35 / 84
俺の休日はどこか間違っている。 2
しおりを挟むもう見慣れてきたな、この宿屋の光景も。
初めてこの宿屋に来た時は感動したのをよく覚えている。
アニメでもゲームでもよく見た木造りの内装と簡素なベッド。異世界に来たって実感が湧いてきてテンションも上がったものだ。
だが、慣れとは怖いもので、もう何の感情も湧いてこない。
そんな光景の中、見慣れた金髪ロリっ子が見慣れない行動をしているのが見えた。
「なあステラ。あいつ何やってんだ?」
俺は何かの本を読んでいるステラに声をかけた。
「何でも祭りが近いそうでな。踊りの練習だそうだ」
「祭り? 踊り?」
なんだそれ。初耳だぞ。ってか祭りってあの祭りだよな? フェスティバルのことだよな?
俺は両手を上下にブンブン振っているポンコツをもう一度見る。
「あれが踊りには見えないんだが」
「妾もそう思う」
「だよな」
だってなんかフンフン言いながら腕振り回してるだけなんだもの。
ステラの正面に腰を落とす。
「今日もクエストへは行かぬのか?」
「祭りがあるんだろ? アリアもあんな調子だし祭りが終わるまでは休みって事にしようぜ」
「妾はそれでもよいが生活費は大丈夫なのか?」
「問題ねえな。1ヶ月ぐらいは働かなくても過ごせるはずだ」
「なら妾は読書でもするとしよう」
しばらく天体魔法を撃ってないからか、ステラの魔法撃ちたい衝動も発症しなくなった。
最後にやったクエストといえばあの日のトビドリュウ討伐クエスト。
それから俺は毎日昼過ぎか昼前に起床してごろごろするという生活を送っていた。
貯金に余裕はあるんだから働かなくてもいいのだ。それに宿屋にいればステラが魔法を使うこともない。コモモドラゴン討伐クエストというおいしいクエストが発生するまでのんびりしたらいい。
「そういえばトウカはどこ行ったんだ?」
「トウカなら朝早くに出かけて行ったぞ? トウカも祭りに参加するとか言っておったな。何でもジャポンティ特有の楽器を使った伝統的な踊りだそうだ」
「伝統的な踊りねえ。そんな大きい祭りなのか?」
「妾も詳しくは知らん」
「さいで」
俺は席を立ち、出かける準備をする。
「どこか行くんですか? いつも部屋に引きこもってたのに」
腕を上下にブンブンしながらアリアが尋ねてきた。
「おい余計なこと言うな。引きこもってたんじゃない。ゆっくりしてたんだ。今日はちょっと街の探索と適当に買い物でもしようと思ってな」
「私も付いて行っていいですか?」
「別にいいけど。その練習みたいなのは大丈夫なのかよ」
「ふふん! 私は神ですよ? 神に練習など必要ないです」
「じゃあ何で腕振り回してんだよ」
「……」
え? なんで無言?
それから俺はアリアの支度を待って、街へ繰り出した。
*
様々な種族が行き交う街アルヒ。こうして見渡してみると本当にファンタジーだ。
今のところ人間以外で接点があるのはギルドで働くエルフ族のみだが、その内獣人とかトカゲみたいな種族とかとも交流を持ってみたい。
お約束的な展開があるなら奴隷になった獣人族の少女を助けるとかなんだろうが、この街で奴隷なんて見たことがない。
ここよりも大きい街ならあるのだろうか。
「どうして今更外出しようなんて思い立ったんですか?」
「そんな俺が外出することが不満なのか!? …… まあいいや。俺この街で行った場所少ないなと思ってさ。どこにどんな店があるか知っておきたいだろ?」
「そういうことですか」
「そういうこと。それよりなんでアリアは付いてきたんだよ」
「…… ちょっと」
「ちょっと?」
「か、買ってほしい物があるんです」
あらやだ。顔なんて赤くしちゃってもう。
「高いもんは買わねえからな」
「わ、分かってますよ!」
「よし、ならアリアが買いたい物がある店に先に行くか」
「え!? いいんですか!?」
「いいもなにも、俺は別に行きたい店なんてないからな。その店に行くまでに何かあるだろ」
俺がそう言うとアリアは心底嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
これで自分は神とか言って俺にマウントを取ろうとしてこなければ普通の美少女なんだけどなあ。
俺は真横で鼻歌を始めたロリっ子を見て小さく息を吐いた。
「カケル! ここですここ!」
それから十分程歩いた頃、アリアが瞳を輝かせてとある店を指差しながら言った。
「トレーサーの小物店?」
と看板を読み上げてみる。
どうやらアクセサリーショップのようだ。店の外観はウィンドウショッピングができるようにガラス張りで木で出来たマネキンに高そうなネックレスが引っ掛けられている。
俺は急かすアリアに引っ張られてその店に入店した。
「お前何を買いに来たんだよ」
「ちょっと待っててください!」
「っておい」
俺を店の入り口に残してアリアは走り去っていった。
一人にしないで? この店女の人しかいねえんだから!
入り組んだ造りの店内であの小さな姿は簡単に消えてしまった。
入り口でキョロキョロしていると、
「何かお探しですか?」
ほらきたぁ! やっぱりきたぁ! サービス業なんだからそりゃ来るのは分かってたけどさ、俺苦手なんだよな、こういうの。
俺はセールストークを持ちかけて来たお姉さんに愛想笑いを浮かべて、
「いやあ、連れがここで待ってろっていうもんで」
「…… あはは、そうでしたか! それではごゆっくりしていてくださいね」
「はい」
何か引かれたような気がする。
店員のお姉さんと入れ替わるようにアリアが戻ってきた。
二色のリボンみたいな物を持って。
「カケル! これどっちがいいと思いますか?」
アリアの掌にはピンク色のリボンと水色のリボン。
つまり、これはどっちが似合うか選んでってことか。
俺は直感的に水色かなと思った。
アリアの瞳と似た色だからっていう単純な理由から。
「俺は――」
いや、まてよ。
こんな展開のラブコメを俺は知っている。
ショッピングでどっちが良いか聞いてくる女の子の心理は確か……
そうだ! こういう事を聞いてくる時、女の子は自分の中ですでに明確な答えを出しているっっ!
ここでその意に反する答えを言ってしまえばたちまち女の子は不機嫌になるんだ。
間違うわけにはいかない。アリアの機嫌なんて簡単に取れるが、拗ねられるよりはゴキゲンにさせておいた方が後々楽だろう。
よし、ここは、
「アリア、鏡があるとこ知ってるか?」
「はい、知ってますよ! こっちです!」
俺はアリアに連れられて店の奥に入り込んでいった。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる