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俺の通り名はどこか間違っている。 完
しおりを挟むギルドの中はいつも通りで特に変った様子はない。
ちらちらと視線を感じる程度だ。
「なんで入り口で突っ立ってるんだ。はやくしろ。他の冒険者に先越されるだろ」
「「……」」
二人は沈黙したまま俺の後ろを付いてきた。
受付まで歩いてきたが、こいつらが黙るほどの事なんて何もない。
いつもより視線を感じる程度だ。まあ、ドラゴンハンター・カケルがどんなクエストを受注するのかみんな気になるんだろう。
「ミーナルアさん! 今日はなんかクエストありますか?」
「カケルさん、おはようございます。そうですね…… ロ―― ドラゴンハンターと最近噂のカケルさんにおすすめのクエストは…… あっ! これなんてどうでしょう? カケルさん好きだと思いますよ?」
今なんか言おうとしてなかったか?
俺は受付のお姉さんからクエスト内容の書かれた紙を受け取り、視線を移した。
* クエスト名 人質の救出 *
我々の村が山賊に襲われ、子どもたちが攫われました。山賊たちは、返して欲しければ5千万サリーを用意しろ、というのです。我々の村にそんな大金は無く、冒険者のみなさんにお願いするしかありませんでした。山賊は二十人ほどでどこかの洞窟を拠点に活動しているようです。どうか我々の子どもたちを取り戻してください。
※ 報酬 5万サリー
「子どもの救出作戦か。小さな子を人質に取るなんて許せねえな」
俺は至極当然で正義感溢れる事を言った。
「おい、やっぱりだ」
「さすが、ぶれねえな」
「そりゃあそうだよな」
正義の味方のつもりで放った言葉なのに、周囲から聞こえたそのささやく声たちはどこかおかしい。
思ってたような称賛を含んだ言い方じゃあなく……。
この世界で俺の扱い方を考慮すると明らかに昨夜何かが起きている。その出来事がこいつらの態度に表れているとしたら、このクエストを安易に引き受けてしまえばきっと不幸が襲い掛かってくるに違いない。
俺はクエスト用紙をミーナルアさんに返して、
「もうちょっとこいつらと話し合ってからにします」
「えっ!?」
「えっ?」
なんでこの人驚いてんの!?
「あっ、すいません。てっきり即断するものと思ってましたから」
「いやいや、一応こいつらの意見も踏まえてクエストは選ばないといけませんから。大事なパーティーメンバーですからね」
「あぁ、そういう」
納得しました、みたいな顔をしたミーナルアさんの表情に疑問を抱えたまま俺たちはいつものテーブルに移動した。
「何かが起きている。そうだな?」
俺は指を顔の前で組み、まるでどこか司令官のように尋ねた。
「実はな――」
「ステラは悪くありません! 私があの時もっとちゃんと――」
「何を言っておるのだ。アリアは何も悪くないであろう!」
「いえ! 悪いのは私です!」
「妾じゃ!」
「私」
「妾」
「おい」
「何です!?」
「何じゃ!?」
えっ? この子たちさっきまで自分が悪い自分が悪いって言い合ってた子たちだよね? なんでそんな強気なん?
「どっちが悪いとかは今はいい。とりあえず昨日何があったか話せ」
「実はですね――」
――― 時は遡り、十二年前 ―――
私はアリア。神です。神である私がこの世に生を受けたのは今から十二年も前の事でした。私は強く気高い最高神―――
「おいちょっと待て」
「何です?」
「昨日の事語るだけだろ? なんで十二年も時間巻き戻してんだよ? あとお前の父親絶対最高神じゃねえだろ」
「みなさんに私の生い立ちを説明しておいたほうがいいと思ったんですけど」
「いや、みなさんって誰だよ。そんなのいいから昨日の事話せって」
「カケルはいつもいつも文句ばっかり言ってぇ! もう、仕方ないですねえ」
いや仕方なくねえよ。
――― 時は遡り、一日前 ―――
私はアリア。神です。神である私がこの世に生を受けたのは今から十二年も――
「だからお前の生い立ちはいらねえって言ってんだろおおお! 一日前って言ったじゃん! 始まりは正解だったじゃん! そんな自分の事語りたい!?」
「私が生まれたのは正解だなんてそんな…… 恥ずかしい事言わないでください」
なんなのこいつ。なんで頬赤らめてんの?
「お前はもういいや、ステラが話してくれ」
「分かった。じゃが怒らんでくれよ?」
「…… 分かった」
――― 時は遡り、一日前のこと ―――
妾はステラ。世界最強にして最高の天体魔法の使い手である。妾が生まれたのは千五百年前の――
「お前もかよおおおおお! 何!? お前らは昨日の事を話すときに自分の生い立ちから始めないといけない縛りでもあんの!? ふざけんなよ! 先に進めねえよ!」
「千五百年前から生きておるという設定にしておいた方が謎の美少女感が出ると思ったのだが」
「魔法使ったらその反動で幼女になる時点でとんでもない謎抱えてんだよ! あと自分で美少女とか言うな」
「なっ!? 妾が美少女ではないとっ!? カケルの理想は高いのだな」
くそっ。こいつら遊んでやがる。
「分かった! お前らが昨日何があったのか話したくないってのはよく分か――」
「相変わらずカケルの周りは騒がしいな!」
呆れていると、聞き覚えのある声がした。
「デンバーか。…… なんでお前らデンバーの事指さしてんだ?」
「この人が諸悪の根源です! よく考えれば私は悪くなかったです!」
「そうじゃな! 全部こやつが悪い!」
「いや、お前らさっき自分たちが謝ってたの忘れたのか?」
「「……」」
こいつら。まあいい。とりあえず、
「デンバー、どういうことだ?」
「えぇ、俺が悪者みたいな感じやめてくれよ」
「「デンバーが悪い!」んです!」
「と、いうことだ。話してもらおうか。昨日何があったのか」
俺はデンバーを隣に座らせて、出来るだけ優しい笑顔で問いかけた。
「あ、あぁ。昨日の事か。昨日街中で小さくなったステラが近寄ってきてな? 『かけるがわらわのことみりょくてきといっておったんじゃ! わらわがみずにぬれたところをみるとたぎるらしいぞ! おまえもそうなんか?』 って詰め寄って来たんだよ! 俺は何のことかわからずにこう言っちまったわけ。『おいおい、それじゃあカケルはドラゴンハンターじゃなくて小さき者を愛でる狩人じゃねえか!』ってな。まあ思い返してみれば小さいステラはよく訳の分からんこと言うから本気にはしてねえけどな」
俺は息を吸った。かなり吸い込んだ。
「お前らが悪いんじゃねえかああああああ! おいアリア! 小さくなったステラの面倒任せてって言ったよな!? 神である私が子ども一人監視下におけずに何が神です、とか言ったよな!? 思いっきり爆弾発言広めてんじゃねえか!」
「ち、違うんです! 私はちょっとお店からイイ匂いがしたのでちょっと目を離しただけなんです!」
「ステ――」
「違うんじゃ! 妾は小さくなっておったからな? あの言動は妾であって妾ではないからな?」
「くそっ! 今お前たちを責めてる時間はない! とりあえず今日のクエストは中止だ! あとアリア。お前は一週間おやつ抜きだ」
このポンコツに幼女の面倒見させたのが悪かった! 失敗した!
「あと、デンバー。お前も街中で余計な事言うな。ただでさえこの街は都合の良い事だけ聞き取って広める奴が多いんだから」
「へーい」
「じゃあ、お前も手伝えな」
「え? でも俺は今からクエストに―――」
「いいから来いっ!!」
俺はクエストに行くのを中断し、不名誉な称号が広まった街中を駆け回る事に一日費やした。
ちくしょう! どうしてこうなるんだあああああああああああ!
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