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俺の3人目のパーティーメンバーはどこか間違っている。 完
しおりを挟む目の前には茶色い山のようなモンスター。
その場を動こうとせず、なぜ飛び出してきたのかも分からない謎の巨大モンスター。
「これほど巨大なモンスターを斬れる時が来るとはな。カケルのパーティーに入ってよかった」
トウカは精神を研ぎ澄ますように息をすぅっと吸って、言葉を漏らした。
『二天轟流』
彼女の周囲を走る蒼白い光が轟音を立てながら勢いを増す。
手に持った日本刀を左側にある鞘に戻すと、右側の腰に白く発光する刀が出現した。
「おい、まさか」
「ふふ。気付いたか。そう! 私は本来二刀流だ」
―― 雷で出来た刀と日本刀の二刀流とかカッコよすぎないか? それ俺も使いたいんだけど。
相変わらずモンスターが動く気配はない。
『一ノ型・居合』
トウカは体勢を低くし、両の手を交差させ両脇にある刀に手を添える。
―― その構えはっ! 俺が刀を使った時に一番やりたかった技!
『鳴雷いっ―― きゃっ!?』
「は?」
浪漫溢れる剣戟、居合を見られるのかと俺は思っていたのだが、実際視界に映ったのは何もないところでこけた女の子。
「「……」」
トウカはむくっと起き上がり、
『一ノ型・居合』
体勢を元に戻して、
『鳴か―― ひゃっ!?』
こけた。トウカはまたむくっと起き上がり、体勢を低くして、
『一ノ型・居合』
「おいちょっとまて」
俺は何事もなかったかのように再開しようとしたトウカを引き止めた。
「なんだ? 今良いところなのに」
「良いところじゃねえ。お前今こけたよな? 二回もこけたよな?」
「は? 何を呆けたことを。私がこんな大事な場面でこける訳がないだろ。今のはこのモンスターの攻撃だ」
「いや、そいつ何もしてねえよ。出てきてから何もしてねえよ」
「くっ! まさか土系魔法を使い、私に傷を負わせるとは…… このモンスター中々強いっ」
「くっ! じゃねえよ。お前が傷付いてんのは自分でこけたからだよ」
「こけてない! 下がっていろカケル! ケガするぞ」
「ケガしてんのお前だけどな」
「……」
『一ノ型・居合…… 鳴雷一閃――!』
トウカは俺から逃げるように技名を言い放ち、目の前から消えた。
耳に響いたのは雷鳴のような轟音、目に映ったのはバチバチと鳴る白い光と……
「すげえ」
真っ二つに切り分けられた茶色い山。
彼女が通った跡であろう地面は抉られて、蒼白い光がパリパリと残っている。
トウカの二刀によって切り裂かれた巨大モンスターの死体はバランスを失い、地面に崩れ落ちた。
さっき何も無いところでこけていた黒髪の美少女がこちらに走ってくるのが見える。
「おーい! カケルー! これが私のじ―― ひゃっ」
またまたトウカはこけて、生傷を自分で増やした。
―― あいつ、まさかのドジっ子属性持ちかよ。あんなカッコいい技使えるのに、使う前までクソダセえじゃねえか。
「ふう。まさか死んでもなお私に土魔法を使うとは…… 中々に強敵だった」
「……」
「私の剣術を見て驚きのあまり言葉も出ないのか?」
「この短時間で三回もこける奴を見るのは初めてで驚いてるだけだ」
「こけてない!」
「……」
俺が疑いの目を向けていると、背後から声がした。
「あっ! カケル達いましたよ!」
アリアとステラが駆け寄ってきて、
「どうしたんですかトウカ!? そんな強敵がいたんですか!? 向こうまですごい音が聞こえてましたけど」
「なに、ただのかすり傷だ。気にするほどの事じゃない」
そりゃあこけただけだもんな。
「でも血が出てますよ! 止血しないとダメですよ! あれ? 何ですかあの茶色いの」
アリアは俺たちの背後にある巨大モンスターの死体に気付いた。
「ほう、トウカは中々凄腕の剣士なのだろうな」
「やっぱりトウカが倒したんですね! カケルにはこんなモンスター倒せませんもんね!」
「ふふ。だが私もまだまだだ。この程度のモンスターに傷を負ってしまうようではな」
いや、自分でこけて付けた傷じゃん。そのモンスター本当に何もしてこなかったじゃん。なんでそんなキメ顔出来るの?
「傷を負ってもこんな大きいモンスターを倒しちゃうなんてすごいですよ!」
「そ、そうか? 照れるな」
―― 何恥ずかしがってんだよ。その傷自分で付けたって方が恥ずかしいだろ。
俺はふと、トウカが追いかけて来ている時の事を思い出した。
「トウカ、一つ聞きたいことがあるんだが」
「ん? なんだ?」
「お前の言うその土魔法ってトビドリュウ達も使ってたのか?」
「それはそうだろう。でなければ私があんな小さいモンスターにダメージを負うわけがない」
「ふーん」
「なんだその反応は!?」
つまりトウカは俺を追いかけている時に何度もこけていた、と。
だからあの恐ろしい雷の音がたまに遠のいていた、と。
「…… なんでもない。アリア、この巨大なモンスターの死体運んでくれ。あとあっちで散らばってるトビドリュウたちのも頼む」
「あとでアイスクリン二つ買ってください」
「わかったわかった。なんなら三つ買ってやるよ」
俺が言うとアリアは瞳を輝かせる。アリアの言霊魔法は便利とは言え、さすがに疲れるだろう。
なんて優しいんだ俺は。
「言いましたね! 約束ですよ! 三つですよ三つ!」
俺たちは街へと足を進めた。
「さすがにこの巨体を街に持って入るのは無理だよな」
「ですね」
「だがモンスターの死体が無いとクエスト完了報告とやらができぬのではなかったか?」
「そうなんだよな。ちょっと俺が先に行ってお姉さんに話してくるわ」
「逃げる気ですか?」
「いや何が?」
その後、巨大トビドリュウを含めたモンスターの死体はギルドの職員たちに引き取られた。
トウカが切った巨大モンスターはジャイアントトビドリュウと言うらしい。
地面の下に潜って生活するところはトビドリュウと変わらないが、違うのは真上を通ったモノに攻撃するのではなく、その巨体で通せんぼをするという所だという。
ちなみに、ジャイアントトビドリュウ解体費用やらギルド職員派遣費用やら色々なモノがクエスト報酬から差し引かれて雀の涙程しかお金はもらえなかった。
正直、意味が分からない。俺の知るクエスト報酬ってのは額面通りの金額プラス倒したモンスターの素材をもらえるはずだ。
まあ、現実はゲームみたいに単純ではないということなのだろうが、絶対にどこか間違ってると思う。
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