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俺のギルドイベントはどこか間違っている。 完
しおりを挟む俺は今、端っこにあるテーブルで水をちびちび飲んでいる。
冒険者登録を終え、テーブルに戻るとシリウスの姿は無く、他の冒険者にその場所を取られていたからだ。テーブルに腰を落としてしばらく経ち、喉が渇いてきたので併設された酒場に行くと酒を勧められたのだが、借りた金を使う事なんてできないから無料の水をもらって今に至るというわけだ。
―― それにしてもシリウスのヤツどこ行ったんだ。まだ冒険者登録も終わってねえだろうに。
俺は水に口をつけて、
「硬え」
と不満を漏らす。軟水が恋しい。
このテーブルにはもう一人、フードを深く被った奴がいる。そいつは俺の右斜め前に座って、牛乳? のような白い液体をちびちび飲んでいた。フードから出た金色の毛先からシリウスと同じ金髪でかなり小柄なのは分かるのだが、それ以外はよく分からない。というより、こんな怪しい奴とあんまり関わりたくないから観察をやめた。
「怪しいですね、あなた」
怪しい奴が急に喋りだした。
俺は水に口をつけながらギルド内を見渡す。
「ねえ。あなたに言ってるんです」
テーブルの上に置いていた右手の甲をちょんちょんとされたので、俺は振り返って言った。
「フードを被ったお前の方が怪しいだろ。自分の姿を見直してこい」
「むっ」
そいつは立ち上がってフードをさっと取り、正体を現した。
フードの下に隠れていたのは金髪碧眼で小学生ぐらいの可愛らしい女の子だった。生意気そうに見えるのはチラりと見える八重歯が原因だろうか。
―― こんなのがギルドに何の用だ? 荒くれ者たちが集まってるんだぞ。これは年上としてちゃんと言わなければ。
「おいおい、ここはギルドだぜ? お前のようなガキが来るようなとこじゃあねえんだよ」
「あなた何言ってるんですか? 私は12歳です」
「子供じゃねえか。早くママのとこに帰れ」
俺の優しい言葉に感動したのか、女の子はふるふると震えている。
「全く。どこから迷い込んだんだか」
俺は一仕事終え、水に口をつける。
「あなた、もしかして12歳から働けるって知らないんですか? 何歳なんですか?」
「…… 15だし、知ってるけど」
そういえばそんな事もあるって聞いた気がする。
「その反応…… どうやら知らなかったようですね! 3つも下の私より知らない事があって恥ずかしい人です!」
なんだこいつ。
「そっかそっかぁ! 俺よりモノ知ってて偉いね~」
俺は皮肉のつもりだったのだが、女の子はそう捉えなかったようで。
「ふふん! まあ私よりバカなのは仕方ありません! だって私、神ですから!!」
どや顔でそんな事を言い放った。
―― うわあ。自分の事を神って、頭おかしいんじゃねえのか。いや、相手は女の子だ。ここは冷静になって対処しなければ。
「それで? バ―― 神様が俺に何の用があって絡んできたんだ?」
「今バカって言おうとしてませんでした?」
「おいおい俺はただの人間だぜ? 神様相手にそんな暴言吐くような力も勇気も持ってねえよ」
「でしょうね」
なんだろうこの子。初対面なはずなのになんだろう。
「変な服を着て、キョロキョロと周囲を見回していたあなたの行動が怪しかったので、神として当然の行為をしただけです」
「俺の名前はカケルだ」
「えっ、あっ、私はアリアです」
アリアは悪い奴じゃないんだろう。頭がおかしいだけで。
「俺の友達がどっか行ったから探してただけだ」
「へえ、そうだったんですか。その友達とカケルはパーティーなんですか?」
「いや、まだ違う。アリアは仲間を探しに来たのか?」
「カケル知らないんですか?」
「何を?」
「今日このギルドで特別な加護を持った人がパーティーメンバーの募集をするらしいのです。なのでその人と仲間になりたい冒険者が集まってるんですよ」
特別な加護……?
俺はシリウスに付いていくつもりだったからパーティーメンバー募集の予定は無かったのだが、これは。
「…… ふっ」
「うわっ、なんでニヤついてるんですか……」
「その特別な加護持ちってのは…… 俺の事だ」
そう。特別な加護。それは他に授かった人がいないらしい魂の加護の事。どこで俺の情報が漏れたのかなんて知ったこっちゃねえがこれはきっと良い兆候だ。特別な加護を持った俺はちやほやされるに違いない。
「…… 嘘ですか?」
「嘘じゃねえよ。俺の加護は魂の加護だぞ」
「魂の加護? どんな事ができるんですか?」
「魂が見える」
「他には?」
「…… それはまだ明かせねえな。やっぱり手の内を明かす相手ってのは――」
そんな時だった。
ギルド内に声が響き渡ったのは。
「冒険者諸君、今日はよく集まってくれた。ギルドマスターのヘクターだ」
ギルド内が騒がしくなり始める。
「ようやくお出ましってわけですかい」
「どんな人なのかしら」
「さてさて、どんな怪物が出てくるのやら」
ギルド内の冒険者たちがそれぞれ口走る中で、アリアも口を開いた。
「どうやらカケルじゃなかったみたいですね」
「…… おかしい」
ギルド内に響く声は続けた。
「改めて言うが、これは強制ではない。そして、これから彼に認めてもらえなかった者は申し訳ないが、潔く諦めて欲しい。…… それではアイーシャ、彼を」
ギルドの奥から緑色の髪のエルフと共に、
「…… っ! あいつ!」
「知り合いですか?」
「あいつが俺の言ってた友達だ!」
剣と鎧を身に付けたシリウスが現れた。
シリウスがギルドの中心部まで来たところで、ヘクターは声をギルド内へ響かせる。
「彼の名はシリウス。数多の加護を神により与えられし英雄の意思を受け継ぐ者である! 彼と共に人類クエスト『魔王討伐』を成し遂げたい者、彼と共に世界を救う英雄となりたい者、彼の助けに成りたい者。これより彼の前へと進み、自らの力を彼に示して欲しい」
座っていた冒険者。柱にもたれかかっていた冒険者。酒に溺れていた冒険者。この場にいた冒険者が一斉にシリウスの前に列を作っていった。
俺は列を成す人の群れを横目に水をゴクッと飲み込んで、
―― アレは俺に起こるはずのイベントでは? ギルドマスターに認められて他の冒険者とか美人エルフさん達にちやほやされるのは俺だけに許されたイベントでは? 数多の加護とか英雄の意志とかどういうこった。俺は変な加護一個なんだが。ってか『魔王討伐』とか俺の使命なんじゃねえのか。ふざけるなよクソ天使。
とりあえずモヤモヤして、
―― いやまてよ? シリウスのパーティーに入ってたら何かと良い方向に向かうんじゃねえか? イケメンのおこぼれにあやかる事ができるんじゃねえか? あいつとは友達だから力なんて示さなくても入れてくれるし、一緒にいるだけで冒険者として成長するのも早そうだし、なんならシリウスが勝手に魔王倒してくれちゃったりしそうだし……。
魔王討伐計画を練っていた。
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