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俺の3人目のパーティーメンバーはどこか間違っている。 3

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 風が吹き、俺は心の準備を整える。
 俺が今から走るのはモンスターが埋まるデス・ロード。少しでも速度を落とせば地面から飛び出てくる弾丸モンスターに俺の身体は撃ち抜かれることになるだろう。
 少し離れたところから聞こえてくるのは黄色い声援、否、ヤジ。

 「カケルー! 転ばないでくださいよー!」
 「転んだ方が面白いのではないか?」
 「それもそうですね!」
 「「こーけーろ! こーけーろ!」」
 「うるせええええぞ!」

 あいつらなんなの? ほんとに仲間? 

 「そういえばトウカの加護って何なんだ? 雷系の魔法かスキルを使うってのは分かってるけど」

 背後で待っているトウカに話しかける。

 「そういえば言ってなかったな。私には『雷神の加護』が付いている」
 「なにそれかっこよすぎねえ?」
 「そうか? だが私は侍だからな。スキルはここぞって時にしか使わないぞ? 基本は剣術で勝負する」
 「昨日思いっきり自分の周りバリバリ鳴らしてたろ」
 「あ、ああああれはカケルが変な事言おうとするからだ!」
 「ほぉん」
 「なんだその反応は!?」
 「で、その剣術ってのは? 色々あるだろ剣術にも」
 「確かに流派は色々ある。だが、これから披露するのは私が生み出した剣術。どんな流派よりも優れ、傑出した最強の流派だぞ。カケルも驚くだろうな」
 「おおお! トウカは自分で新しい流派を作ったってのか!? すげえじゃん!」
 「ふふ。そう言ってもらえるとやはり嬉しいものだな。さて、カケル。とりあえずはトビドリュウの殲滅だ。見せてやろう。私だけの剣術、絶倫流の太刀筋をっ!!」

 興奮した声色とは反対に、俺の心は冷めていく。

 「おい、その流派の名前誰がつけた」
 「私だが?」
 「なんでもいいけどさ、その名前あんま人前で言うなよ」
 「なぜだ?」
 「その言葉の意味知って使ったのか?」
 「あ、当たり前だ!」
 「…… ならその意味言ってみろよ」
 「同じ刀を扱う流派のどこよりも優れた流派、という意味だが」

 俺は息を大きく吐いて、振り返り、黒髪の美少女の耳元で教えてあげた。
 絶倫の広義を。

 「なっ!? ななななな何を言っている!?」

 トウカは顔を真っ赤にし、俺から一歩後ずさった。
 そりゃその反応になるわな。自分でかっこいいと思ってつけた流派の名前が世間であんな認識の言葉だったら。

 「何もクソも今教えたのが世間一般で使われているその言葉の意味なんだよ。よかったな他の奴らの前で公言する前に止めてくれる奴がいて。感謝しろよ?」
 「……ぉ……す」
 「感謝の言葉が小さいなあ」
 「……ぉ……す」
 「なんだってえ? 感謝は大きな声で相手に伝わるようにってママに習わなかったのかなあ?」

 トウカは顔を真っ赤にしたまま俺の耳元まで顔を近づけて来た。
 おいおい、そんな事までは求めてないぞ。まっ、まだ心の準備が。あっ、ちょっと柔らかいものが当たっ――

 「殺す」
 「なんで?」

 俺は駆け出した。
 それはモンスターを地面から誘い出すための走りではなく、背後に迫る鬼神から逃れるための走り。
 俺が走った後にはポンポンポンポンと気持ちのいい音を立てながらトビドリュウが飛び出してくる。
 それら全てを切り捨て追ってくる雷神様。全身にバリバリと鳴る白い光を纏った黒髪の美少女は地面を削りながら迫ってきている。
 たまにそのバリバリとした音が遠くなる気がするのはトビドリュウたちが壁になってくれているからだろう。

 俺はあっという間にサーチ済みの地点を駆け抜け、どこにモンスターが埋まっているか分からない場所にたどり着く。
 それでも俺は地面の下に埋まっているモンスターを恐れ足を止めるわけにはいかない。

 「まてえええええ!」
 「待てって言われて待つ奴がいるか! 止まったら俺死ぬだろ!」
 「死にはしないっ! ただ首と体が別れるだけだ!」
 「それを死ぬって言うんだよ!! 他の連中に言う前で良かったじゃねえか! そんな怒るなって!」
 「もう何度か言ってしまっている! どうしてくれる!?」
 「俺が知るかああああああ!!」

 その間も地面からはポンポンポンポンとトビドリュウが飛び出している。

 ―― どんだけ埋まってんだよ。

 ボゴォ

 「なっ!?」

 それまで聞こえていた軽快な破裂音ではなく、鈍い音がしたと同時に、トウカの驚きの声があがった。
 俺が後ろを振り返ると、

 「おいおいおい、なんだこいつ」

 目の前にはトビドリュウを数倍大きくしたトビドリュウが姿を現していた。

 「カケル! 聞こえているか?」
 「聞こえてる!」
 「こちらへ来てくれ!」
 「嫌だ! 俺はまだ死にたくない!」
 「あれは冗談に決まっているだろ! 私もさすがに人殺しなどしたくはない」

 ―― いや、冗談に見えなかったんですけど。目から稲妻出てましたけど。

 俺は現れてから微動だにしない茶色い山を迂回して、トウカの元に足を運んだ。
 モンスターの脇を回り、トウカの姿が視界に入る。

 「お前何でそんなボロボロなんだ?」

 さらしは所々破れ、手足にも擦り傷が見られる。
 戦場で傷付いたおっぱ―― 美少女ってのもいいもんだな。

 「気にするな。戦場にいるんだからキズの一つや二つは付く。あとゲスな目でこっちを見るな」
 「…… それで? トウカはこいつなんだと思う? トビドリュウのボスっぽいが」
 「そうだろうな。おそらくこいつを倒せば、この一帯にいるトビドリュウたちは散り散りになるはずだ」
 「倒せるか? ステラ連れてきてもいいけど」
 「いや、私が本気を出せばこの程度のモンスター叩き斬れる」
 「おぉ」
 「カケルは下がって見ていろ。私の家に代々伝わる剣術を見せてやる」
 「絶り――」
 「それじゃない! それはもう無い!!」

 俺はトウカから少し離れた場所に移動し、彼女を観察することにした。
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