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俺のパーティーメンバーはどこか間違っている。 3
しおりを挟む「…… 金が必要だ」
「ですね」
俺とアリアはギルドに来ていた。
いつもの端っこにあるテーブルでお互い真剣な表情で向かい合っている。
「どうしようアリア」
「どうしましょうカケル」
「…… このままでは寝る場所が馬小屋になってしまう」
「知らないですよ! 全部カケルが悪いんですよ!」
「なーにが全部だ! お前の言霊魔法がモンスターに効かないって分かってたら俺はあの時キングマルメドリさんの前に行かなかったんだよ! すぐにこの街から遠いところに逃げてたんだよ! だからお前にも責任はあるんだよ! ふざけんなよ! わかったか!?」
「また私を頼りにしてたんですか!? 信じられません! カケルが年上で男の子って事実が信じられません! それに私もあの時逃げ出したかったんですよ! でもカケルが私を褒めるから調子に乗っちゃっただけです! しかも! あのモンスターがこの街に来たのはカケルのせいじゃないですか!」
「っ! ぐぬぬ」
―― 俺とアリアが口論に至ったのには理由がある。それは今から小一時間程前の事だ。
新しくスキルを習得した俺と言霊魔法のレベルが上がったアリアはウキウキでギルドに来た。人生初のモンスター討伐クエストを受注するためだ。
ギルド内は珍しく静かで、他の冒険者たちの姿が見当たらない。
俺は受付に向かい、理由を尋ねた。
「あのー、すみません」
「あらカケルくんじゃない。アリアちゃんは元気?」
「元気すぎて困ってます。それより今日他の冒険者はいないんですか?」
「うふふ。みんなはクエストに行ったわよ」
「えっ!? クエストって事は弱めのモンスターが出たんですか!?」
「その通りよ。考えられる原因は、昨日この街に来た古代種ね。あのモンスターが残した魔力に誘われて、他のモンスターたちが集まってきたのだと考えられるわ」
グッジョブキングマルメドリさん! ついに俺はクエストにいけるんだな!
「カケルくんも何かクエスト受注する?」
「はいっ!」
俺は元気よく返事をした。純真無垢だった小学生の頃の俺でもこんなハキハキとした元気のいい返事はしたことがなかったし、新しいゲームを両親に買ってもらった時でもこれほど瞳を輝かせた事は無かっただろう。
「まあ! 救世主のカケルくんがモンスター討伐クエストを受けてくれるならシリウスくんみたいに全滅させちゃうかもね!」
「……」
くそおおお! そういえば昨日そんな事になってたんだったあああああああ!
アイーシャさんの俺を見る目が尊敬と羨望に満ちてしまっている。
こんな他人を騙すようなカタチで称賛されても何も気持ちよくないっ!
…… この際言ってしまおう! 勘違いで救世主なんて呼ばれるのは嫌だ!
それから俺はキングマルメドリさんが帰っていった本当の理由をアイーシャさんに話した。
「そんなことだと思ってたのよね」
「……」
絶対思ってなかったわ。俺が本当に古代種撃退したと思ってたわアイーシャさん。明らかにさっきまでと対応違うもん。振り出しに戻っちゃってるもん俺の信用。
まあいいさ。一瞬で失った信用なんぞ、また取り戻せばいいだけなんだ。今はアリアの言霊魔法が強力になったんだから。これから本当の俺の異世界生活を始めたらいいんだ。
「じゃあカケルくん」
「はい」
「昨日の食事代、及び酔っ払った冒険者たちが壊したギルドの備品の弁償代として…… 60万サリーをお願いね」
「へっ?」
「60万サリーの支払いをよろしくね」
おかしくない? え、なぁにコレ。
「ほらはやく」
「…… ってません」
「どうしたの?」
「お金持ってません」
「持ってないの!?」
「…… はい」
持ってるわけねえだろ! 5万サリー程度しか持ってねえよ! 何だよ60万サリーって! 百歩譲って他の連中が飲み食いした分は払う覚悟だったけど備品は全然関係ねえじゃねーか!
ちくしょう。こんな事になるなら黙って救世主扱いされてればよかった。
「じゃあ働いて返すしかないわね。60万サリーはとりあえずギルドで立て替えておくから。…… 判定官の仕事はあんな事やそんな事があったので紹介できないし…… あっ、このクエストとかどうかしら? カケルくんにぴったりだと思うわ」
「……」
アイーシャさんが手渡してきた一枚の紙。俺はそれを死んだ魚のような目で受け取り、視線を紙に移した。内容はこうだ。
* 討伐クエスト *
サウザンドドラゴンの討伐
千年生きたと言われているサウザンドドラゴンが深い眠りから覚め、近隣の村や町を襲ったと報告がありました。次は私たちの村が標的にされるかもしれません。あぁどうか勇気ある冒険者様。私たちを救ってください。私たちの街に救世主が現れんことを。
※ 報酬 25万サリーと討伐したサウザンドドラゴンの素材 私の村で『救世主』と呼ばせて頂きます。
「……」
どんだけ根にもってんだあああああああああああああああああ!?
アイーシャさん完全に俺の事ヤりに来てますわ。信用ゼロどころじゃなくマイナスに振り切ってますわ。零地点突破してますわ。
「あの…… ちょっとアリアと相談してきます」
「分かったわ。アリアちゃんによろしくね」
―― そして今に至る、というわけである。
「よしアリア、一旦落ち着こう」
「…… ですね。言い争ってもお金は降ってきませんし」
「さすが大人になったアリアだな。冷静に現状を分析できている」
「ふふん。褒めても何も出ませんよ」
「で、このクエストどうする?」
「無理に決まってます! いくら私が神の力を使えるとはいえカケルはちょっと早く走ることしかできないじゃないですか!」
「言いすぎじゃね? 俺の長所なんだが? …… まあだよな。 報酬は25万サリーって高額だけど命には代えられないよな。それにしてもドラゴン討伐で25万って安すぎると思うんだけど」
「そうですね。小さな村ですからお金が無いのでしょう。…… 他のクエストはあるんですよね?」
「あるんじゃね? モンスター増えたって言ってたし」
「カケルが行くとまた無理なクエスト押し付けられそうなので次は私が行ってきます」
「任せたぞ」
「ふふん! 任されました!」
なんだアリアちゃん使えるじゃないか。
アリアは意気揚々と受付に行き……
涙目で戻ってきた。
「おかしいですっ! なんで私だとクエスト受けられないのですか! 何が冒険者見習いにクエスト受注させられないわ、ですか! 私は神なんですよ! おかしいですっ! カケルもそう思いますよねえっ!?」
「……」
こいつ使えねえ。
「何か言ってくださいよ! おかしいと思いますよねえっ!?」
「え、あ、うん。そだね」
「ですよね!!」
目の前で頬を膨らませている女の子はさておき。
さあ、どうするか。頼みの綱だったヒナの選別バイトはもう出来なさそうだし……。
俺が唸って考えていると肩を誰かに叩かれた。
「あのー、さっきから見てたんですけど、駆け出しの冒険者でもちょっと頑張って運が良ければ稼げるクエストがあるんですけどー」
俺が振り向くと、緊急クエストの時に背中を押してくれた、押された赤髪のお姉さんが一枚の紙を持って立っていた。
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