9 / 84
俺のギルドイベントはどこか間違っている。 完
しおりを挟む俺は今、端っこにあるテーブルで水をちびちび飲んでいる。
冒険者登録を終え、テーブルに戻るとシリウスの姿は無く、他の冒険者にその場所を取られていたからだ。テーブルに腰を落としてしばらく経ち、喉が渇いてきたので併設された酒場に行くと酒を勧められたのだが、借りた金を使う事なんてできないから無料の水をもらって今に至るというわけだ。
―― それにしてもシリウスのヤツどこ行ったんだ。まだ冒険者登録も終わってねえだろうに。
俺は水に口をつけて、
「硬え」
と不満を漏らす。軟水が恋しい。
このテーブルにはもう一人、フードを深く被った奴がいる。そいつは俺の右斜め前に座って、牛乳? のような白い液体をちびちび飲んでいた。フードから出た金色の毛先からシリウスと同じ金髪でかなり小柄なのは分かるのだが、それ以外はよく分からない。というより、こんな怪しい奴とあんまり関わりたくないから観察をやめた。
「怪しいですね、あなた」
怪しい奴が急に喋りだした。
俺は水に口をつけながらギルド内を見渡す。
「ねえ。あなたに言ってるんです」
テーブルの上に置いていた右手の甲をちょんちょんとされたので、俺は振り返って言った。
「フードを被ったお前の方が怪しいだろ。自分の姿を見直してこい」
「むっ」
そいつは立ち上がってフードをさっと取り、正体を現した。
フードの下に隠れていたのは金髪碧眼で小学生ぐらいの可愛らしい女の子だった。生意気そうに見えるのはチラりと見える八重歯が原因だろうか。
―― こんなのがギルドに何の用だ? 荒くれ者たちが集まってるんだぞ。これは年上としてちゃんと言わなければ。
「おいおい、ここはギルドだぜ? お前のようなガキが来るようなとこじゃあねえんだよ」
「あなた何言ってるんですか? 私は12歳です」
「子供じゃねえか。早くママのとこに帰れ」
俺の優しい言葉に感動したのか、女の子はふるふると震えている。
「全く。どこから迷い込んだんだか」
俺は一仕事終え、水に口をつける。
「あなた、もしかして12歳から働けるって知らないんですか? 何歳なんですか?」
「…… 15だし、知ってるけど」
そういえばそんな事もあるって聞いた気がする。
「その反応…… どうやら知らなかったようですね! 3つも下の私より知らない事があって恥ずかしい人です!」
なんだこいつ。
「そっかそっかぁ! 俺よりモノ知ってて偉いね~」
俺は皮肉のつもりだったのだが、女の子はそう捉えなかったようで。
「ふふん! まあ私よりバカなのは仕方ありません! だって私、神ですから!!」
どや顔でそんな事を言い放った。
―― うわあ。自分の事を神って、頭おかしいんじゃねえのか。いや、相手は女の子だ。ここは冷静になって対処しなければ。
「それで? バ―― 神様が俺に何の用があって絡んできたんだ?」
「今バカって言おうとしてませんでした?」
「おいおい俺はただの人間だぜ? 神様相手にそんな暴言吐くような力も勇気も持ってねえよ」
「でしょうね」
なんだろうこの子。初対面なはずなのになんだろう。
「変な服を着て、キョロキョロと周囲を見回していたあなたの行動が怪しかったので、神として当然の行為をしただけです」
「俺の名前はカケルだ」
「えっ、あっ、私はアリアです」
アリアは悪い奴じゃないんだろう。頭がおかしいだけで。
「俺の友達がどっか行ったから探してただけだ」
「へえ、そうだったんですか。その友達とカケルはパーティーなんですか?」
「いや、まだ違う。アリアは仲間を探しに来たのか?」
「カケル知らないんですか?」
「何を?」
「今日このギルドで特別な加護を持った人がパーティーメンバーの募集をするらしいのです。なのでその人と仲間になりたい冒険者が集まってるんですよ」
特別な加護……?
俺はシリウスに付いていくつもりだったからパーティーメンバー募集の予定は無かったのだが、これは。
「…… ふっ」
「うわっ、なんでニヤついてるんですか……」
「その特別な加護持ちってのは…… 俺の事だ」
そう。特別な加護。それは他に授かった人がいないらしい魂の加護の事。どこで俺の情報が漏れたのかなんて知ったこっちゃねえがこれはきっと良い兆候だ。特別な加護を持った俺はちやほやされるに違いない。
「…… 嘘ですか?」
「嘘じゃねえよ。俺の加護は魂の加護だぞ」
「魂の加護? どんな事ができるんですか?」
「魂が見える」
「他には?」
「…… それはまだ明かせねえな。やっぱり手の内を明かす相手ってのは――」
そんな時だった。
ギルド内に声が響き渡ったのは。
「冒険者諸君、今日はよく集まってくれた。ギルドマスターのヘクターだ」
ギルド内が騒がしくなり始める。
「ようやくお出ましってわけですかい」
「どんな人なのかしら」
「さてさて、どんな怪物が出てくるのやら」
ギルド内の冒険者たちがそれぞれ口走る中で、アリアも口を開いた。
「どうやらカケルじゃなかったみたいですね」
「…… おかしい」
ギルド内に響く声は続けた。
「改めて言うが、これは強制ではない。そして、これから彼に認めてもらえなかった者は申し訳ないが、潔く諦めて欲しい。…… それではアイーシャ、彼を」
ギルドの奥から緑色の髪のエルフと共に、
「…… っ! あいつ!」
「知り合いですか?」
「あいつが俺の言ってた友達だ!」
剣と鎧を身に付けたシリウスが現れた。
シリウスがギルドの中心部まで来たところで、ヘクターは声をギルド内へ響かせる。
「彼の名はシリウス。数多の加護を神により与えられし英雄の意思を受け継ぐ者である! 彼と共に人類クエスト『魔王討伐』を成し遂げたい者、彼と共に世界を救う英雄となりたい者、彼の助けに成りたい者。これより彼の前へと進み、自らの力を彼に示して欲しい」
座っていた冒険者。柱にもたれかかっていた冒険者。酒に溺れていた冒険者。この場にいた冒険者が一斉にシリウスの前に列を作っていった。
俺は列を成す人の群れを横目に水をゴクッと飲み込んで、
―― アレは俺に起こるはずのイベントでは? ギルドマスターに認められて他の冒険者とか美人エルフさん達にちやほやされるのは俺だけに許されたイベントでは? 数多の加護とか英雄の意志とかどういうこった。俺は変な加護一個なんだが。ってか『魔王討伐』とか俺の使命なんじゃねえのか。ふざけるなよクソ天使。
とりあえずモヤモヤして、
―― いやまてよ? シリウスのパーティーに入ってたら何かと良い方向に向かうんじゃねえか? イケメンのおこぼれにあやかる事ができるんじゃねえか? あいつとは友達だから力なんて示さなくても入れてくれるし、一緒にいるだけで冒険者として成長するのも早そうだし、なんならシリウスが勝手に魔王倒してくれちゃったりしそうだし……。
魔王討伐計画を練っていた。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
異世界で 友達たくさん できました ~気づいた時には 人脈チート~
やとり
ファンタジー
突然異世界に迷い込んでしまった主人公。
はっ、と気づいたときに目の前にいたのは、自分を天使だという一応美少女な人物。
ちょっとあれな彼女に、まずは異世界について色々と教わることに。
異世界で生活を始めて間もなく、様々な(個性的な)人に出会ったり、魔界に連れていかれたり、お城に招待されたり……。
そんな中、果たして主人公はどのような異世界生活を送るのだろうか。
異世界に迷い込んだ主人公が、楽しい異世界生活を送ろうと、現地の様々な人と交流をしたり、一緒に何かを作ったり、問題をなんとかしようと考えたりするお話です。
山も谷も大きくなく、比較的のんびり進行です。
※恋愛要素等々、じっくり進む予定です
感想等、何かありましたら気軽にコメントいただけますと嬉しいです!
ストックが尽きるまでは毎日投稿します!
※カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
現実的な異世界召喚聖女
章槻雅希
ファンタジー
高天原の神々は怒っていた。理不尽な異世界召喚に日ノ本の民が巻き込まれることに。そこで神々は怒りの鉄槌を異世界に下すことにした。
神々に選ばれた広瀬美琴54歳は17歳に若返り、異世界に召喚される。そして彼女は現代日本の職業倫理と雇用契約に基づき、王家と神殿への要求を突きつけるのだった。
大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ
さとう
ファンタジー
書籍1~8巻好評発売中!
コミカライズ連載中! コミックス1~3巻発売決定!
ビッグバロッグ王国・大貴族エストレイヤ家次男の少年アシュト。
魔法適正『植物』という微妙でハズレな魔法属性で将軍一家に相応しくないとされ、両親から見放されてしまう。
そして、優秀な将軍の兄、将来を期待された魔法師の妹と比較され、将来を誓い合った幼馴染は兄の婚約者になってしまい……アシュトはもう家にいることができず、十八歳で未開の大地オーベルシュタインの領主になる。
一人、森で暮らそうとするアシュトの元に、希少な種族たちが次々と集まり、やがて大きな村となり……ハズレ属性と思われた『植物』魔法は、未開の地での生活には欠かせない魔法だった!
これは、植物魔法師アシュトが、未開の地オーベルシュタインで仲間たちと共に過ごすスローライフ物語。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる