覚ました。
 窓からは月明かりが差し込んでいることから夜だろう。
 部屋の外からドタバタと誰かが走ってくる音が聞こえる。

 「どうしました!? ソーラン!」
 「俺はソーランじゃねえええ!」

 アリアは扉を開け放つと同時にとんでもない名前で俺を呼んだ。

 「何を言っているのです! あなたはソーラン神、ソーラン――」
 「ソーラン神ってなんだよ! 俺はカケルだ!」
 「えっ」

 えっ? 俺がおかしいの?
 いや、絶対に違う。俺まともだよ。

 「えっ、じゃねえ!」
 「ちょ、ちょっと待っててください! ソーラン呼んできます!」
 「誰だああああああ!!」

 アリアはそう言い残してどっかに走り去った。

 ―― おいおかしいだろ。何だよソーラン呼んできますって。

 俺が呆けていると、またバタバタと走ってくる音が聞こえた。

 「ソーラン!」
 「違う!」

 アリアが連れて来たのはステラだった。

 「ソーラン! ソーラン!」
 「……」

 可哀そうに。ステラはソーランしか言えない体になってしまったのか。

 「ソーラン! ソーランが!」
 「ソーラン! ソーランソーラン!」
 「……」

 もうこいつらが何言ってるのか理解不能だ。
 そんな時、もう一人の人物が部屋に入ってきた。
 入ってくる時、扉に足の指をぶつけていたのはこの際黙っておこう。痛がってるし可哀そうだ。

 「くっ。やはりこうなってしまったか」

 トウカはとても後悔した様子でそんな事を言った。

 「やはりって、何か知ってそうだなトウカ」

 俺が声を出すと、トウカは心底驚いた様子で、

 「正気に戻ったのか! カケル!」

 と俺の肩を掴んで前後にぶんぶん振った。

 「やめろ! 首が飛ぶだろ!」
 「あ、あぁすまない。でもよかった元に戻って」
 「それで? 何が起きているんだ? アリアとステラもおかしいぞ」
 「私はおかしくなんてありません! ねっ? ソーラン?」
 「ソーラン!」
 「うるせええええ! お前ら出てけ!」

 俺はアリアとステラを部屋から追い出す。
 ステラが何か言ってたがソーランしか言わないので良く分からなかった。

 「よし、これで静かになった」
 「なっ、カケル…… 密室で二人きりとはその……」
 「違う! そんなんであいつら追い出したわけじゃあない! そういうのはいいから何が起こってるのか話せって!」
 「…… そうか」

 え、なにこの感じ。俺こんな空気知らない。
 俺の気持ちも知らずにトウカは話し始めた。

 「実はマツリの加護は『教育の加護』なんだ…… くっ!」

 いや、くっ! じゃねえよ。どんな加護かなんて俺知らねえよ。
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