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俺の初クエストはどこか間違っている。 完

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 「え、何この空気」

 俺は古代種到来という脅威が去ったことを報告する為、ギルドに来ていた。
 ギルドの扉を開く前まではいつも通り賑やかな声が外まで聞こえていた。
 だが、俺の姿を見るとギルド内は静寂に包まれ、みんなの意識が俺に集中している。

 ―― 嫌いだこの空気。それにしても、俺が古代種と食うか食われるかの舌戦ぜっせんを繰り広げていたってのにこいつらは飲み食いしてたのよ。良いご身分だな。…… ちょっと話しただけだけど。

 受付に辿り着くまでにちらほらと声が聞こえてきた。

 「おい、あいつって……」
 「あれが……」
 「え、そんなことって」
 「ふん、戻った…… か」

 あれ? これってもしかして…… あのイベントか?
 静寂に包まれた理由がなんとなく分かり、俺はちょっとだけ心を弾ませた。

 よしっ。

 「すいません」
 「ひあっ!?」

 受付にいたのはアイーシャさんだった。
 事務作業か何かをしていたアイーシャさんは俺の顔を見ると体を跳ねさせた。

 そんな驚かなくても。

 「ぶ、無事だったのねカケルくん。古代種に一人で立ち向かったと聞いた時はもう…… 正直幽霊かと思ったわ」
 「ははっ、悪い冗談ですね。俺は生きてますよ、ほら」

 俺はそう言ってアイーシャさんの手に触れた。
 
 「そうみたいね。それで、その、古代種はどうなったのかしら?」
 「ええ、なんとか。あの古代種には帰ってもらいましたよ…… ちょっと――」

 ちょっと話しただけですが。と言い切る前に、

 「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」

 鼓膜を破るような歓声が上がった。

 「すげえ……。さすがシリウス様のご友人だ!」
 「わ、私、あの人のパーティーに入れてもらおうかな」
 「ふん、俺は信じていたぜ」

 ちょっと待って。盛り上がりすぎてやしないだろうか。ちょっと話しただけなんですけど。

 「いや、ちょっ」
 「カケルくんすごいじゃない! あの古代種を撃退してしまうなんて!! しかもこんな短時間でっ!!」
 「えっ、げき」
 「いつの間にそんなに強くなってたの!? 魂の加護以外特別なモノなんてないって聞いてたのに!」
 「あので」
 「あっ! これは今回の緊急クエスト報酬は5千万サリーよ! 本来は参加した人全員に分配されるのだけれど今回はカケルくん一人でクエストを達成しちゃったから全てカケルくんの物っ!! おめでとう! そして本当にありがとう!」

 ちくしょう! この人ちっとも俺の話を聞きやしない! 他の奴らもうるさい!!

 「いや、だか」

 俺が真実を言おうとすると誰かに肩を叩かれた。振り向くと、

 「お前ならやれるって、俺は信じていたよ」
 「……」

 ―― 誰?
 いやいや、誰? このシュッとしたお兄さん。

 「うおおお! 野郎ども! 今日は宴だああああ!!」
 「「「うおおおおおおおおお!!!!!」」」
 「この街の救世主 カケルにーっ! かんぱーいっっ!!!」
 「「「かんぱーいっっ!!」」」
 「……ぁ」

 やめろおおおおおおおお! もう真実言えねえじゃん!! 原因は俺でちょっと話したら帰ってくれたとか言えねえじゃん!!
 なんか思ってたんと違う! もっとこう、あるじゃん! 静かなやつ! あいつは影の実力者的なやつがさぁ!!

 「カケルくん? どうかした?」
 「えっ、あ…… いや、あの…… 報酬はギルドに寄付、します……」
 「えっ? 本当にいいの?」
 「…… はい」

 ほんとすんません。そんな大金受け取れません。色々と重たいので受け取れません。ほんとすんません。

 「報酬、寄付……。 っ!? おい! 野郎ども! カケルが報酬は全額寄付だってよおおお!! 今日はカケルの奢りみたいなもんだ!! 朝まで飲もうぜえええ!!!」
 「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」

 おい誰かあの火付け役のおっさんの息の根を止めてくれ。

 「……」
 「まあ、みなさんの食事代なんて寄付された5千万サリーからしたら知れてるものね……。よぉし! みなさん! 私たちも今日は飲みますよぉー!」
 「えっ」
 「「「やったあああ!!!」」」

 アイーシャさん? 他のお姉さんまで? 

 「俺はお前がそういう男だって、知ってたよ」

 だからお前は誰だああああああああああああ!!
 くそっ! もういいっ! こうなったら飲んでやる! 今日の事忘れるぐらい飲んでやるよ!!

 「お姉さあああん!! 俺にもビール持ってきてええええ!!」
 「はーいっ! 救世主様にビール一丁! 入りまぁす!!」
 「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」

 それからのギルド内は文字通りのどんちゃん騒ぎ。ギルドで働くお姉さんたちも総出でどんちゃん騒ぎ。肩を組んで踊ってるやつらまでいる。もうどうとでもなれだ。俺は知らん。

 こうして俺はアルコールってヤツを始めて体に入れた。

 そういえばアリアの姿が見当たらないな。…… まあいっか。



 ――― それから時間は経過して ―――



 * 宿屋 *

 「うぅ…… 気持ち悪い…… うぇっ」
 「もう! 一体どれぐらい飲んだらこんな状態になるんですか!」
 「……? うぇっ。…… わかんなあい」
 「介抱する私の身にもなってください」
 「すみませんん…… うおぇっ」

 俺は見事に酔い潰れていた。あれからどれぐらい経ったのか、それすらも分からない。ただ、柔らかい何かの上で横になっている事は分かった。

 「あとカケル! 今度からお酒を飲む時は私がいる時にしてください! 驚いたんですから! 帰りの遅いカケルを探しに行って、ギルドの隅っこでピクピクしてるカケルを見つけた時は」
 「はあい…… うっ」
 「まったくもう…… でも」

 俺は体内から出そうになったナニカを抑えるように無意識で上を向いた。
 ああ、俺は膝枕されてるのかあ。あれえ、泣いてる……? いやあそんなわけないかあ。
 それにしても、女の子の肌って柔らかいんだなあ。気持ちいいなあ。

 俺の意識はそこで途絶えた。
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